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アンダーグラウンド(十五)

 ダンボールは指定時間内に片づけ終わった。

 そこへ、黒沢がやってくる。今度はドアを手で、そっと開けた。


「奇麗になったじゃないかぁ」

 そう言って感心して頷き、黒田、黒松、黒井を見る。

 三人は揃って揉み手でお辞儀。ぎこちない笑顔である。


「明日のお弁当、大丈夫ですよね?」

 年長の黒田が代表して質問。それに黒沢は、ただ黙って頷いた。三人はホッとするが、油断はできない。


 いつココが襲われるか、判らないからだ。安全地帯ではない。

 それを知らないのは、新人の黒井だけである。


黒井しんじんの登録、してあげなよ」

 黒沢がそう言って、自動警備一五型イチゴちゃんを指さした。

「先に降ろすよ」

 黒田がそう言うが早いか、ポケットからキーを取り出して起動ボタンを押す。

 手前の自動警備一五型イチゴちゃんが先に目を光らせ、腰を浮かせる。続いて奥のも起動した。


「こいつ、勝手に降りるんですか?」

 黒井が、指さして黒田に聞く。聞かれた黒田はにっこり笑う。


「あぁ、見ててみな。器用に降りるんだよ」

 そう言っている内に、左手で体を支えて左足を浮かせると、器用に前に出し、地面まで伸ばす。そして接地すると、今度はそれを支えにして、右足を少し前に出した。

 右手を左手よりは前に着き、右足を浮かせて前に出す。そしてそれを伸ばして、左足と揃えて地面に接地。


 いつの間にか自由になった左手が前に来て、トラックがひっくり返らないよう、器用にバランスを取りながら地面に降り立った。


「凄いですねぇ」

 黒井が感心している間にも、奥のもう一台が地面に降り立つ。

 トラックはアウトリガー付きだが、出番はない。


「じゃぁ、ちゃちゃっと、登録しましょうか」

 黒松が『俺の出番だ』という感じで黒井に言う。先にトラックターミナルから飛び降りた。頷いた黒井も、その後を追おうとしたが、ふと立ち止まり、黒田を睨む。


「悪戯は、なしですよ?」

 何かのスイッチを押そうとしていた黒田が、息を吸った所で固まった。やっぱり、何かしようとしていたようだ。

「しないよ。大丈夫だよ」

 悔しそうに、笑っている。それを見た黒沢が、無言で黒田のケツを蹴っ飛ばした。


「いてっ」

「馬鹿」

 そんな会話が聞こえてきた。しかし、蹴られた黒田は笑っていて、蹴った黒沢は、渋い顔。


 安心してトラックターミナルから飛び降りる黒井は、黒田を指さして、満面の笑顔である。


「この映像の中に、顔が映るように立ってね」

 いつの間にか整備用の蓋を開け、モニターをONにしている。そこには人型の点線と、背景の映像。

 黒井がモニターに近づくと、黒井の顔が鏡のように映り込む。どうやら、小さなカメラで撮影しているようだ。


「こうですか?」

 枠内に入ったのを確認し、そう言って、黒松の方を見た。

「うん。正面向いててね」

 そう指摘されて、黒井はもう一度モニターを見た。

「じゃぁ、指示に従ってね」

「はい」

 黒井は頷いた。撮影に何秒か静止していれば、良いのだろう。


「真面目に、指示に従ってね。マジね」

 黒松の念押しを聞いて、黒井は何だと思い、黒松の方を向こうとしたが、止める。モニターの中で、映像が動き始めたからだ。


『チャンチャンチャチャーン・チャッチャラチャッチャーン♪』


 軽快な音楽が鳴り響く。

 それと同時に、モニターにハートのマークが次々と現れ、それが中心に向かって渦巻きながら小さくなり、吸い込まれて行く。

 そして、女性の声がする。


『みんな大好き! イチゴちゃん!』


「これ、何ですか?」

 黒井は思わず苦笑い。モニターを指さして、黒松を見た。幾ら何でも、これはふざけ過ぎだ。


『ティロリン♪ ふざけている人、きらーい☆ミ』


「ちょっとー、真面目にって、言ったでしょぉぉっ」

 黒松がマジで怒っている。そんなこと言われたって、黒井は苦笑いだ。どうせ黒田が、何かやったに違いないのだから。

「すいません」

 一応謝る。音楽がまだ鳴り響いているので、その映像を苦笑いのまま眺める。

 一方の黒松は、マジ顔でテンキーをパパパッと操作する。


『チャチャチャン♪ チャッチャ(ブチッ)』

 軽快な音楽が途切れて静かになった。


「ちゃんとやらないと、撃たれるからね?」

 マジ顔で黒松に注意され、黒井は思わず振り向いて、黒田を見る。

「本当ですか?」

 疑いの目で聞く。しかし、聞かれた黒田が笑い出した。

「俺に聞くなよ!」

 そんな答えを聞いてしまっては、やっぱり怪しいではないか。

 しかし、隣にいた黒沢が渋い顔で頷く。


 え? マジか! マジなの? 本当に? なの?

 直ぐに黒井は、モニターの方に体を戻した。

 それを見た黒松から、もう一度念押し。


「真面目にやらないと、ぶっ殺されるからね?」

 ちょっとイラついている。

「はいっ!」

 黒井が答えると、直ぐに軽快な音楽が鳴り始める。


『チャンチャンチャチャーン・チャッチャラチャッチャーン♪』

『みんな大好き! イチゴちゃん!』

『イチゴにね、あなたのお顔、見せて欲しいの(キャッ)』

 黒井は真顔でモニターを凝視する。疑問譜は尽きない。


『(カシャッ)ありがとう。とっても素敵ね(はあと)』

『私のこと、好きだったら、「はい」って言ってね!』

「はい」

『あら、よく聞こえなかったわっ。もっと大きな声で!』

「はい!」

『いいわぁ。元気ね! でも、もっと、気持ちを込めて!』

「はいっ!」

『いいわぁ。私もあなたを好きになりたいわぁ。お名前教えてぇ』

「黒井です」


『黒井ですさんね。素敵なお名前! イチゴ、覚えたわぁ』

 なんじゃこりゃ。勘弁して欲しい。

 黒井は横目に黒松を見たが、まだマジ顔だったので、諦めてモニターを見た。


『チャンチャンチャチャーン・チャッチャラチャッチャーン♪』


 軽快な音楽は、まだ鳴り響いている。

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