アンダーグラウンド(三十七)
二人乗りのバギーに、四人で乗るのはお勧めできない。
しかし、このバギーは軍事用なのか『何人乗っても大丈夫!』な、感じがする。
シャーシが堅く、車体の前方、後方、ギリギリに車軸があり、大きさの割には、スピードを出しても、安定した走りだ。
「ちょっと、フロントが浮くねぇ」
そう言いながら、逆ハン操作でカーブを曲がる。直後「ブォン!」という音と共に、直線では加速。
スピードメーターは一定だが、回転計だけが、黒沢の足の動きに合わせ、目まぐるしく揺れている。
「ワンハンドレッド・スリーレフト・サーティーン・スリーライト」
ボソボソと隣で呪文を唱えているのは、黒田である。
黒沢と黒田は、ラリーの経験でもあるのだろうか。黒沢は前も碌に見ず、黒田のナビだけを聞き、後ろに話しかけたり、周りをキョロキョロするばかりだ。
黒田が言う「レフト」と「ライト」の前に、接頭語で付く『数字』は『角度の大きさ』らしい。一から八の大きさで表される。
しかし、街中では直角ばかり。さっきから殆ど『スリー』ばかりがコールされている。
「フォーティーン・スリーレフト
・シーフォーコーション・キープレフト
・サーティーン・スリーライト
・シーフォーコーション・キープライト
・サーティーン・スリーレフト
・シーフォーコーション・キープレフト」
裏道に入って、ナビの種類が増えた。『Cー4』とは、プラスティック爆弾で、それがあるから注意ね☆ミ、と言っている。
仕掛けた場所を避けるため、右側(又は左側)を走れ、という意味だ。
淡々と、ナビは続いている。
「幾つ仕掛けてんだよ!」
そう言いながら、黒沢が笑っている。また一段、ギアが上がった。
黒田も助手席で両手を頭の上で組み、タバコでもふかす感じだが、ナビを継続中。
ちらっと横眼には、昨日仕掛けた『Cー4』が、タバコ一本分の隙間を開けて、後ろに流れて行く。
踏んだらどうなるか? それは、ナビに失敗したときと、同じ運命である。考えるまでもない。
後ろでは青松と青井が、顔を黒くして、バギーのロールバーにしがみ付いている。
何しろ二人には、右へ曲がるときにハンドルを左、左へ曲がるときはハンドルを右に、グルングルン回しているようにしか、見えないのだから。
それに青井が、まだ黒井だったとき、「なんまいだーなんまいだー」と、本当に呪文を唱えていたものだから、黒沢から「うるせぇ!」なんて、言われてしまったのだ。
もう、後輪への『重石』としてしか、機能していない。
バギーは、アンダーグラウンドの街角を、爆音を響かせながら、風と共に、駆け抜けて行く。
重石は、自分の行いを、後悔していた。
目を瞑り、神に懺悔する。
それは何か。
ガリソンスタンドで、黒田に話しかけたこと? 違う。
では、バギーをきちんと破壊しなかったこと? 違う。
なるほど。では、昨日の夜、黒沢の誘いを断ったこと? 違う。
え? あ? いやいやいや、それは。そう。違くない違くない。
ウオッフォン。ゲフンゲフン。カーッペッ!
では、何か。それは、拠点を出発するときのことだ。
「早く、行きましょう!」
右手の拳を、元気良く前に突き出しながら、黒沢に、言ってしまったことだ。