陸軍東部第三十三部隊(二)
Nシステムから取り寄せた写真を、『大きく引き伸ばせ』と言ったのは、確かに私だ。それは認めよう。
しかしこれは、一体『何の写真』なのだろうか。
トンネルのように見える二つの穴から、黒い電線が伸びている。電柱はないようだ。
よく見れば、トンネル内に『街灯』もない。うーむ。危ない。
この黒いの、電線にしては、やけに艶やか。しかも、これだけの数の電線を、纏めてさえいない。極めて美しくない施工だ。
ややっ? よく見ると、白い電線も混じっている。
成程。どうやらこれは『ニュートラル線』を混ぜた、単相二線式百ボルトか。
ふっ。第一種電気工事士の資格を持つ、この『私の目』は、誤魔化せんぞ? こんなだらしない工事をしてからに。
まったく、話にならん。
「責任者の顔を、見て見たいもんだなっ」
大佐は、フッと笑って、次の写真を見る。そして首を傾げた。
次の写真は、ん? これは何だ?
山岸少尉よ。何度も言ったように、『大きく引き伸ばせ』と言ったのは、確かに私だ。うむ。もう一度だが、それは認めよう。
しかし、だ。これは、一体『何の写真』なのかねっ!
人の顔のやふだが、人の顔で無し。こんな長い顔の奴がいたら、テレビで有名になれるだろう。
多分、こいつも、俺が見たことのある奴のはず。俺の『第六感』がそう言っている。
もし、こいつが、『アイツ』だったら。我々は、壊滅的な被害を受けるだろう。俺には判る。『アイツ』は、ヤヴァイ奴なのだ。
よく見ろ。これは『目』だろうか。少女漫画のやふに、キラキラとした星が、キャッチアップで入っている。
うむ。完璧だ。少女漫画の『目』としては、だが。
うちの娘も、こんな目をした漫画を、それはもう、何度も何度も読んでいた。ごはんも食べないで。
あんまり夢中になっているからって、資源ごみの日に全部捨てたら、相当怒っていたなぁ。
ソファーからの、回し飛び蹴り、結構キタ。
空手の素質あり。今度、道場に連れて行こうかな。
ピアノがお休みの日なら、お母さんも文句は言わないだろう。
そもそも、俺は悪くない。お母さんを怒らせたら、お小遣い、減らされちゃうんだよ?
その辺の所、判ってないんだろうなぁ。まだ小さいし。
あ、そうだ。何だっけ?
今週号買って帰らないと『パパ絶交!』なんだった。危ない。今、思い出した。セーフだな。流石俺。
いや、思い出したけど、何だっけ。何買うかは、思い出せない。ちょっとまて。いや、大丈夫大丈夫。
漫画なんて、そう何冊もある訳ない。きっと。本屋に行けば判る。
週刊? いやいやいや、そんな、毎週出る訳ないか。
うん。月間だな。月間。
で、あとは名前。あれぇ? 何だっけ。ア、イ、ウ、違うなぁ。ア、カ、サ、タ、ナ、ハ、マ、ヤ? あっ、思い出した!
マ? マー? マー!
思い出した! 『マーガリン』だ。
それそれ。間違いない。




