表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
108/1471

アンダーグラウンド(二十二)

 恐る恐る国道四号を歩く。誰もいない。

 ゆっくり動く自動警備一五型イチゴちゃんの、モーター音だけが響く。

 首を左右に動かすモーターと、腰を動かすモーターの種類が違うのだろうか。高音と低音のハーモニーが心地よい。


「こっから入るぞ」

 黒田の声がして振り向く。勝手にドアを開けていた。

「早くしろ!」

 何だろう。命令形だと、冗談抜きでパッと動ける。黒井は丸腰だったが、黒田を背にして後ろ向きに下がった。


「こいつは?」

 黒田の直前で振り向きざまに、自動警備一五型イチゴちゃんを指さす。

 黒田はドアの内側に入り、ドアを盾にして首だけ出している。


「オートで置いてく」

 黒田の短い返事に、黒井は頷いた。確かに、ドアを壊さないと無理だろう。それにこの先は階段だ。

 黒田の手招きで、しゃがみながら転がり込む。それをチラっと確認すると、黒田が前を向く。


「あきら君と初デート!」


 黒田が叫んだ。その瞬間、自動警備一五型イチゴちゃんのモードが変わったようだ。ドアを守るように移動し、背合わせになる。

 そして、お互いの死角をカバーするように、監視範囲を調整しあったようだ。細かいモーターの音がして、静かになった。


「『あきら君』って、誰ですか?」

 苦笑い。そう言いながら、黒田を指さす。

「俺じゃないよ」

 黒田の下の名前。えーっと、確か『光男』だった。

「お前か?」

 しらばっくれて、黒田が聞く。

 眉をピクピク動かしたときは、ふざけているときだ。


「フッ。俺でもないですよ」

 嫌そうに答えた。鼻息が『フッ』と出たときは、満更でもないときだ。下の名前は、忘れた。

「だから、誰なんですか?」

 黒井保が聞く。しかし黒田は、にっこり笑うだけ。聞こえない振りをした。

 黒井も、それ以上聞かなかった。まぁ、どうでも良いことだ。


 二人は三ノ輪駅の非常口を開けて、構内に侵入した。

 多分、違法だと思う。だって、入場券、買ってないし。


「列車の撮影するなら、入場券より乗車券買った方が良いですよ?」

 黒井から、謎のアドバイス。略して、ナゾバイス。黒田は首を傾げ、苦笑いだ。


 それでも黒田は思った。

 列車の撮影を目的にしていることは、間違いない。なんて勘の良い奴だ、と。まだ何も、説明していないのに。


「なんでだ?」

 黒田が小型のビデオカメラを取り出し、黒井に見せる。そして、その電源をオンにする。

 黒井は、何だ、本当に撮影だ、と思う。


「何か、ここ、国鉄ですよね?」

「ん?」

 黒田は一瞬「何を言っているんだ?」と思ったが、黒井が日本国から来たのを思い出す。


 そっちの世界は『人工地盤』がなく、地上で暮らしていること。そして東京は、地下鉄が発達しているとのことだった。

 ホント、水害になったら、どうするのか。


「あぁ。そうだけど?」

 まぁ、それはそれ。何か防御策があるのだろう。そっちの世界のことだ。今は良い。

「入場券は、二時間までなんですよ」

「え? そうなの?」

 黒田が驚いている。その様子を見て、黒井は、やっぱりと思う。


 この黒田と言う男、何でも知っていそうに見えて、何か普通のことを知らなさそうだ。

「だから、長居しようと思ったら、一駅分の切符を買った方が、良いんですよ」

 そう言って、料金表を指さした。

「そうなんだぁ」

 そう言いながら、二人は無人の切符売り場前を通過する。


「そっちは、自動改札だったり、するの?」

 黒田が、切符を見せる振りをして、改札口跡を通過する。黒井に言わせれば、随分昔に消滅した、駅員常駐型の改札口だ。


「ええ。もちろんです。ピッ」

 黒井も笑って、自動改札の振りをして通過する。

 黒田が、ホームへの階段手前で振り向く。


「今の『ピッ』ってのは、何だい?」

 耳が良いのだろうか。良く聞いていたものだ。

「自動改札を通ると、そんな音がするんですよ」

 そう言いながら、存在しない定期券を取り出し、自動改札機に叩く振りをした。


「電子レンジみたいなもんか」

 黒田が納得して笑う。それを見た黒井は、直ぐに指摘。

「それは『チンッ』じゃないすかぁ?」

 そう言って笑う。言われた黒田の笑顔が、一瞬消える。


「あっ。そうかもなぁ」

 そう言って、また笑い出す。照れ隠しに頭を掻く。

「そうでしょう」

 黒田の笑顔を指さして、黒井も笑う。


 どうやらこの二人、だいぶ打ち解けてみたいだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ