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アンダーグラウンド(四十五)

 翌日の朝、自動警備一五型イチゴちゃんを引き取りに、戦闘集団『レッド・ゼロ』の赤田と赤井が、『ブラック・ゼロ』の新拠点に現れた。


 一体、どうやって連絡を取り合っているのか。それは新人の黒井には、まだまだ謎な部分である。


 ブラック・ゼロの拠点が珍しいのか、キョロキョロしている赤井。まだ若手のようだ。黒井は、何となく親近感を感じる。


 隣で堂々としている赤田を見ると、黒田のイメージと重なる。

 きっと赤田と赤井は、黒田と黒井のように、『名コンビ』なのかもしれない。


黒沢おばちゃん! お弁当ないのぉ? おやつはぁ?」

 でかい声で赤井の方が、黒沢を呼び付けた。


 黒井は思う。おいおい。大丈夫か? 家の黒沢ボスは、結構おっかないんだぜ?

 すると黒沢が振り返り、にっこり笑ったではないか。意外だ。


「ご苦労さん。元気でやってるかい?」

 そう言いながら、右手を挙げて挨拶し、歩み寄る。

 どうやら赤井は、黒沢のお気に入りなのだろう。悔しいが、ちょっとカッコイイし。


「この赤田じいさんが、昨日話してた、新人。イテテッ」

 赤井の方が先輩だったらしい。連れて来られた赤田が、黒沢ボスに会釈している。黒沢も会釈した。

 その横で赤井は、笑顔の黒沢にホッペをギュッとつねられている。


「ははしてくははいほー」

 多分、『離して下さいよぉ』と言ったのだろう。見てて痛々しい。

 なんだ赤井は、黒沢のお気に入り、という訳ではなかったらしい。どうやら、只のイケメンのようだ。


 いずれにしても、黒沢をおばちゃんと呼んだ罪は『ホッペつねり三十年の刑』らしい。

 ざまあみろ。いや、ご愁傷様。


 そこへ黒松が、ラップトップを持って、やってきた。


 まだ刑の執行中である赤井を見て、大体を察した黒松は、赤井が指さした赤田の方に、ラップトップを授ける。


 受け取った赤田は「何だろう?」な顔。黒松は不安だ。

 赤井は、まだつねり続ける黒沢の手を軽く二回タップすると、ギブアップが認められたのか、『ホッペつねり三十秒の刑』に減刑されて、口が自由になった。黒松に話しかける。

 いや、まだ痺れて話せないのだろうか。頬を擦って渋い顔だ。


「使い方、判ります?」

 その様子を「しょうがねえなぁ」という感じで見ていた黒松が、赤田の方に問い合わせる。


「えっ? 俺ですか?」

 赤田は驚いて、受け取ったラップトップを指して、直ぐにその指を自分に向けた。

 頬のマッサージが終わった赤井が、頷きながら黒松に答える。


「あー、俺が使うから。大丈夫よーん」

 何だかノリが軽い。すると黒松が頷いた。説明も省略したようだ。黒松は、どうやら赤井の実力を知っているのだろう。


「パスワードだけ、教えて」

「あぁ、いつもの奴」

「OK」

 情報交換は、三秒で終わった。どうやら引き継ぎ完了のようだ。


「ゲッドアップ! イッツ・ユアターン!」

 赤井が両手を下から上に振り上げながら、英語で声をかけると、自動警備一五型イチゴちゃんが、パッと立ち上がる。


 え? 何それ、カッコイイ。見ていた黒井は、自分もやってみたくなった。「お座り!」って言っちゃおうかしら?


 御覧あれ。目を吊り上げ、気合が入っているような? それだけではない。隊列も、ミリ単位で美しく、調整しているようだ。

 何だよ。ブラック・ゼロとは、気合の入れ方が違うのか。まるで、これから戦場にでも、赴くようだ。


 黒井が「お座り!」と言う前に、赤井が振り返る。神妙な顔だ。


「ブラック・ゼロの皆さん。貴重な戦力を、ありがとうございます」

 そう言って、深々と頭を下げた。隣にいた赤田も、慌てて頭を下げる。


 居合わせたブラック・ゼロの面々が「頑張れよ」「頼んだぞ」とか言いながら拍手をし始めたので、黒井は「お座り!」とは、言えなくなってしまった。唾を飲んで、仕方なく一緒に拍手だ。


「では、行きます」

 そう言って、赤井は姿勢を正して敬礼した。ブラック・ゼロも、全員その場で敬礼し、答える。

 敬礼を解いた赤井が、ジープに向かって歩き始めた。


「ドント・シュート・ミー・ザ・バーック!」

 赤井の『妙な』掛け声を受け、隊列が皆、銃を赤井に向ける。一体、いつ、そんな機能が仕掛けられたのだろう。

 ジープに向かう間も、銃口は滑らかに動き続け、赤井が助手席に座った所で止まる。

 そこで赤井から黒松に、意外な一言があった。


「ミス『コトコト』に、よろしくね!」

 そう言って右手を挙げる。黒松は、渋い顔だ。


「まだ、見つかってないんだよぉ」

 両手を広げ、本当に困った様子だ。


「そうなんだ。じゃぁ、見つかったら、お礼、言っといて」

「判った。約束する」

 黒松が頷いて赤井に手を伸ばすと、それに答えるように、赤井が手を伸ばす。


 しかし、動き始めたジープから握手は無理と思ったのか、手をパチンとやっただけだった。

 その手を上に挙げて、赤井は戦場に向かって行った。


「ラァリィホォォー」


 振り返らずに、手を振っている。

 自動警備一五型イチゴちゃんも赤井から照準を外し、見えない空に向け、大きく振り始める。


 そのまま暗闇へと、吸い込まれて行った。

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