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アンダーグラウンド(二十七)

 ヘッドライト消して、暗視スコープを装備する。黒田が黒井を少し後ろに下げ、ドアノブに手をかけた。

 二人は黙って頷く。黒田がそっとドアノブを回す。『カチッ』という音が響く。姿勢を低くして、構える。ドアノブよりも低く。


 黒田がゆっくりとドアを開け、隙間から外の様子を伺う。

 その瞬間、ドア『バン』と閉める。それだけではない。左手をドアに添え、押さえた。

 ゆっくりと黒井の方に振り向く。


「やヴぇえよ」

 ポツリと言ったのだが、にやけているようにも見えるのは、気のせいではないだろう。

 黒井も咄嗟に姿勢を低くしていた。そのまま聞く。

「どうしたんですか?」

「『あきら君』が来ちゃってる!」

 そう言って、笑った。黒井は三ノ輪駅に入る前に『ドア死守』を命じていた、謎の音声指示を思い出す。


「だから、『あきら君』って誰なんですか?」

 黒田はそれには答えずに、もう一度扉を開けようとしている。

 ゆっくりと開けた。すると何だか、少し明るくなった気がする。そんなはずはないのだが。

 今度は黒井も立ち上がり、黒田が覗くドアの上の方から、赤い光が漏れる外の様子を伺った。


「うげっ。ナニコレ」

「なぁ。キテルだろう?」

 二人はドアの隙間から外を見て、固まった。そこには自動警備一五型イチゴちゃんが、大勢いるではないか。

 黒田がドアを開けて、ゆっくりと外にでる。そこでしかめっ面になって、黒井を止めた。黒井も指示に従う。


 しかし、直ぐに「こいつなら大丈夫だろう」と思い直して、黒井に大丈夫と合図する。黒井も直ぐに動き出す。

 黒田が完全に外に出て、安全を確認した頃に、黒井もドアの外に出た。そして、二人で顔をしかめる。


「あいつが『あきら君』ですか?」

「いや、違うよ」

 そう言って笑う。黒田は「やっぱり黒井は平気だった」と思う。

 黒井が指さした所には、首のない死体が一つ、ころがっていた。多分、いや、絶対『ビンタ』されたに違いない。

 どの自動警備一五型イチゴちゃんにされたのかは不明だ。


「壱、弐、参、四、五、六。凄いな」

 黒田が数えて唸る。黒井も数えて頷いた。二人に対して『敵意』はないらしい。どうやら安全なようだ。


「どれが『あきら君』なんですか?」

 周りを警戒しつつ、もう一度聞く。これだけ仲間がいれば、余裕も出て、笑顔にもなる。


「『あきら君』ってのはな、黒沢おばちゃんの旦那でな」

「へー。そうなんですか」

 そうなんです。漢字で書くと『黒沢晃』。惜しい別人だ。

「その『あきら君』が来るまで『ここで待て』ってことだよ」

 そう言って、黒田は自分を指さした。黒井は驚く。


「奥さんだったんですか?」

 そう言って黒田を指さすと、黒田は急に真顔になって、両手を横に振り出した。


「馬鹿っ、違うよぉ。俺が『あきら君』役ってことだよぉ」

 あっぶねぇなぁ。そんな訳ないだろうが! と、心の中で思っているのが、黒井には丸判りである。

 黒井は、苦笑いするしかない。


「これ、どうします?」

 そう言って、冷静に黒井が首のない死体を指さす。同じ部隊の仲間なら、埋葬してやりたい。しかし、それは無理。


 認識票も無さそうだし。いや、自衛隊員じゃないか。それに、首にぶら提げていたとしたら、一緒に吹っ飛んでいるだろう。


「探索機で、探すんじゃないかなぁ? そのままで良いよ」

 黒田も冷静だ。見慣れているのだろうか。

「探しに来るんですか?」

「来るんじゃない?」

 そう言って、キーの刺さっているバギーを指さした。成程。こいつに発信器でも付いていて、そこから辿って来るのだろう。


「ココにな、チップが入っているんだよ」

 そう言って黒田が、左耳を指さした。黒井はキョトンとしている。

「何のですか?」

「軍隊で言う、認識票みたいなもんが」

 そう言って笑う。黒井は驚いて聞く。

「耳たぶにですか?」

 そう言って、自分の耳たぶをプルンとする。


「違うよ。ココから頭蓋骨と頭皮の間にな『プスッ』って入れるんだよ」

 そう言って、注射器で刺す真似をした。


「軍人は、ですか?」

 そう言って、誰だか知らない人を指さす。


「違うよ。全員だよ」

「まぁじすか? 子供から大人まで?」

 黒井は驚いた。この世界は進んでる?

 マイナンバーカード、要らないじゃん!


「まぁじすよ。赤ちゃんが生まれたら、『プスッ』って入れるから、みんな入ってますヨ」

 そう言われた黒井は、慌てて自分の左耳を擦ってみた。


「お前は、ないかもなぁ」

 黒田は笑って黒井を指さす。

 黒井は、今度も苦笑いするしかない。

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