「訊きたいことがあるんだが」
勢いで投稿しているので、いろいろおかしいかも><
「訊きたいことがあるんだが」
ユーリとクロードが2人だけになってしばらく。男は葛藤を振り切るように発言した。
まだ火は赤々と燃えている。
「だいたいわかるけど何かなー?」
ユーリは相変わらずののほほん口調で応じた。
「まず、毒抜きというのは何だ? あれは魔法・・・なのか?」
やっぱりと思いつつ、フェイに質問攻めにされた過去を思い出してため息を吐いた。
「うーん、まぁ魔法は魔法なんだけど、魔法はイメージが大事って知ってる?」
「ああ」
「魔法使いは想像力と発想力が勝負というのは?」
「昔、パーティを組んでいた魔法使いに聞いた」
「じゃあ、魔法使いに魔法を訊くのはマナー違反というのは?」
「・・・知っている」
「知ってて訊くんだ?」
ユーリは呆れたように質問者を見た。
Bランク冒険者が知らないわけないかー、と心で呟く。
「ああ。知っている。わかっている。だが、気になるんだ! 祝福持ちでなくても解毒できるなら、生き残る可能性が上がる! そういうことだろう?」
クロードは小声で叫んだ。
「まぁ言いたいことはわかるよ。でも魔法は教えられない」
きっぱり言うと、クロードはがっくりと肩を落とした。
先ほどはマナー違反がどうのと言ったが、相手が諦めるかと思ったから言ってみただけで、彼女にとって話すことにデメリットはない。ただ話しても相手に理解してもらえないから億劫なのだ。
ユーリが使う『毒抜き』は文字通り、身体の中にある血管や細胞から異物を取り除く魔法である。
言葉にすれば簡単なのだが、それだけでは漠然としたイメージしかできない。それでは魔法は発動しない。
この世界は、ユーリが元いた世界で言うところの医学というものが、全く知られていない。つまり、医者はいない。病気も怪我も、薬師と神官が治すのである。
ゆえに、血管も細胞も理解できない。血管の方はまだしも、細胞は目に見えるサイズではない。実物もないのに、顕微鏡もないのに、ミクロの世界を理解できるわけがない。
ここは日本ではない。写真もない。資料集もない。インターネットもない。そんな状況で、一介の大学生が素人に理解できるように説明できるわけもない。
フェイに説明した中学生のときよりは上手く説明できるだろうが、そんなものは五十歩百歩だ。
「あのエルフの男も使えるのか?」
「使えないと思う」
使えるならば、キャシーをユーリに任せたりしなかっただろう。
フェイも理解してくれなかったんだよねー、と遠い目をする。
「そうか・・・。仕方ないな。じゃあ次だ」
クロードはため息一つで意識を切り替えた。本人が話さないというものはどうしようもないのだ。
「次?」
「魔力をケチろうとした、というのは? それは日中に魔物と遭わなかったことと関係があるのか?」
ユーリは、ああと頷いた。
それについては別段隠そうとは思っていない。出発前でも道中でも訊かれれば答えるつもりだった。
「あるよー。移動中ずっと魔法を使ってた。効果は抜群なんだけど長時間だから消費魔力が半端ないのよねー。だから、夜は一般的な魔除けの魔法具を使って、魔力を回復しようとしたんだけど」
肩をすくめる。
「そこを魔物に襲撃されたということか」
「うん。魔物の凶暴化をちょっと甘く見てた。スヴェリからサニエへ移動したときも襲撃は多かったけど、ここまで酷くなかったし、あの子たちも魔物に遭わなくて物足りないみたいだったから、魔法具あるし、クロードいるし、いざとなれば起こしてくれれば対応できるしって思ったのよねー」
まさか魔法具がほとんど意味をなさないとは思わなかったわー、と愚痴る。
「その魔法具が偽物ってことは?」
「ないない。疑うなら、明日はクロードが持ってる魔法具を使ってみる?」
一般的な魔除けの魔法具の製作者はフェイである。ユーリにとっては誰よりも信用できる相手だ。
「ふむ。そうしよう」
だが、それを他人にまで強制する気はない。クロードたちにとって、フェイは英雄と同名の呼び名を持つエルフにすぎないのだから。
実際のところ、エルフは本名を名乗らない。本名を『真名』として名乗るのは生涯の主とか伴侶に対してだけである。それ以外に対しては呼び名として偽名を適当に名乗るのだ。
『フェイ』という名前がめんどくさいあれこれを呼び寄せるのではと危惧するユーリを、本人は笑い飛ばした。曰く、『フェイ』は100年前からエルフで一番多い呼び名だと。
外見から年齢が推測できないエルフの特性上、フェイを名乗っても、イコール英雄にはならないらしかった。
「まぁ、明日も日中はフェイが魔法をかける予定だから、問題は夜よねー」
「夜に魔法をかけて、昼間に魔法具を使うというのは?」
「それだと、たぶん夜営地まで着かないよ。あたしは小屋のない場所で野宿してもいいけど…」
「セナンに着くのが遅くなる、か」
「昼はフェイが、夜はあたしが魔法をかけるのがやっぱり安全かなー。ただし、他には魔法が使えなくなると思ってねー」
「その魔法の魔法具はないのか?」
「あったら使ってるでしょ。昔、フェイが試行錯誤してた頃、込めた魔力量の時間だけ発動する魔法具ならできてたけど、実際に魔法を使うよりコスパ悪かったのよねー」
コスパって何だ、とクロードが頭を悩ませているが、ユーリは説明しなかった。それでも何となくニュアンスを感じ取ったらしい彼は、そんな都合のいいものはないかとため息を吐いた。
「ホントはこういう話は出発前にするべきだったよねー」
ユーリは何度目かのため息を吐いた。
「そうだな」
「適当に魔力を温存しながら行けると思ったのよ。ごめんなさい」
「いや、俺も魔除けの魔法具でどうにかなると思ってたからな。だが、これはまずい。下手すれば街が孤立する」
「少なくとも物価は上がりそうね」
「ああ」
街の外で魔物の襲撃が増えれば、それだけ戦闘が増える。つまり、商人にとっては腕利きの護衛が必要になる。人件費は嵩み、物価が上がる。
そして、商人たちが移動を恐れるようになると、物流がなくなり、街が孤立する。
「ブラウンウルフでも絶え間なく襲われたら脅威だもんねー」
「まったくだ」
クロードは実感のこもった声で頷いた。
「まぁ、脅威はセナンでギルドに報告するとして」
「ああ」
「さっきの戦闘のことなんだけど」
ユーリはまだ燃えている狼系魔物たちの亡骸を見上げた。
「クロードたち、結構遠くで戦ってたよね? 何で?」
「・・・」
クロードは沈黙した。
「あたしが小屋から出たとき、イアンって子が1人で3匹相手にしてたんだけど」
ユーリの声には責める調子はない。ただ事実を告げ、事実を問う。それだけだ。
しかし、クロードはハッと顔を上げた。イアンが大怪我をしていた可能性に思い至ったらしい。
「ギルドの依頼は貴方たちの移送で、子どもたちの護衛は依頼に含まれないって言われた。護衛は別にいるからと。だからって一切手を出さないなんて言うつもりはないけど、クロード1人で3人の子どもを護るつもりなら護り方に気をつけないと」
「ああ。ユーリの言う通りだ。あれは俺が悪い。アレクの暴走を止められなかった」
ぽつりぽつりと話すクロードの話を要約すると、戦闘の連続で興奮したアレクが、距離があるのに魔物を見つけて飛び出したらしい。クロードは止めたが止まらず、キャシーまでもがアレクを追いかけたため、仕方なくクロードも追いかける羽目になったと。そのとき、イアンについてくるように、または小屋の中にいるように言えば良かったのだが、言わなかったために少年は自分で判断してここに1人で残った。
「それもこれも魔物の襲撃が予想外すぎるせいだけどねー」
「いや、あいつらの経験が足りないのをわかっていたのに言い聞かせてなかった俺が悪い」
「最初は誰でも未経験でしょ」
「そうだ。だから、あいつらには明日きちんと指導をしておく。タスバルまでは、俺があいつらの師なんだよな。しっかり鍛えてやらなければ!」
熱血に火をつけたかなー、と内心で苦笑する。
クロードは真面目な顔でユーリを見た。
「ユーリ、今回の依頼は思った以上に君たちの負担が大きい。それでも俺はあいつらを無事に送り届けたい。だから! 依頼の報酬に色を付けるから、どうか手伝ってほしい!」
深々と頭を下げた。
報酬に色を付けるあたりが冒険者らしく、Fランクに頭を下げるあたりがBランクらしくない。そして、その素直な姿勢は人として好感が持てる。
面倒な依頼であることは最初からわかっていた。御者といってもそれだけではすまないだろうことも。
承知のうえで受けたのだから、こんなところで見捨てる気はない。
ユーリは微笑んだ。
「もちろん」
ありがとうございました。




