アンダーグラウンド(二十八)
自動警備一五型の足元に、ラップトップが落ちている。黒井は一目見て判った。軍隊用の奴だ。
「ちょっと待て!」
拾おうとした黒井に気が付いて、黒田が叫ぶ。黒井は反応が良い。ピタッと止まった。
「指紋、付けるなよ?」
成程、そういうことか。黒井は頷く。しかし、手袋なんてない。ポケットからハンカチを出して、ラップトップを拾う。
「こっち。こっち」
黒田が手招きをしている。蓋がされたままのそれを、黒井は持って行く。バギーのボンネットに、トンと置く。
黒田がそれを素手で扱い始めた。
「良いんですか?」
そう言って黒井が笑う。何故か黒田の心配なんて、想像もできないが、何か黒田がそうしているなら、間違いない気もする。
「良いんだよ。俺はな!」
やはり、心配要らないらしい。根拠何て、全然ないのだが。
そうこうしている間に、ラップトップが開かれる。蓋の表には、でっかく『C』と書かれている。
何のことだか判らなかったが、ディスプレイがONになり、それを覗き込んで意味を理解した。
どうやら、自動警備一五型のコントロールを、チャットでしていたようだ。
端末A『7がスタック?』
端末B『動かないね。切れた』
端末C『6を向かわせる』
端末B『OK』
端末A『東にシフト』
端末C『300くらい?』
端末A『そんくらいで』
端末C『OK。指示出した』
端末B『6合流したね』
端末A『7どうよ? 息してる? 寝てる?』
端末B『いや、起きてる』
端末A『ありゃ、すぐ復帰できる?』
端末C『行けると思う』
端末A『よろ』
端末B『あれ、6死んだ』
端末C『ONだけどね』
端末A『何?』
端末B『わからん。とりあえずリセットする』
端末C『コマンド入らね。リセットよろ』
端末A『4と5が向かってる』
端末C『サンキュー。7もリセットする』
端末B『ん? 誰が向かわせた?』
端末A『ん?』
端末C『リセット入らんね』
端末B『そっちも?』
端末A『4と5、誰が操作してるん?』
端末C『ダミだ。カメラも映らん』
端末B『ホントだ。リセットできん』
端末A『ちょっと、他止めるわ』
端末C『何だコレ? 昨日何かやったん?』
端末B『知らん。何も紀伊と欄』
端末B『聞いてない』
端末B『むかつくなこれ』
端末C『ちょっと行くわ』
端末B『頼む。6もよろ』
端末B『何かいじったんなら、連絡ほすいわぁ』
端末C『ミントちゃん、はよ』
端末B『だな』
端末A『本部に連絡した』
端末A『おい、一人で行くな』
端末A『おーい』
端末C『うんてんちゅう』
端末B『俺も行こか?』
端末B『どうすんの』
端末B『おーい』
端末C『大丈夫。もう着いた』
端末A『4と5も止めろ』
端末C『4と5も到着してるっぽい』
端末C『一緒に止めるわ』
端末A『は? まだだけど』
端末B『5あと250m、4あと500』
端末A『おーい、戻れ』
端末B『5見えた?』
端末A『整備呼んだから、戻れ』
端末B『あれ、5もスタック? どうよ』
端末B『山ピー、おーい』
端末A『5止めろ、4止める』
端末B『最悪。くそが』
端末A『ダメだ。4止まらん。撤収しる』
端末B『山ピは?』
端末A『放置で。戻れ』
端末B『OK。山ピ、先戻る』
ざっと一通り読んで、電源を切る。こいつは回収だ。
どうやら自動警備一五型のコマンド入力にも使えるようだ。黒松に渡したら、凄く喜ぶに違いない。
黒田がバギーに乗り込み、黒井にも乗るように合図した。
一瞬黒井は『それに発信器が付いているのでは?』と思ったのだが、一旦は、黒田の指示に従う。
黒井が乗り込むと、バギーをスタートさせた黒田が、後ろを向いて大声で叫ぶ。
「俺に付いてこい!」
バギーは走り出す。
するとその後ろを、六機の自動警備一五型が、二列縦隊で付いて来る。
壮観ではないか。二人は顔を見合わせて、笑顔になった。
「大漁旗を用意すれば、良かったなぁ」
そんなことを言うのは、黒田である。不謹慎な奴だ。
一方の黒井は?
「いいっすねぇ! 黒沢にお願いしますかぁ!」
黒井の奴も、結構、黒田と同類なのかもしれない。