アンダーグラウンド(十七)
黒田と黒井が裏道を歩いている。
すぐ前には、昨日お友達になったばかりの、自動警備一五型が二機、周りを警戒しながら先導。凄い安心感がある。
膝を曲げて、中腰のようなスタイル。しかし向う脛に相当する部分にキャタピラがあり、それで進んでいる。
障害物がある時は、二足歩行で、危ないと感じた場合は、腕も使った四足歩行で進むらしい。
何処製なのか興味を持った黒井は、製造元のプレートでもないか探したのであるが、多分『NJS』を変形させたマーク以外、見つけることはできなかった。
それでさえ、何処のメーカーなのか判らない。
この辺の裏道は狭い。両サイドは古い木造家屋が続く。
「狭い所を行くんですねぇ」
もっと表の方を歩いた方が、見通しが効く。
これでは、物陰から飛び出して来たら、ひとたまりもない。こっちは丸腰なのだから。
それに、まさか『スナイパー』なんて、いないだろう。
「この道は『非常通路』なのさ」
そう言って、黒田は笑う。やはり黒田もこの道は怖いと思っているのだろうか。さっきから、下の方を警戒している。
「下から、何か出るんですか?」
黒井がマンホールを指さして聞く。黒井は首を横に振った。
それを見た黒井、今度は倒れた庭木の下を見て聞く。
「何が出て来るんですか?」
太陽が拝めなくなって、庭木も枯れたのだろう。途中から折れた庭木に隠れるとしても、ネズミか何かだろう。
「この間さ、『こいつ』に追い掛けられたんだよ」
そう言って黒田は、自動警備一五型を指さした。もちろん、目の前の『こいつ』ではない。
昨日お友達になった『こいつ』は、古い放置自動車を乗り越えようとして、天井を踏み抜き、バランスを崩して転倒。
そのままスタックして電池切れとなり、ブラック・ゼロが鹵獲したものだ。
「良く、生きてましたねぇっ」
黒井が、凄く残念そうに言う。しかし言われた黒田は、何故か嬉しそうにしている。
「まぁな。この『非常通路』を使ったからな」
むしろ自慢げに言う。黒井は周りをキョロキョロして、何かの仕掛けを探したが、コレと言って目立ったものはない。
「何か仕掛けてるんですか?」
それを聞いた黒田が、足を止める。連動して自動警備一五型も止まった。本当に優秀なロボットだ。
「仕掛けがあったんだよ」
そう言って黒田は、黒井の背中にあるリュックサックを指さした。拠点を出発時に「弁当だ」と言われ、預かっているものだ。
「あぁ、これですか」
黒田がニヤッと笑っている。いや、弁当にしては重いって言うのは、判ってますよ?
しかし黒井はピンと来た。おいおいおいおいっ!
「って、ちょっと!」
黒井はリュックを直ぐに降ろして、蓋を開ける。一番上の新聞紙で包まれた物。それは弁当だ。感触で判る。その下!
「やっぱ、コレだよぉ」
黒井が取り出したのは、凄く熱くなる『温泉の元』。いや、既に偽装する必要もなくなって、袋はない。つまり、ただの『Cー4』だ。そいつを一つ手に持って、黒田を睨み付ける。
「まだ『信管』刺さってないんだから、問題ないっしょ」
指さされ、笑顔で言われた。黒井は『Cー4』を見る。
「そうですけどぉぉっ」
これだよ。ホント、イライラする。そんな黒井を、嬉しそうな黒田が、少し頭を横にして、黒井を覗き込む。
「何? びびってんのぉ?」
子供かっ! 黒井は顔をしかめて言い返す。
「違いますよっ。びびってないですよ!」
右手と左手で『Cー4』をポンポン投げて、持ち替えて見せる。
「じゃぁ、何? 何? なぁに?」
黒田が反対に首を曲げ、更に聞く。黒井は左手に持った『Cー4』を左手だけでポンポンしながら、それを右手で指さす。
「もぅ、『弁当だ』って言ってたじゃないですかぁ」
どういう弁当じゃ。このくそじじぃ。
「良いじゃん。食えるっしょ?」
正面に向き直った黒田が、まるで『お前、食ったこと無いのかヨ』とでも言いたげだ。黒井はポンポンを止め、渋い顔になる。
「今の『Cー4』は、食えないんですよ!」
「え? そうなの? マジで?」
黒田の返事は早かった。目をひん剥いて、本気で驚いている。
一方の黒井は、黒田が驚いたことに、驚いた。
そう。今の『Cー4』は食えない。
良い子は、決して、真似しないように。マジで。