アンダーグラウンド(三十三)
折角鹵獲したバギーは、黒田がどっかに走らせてしまった。
だから、バギーが走って行った方とは、逆の方に歩き出す。
「やっぱり、発信器でも、付いていたんですか?」
黒井が聞くと、黒田は頷いた。
「言ってたじゃん。『移動したのか?』とか『殺しに行く』とか」
そう言って笑う。口をへの字にして。
「なるほど」
黒井は頷いた。確かに言っていた、ような気がする。しかし、良く聞いているなぁ。この黒田は。
そんなことを思いながら、二人でキョロキョロして歩く。
前後は自動警備一五型に任せ、左右を担当するスタイルだ。
「お前、どこ所属だったん?」
歩きながら、黒田が聞いてきた。互いに違う方向を、確認しているときだ。話しかけられるとは、思っていなかった。
「百里の第七です」
黒田の、何気ない質問に答えてから『しまった』と思う。経歴は、しばらく秘密にしておくつもりだったのに。
「なんだ。海さんか」
「いや、空ですよ」
またうっかり答えて『しまった』と思う。黒田の方を見ると、ニヤニヤしているではないか。
「じゃぁ、歩きは苦手かっ」
そう言って笑った。黒井は苦笑いで返す。一応、航空自衛隊だって、地上訓練くらい、してるんですけどっ。
墜落したときとか、不時着したときとか、緊急脱出したときとか。
「飛ぶのに比べれば、苦手っす」
どうせ黒田は、陸軍なのだろう。ハイハイ。
しかもね、どうせレンジャー。それも凄腕の奴。
周りにレンジャーなんていなかったけど、どうせレンジャーなんて、みんな『こういう奴』なんでしょ? 癖、強いよなぁ。
すごいでしゅねぇ。驚きでしゅねー。
「ここじゃぁ、飛べないなぁ」
そう言って笑う。手で飛行機を形作って、飛ばしている。まったく。羽をパタパタさせちゃって!
俺のF2は、パタパタしないんだよっ! て、まぁいいや。
「黒田さんは、どこ所属だったんですか?」
笑顔で優しく、黒井は聞いてみた。黒田は釣られて笑顔になる。
「ナイショー」
口を縦に伸ばして笑いながら、黒田が答えた。黒井は怒る。
「ズルいじゃないですかぁ! 俺は教えましたよね?」
そう言って、黒田を指さす手を上下に振る。しかし、黒田は首を横に振る。
「そんなの、お前の口が緩いだけだろぅ」
そう言って、手を口の前でパクパクさせ、ユルユル加減を表現。
「誘導尋問じゃないですかぁ」
決め付けてみたものの、黒田は動じない。両手の平を上にする。
「いや、別に誘導してないじゃん!」
そう言って、ニヤニヤ笑うだけだ。
「どうせ、習志野の第一とかなんでしょ?」
そう決め付けて、苦笑い。指さして首を傾ける。
すると、黒田の目が大きくなり、口が縦に長くなった。
マジか? レンジャーの巣窟、あの『第一空挺団』なの? か?
「ハズレーッ。ブッブゥー」
ムカツク。ホント、マジ、ムカツク。アーッ、オシエロヨッ!
「どこすかぁ。じゃぁ、八甲田の、雪中行軍の生き残りすか?」
当てずっぽうも良い所だ。ていうか、酷い。
しかし、予想外なことに、黒田の目がさっきよりも大きくなり、口だって、さっきより縦に長い!
嘘! 当たったの? 黒田は咄嗟に思う。
「ハズレーッ。ブッブゥー。馬鹿。俺はそんな年じゃねぇよ!」
「あ、やっぱり?」
そう思って、黒井は笑う。直後、黒田から右肘で『コツン』とド突かれる。すまんすまん。流石にそれはジジイ過ぎる。
確か『八甲田雪中行軍』は、明治時代だったぜ。
でも、黒田を見ていると『どんなときでも生き残りそう』だ。
そんな気が、するんだよねぇ。ひしひしと、さ。




