アンダーグラウンド(十八)
「へー。今は食えないのかぁ」
黒井の説明を聞いて、黒田が頷く。それを見ても安心できない黒井は、『Cー4』を指さして警告する。
「腹壊すとか、そういう『甘い物』じゃないんで」
中毒症状を起こして、ぶっ倒れる。
「そうかぁ。『甘い物』なのになぁ。『舐める』のもダメかぁ」
そう言って、ペロリと舐める振り。黒井は困った顔。
「上手いこと言ったって、美味くないですよ?」
「あー、良いねぇ」
呑気に黒田から指される。ダメだこりゃ。
さっきから二人は、『非常通路』に『Cー4』を仕掛けている。
地上百ミリ位に細いピアノ線を張り、その先に信管を付けておく。自動警備一五型が通ると、ドカン! となるように。
「あんまり量を増やしても、ダメだからな?」
黒田が、不思議なアドバイスする。
それだよ。黒井は黒田の指示通り、既定の分量で設置していたが、この量で、自動警備一五型を破壊できるのか、疑問に思っていた。
「こいつを止める為じゃ、ないんですか?」
設置した場所に、軽くカモフラージュをして、足元のピアノ線に注意し、後ろに下がる。
だから、『こいつ』を指した親指が、黒田の方に向かっていたとしても、仕方ない。
「こんなんじゃ、止まんねーよ」
親指で指した方から黒田の声がして、黒井は振り向いた。
ニコニコ笑う黒田が、『Cー4』では死なないように見えて、ちょっとカッコイイ。黒井は直ぐに否定した。
「いやいや。人は死にますよ」
即死はしないかもしれないが、こんな所で怪我をして倒れたら、どの道死んでしまう。
「判ってるよ」
黒田は頷いて歩き始める。次の設置場所を探すためだ。
「一応ココ、東京だからさぁ」
そう言って黒田は、人差し指で天井を指す。そして遠くに見える柱を指さして、黒井に警告する。
「柱を傷つけたら、死刑だからな?」
相変わらずの笑顔だ。全く信用がない。
「本当ですか?」
わざわざ人工地盤の柱を傷つける気も無いが、それで死刑とは。
「ホント、ホント。こいつらもさ、柱は狙わないんだ」
自動警備一五型を親指で指している。
「へー。そうなんですかぁ。良く出来てんなぁ」
黒井は頷く。ホントそう思う。黒田も頷き、説明を続ける。
「だからさ、いざと言う時はさ、柱の陰に、隠れるんだぞ?」
信頼されたと思ったのか、緊急時のコツを教示する。
「判りました。覚えておきます」
黒田の目を見て、素直に答え『秘伝』を理解する。
「その間に、俺は逃げるからさっ」
そう思ったのもつかの間。黒田はニヤけて腕を振り、逃走する振りをし始めた。一応、腕を振る速度の割に、歩く速度は緩やかだ。
「ちょっと待って下さいよ! 柱の陰は?」
苦笑いしながら、黒井も右手を伸ばし、追いかける振り。黒田に止まる気配はなく、振り向きながら言い放つ。
「あー『安全』とは言っていない。回り込まれて『バーン』さ」
勢い良く、腕を振った。あー。痛そうな奴。あれですね。
「何ですか! それぇ。ダメじゃないですかぁ」
黒井は歩きながら、両手を広げ文句を言った。
「あははっ。皆それで『逝っちゃうぅ』なんだよねぇ」
朝から、いきなり何言っとるんだ、このエロじじいは。
「あ、この辺良いんじゃね?」
そう言って黒田は左手をパタパタさせた。『Cー4』を寄越せという合図だ。
黒井は左肩に掛けていたリュックを降ろし、開けっ放しの蓋を振って、一つ取り出して黒田に放り投げた。
「サンキュッ」
それを受け取った黒田は、器用にクルンと回すと、少し崩れかけた木造住宅の柱に、それを張り付ける。
「多いでしょぉ」「だよなぁ」
黒井の忠告に、即座に黒田が反応した。二人共、どれ位の量で、どんなことが起きるのか、想像しながら『Cー4』を設置しているようだ。この二人、とても気が合っている。
「飲み込み早いねぇ。まるで軍人じゃん。何、経験者?」
素早く『Cー4』を設置しながら聞く。
経歴を隠していた黒井は、返答に困った。咄嗟に答える。
「そうですね。俺、イチゴ味が好きなんです」
そう言って、もう一つ取り出した『Cー4』を舐める振り。
黒田はピアノ線を切り、『Cー4』の下半分を切り、それを左手で持ち、片目を瞑りながら、振り返った。
「言うねぇ」
首を少し傾けて、人差し指で指す。そのまま人差し指を畳んだと思ったら、今度は親指を突き立てた。口は右側だけ引く。
「GJ(ジージェと発音して、意味はグッドジョブ)」
「イエーッ」
黒井もノリで返した。