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終わりゆく世界の過ごし方  作者: なか
2. 選択のその先には
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2-20. 【最終話】白神モモは夢を見る

これはシロが救った世界のお話

 部屋の窓に視線を向けると朝日が差し込んでいた。今日も晴天になりそうだね。


 ただ、一睡もせずに原稿を書いていた私にとっては、おはようと言うべきなのか、おやすみと言うべきなのか迷うところだ。昼夜逆転の生活が続いているお陰で普通の人とは感覚がズレてくる。

 それもこれも出版社のヘッポコ編集者が悪い! だいたい原稿の締め切りが短すぎるんだよ。


 ......すみません、調子に乗りすぎました。まだ余裕あると思ってサボってゲームしてた私が悪かったです。


 顔を上げ、壁掛けの時計に視線を向ける。

 二人ともとっくに起きてる頃合いだね。気分転換に朝ご飯でも食べるかー。


 ◇


 階段を降りて一階に向かう途中で芳ばしい香りを感じた。

 焼き立てのパンの香りは大好きだ。姉の手料理は何でも美味しいが、手作りパンの味も格別なのである。んー、私が男だったら姉を嫁に貰いたかった。私たち二人の仲を引き裂こうとする運命が憎い。ロミオとジュリエットってこんな気分だったのかな? え、全然違いますか......。


 食堂に顔を出すと先客がいた。


「おはよう、モモちゃん」


 四角い四人掛けの机にはアオが着席してお茶を飲んでおり、私の顔を見つけると笑顔で声をかけてきた。既に食事は終わっているようだ。


「アオちゃん、おはよう?」

「なんで疑問形!?」

「いや、寝てないし」


 ほんと、こういう時になんて返すのが正解なんだろうね。


「モモ。締め切りが近いのは知っているけど、そんな生活を続けてたら身体壊しちゃうわよ」


 声のした方向へ顔を向ける。併設された台所では姉が何かの調理をしているようだ。


「うーん。善処してみる」

「これはやらない時の返事ね」

「やらないヤツだ」


 私の答えにアオと姉の声が重なる。この二人は相変わらず仲がいい。


「アオちゃん。仕事行かなくていいの? いつもなら家を出ている時間だと思うけど」

「あ、やばい」


 私の問いに時計を確認したアオは慌てて立ち上がる。


「アオくん待って! お弁当!」


 調理の手を止めた姉は近くのお弁当箱を手に取るとアオに駆け寄る。


「はい、お仕事頑張ってね!」

「いつもありがとう。毎日の楽しみなんだ!」

「もう、アオくんったら。今日は遅くなりそう?」

「いや、大丈夫。意地でも定時で上がってくるよ」

「ふふ、あんまり無理しないでね。忘れ物は?」

「無いよ。じゃあそろそろ行ってくる」


 おおう、甘ったるい。

 というか、私もここに居るんだけどな。もしもーし、忘れられてる?


「ねえ、二人とも。行ってきますのチューは?」

「............モモのバカ!」

「ななななにを急に言い出すのさ、モモちゃん」


 結婚してもう半年だよね?

 二人とも、なんでそんな反応?


「あ、時間!」

「本当にまずい! じゃあ、シロちゃん行ってくるね。モモちゃんも!」


 慌てた様子のアオは、バタバタと大騒ぎしながら家を出た。

 ついで扱いの私も言ってあげるよ。行ってらっしゃい!


 ***


 食堂に戻った私は、パンを齧りながらテレビを見ていた。

 朝のニュースでは資源問題の特集を扱っているようだ。


 長い間、化石燃料の枯渇が叫ばれていた。生物由来の発掘可能な燃料は間もなく尽きてしまう。そう考えられていた時代もあったそうだ。

 その後の人類は採掘技術を進化させ、超深層に眠る大量の燃料発掘に成功。一先ず直ぐに化石燃料を失う事態は避けられた。問題の先送りとも言う。

 最近では超高温高圧化で、人工的に無機物由来の化石燃料の精製に成功したそうだ。現在は試験段階だが実運用されれば更に問題を先送りにすることが出来ると考えられている。


 生物由来の再生可能エネルギーなど代替燃料も普及してはいるが、結局のところ現代の人類は相変わらず化石燃料に依存したままだ。

 根本的な解決手段を見つけなければ、いつか痛い目を見ると思うんだけどなー。


 ◇


 食事が終わり珈琲を啜っていると、片付けを終えた姉が正面の席に座る。


「モモ、この後はどうするの? 一眠りする?」

「そのつもり。お姉ちゃんは?」

「私は家の掃除をしたらスーパーへ買い物に行くつもりよ。何か欲しいものがあれば言ってね」


 大学を卒業した姉は、結婚と同時に専業主婦となった。

 以前姉に理由を尋ねたら、温かい料理を作ってアオを出迎えたいと照れながら答えてくれた。お熱いようでなによりだ。優秀な姉だったからどんな仕事でも卒なくこなしただろうに。まあ日頃の姉を見ていると主婦業も非常に大変そうなので私には向いてないんだけどね。


「そうそう、モモ。見て見て! この本を買っちゃった!」


 誇らしげな表情の姉は一冊の本を胸の前で掲げた。

 表紙に丸みを帯びた文字で『グラン魔法学園物語』と書かれており、箒に跨る黒いローブに身を包んだ可愛らしい少女の絵が添えられていた。


「わざわざ買ったの? 欲しかったら私に言ってくれれば、出版社にお願いして無料で貰ってきたのに。一冊くらいなら融通してくれたんじゃないかな」

「頑張ってモモが書いた本だもの。売上に貢献したかったのよ」

「そう? まあいいけど」

「まだ途中だけど、とても面白くて素敵なお話だわ」


 自分の作品を目の前にして褒められるのはちょっと恥ずかしい。


「お姉ちゃんの好きそうな話しだからね。食べていくためにも売れてくれるといいんだけど。児童書だから購買層が限られているんだよね」

「絶対に売れるわよ! だってとっても面白いんだもの。大人でも十分に楽しめるわ」


 姉の大絶賛である。けれど、趣味に関して姉はあまり当てにならないからなー。


 この本は先週発売されたばかりで、今のところ売れているかどうかよく分からない。需要が安定していると言われる児童書だが、そもそもの市場規模は小さいんだよねー。でも生活がかかっているのでどうか売れてください!

 まあ先の事は分からないから今の私がやるべき事は、過度な期待はせずに現在貰っている原稿を締め切り迄に仕上げることかな。現実主義者なのだよ私は。


「お話だけじゃなくて、挿し絵も素敵よね。これもモモが描いたんでしょ? 凄いわ! 姉として応援してるからね!」


 おっと、まだ姉の絶賛が続いていたようだ。


「ああ、挿し絵ね。うちの出版社って無名だからイラストレーターに頼むお金なかったんだってさ。だとしても、普通に考えて作者に無理やり描かせるってどうなの?」

「そうなの? でも、出来はとても良いと思うわ。モモは執筆だけではなくイラストの才能もあるんじゃない?」

「えへへっ、そうかな? お姉ちゃんがそう言うなら今後は挿し絵も描くようにしようかな」

「そうしたほうが絶対いいと思うわ。見て、私はこの挿し絵がお気に入りなの」


 姉はそう言うと本を開き、ある頁の挿し絵を指差す。

 その頁は、黒いローブの少女が木の杖を筆に見立てて地面に絵を描いている挿し絵だった。少女の描く絵には大きな円が書かれており、円の内側には奇怪な文字がいくつも敷き詰められていた。所謂、魔法陣と呼ばれるものである。


「これは主人公が学園の授業で初めて魔法を唱える場面の挿し絵だね。そんなに良かった?」

「良かったよ、この魔法陣が特に。うまく言えないんだけど......。今にも本から魔法が飛び出してきそうな、そんな迫力が伝わってくるわ」

「魔法陣かー。上手く描けているのは、私が編み出した秘伝のコツがあるからだよ」

「秘伝のコツ?」

「こんな魔法があったらいいなって、効果を思い浮かべながら描くんだよ! まあ願掛けみたいなものなんだけどね」


 こんな魔法を使いたい。あんな魔法があったらいいな。

 そんなことを具体的に考えながら描いた魔法陣は不思議と完成度が高く見えた。願掛けなんだけど、自分の納得できる作品が描けちゃうんだから私にとっては大事な事なのだ。


「不思議な話ね。じゃあ、この頁の挿し絵に描かれた魔法陣はどんなことを考えながら描いたの?」


 姉はそう言って頁を捲る。姉の示す頁は病院での描写だった。

 戦争で負傷した兵士が運び込まれた病院には、痛みを訴える多くの患者が溢れていた。その状況に涙した主人公は魔法でみんなを癒す、そんな場面だったはず。


「うーん、ちょっと待ってね。いま思い出すから」


 原稿は結構前に書いたものだから忘れている部分も多い。

 うーん、なんだったっけ?


 ......。


 あ、思い出した!




「人類が魔法を使えるようになりますように! そんな夢を実現する魔法があったら、みんなが幸せになれるよね!!」



 最後までお付き合いいただきありがとうございました。




 ◇




 ファンタジーだけど夢や希望は一切なし。戦闘シーンも派手な魔法が飛び交うことはなく、あるのは地味な心理戦。テーマを描くために各登場人物たちの葛藤に焦点をあてましたが、ヒューマンドラマとどちらのジャンルが適切なのか最後まで悩んだ記憶があります。ジャンル決めって難しい...。


 そんな変わった作品だったと思いますがなんとか完結できました。いやー、連載って本当に大変ですね。改めて、何本も連載書かれている作家さん達の凄さを再認識しました。


 さてさて。この世界には数多の小説で溢れていますね。そんな中で面白いか否か分からない作品を読み進めるリスクに怯えながらも、ここまで辿り着いてくださった皆様にまずは格別の感謝を!

 そして、最後まで読んで良かったと思う方が一人でも居てくれたらいいなーと願いつつ、この辺で後書きを締めさせていただきます。


 ではではー。

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