星冠のはじまり
───むかしむかし、まだ七つの国同士が争っていた時代。
人々は不安と恐怖に苛まれながら、明日も生きられるか分からない日々を送っていました。
思うように食事も外出もできない日が続いた、ある夜のこと。
とある国の小さな村の近くにあるダンジョンの奥で、一人の赤子が産声をあげたのです。
誰にも知られず、祝福されることもなく、その産声はダンジョンの中で響き続けました。
翌朝、戦火が鎮まったのを見た村人がダンジョンに入り、その赤子を見つけ、村へ連れて帰りました。
そのことを国王に知らせると、国王はとても驚きました。なぜそのような場所に赤子がいたのか、分からなかったからです。
赤子の寝顔を見た王は争っているべきではないと思い、終戦の提案の手紙を各王国に届けました。
報告を受けたその夜、赤子を抱いてふと空を見上げた王様は、星が一つ増えたような気がしました。
そして、それを天からの祝福だと感じた王様は、"世界を見守る役目"として《星冠様》と呼ぶことに決めました。
その争いから数百年が経ち、平和になった世界で一人の子どもが賢者さんにこう聞きました。
『ねぇ、王さまはくにを守ってるけど、せかいを守る人はいないの?』と。
賢者さんはこう答えました。
『いるよ。星冠様と言って、お空から我々を見守ってくれているのだよ』
賢者さんは目を細くして空を見上げました。子どももそれにつられて、一緒に空を見上げます。
星冠様は、あまり人々の前に現れません。
でも、世界中の人々が困った時には、必ずお力を貸してくれるのです。
一人でも多くの人が、笑顔でいられますようにと──
* * *
イオは、教室の端でそっと絵本を閉じた。
『星冠のはじまり』
今では各国各地で、子どもに読み聞かせる絵本として大人気を誇っている。本が好きなイオだが、決して絵本が好きとかではなく、絵本の中の一冊だけが好きなのだ。
星冠としてもだが、幼い頃から大好きなもの。
「うわ、懐かしー!俺も持ってる!子どもの頃よく読んでもらったなぁ」
同じ受験生らしき男子が、笑顔でイオに話しかける。
イオはそっと微笑みながら、優しい手つきで表紙を撫でる。
「僕もです。でもなぜか、こうして時々読みたくなるんですよね」
その声は、優しさと温かみに包まれていた。




