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「受理できません」

遅くなってすみません。。。ゴメンネェェεεε・゜・≡≡(* ノωノ)


「受理できません」


 朝一番の喧騒が終わった頃の冒険者ギルド。

 扉を開けた瞬間から居合わせた冒険者たちの注目を浴びたユーリは、首をかしげながら依頼が貼り出されている掲示板の前に移動した。

 せっかくギルドに登録したのに全く依頼を受けないのもどうかと思ったのだ。

 本当は討伐が楽なんだけどあるわけないよねー、と普通のFランク冒険者とは違うことを考えつつ、誰でもできそうな街の中のお使い程度の依頼を受けることにする。ついでに王都見物もするつもりである。


 そのまま受付へと足を進めれば、周囲の視線が変わったことに気づく。約半数は憐れむようなものに、残りは嘲るようなものに。受付のカウンターに座る美女たちも一人を除いて視線をそらしている。


 ユーリは僅かに悩んだが、嫌なことはやっぱり早く終わらせたほうがいいよね、と挑むような眼差しを向けてくるカウンターの女性へ向かって歩き出した。


 そうしてカウンターに依頼票を出したところに冒頭のセリフである。


 赤金色の髪を後ろで一つにまとめたギルドの女性は、ユーリが出した依頼票を一瞥もしなかった。つまり彼女がどんな依頼を受けようと拒否するつもりだったわけである。


「ふーん。ちなみに理由って教えてもらえる?」

 ユーリは取り乱すこともなく、淡々と応じた。


 カウンターの女性はユーリが騒ぎ出すと思ったのか、その態度に驚いた様子だったが、すぐに平静を取り戻してにっこり微笑んだ。


「あんなボロ宿に泊まるしかない能無しに仲介できる仕事はないってことですわ」

 口調こそ丁寧なものの、言葉遣いも悪くなり、明らかに見下している。

 同時に背後で発生するざわめきと笑い声。


「んー、前のお客さんは仕事を妨害されたって聞いたけど、ギルドで蹴っちゃっていいの?」

 初対面の相手には丁寧にと心掛けているユーリだが、さすがに自分に悪意を抱いているらしい相手まで考慮する気はない。


「問題ありません。副ギルドマスターの指示ですもの」

 ユーリはチラッと隣のカウンターを見る。隣の女性は気まずそうに俯いた。


「そっかそっか。サニエの副ギルドマスターは優秀で人望があるんだねー」

 実のある情報でも手に入らないかなー、と厭味半分で言ってみれば。


「もちろんです! セルディス様はとてもすばらしい方です!」

 頬を紅潮させて、力説された。

 チラッと反対側の隣を見ると、隣の女性はまた始まったと言いたそうな顔で見ている。


「どうすばらしいの?」

 毒を食らわば皿まで、の気分で訊いてみると。


「ルアンダ伯爵様のご子息なのですが、貴族なのに偉ぶったところが全然なくて! 元Bランク冒険者の腕を買われて副ギルドマスターになったので、もちろん強いのですが、全然ひけらかしたりしないですし! 何より! にっこり微笑まれて、あの紺色の瞳で覗き込まれたらもう!」

「かっこいいんだ?」

「そうです! わかります?」

「う、うん」

 わかりませんと言いたい。会ったこともないし。


「それにそれに! お兄様のギルバート様は王宮で要職に就かれていますし! お姉様のアンジェリカ様は商家に嫁がれて、今はほら、向かいの宿屋を切り盛りして・・・・・・あ」

 目をハートマークにして勢いよく喋っていた受付の女性は、ようやくプライベートなことを喋りすぎたと気づいたらしく、いきなり口を噤んだ。


「あれ? もう終わり?」

 もっと続けてくれていいんだけど、と首をかしげれば、睨みつけられた。


「まぁいいや。つまり、あの宿に泊まってる限り、ギルドの依頼は受けられないってことでいいのね?」

 これ以上の情報はここじゃ無理そうだし、とそれ以上彼女から話を聞くのを諦める。


「そういうことですわね」

 再び見下したような目をするカウンターの女性。が、次の瞬間、その瞳が嗜虐的な色に染まった。


「お嬢ちゃん」

 割り込まれた太い声に振り返る。

 そこには4人の若い男たちがいた。


 リーダーと思われる男が一歩前に出て、言った。

「俺たちがパーティを組んでやってもいいぜ? 俺はBランクで、向かいの宿に泊まってるからよ」


 ユーリは首をかしげた。

「でも武道大会前でしょ? 部屋が空いてるとは思えないけど?」


 男は下卑た笑いを口元に浮かべた。

「そりゃもちろん俺の部屋に泊めてやる」


 3人の男たちもいやらしい笑みを浮かべている。

 振り向いてカウンターを見れば、先ほどの女性もニヤニヤと笑っている。他の女性たちは目をそらしていた。

 他の冒険者たちを見ると、半数は視線をそらし、半数はニヤニヤ笑っている。


 どうしようかなー、とユーリは考える。もちろん、男の部屋に泊まる泊まらないの話ではなく、どう言い返せば一番彼らが凹むかという点であるあたりが彼女らしい。


 彼女が対応を考えている間に、ギルドの扉が開いた。

 いくら混みあう時間帯ではないとはいっても、結構長い間、受付で喋っていたので、ギルド冒険者が来訪するのも当然と言える。


「嬢ちゃんじゃないか。おはよう。こんなところでどうしたんだ?」

 ゼン・ディールだった。


 久しぶりにご都合主義の神様が来たか、と神様を信じていないくせに、埒もないことを考えるユーリ。


「おはよー。おにーさん、あたしも一応冒険者なんだけどー?」

「あー、そうだった。いや、すまんすまん。で、どうしたんだ? 何かあったのか?」

「んー、こっちのおにーさんたちがねー、パーティ組まないかって。同じ部屋に泊めてくれるって言うの」

「同じ部屋?」


 男たちはゼンの登場に呆然としていたが、すぐにニヤニヤ笑いを復活させていた。どうやら彼らはゼン・ディールを知らないらしい。

 その彼らを見て。


「幼児愛好者?」

 ゼンは首をかしげた。


「ばっ・・・!」

「なっ・・・!」

「ちょっと、おにーさん! あたし、幼児って言われるほど幼くないと思うんだけど!」

 言葉が出ない男たちを尻目に、ユーリは眦を吊り上げた。


「いや、悪い悪い。つい、な」

 苦笑しながら謝るゼンに対し、ユーリは「もう!」と言いながら唇を尖らせている。

 お子様と言われても否定できない反応である。もちろん、4人の男たちへのショックを大きくするために、わざとやっているのだが。


「にしても、パーティなら俺のが先約だろう? 俺の誘いはすげなく断っといて、そりゃないぜ」

「え、おにーさんも幼児愛好・・・・・・」

「バカ! 違うって! 真面目な話してんの、今は」

 ゼンが真面目な顔で怒鳴る。

 もはや周囲は完全に置いてきぼりである。


「真面目な話かー。真面目な話するなら、そこの宿に空きがないなら、パーティ組む意味ないよね」

 と誘ってきた男たちを見る。

 その彼らが何かを言うよりも早く。


「お前が泊まったとこ、どうなんだ?」

 ゼンが問う。

 ギルド内が静まり返った。


「ん? んー、ご飯がめっちゃ美味しい! で、武道大会の翌日まで泊まることにしちゃった。お金ももう払ってるの」

 ご飯以外はどうなんだ、というツッコミが居合わせた者たちの心の中で浮かぶが、同時に一番大事なのは食事だと納得する。


「それじゃ、向かいの大宿に泊まろうとする意味がわからんぞ」

「そこはそれ、いろいろあってさー」

「その宿はまだ空きがあるのか?」

 空気が固まる。

 ゼンもギルドの様子がおかしいことには気づいているようだが、理由がわからず、とりあえずユーリとの会話を優先している。


「空きっていうか、閑古鳥が鳴いてる」

 ユーリは困ったように苦笑した。


「飯が美味いのに? ギルドのほぼ真ん前で?」

「うん」

 どうやら事情があるらしいと察したゼンは続けた。


「空いてるなら、俺もそっちに移るかな」

「今、泊まってるとこは?」

「3日後から予約で埋まってて泊まれないんだ」

「ああ、武道大会?」

「そうそれ」

「まぁ野宿よりはいいかも? おにーさん、お金持ってそうだから、しばらく仕事しなくてもよさそうだし?」

「お金? 仕事?」

 眉を寄せるゼンに対し、ユーリはにっこり微笑んだ。


 その笑みを見たゼンはスヴェリでの一件を思い出し、一歩離れようとするが、ユーリが現状でこれほど都合のよい物件を手放すわけがなく。


 ユーリはぐるりと周囲を見回して。


「こっちのおにーさん、スヴェリの『大剣使い』さんだから」

「お、おい!」


 顔は知らなくても、二つ名は知っているらしく、先ほどまで笑っていた連中は軒並み表情を凍らせた。

 それはギルドの受付嬢も例外ではなく。


「それじゃ、またねー」


 ユーリはゼンを引きずるようにして出て行った。








ありがとうございました。


・・・もう次回の予定は言うまい。。。。:゜(。ノω\。)゜・。

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