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陸軍東部第三十三部隊(四)

「もう一人の男についてですが」

 そう言って真間少尉は、トラックの助手席で、眩しそうにしている男の写真を表示した。

 広い肩幅。鋭い目つき。だいぶ人相が悪い。

 いや、強烈なライトの光を当てれば、だいたいこうなるだろう。


「詳しくは現在確認中ですが、名前は『黒井保』と申告し、先程の黒田と一緒に、行動しているようです」

 そう言って真間少尉は、今度は複数の写真を表示する。

 それはアンダーグラウンド内に設置された、監視カメラの映像だ。


「四ツ木で撮影された動画を、ご覧ください」

 そう言って、上映会が勝手にスタートした。大佐も、映画は好きだ。しかし、今日『ポップコーン』はないらしい。無念だ。


 すると真間少尉は、映像をピタッと止めた。

 どうやら手元のスイッチで、画像を前後左右に操作することが、可能らしい。


「ここですが」

 そう言って、レーザーポインタで、黒田の口を指す。

「解析した所『エー・エス・ジュウ・ゴ』と言っています」

 何だ。自動警備一五型イチゴちゃんのことか。


「それで?」

 大佐は右手を顎に付けて、ゆっくりと聞く。

 真間少尉は頷いた。そして、今度は黒井の表情がアップになった映像が、ゆっくりと進んでいく。


「それに対しこの男、黒井は『ケ・ン・ト・く・ん・で・す・か?』と発言しています」

 真間少尉はそう言うと、映像を戻し、速度を変えて何度も再生する。大佐は目の皿にして、その口元を凝視した。


『ケントくん(ピッ)ケントくん(ピッ)ケ・ン・ト・く・ん』

「もう良い。確かに、言っているね」

「失礼しました。ご確認、恐縮です」

 大佐が頷いて右手を顎から離し「いいよいいよ」と振り、今度は椅子に寄り掛かる。


 それを見た真間少尉は一礼し、画面を切り替えた。そこには、大佐の予想を裏切って、『ミサイル』の映像が映し出された。


『こちらは、帝政ロシア空軍が保有する、

 空対地ミサイル『Xー55』です」

 そう言って、レーザーポインタで弾頭部分を指す。

 大佐は『?』と思ったが、表情を変えず頷く。そのまま手を軽く振って『説明を続けよ』と指示した。

 真間少尉は頷いて、説明を続行する。


「こちら、核弾頭も搭載可能な巡行ミサイルで、アメリカでは『ASー15』、NATOでは『ケント』と呼称されています」


「空さんは、何て?」

 山岸少尉はそれを聞いて、スクリーンから、ゆっくりと振り返り、そして、大佐の目を見る。いや、吸い込まれた。


 室内は薄暗いが、真間少尉には大佐の表情が見て取れる。

 いつも通りの鋭い目つき。それでいて慈愛にも満ちた佇まい。

 いや、今の大佐は、少し前のめり。もう判っているとは。


 流石だ。説明するまでもない。全てを理解したのだ。


「ケント君です」

 大佐は、ゆっくりとまばたきをしただけだった。

 真間少尉は大佐の思考を邪魔しない。何。たった三秒待てば良い。


「三沢、いや百里にも照会しろ。直ぐにだ」

「はっ。既に照会済ですが、急ぐように指示いたします」

「頼む」

 流石大佐だ。一・八ニ秒で指示が来た。

 私はまだまだ大佐のことが、判っていないようだ。

 よくよく、反省せねば。


「失礼しました!」

 真間少尉は敬礼してから一礼する。すると、外で待機していた大佐の護衛が、部屋のドアを開けた。


 真間少尉は護衛の敬礼を無視し、まるで自動ドアが開いたかのように部屋を出て行く。

 それでも護衛には、真間少尉の表情を見れば、一大事であることは理解できた。

 そして、大佐の部屋に入り、照明を点ける。


 そこに残されていたのは、困った顔の大佐と、居眠りをしている、山岸少尉の姿であった。

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