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アンダーグラウンド(二十一)

「人工知能でも、入っているんですよね?」

 前を指さし、黒田を見て聞いた。黒田は口をへの字にする。

「入っている訳、ないだろうが」

 渋い顔だ。なんだ? 実はこれ、賢くはない?


「えぇー、昨日の様子だと、絶対入っていると思ってましたけど?」

 通りを横切る時、自動警備一五型イチゴちゃんは、左右を確認している。とってもお利巧さんである。

「どこをどう見たら、人工知能なんだよぉ」

 機械に詳しいのだろうか。黒田が呆れている。黒井は反論だ。


「だって、『もっと気持ちを込めて!』とか、言ってましたよね?」

「そんなのさ、沢山の応答準備しているだけさ」

 首を傾げて聞いても、無駄だ。黒田が右手を左右に振って否定する。それでも黒井は、自分の体験を優先する。


「そうなんですか? 私、三回も言い直し、させられましたけど?」

 そう言っても黒田は、首を左右に振って、信じない。

「偶然。偶然。そんなの聞いた側が、勝手に『人口知能すげぇ』に、なっているだけなのさ」

 両手の平を上にあげて言う。そこまで言われては。黒井は、がっかり、意気消沈だ。

「そうなんですかぁ?」

「そうなんですよぉ」

 二人は顔を見合わせて首を傾げる。曲げた首を戻し、黒井が聞く。


「じゃぁ、誰が話し合うんですか?」

 そう言って、黒田を指さした。黒田は笑って右手を左右に振る。


「こいつらだけで、話し合ってもらうのさ」

 横にした右手を顔の前で止め、親指は後ろ、小指は前を指した。それを見た黒井は、前後の自動警備一五型イチゴちゃんを見る。

「どういうことすか?」

 やっぱり判らない。それってやっぱり人工知能じゃないの?


「こいつらさ、チーム内で『リーダー』を決めているらしくてさ」

「へー」

 連携でも取るのだろう。黒井は七機がV字に隊列を組み、かっこ良くポーズを決めるシーンを想像した。黒田の説明は続く。


「その『リーダー』を勝手に名乗ってさ、

 一機づつ、仲間にして行くんだよ」

 ん? 何だそれ? チームの乗っ取りだろうか。

「どうやって?」

 それこそ人工知能同士による、血の闘いならぬ、知の闘いだ。


「何かな、『リーダー選挙プロトコル』ってのが、あるらしいんだけどさ、それはさ、こいつら『拒否』できないんだってさ」

「へー」

 選挙か。そういう手があるか。

 ロボットの部位毎に配点をし、戦闘で壊れた個所を減点し、残存得点が一番高いのを『リーダー』にするのだろう。なるほど。


「そんでもって『臨時』の場合はさ、即開催・即決定らしいんだよ」

 黒田が前を指して言う。なるほど。そんな仕様も必要か。

「戦闘中に、リーダーがぶっ壊れた時を、想定している?」

「あぁ、そーゆーことなんだろうなぁ」

 黒田が頷いたのを見て、黒井も頷く。


 軍隊だったら『階級』が絶対なのだが、同じ性能のロボットに、それはないのだろう。


「だからさ、今、こっち、二機いるだろう?」

 黒田が笑顔で、もう一度前後を指さす。黒井もピンと来た。

「なるほど! はぐれを見つけたら、二機ダッシュ! ですね!」

 ビュンと勢いを付け、黒井が腕を振る。それを見た黒田が、右手の親指を立てる。

「正解!」

 凄い。でも本当に、上手く行くのだろうか。


 離れている七機を、一機づつ鹵獲していけば、ブラック・ゼロのロボット軍団が出来そうだ。


 惜しい。だったら、さっきの『はぐれ』も、怖がらずに、さっさと追いかけて行けば、良かったのに。

 そう思った黒井だが、この行動陣形、それに、左右の警戒、これは一体?

 そうだ。昨日武器だって、メンテして装填したのに。

 それの説明は?


「そしたら、この武装は、何のためですか?」

「あぁ、それ? ナイショ」

 ちょっと待て。今更ナイショにしないで欲しい。

「ちゃんと、教えてくださいよ」

 あんたが今、撃たれて即死したら、俺はどうすんの?

「えー。だってさ、

 お前、初陣でおしっこ、ちびっちゃったら、恥ずかしくね?」

 ニヤニヤ笑っている。確かに、今、替えのパンツはない。


「ちびりませんよー」

 そこで黒井は、上官から『怖いと思うのは悪いことじゃない』と、言われたことを思い出す。

 それを、直ぐに否定する。だって『怖くない』とは言っていない。『ちびらない』と、言っただけだ。


「新型の『ミントちゃん』は、怖いんだよ」

「え?」

 ちょっと待て。新型って。自動警備一五型イチゴちゃんは、旧版なの? 黒田から説明がない。


「どんなのですか?」

 そう聞いても、返事がない。

「デカいんですか?」

 コレでもでかいが、それよりもデカかったら、どうしよう。きっと重装備だ。


 しかし、黒田から返事がない。


 いつの間にか、三ノ輪の駅まで来ていた。しかし、黒田が足を止める。国道四号との交差点で、警戒を始めた。

 黒井も会話を止め、警戒する。一体、何が来るのだろう。


 国道四号線は、一般車は北千住駅まで。だから、千住大橋は渡れない。トラックは、千住大橋を渡った先で、強制的に左に誘導され、隅田川駅にのみ、行けるようになっている。

 だから、ここ三ノ輪駅は、廃駅となっている。


 しかし黒井は、その廃駅となった看板が、『国鉄・三ノ輪駅』になっているのを見て混乱していた。『地下鉄日比谷線』は、何処へ行ってしまったのだろうか。


「全然情報が、ないんだ」

 不意に黒田の擦れ声がして、黒井は我に返る。そうだ。きっと日比谷線は、お出かけになったんだ。慌てて聞き返す。

「何が、ですか?」

 聞いておいて、しまったと思う。声がでかい。それに、多分『ミントちゃん』のことだ。


「だから、『ミントちゃん』だよ」

 鼻で笑う音がしてから、黒田の擦れ声がする。

 しまった。やっぱりだ。振り向いて黒田と目が合う。頷いた。

「見た者は、いないんだ」

 黒田が渋い顔をしている。相変わらずの擦れ声だ。

「本当は、いないんじゃ?」

 小さい声で聞く。そして暗闇を見つめる。赤いランプはない。


「あぁ。本当は、帰って来た者が、いないんだ」


 黒田の擦れ声。小さいが、何故か聞き取れた。

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