陸軍東部第三十三部隊(三)
Nシステムから取り寄せた写真は、結局、真間少尉に指示して『大きく引き伸ばす』ことに、成功した。
そうだよ。『大きく引き伸ばせ』と、言ったら、こうでないと。縦横の比率が同一で、判りやすい。
それに、ちゃんと見たい所『全体』が映っている。
まったく、俺がトントントンと『指さした所』を、引き伸ばしたのか? 全力でか? そうじゃないだろうがっ。
ふう。疲れるぜ。
しかし真間少尉は、俺の意図を正確に理解し、きっちり『大きく引き伸ばし』に成功するとはな。うん。良いぞ。
それにしても、俺の『第六感』は正しかった。
やはり、写真の男は『奴』だったか。苦々しい。
うむ。それにしても、良い感じに写っている。
ちょっと色補正もしたのかな?
額縁に入れると、決まっているな。てか。結構良い額縁だな。
おい。高かったんじゃない?
いやいや、流石『銀座のママ』と言った所か。
判るって。『男の取り扱い』には、慣れている。
そう、言いたいんだよなっ。フフリ。
「運転をしているのが、今回は『黒田光男』。
年齢不詳。BZの古参幹部の一人です」
おっといけない。真間少尉の説明が、始まってしまったな。
「すいません、『今回は』とは?」
いいんだよ。『今回は』今回なんだよ。うるせぇなぁ。
もう、何だよ。山岸少尉ぃ、お前は、写真も『まともに』引き伸ばせないんだから、そこで話を引き伸ばさなくても、良いんだよ。
黙ってろよ。
「私も? タバコ? 嗜みませんが?」
ほらぁ、真間少尉はライターは常備しているけど、それは『点けてあげるため』であって、自分用じゃないんだよ。
凄いんだぞ? 0・3秒でパッと点ける。しかも自然。
話しの邪魔もせず、まるで『最初からそこにあった』ような着火だ。お前も見習え。
「あー、良いです。どうぞ」
ありゃりゃ。引いたよ。
まぁ、真間少尉の今の目つき、ちょっと怖かったもんな。そりゃ引くよ。うん判る。俺も『怖いなぁ』って思うとき、あるもん。
でもさぁ、そこで引き下がるんだったら、最初から質問するな。
まったく。しょうがねぇ奴だなぁ。いいか? 覚えておけよ?
黒田はな、毎回、毎回、偽名を使い分けるんだよ。
確か前回、全国指名手配したときは『黒田利男』、その前の指名手配したときは『黒田北男』だったかな。
で、今回が『黒田光男』という訳だ。
良いか、心に刻め。
奴はな、七つの名前を使い分け、正に『神出鬼没』。しかも、使い分けるのは、『名前』だけじゃぁ、ない。
七つの言語を『現地人並み』に使いこなし、七つの大陸を股に掛け、世界を飛び回る。
そして、極めつけは七つの星座と、七つの血液型を、自在に組み合わせた、その『性格』までも、変幻自在なんだ。
あらゆる組織に潜入し、目的を遂行する、正に『化け物クラス』の工作員。それが、今回は『黒田光男』だ。
覚えるんじゃない。心で感じろ。
まったく。奇跡的にだが、『爪の垢』が入手できたら、煎じて山岸少尉に飲ませてやりたいよ。
永久に、無理だろうが、な。
あぁ、今まで、どんだけ『煮え湯』を、飲まされて来たことか。
一番熱かったのは、陸士のときか?
いやいや『中野』で再会したときの方が、熱かったなぁ。