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【完結】竜の翼と風の王国  作者: 藤夜
本編

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17/27

17 翼を持つ者2

まるで夢を見ていたようだった。

彼は一体何をいうつもりだったんだろう。

翼がどうとか言っていたような気もするけれど、よく聞き取れなかった。

しばらくの沈黙。

その静寂を破ったのは陛下の方だった。


「身体は大丈夫か?」

「うん」


本当は手が少し痛い。

見下ろすと、案の定、包帯でぐるぐる巻きにされていた。

私が手を見ているのに気づいて、陛下が説明する。


「ひどい怪我だ。痛むだろう」

「それほどでもないよ。平気」

「嘘つけ、三日も眠り続けていたくせに」

嘘、三日も?


「医者は雷に撃たれたようだと言っていた。それと打撲と。傷はなくても全身が痛めつけられている。昏睡状態になっても仕方ない。ゆっくり休め」

「リューンは?」

「お前よりひどい。命に別状はないが、動きまわろうとするんで、ベッドに縛り付けている」

「そう………」

ふうっと息をついた。

良かった、リューンも無事だったんだ。


「もう一度、行くのか?」

陛下が淡々と問う。


「うん」

「俺達にとってはありがたい。だが、やるにしてもリューンが回復してからだ。あいつ、しばらくは動けない」

「一人でやるからいい」

「なっ………」

陛下はぎょっとして言葉をつまらせた。


「馬鹿!生きていただけでも感謝せねばならないところなんだぞ」

「私がここにいるのは鏡を戻す為だよ。その為に来たんだから逃げない」

そう、リューンがいなくても、私はやらなきゃならない。


「死にたいのか!」

陛下が私の両手をわしづかみにしてして捕らえる。


「この手をみろ!包帯に巻かれているが、この下は焼けただれてしまっている。手当てをした女官が、あまりの酷さに卒倒しかけたくらいだ。風の守りがないままに挑んで、無事でいられると思っているのか?もう何人も死んでいるんだぞ!」

「痛い………」

はっとしたように手を離す。


「すまない」

顔をそむけて謝る。

掴まれた手首は赤くなっていた。


「レンディルム陛下………」

「レンと呼べ。許す」

「………レン」

優しさに、胸が熱くなる。

笑おうとしたけど、だめだ。きっと泣き笑いになっている。


「駄目なの。私、このままじゃここにいる理由がない。リューンがいてもきっと駄目だ。私が自分でやらないと、きっと結界は開かない」

そう、これは確信だ。

リューンは私を守る為に怪我をした。

あの触手は知っていたんだ。彼がいなければ私が結界に触れることも出来ないことを。

だから彼を狙った。


私が精霊を呼べていたら、リューンは怪我をせずにすんだかもしれない。

それにもっと楽に結界をはれていただろう。

ううん、そもそも私は自分で結界を張るくらい出来なきゃならなかった。

『風の乙女』ならば。


なのに私はルーンを知らない。

やっと覚えたのは鏡に風を戻す呪文だけ。

それすらも曖昧だ。


そして怖くなった。

もしかしたら、私はルーンを知っていたとしても、精霊を呼べなかったかもしれない。

だってあの時………


「私、あの時気づいたんだ。風の精霊がいなかった。ずっと、私の周りにはいない。見えないし、声も聞こえない。だから気づかないだけかと思っていた。でも、違う。最初からいないんだ。私、風の乙女なんかじゃない。アルファさんはきっと間違えたんじゃないのかな」

泣きたい気分だった。

こんな弱音を陛下に聞かせたくなかった。

でも、口が勝手にうごいてしまう。

張り詰めた糸がぷっつり切れてしまったように。


「それなら、私がここにいる理由がない。私の存在の意味がない」

「ルーラ………」

陛下がいたわるように肩に手を置く。


「死ぬつもりはないよ。私の背中に翼があるのは本当だし、風の刻印があるのも見た。でも………だから本当の『風の乙女』にならなきゃいけないの。その為にはリューンに助けてもらっていたのでは駄目。一人でやらなきゃ結界を開くことは出来ない。きっと」

結界がどうしても私を拒むのなら、別の方法を考える。何かあるはずだ。必ず何か方法が。なければ意地でも壊してやる。たとえ死んでも。


「ルーラ」

不意にぎゅっと抱きしめられた。

何が起こったのか、一瞬理解が出来ない。


「もういい、やめてくれ………頼む」

陛下の身体がふるえている。

肩越しに、掠れた声が聞こえる。


「ここにいればいい。『風の乙女』でなくても、お前の居場所はここにある」

トクンと心臓が音をたてる。


「お前を失いたくない」

トクン トクン トクン

自分の鼓動が大きく聞こえる。

陛下が私の顔を見つめた。


「好きだ」

信じられない思いにすくむ私の頬を手ではさみこむ。

そしてゆっくりと口付けた。

彼の唇が離れても、私はしばらく身動きできなかった。


「俺にはお前の存在が必要だ。ここにいてくれ」

嬉しくて、涙が頬をつたわりおちた。

ただ、嬉しくて嬉しくて。

彼は私の頬を指でそっと拭う。


「お前は母親似だな。黒い髪、黒い瞳。気の強そうな目元もそっくりだ」

「………陛下は私の本当のママを知っているの?」

「ああ、子供の頃に会ったことがある。とても美しい人で、か弱そうなのに芯が強い女だった。会いたいか?」

本当のママーーー

私は首を横に振った。

私のママは一人でいい。

陛下はそんな私を見て、少し笑った。


「とにかく、神殿に行くのはリューンが治ってからだぞ。それまでは大人しく寝ているんだ」

ビシッと私に指を突きつける。


「わかったな」

念を押しながら部屋を出て行った。

その頬が少し赤かったのは、もしかして照れていたのかな?

私はくすくす笑いながらそれを見送った。


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