アンダーグラウンド(三十九)
二人乗りのバギーに、四人で乗るのはお勧めできない。
前二人は良い。イスがあるから。
荷台の二人は、荷室に足を突っ込み、後ろのフレームにケツを乗せ、目の高さにあるロールバーを、両手でしっかりと持つ。そんな乗車姿勢を推奨する。
黒松と黒井が、そうだったように。
しかし帰りは、黒井がドライバーを任された。
車の運転は、正直久し振りだ。嬉しいではないか。
隣では、道案内の黒松が、口と腕で、ナビをしている。
「ここを、右かな?」
一時停止して、左右を確認する黒井。法令順守だ。こんな所でも。
「はーい。右良し、左良し、右に曲がりまーす」
ウインカーを出しているからか、黄色いライトが点滅している。
運転席に『カッチンカッチン』という音がしているのだろうが、空しいかな。誰も聞いちゃいない。
「うおりゃぁー。おっせーぞ! 黒井、もっと出せ!」
後ろで、文句を言っている奴がいる。
「そうだ! そうだ! 全王付いてんだろっ! 根性見せろぉ!」
おおよそ、女性が言う文句ではない。
法令順守の安全運転に対し、投げかける言葉ではないだろう。
後ろの二人は、さっきから喧しい。『ケツを乗せる所だ』と案内した場所に足を乗せ、『両腕で掴む所だ』と案内したロールバーに、反対の足を引っかけて膝を曲げ、体を固定している。
そして二人は、背中を合わせて押し付け合い、体をしっかりと固定し、両手は自由ときたものだ。
そんな姿勢で、黒沢と黒田は、騒いでいるのだ。
「ヒャッハァ! ブラック・ゼロのお通りだぁ! パパパンッ」
ご機嫌だ。満面の笑み。何処から出したか、いつの間に頭に巻いた鉢巻が、たなびいている。
「フヒャヒャヒャァ! 肉を出せ! 肉だぁ! パパパンッ」
肩からベルト状の銃弾をたすき掛けにして、肉を出せと、騒いでいる。もちろん、誰もいない。
いや、いても、建物に引きこもって、出て来ないだろう。
黒沢と黒田が手にしているのは、AKー47。
鹵獲した自動警備一五型の武器庫から出てきた、アサルトライフルだ。
「飛ばせ! 飛ばせぇ! 弾持ってこーい! パパパンッ」
「お前ら、ノリが悪いぞ! 笑えぇ! ヒャッハー パパパンッ」
空に向かってぶっ放す度に、戸板を叩くような乾いた音と、その後にチャリンチャリンと薬莢が落ちる音がする。
その後ろからは、一列縦隊で、四機の自動警備一五型が、なんとか付いて来ている。
ラリーカーのようにスピードを出すと、自動警備一五型が付いて来れない。だから、ゆっくりなのだが。
「そこ、Cー4、あるみたいだから、注意ね」
「了解です」
黒松は思う。「うるせーなぁ。まったくぅ。子供かっ」である。口には、決して出さないけど。黒井に道案内をするので、やっとだ。
二列縦隊にすると、Cー4に引っかかってしまう。だから、一列縦隊にしているのだ。
離れないように、バギーはゆっくり走る。
「まだ着かないのかぁ! 弾、なくなっちまうぜっ! パパパンッ」
「弾隠してあっから、取りに行くか! ウヒヒッ! パパパンッ」
黒井は思う。「後で薬莢拾いに行くの、めんどくせーなぁ」と。
自衛隊では訓練でも、実弾の数を数えるのは当たり前。空の薬莢だって、全部拾うのは、当たり前だった。
それでも黒井は、五百十二発までは数えていたのだが、苦笑いして、もう、数えるのをやめた。