第072話 賢臣と第14皇女
「上様。お話がございます」
「ん?お前さんは?」
「はい。今回の攻撃の指揮を執っておりましたザハルと申します」
魂の色は"ブルー"である。悪い人間ではなさそうだ。
「聞こう。なんの話だ」
「はい。上様のお后様候補であらせられるフィル様のことです。今回の件の責めをあの方に負わせないでいただきたいのです」
獣人族の后候補の誰かのことなんだろうな。まだ会ってないから分からんな。
「実はまだ獣人族の候補者には会ってねぇんだよ。もちろんそのフィルって子にも会ってねぇ。近いうちに会う予定ではあるんだがな。
それで……お前さんとそのフィルとはどういった関係なんだ?」
「はい。私の妻がシザル皇帝の第14皇女であらせられるフィル様の乳母を務めておりました。
そういったこともあり、こう申しますと僭越のそしり受けるやも知れませんが、我が娘のように大切に思っております」
「フィルって子は皇女なのか?」
「はい。ですから、今回の侵攻の件がフィル様の不利益になってしまわないかと、それが心配で……
フィル様は今回の件には全く関与されていません。ですから、あの方にはどうか寛大なるご処置をお願い致したく存じます」
まさかウッドランド皇帝シザルの娘が嫁候補者の中にいるとはなぁ……。
でも、そんなのは関係ないな。出自がどうこうなんてのはどうでもいい。そんな余計なモノはすべて取っ払った中身がどうかということだけだ。
「ああ。シザルの娘だからどうだとかいうことは全く考えてねぇよ。
俺が見るのは本人の人柄だけだ。その他はすべて瑣末なことだ。どうでもいい。
当然、そのフィルって子が望んでくれるんだったら后にしようと思っているよ。
后候補に選ばれるくれぇだから、人柄もいいに決まっているからな」
「ああ……ありがとうございます。ありがとうございます……うう……」
フィルって子はいい子なんだろうな。こんなに心配してくれる賢臣がいるくらいだからなぁ。
「お前さんのように真剣に心配してくれる賢臣を持って、フィルは幸せだなぁ」
「いえいえ、私は愚臣です。ただ、あの方が不憫で……」
「不憫?」
「はい。ご母堂様が庶民の出ゆえ、あの方は小さい頃から他のご兄弟たちから酷くいじめられておりまして……それはそれは酷い仕打ちを受けておられたんです」
エルフ族の王女、ザシャアの境遇に似ているのかな?
「あのまま城で生活されていてはいつかは殺されていたことでしょう」
そんなに酷いイジメに遭っていたのか!?
気の毒になぁ。是非とも守ってやりたくなってきたぜ。
「あの方が神子として認められて、神殿でお暮らしになることが決まった時は内心ホッとしました。城から出て神殿に住まわれるのですから、もう他のご兄弟たちはちょっかいの出しようがないですから」
「フィルは大変な目に遭っていたんだな。気の毒になぁ」
「はい。それはもう……うう……。す、すみません。思い出すとかわいそうで涙が込み上げてきます。ひ、酷かったです。陰湿なイジメによくお堪えになったと思います」
「そうか。その分、これからは幸せになってもらわねぇとな」
「はい、仰る通りです。上様のお后様候補に選ばれた時には、それはもうお喜びになり……フィル様のあのように嬉しそうなお顔は拝見したことがございません」
いつも思うが、あったこともない俺に思いを寄せてくれるとはなぁ……ちょっと不思議な感覚だよなぁ。俺はどこぞの人気アイドルみたいだな。は・は・は……
「フィルはそんなに俺の后になりてぇと思っているのか?」
「はい!もちろんでございます!
お小さい頃から上様の武勇伝を何度も何度もお読みになり、上様にずっと憧れていらっしゃいましたから……。
おつらい境遇から、いつか上様が助けて下さることを夢見ておられたのかも知れません」
ザハルは伏し目がち……その目には涙を溜めている。
「それなのに今回の我が国のバカな行動……このニラモリアへの侵攻で、もしも、あの方がお后様の候補から外されよるようなことにでもなったらと思うと、不憫で不憫で……。うう……」
「大丈夫だ。そんな小さなことは俺は気にしねぇよ。
今の話を聞いて、むしろ是非とも嫁になって欲しくなってきた。フィルが望んでくれると嬉しいんだがなぁ。ははは」
ザハルの表情が明るくなる。
「フィル様は絶対にお后様になりたいとお思いに決まっています!
ですからどうかあの方をお后様にお選び下さいませ!お願いします!」
「ああ。約束しよう。ただし、フィルが望めば……だがな」
「はいっ!」
コイツはいい奴だな。神殿騎士に欲しいくらいだ。
このまま国に帰ったら指揮官として、失敗の責任を問われるんじゃないのか?
「ところで、お前さんは大丈夫なのか、このまま帰っても?
今回の遠征が失敗したことの責任を問われはしねぇか?」
ザハルは暫く俯く……そして……
「わ、私は帰ったら処刑されるでしょう。妻と娘も連座させられ……うう……」
やはりな。こんな賢臣はシザルにはもったいないな。
「お前さん……ニラモリアへ亡命するつもりはねぇか?もちろん家族も一緒だ。
俺はお前さんが気に入った。神殿騎士をするつもりはねぇか?」
「え?でも妻と娘は首都、フロウンドにいるので助け出すのは難しいかと……」
空中にフロウンドのマップを投影する。
「お前さんの家はどこだ?この時間だから、妻と娘は家にいるんだろう?」
「はい、多分。……えーっと、ここです!」
投影しているマップではなく、俺自身のマップ画面で生命体反応を確認する……
女性2名の反応がある。今のところ無事のようだ。
「よし。お前さんの家族を助けに行くぞ。俺に掴まれ!」
「え?」
「いいから、掴まれ!」
「はっ!失礼します!」
ザハルは俺に抱きつく……をゐをゐ。
掴まれといったことがマズかったか。ちょっと触れるだけでいいんだがなぁ。
「転移!」
◇◇◇◇◇◇◇
俺たちはウッドランド帝国首都にあるザハルの邸宅へと転移して来た。
マップでザハルの妻と娘の位置は確認済で、二人ともダイニングで夕食をとっていることが分かっていたので、彼女たちのすぐ側に転移して来たのだ。
「うわっ!あなたなの……よ・ね?びっくりしたわ!いつの間に戻ったの?」
「驚かせて悪いな。事は急を要するんでな。
ダゴダ、驚くなよ?この方は上様だ。我らが偉大なる神様だ!……」
「えっ!?……ははあぁーーっ!」
「いや、奥さん、娘さん、跪かなくてもいいから……ん!?」
ザハルが妻と話をしている間にミニヨンを数体起動して屋敷の外を見張らせたのだが……屋敷はすでに兵士たちに取り囲まれていた。
間一髪間に合ったな。ふぅ~良かったぜ!
そう思った瞬間、ミニヨンから送られてくる映像が、兵士たちが屋敷の入り口の扉を蹴破る様子を捕らえた! 兵士たちがどやどやと屋敷内に入ってくる!
屋敷内の俺たちの所にもその音が届いている。
「ザハル将軍の妻と娘を捜せ!いいか、絶対に手は出すなよ!無傷で城まで連れて行くんだ!分かったなっ!?」
"おおーーっ!"
やはり敗戦の責任をザハル一家に負わせるつもりらしい。
「奥さんに娘さん、とにかくすぐに俺の身体に触れろ! ここから脱出するぞ!」
「え?あのう……あなた、一体どういうことですの?」
「ダゴダ、ジャミン。悪いが説明している時間はないんだ。
ほらあの音が聞こえるだろう?もうすぐ兵士たちがこの部屋に踏み込んでくる。
だから、その前に脱出する!とにかく今は上様に抱きついてくれ!」
いや。抱きつかなくても、ちょっと触れるだけでいいんだよ!
ダゴダ、ジャミンが俺に抱きつこうとした時にダイニングの入り口の扉が大きな音を立てて蹴破られる!
「……えっ?ザハル!?な、なぜお前がここに!?」
「おお。ジューヌか。まさか親友のお前がここに来るとはなぁ。
悪いが私たちはお前に捕まるわけにはいかない。私たちはこれからニラモリアに亡命するつもりなんだ」
「それは無理だよ。ここは完全に包囲されている。ここから逃げられはしないぞ。
悪い事は言わん抵抗せず降伏しろ。私が陛下に命乞いしてやるから……。
なっ!?そうしてくれよ。ザハル!」
「おい、ジューヌとやら。悪ぃがザハル一家は、神である俺の命令に従っている。
皇帝のクソ野郎の命令よりも優先される絶対命令だ!」
威圧する……
「俺に逆らうんだったらお前さんたちを……皆殺しにするぜ?」
"ひぃぃぃぃぃっ!"
その場にいた兵士たちは震え上がる!
「お前さんたちも城の屋根が一瞬で蒸発しちまったのを見ただろう?
アレは俺が下した天罰だ! ニラモリアに戦争を仕掛けた罪のな……。
もしも、お前さんたちが俺に逆らうって言うんだったら……ぶっ殺すぜ?
一切の容赦はしねぇから、よ~く考えろよ?」
兵士の中には腰を抜かしてその場にへたれ込む者もいた。
だが、バカはどこにでもいる。なぜかバカ野郎には威圧は聞かないようだ。
一人の兵士が言う……
「へっ!何が神だ!?小僧が!洒落臭い!俺がぶっ殺してやる!ヤァーーッ!」
「四肢粉砕!」
ぎゃあああぁぁぁぁぁぁっ!痛ぇ!痛ぇ!痛ぇ!痛ぇ!痛ぇ!てぇ……
ぶっ殺してやると言いながら斬りかかってきた兵士は一瞬で四肢が砕けて、暫く絶叫した後、ついには気を失ってしまった!
「今のは警告だ。次はねぇぞ?なんならお前さんたちを一瞬で消してやろうか?」
兵士たちは、気絶しているただひとりを除いて、全員がブルブルとすごい勢いで首を左右に振る。
「おい!ジューヌよ。この気絶しているクソ野郎をちゃんと教育し直しておけよ。
今回"だけ"は見逃してやるからな。……修復!」
ジューヌは高速で大きく何度も頷く……
四肢の粉砕骨折が修復された男はまだ目を覚まさない。
「それじゃぁ、ザハル一家は俺が預かるからな? 追っ手を差し向けても無駄だ。
ザハル一家にもし万が一にも危害を加えようとしたら、その時は……
この国をこの国に住んでいるサル族諸共、この世界から消し去ってやるからな。
クソ皇帝にもそう言って釘を刺しておけ!いいな?」
ジューヌはものすごく速く何度も何度も大きく頷いている。
「あばよ!……転移!」
◇◇◇◇◇◇◆
「神様。助けてくれてありがとう!」
「ああ。いいってことよ。ははは。でもよかったなぁ、お父ちゃんが無事で」
「うん。神様のおかげだよ。本当にありがとう」
俺はザハル一家を連れて一旦フォスジャルボに戻ってきた。
シノが待つ神殿へと戻る前に、俺が救った少女、テナーたちに別れを告げようと思ったのだ。
「上様。此度は我々をお救い下さり誠にありがとうございました」
ここの守備隊の隊長だという男が礼を言う。
どの世界でも現場で直接動く者たちは大変である。無性に労いたくなる……
「ああ。お前さんたちの方こそ、いつもこの地を守ってくれてありがとうな。
大変だが、これからもよろしく頼むぜ」
「はっ!もったいなきお言葉……痛み入ります」
「あ、それから念のためにあの空を飛んでいるミニヨンたちと、そこに並んでいるゴーレムたちをここの守備要員としておいていくからな。
今度は空から攻撃を受けようが大丈夫だからな。安心しろ」
「はっ!何から何までありがとうございますっ!」
「いいってことよ。おっと!それから、ゴーレムたちは放っておけば勝手にここを防衛するように指示してあるから……
だから、敵が攻めてきたらコイツらにここの守備は任せて、自分たちの身を守ることだけをお前さんたちは考えてくれ」
「え?身を守ることをですか……しょ、承知し…ました」
俺が発した言葉が意外で、隊長は得心がいかないのか生返事をした。
「いいか。決して命は粗末にするなよ。
万が一にも敵に攻め込まれるようなことがあったら逃げろ!
ただ生き残ることだけを考えろ!いいな?
この場所よりもお前さんたちの命の方が大事だからな!
ここを落とされても俺が後からなんとでもしてやるから……大丈夫だからな」
「はいっ!分かりました!ありがとうございます!」
まあ……たとえ死んだとしても時間がある程度経つまでは蘇生できるんだけど、死の間際の苦痛は、できることなら味わって欲しくないからな。
「それじゃぁな!」
「はっ!」
「神様。ありがとう!ばいばーい!」
テナーは破顔一笑し、大きく手を振る……
「ばいばい、テナー!じゃあな!……転移!」
◇◇◇◇◇◆◇
「あ、ダーリン。お帰りなさい。……えっ?誰ですかその人たちは?」
「おう。ただいま。ああ、この男がサル族たちの指揮を執っていた将軍だ。
人柄が気に入ったんでスカウトしてきた。神殿騎士にしてやろうと思ってな」
「す、スカウトですかっ!?それはまた……」
「ははは。驚くのも無理もねぇな。俺もこの展開には驚いている。
ハニー、フィルって子を知っているだろ?サル族皇帝シザルの第14皇女の」
「はい。いい子ですよ。ダーリンには是非后にして欲しい子のひとりです」
「そうか……実はそこにいるザハル将軍の妻のダゴダはフィルの乳母だったんだ。
フィルって子がお前さんが言うようないい子に育ったのはこの奥さんのお陰なんだろうな、きっと。
ザハルたち夫婦はフィルって子を実の娘のようにかわいいらしいぜ」
「そうでしたか。魂の色も綺麗ですし、ステータスも十分ですね。
分かりました。神殿騎士になってもらいますね。
ザハルさん、異存はありますか?」
「いえ。異存なんて滅相もない!なんとお礼を申し上げたら良いか……」
どの世界でも、そして、いつの時代でも転職というのは難しいものだ。
俺も日本人だった頃に転職は経験したんで、その大変さはよく分かっている。
コネでもありゃ別なんだがな……。ブラック企業に捕まらず転職するのは意外に難しいものだ。
ザハル一家全員の命を守るという目的もあったのだが、彼をスカウトした以上は俺にも責任がある。ザハルがすんなり神殿騎士になれそうでホント良かった。
シノが『パンパン』と二つ手を叩くと、ひとりの神殿騎士が部屋に入ってきた。
キリッとした目つきをした美人だ。
「シノ様。お呼びでしょうか?」
「ダーリン、この子は神殿騎士隊長のテアン・ホルストです。
テアン、上様ですよ」
「ははぁぁぁーっ!」
「あっ、跪くな。そのまま、そのまま。テアン、よろしくな」
「はっ!」
「テアン。上様がそこにいるザハルさんを神殿騎士にスカウトされました。
後ろに控えているのが彼の妻子です。
彼をあなたの直属の部下にします。だから、あなたは彼等の住む場所等の面倒を見てやって下さい」
「はっ!」
テアンとザハルは互いに軽く目礼し合う。
「私は神殿騎士隊長のテアン・ホルストだ。よろしく!」
「はっ。ザハルと申します。よろしくお願いします」
「それでは取り敢えず今夜泊まってもらう所へ案内する。私と一緒に来てくれ」
「はい。……それじゃぁ、ダゴダ、ジャミン参ろうか」
「「はい」」
「あっ、テアン。悪ぃがザハルたちをフィルに会わせてやってくれ。
ダゴダはフィルの乳母だったんだ。久々の再会だろうから、彼女もきっと喜ぶと思うからな。頼む」
「はっ!承知しました!……では、失礼します!
さあ、行きましょう」
「はい。上様。此度のことは本当にありがとうございました。
それでは、失礼致します」
「おう!じゃぁ、またな!」
テアンとザハル夫妻、そして、その娘が深々と頭を下げてから退室した。
◇◇◇◇◇◆◆
「急な話で悪かったな。早急に対応してくれて助かったぜ」
「いえいえ。優秀な神殿騎士を得られて私も嬉しいです。
ありがとうございます、ダーリン。
ところで、フォスジャルボの方はいかがでしたか?」
「ああ。あっちは片付いたぜ。敵は撃退したし、死者もゼロだ。
まあ、相手の方は2500人くれぇ死んだが……」
「えっ!?そ、そんなに……」
俺の言葉を聞いてシノの表情が曇る。
サル族の死者数の多さを悲しんでいるようだ。
「おっと。話は最後まで聞きなよ、ハニー。
お前さんがそんな風に悲しむだろうと思い、魂が綺麗な者たちだけは蘇生させておいたぜ。さっきのザハルもその中のひとりだ」
シノの表情がパッと明るくなった。この子は本当に心根の優しい子だ。
「ハニー、お前さんは優しいいい子だな。改めて惚れ直したぜ。
獣人族の子たちに魂の色が綺麗な者たちが多いのも分かるような気がするぜ。
すべてはお前さんのその優しさとがんばりのお陰なんだろうなぁ。
シノ。お前さん……いい仕事をしてるな。偉いぞ!」
「いえいえ、そんな……」
そんな時である。念話が入った。
『ダーリン!すぐダンジョンにお戻りいただけませんか?』
ダンジョンにいるシェリーからだ。
『どうしたんだ?何か問題発生か?』
『はい。冒険者たちが下の階層へ続く階段の方からやって来たんですが、その中の男どもが私たちにちょっかいをかけようとして、オークドゥと揉めているんです。 彼等はどうやら下の階層でやられて逃げてきたようなんですが……。
オークドゥは酷く怒っていて……このままでは彼等は殺され兼ねません』
俺のハニーにちょっかいを出すヤツなんざぶっ殺されても別に構わないんだが。
下の階層から逃げてきたらしいのかぁ?そうだとしたら、ジェニファが所属していた『神の代行者』って冒険者たちなのかな?
『俺の大事なお前さんたちにちょっかいを出すようなヤツらなんぞぶっ殺されても別に構わねぇんだけどなぁ……。分かった。すぐに戻るよ』
「シノ。悪ぃ。ダンジョンにいるハニーたちが男どもに絡まれているらしいから、そろそろ戻るわ。
あ、それから、嫁選びの件はそのダンジョンを攻略してからになると思う。
だから、すまねぇがもう少しだけ待っててくれ」
「分かりました。でも……我々の種族の嫁選びが終わった後には、まだ他種族の嫁選びが控えておりますので、どうかなるべく早くお越しいただければと……。
それでは、どうぞお気を付けて」
「ああ。なるべく早く攻略するよ。それじゃぁ、またな!……転移!」
今のところ国境に集結しつつあるシオン神聖国の軍に目立った動きはない。
今回のワッドランド軍の侵攻に併せてシオンの軍も行動を起こすかと思っていたのだがなぁ……。ワッドランド軍の敗北がもう伝わっているのかな?
◇◇◇◇◆◇◇
突然ハニーたちに絡んでいる冒険者たちの前に転移するよりも、野営用テントの中に転移して、テントの中から姿を現した方が良いと判断した。
だから、俺は野営用のテントの中へと転移してきたのだ。そして……
「どうしたんだ。騒がしい……」
いかにも今まで寝ていて、外の喧噪に目が覚めた体を装う。
テントの外に出ると冒険者らしき男たち2人が地面に仰向けに倒れていた。
2人とも意識を失っている。どうやらオークドゥは手加減したようだな。
見回したところ、気を失っている男どもの他には女性がひとりいるだけだ。
「あっ!ダーリン!お帰りっす!あれ?今回は女性を連れていないっすね?」
「珍しく女を連れていない。天変地異が心配」
「あ、あのなぁ……お前さんたちはもう……ふぅ、疲れるなぁ……」
ハニーたちが口々に俺の帰還を喜んでいる。
取り敢えず彼女たちにはテントの中で休憩してもらうことにした。男どもが目を覚ました際にまた絡まれて嫌な思いをさせないためだ。
ヤツらには俺とオークドゥで対応するつもりだ。
魔導士のような格好している紅一点。この女性こそが、ジェニファが助けようとした魔導士なのかも知れない。
彼女は倒れている男どもの横に立つオークドゥに向かって身構えている。
彼女の装備はボロボロで足下もふらついているようだ。
どうやら下の階層でこっぴどくやられたようだなぁ。
ふと倒れている男どもの方を見る……
地面に転がっている一本の剣が目にとまった!例の剣だ!
あれはジェニファの父親の形見の剣だ。間違いない!
となると、やはりコイツらは冒険者パーティー『神の代行者』ってことか?
取り敢えずジェニファの剣は回収しよう。
男どもが倒れている側まで進み、剣を拾い上げる。
「ど、泥棒!ダダルの剣を離せ!」
「違うだろ?これはジェニファのもんだ。彼女の父親の形見だろうが?」
「な、なぜそれを知っている!?お前はジェニファの身内の者か!?」
「身内じゃねぇよ。だがまあ身内みたいなもんだな。彼女から剣を取り戻すように頼まれたんでな。これは俺がもらっておくぜ」
「う、嘘を言うな!ジェニファはこのボス部屋で死んだんだ!そこに墓もある!」
「ジェニファは生きているぜ。嘘だと思うんだったら、お前さんが今言った彼女の墓とやらを掘り起こしてみろよ。死体なんか埋まってねぇぜ?」
「なに?そんなバカな!ジェニファはロイヤル・ミノタウロスにバラバラにされて果てたんだ!私たちがこの目でちゃんと見ているんだ!」
「ああ。確かにそうだよ。俺が最初に見たジェニファもバラバラだったぜ。それを俺が修復して蘇生させたんだ」
「はっ?バカな!神じゃあるまいし!死者を生き返らせるなんてできるわけがないだろうがっ!?それよりもその剣をそこへ置け!さもないと……」
ふぅ。俺は神なんだけどなぁ……
「ほおぅ?さもないとなんだ?」
「死ねっ!ファイヤーボール!」
ブォォォォォーーッ!
ファイヤーボールが迫り来る!?
「おっと。お嬢ちゃん、火遊びは禁止だぜ」
バシッ!ブォォォォォーーッ!……ぎゃあああぁぁぁぁぁぁっ!
咄嗟に左手を開いて突き出し、迫り来るファイヤーボールを、そのまま彼女へと弾き返した。俺に弾かれたファイヤーボールはそのまま放った彼女のもとへと戻り彼女を直撃する!……彼女は火達磨になってしまった!のたうち回っている!
あちゃぁ~。彼女に当てる気なんて更更なかったんだがなぁ……。参ったな。
「あ、悪ぃ。ウォーターボール!」
彼女へウォーターボールをあてて消火し……
「修復!」
「はぁはぁはぁはぁ……」
「大丈夫か?お前さんがいきなりファイヤーボールを撃ってくるもんだから思わずそのまま弾き返しちまったよ。いやぁ熱かっただろう。悪ぃ悪ぃ。ははは」
「な、なんてヤツだ!?わ、私の最大威力のファイヤーボールを……はぁはぁ……弾き返すとは……はぁはぁ……お前は悪魔か!?」
いや。神なんだけどなぁ……
と、そんなことを考えていると、ロイヤル・ミノタウロスたちが復活してきた!
俺は右手を肩の高さで前に突き出し、左から右に移動させながら順にロイヤル・ミノタウロスたちに手の平を向けながらターゲット指定する。
まあ、格好付けだ。こんなことをしなくても当然、ターゲット指定は可能だ。
そして……
「爆殺!」
ズババババババババババンッ!
ロイヤル・ミノタウロスたちを一気に爆殺!
ヤツらはそれぞれ一瞬で黒い煙のような状態になり、霧散して消えた……
「な、なにっ!瞬殺っ!?
ランクSの冒険者パーティーの私たちでもそいつらを倒すのに十数時間かかったというのに!や、やはりお前は悪魔だな!?」
「へっ?この程度の敵に十数時間もかかったって言うのか?嘘だろう?ホントか?
お前さんたち……ものすごく弱ぇんだな?本当にランクSなのか?
あそこにいる俺の妻たちでも瞬殺するぜ?みんなランクDの初心者だけどな」
魔導士の女はアゴが外れるんじゃないかと思えるくらいに大きな口を開けながら驚いている。間抜けな顔だ。
ここは日本じゃないから自力救済は禁じられていないけど、確かにこのまま剣を持っていくのはなんとなく後ろめたいなような気がするなぁ。
自力救済というのは……
権利を侵害された私人が法律に定める正規の手続を踏まずして、実力行使により侵害された権利の回復を行うことである。
日本では一部の例外的事例を除き禁止されているが、この世界では今のところは禁止されていないようだ。……多分。少なくとも俺が見てきた国では禁止されてはいなかった。
だから、この世界では、奪われた剣を取り返すのに、司法的な手続を踏む必要はないのであるが……一応ダダルには一言言っておいた方がいいように思えたのだ。
紙縒りを1本生成し、ジェニファの剣を奪った剣士ダダルというヤツの鼻の穴をこちょこちょしてやる……
「ふぁっ、ふぁっ……ハクションっ!ってんだクソ野郎!この野郎めっ!」
なんていう品のないくしゃみだ!
これまでに何度か気を失っている人を起こそうと、平手で頬を叩いてみたことがあるのだが……
俺としては、極極かる~くペチペチと頬を叩いたつもりだったのだが、力加減がどうもうまくいかずに、頭をぐちゃくちゃにしてしまって、千切り飛ばしてしまうことがあったので、今回は紙縒りでこちょこちょして起こそうとしたのだ。
「よぉ?お目覚めか、ダダル?」
「だ、誰だてめぇは!?」
「俺か?俺はジェニファの代理の者だ。てめぇが持っていったこの剣は俺が責任を持ってジェニファに返すから、もらっていくぜ。いいな?」
「な、なんだと!?ダメだダメだ!それを返せ!それは俺のモノだっ!」
「はあぁんっ!?これはジェニファのもんだろうが?父親の形見の大切な剣だ」
「あの女はロイヤル・ミノタウロスに殺されて死んだんだ!だからもうそれは俺のモノだ!返せ!」
「彼女は生きているぜ。だから、これは彼女のものだ」
「嘘を言うなっ!俺たちがこの目で死ぬところを見たんだ!」
これじゃぁ埒が明かない……
『おい。ジェニファ。聞こえるか?』
『はい。上様』
『今お前さんの剣を取り戻したんだが、お前さんが生きているって誰も信じねぇんだよなぁ……
だから、今からお前さんをこっちに転送しようと思うんだが、いいかなぁ?』
『父の形見の剣がそこにあるんですかっ!すぐ参ります!でも、どうすればいいのでしょうか?どうやってそちらへ行けばよろしいですか?』
『いや。なにもするこたぁねぇよ。そのままじっとしててくれ!……転送!』
ジェニファが俺の横に現れる。
「ひぃぃぃぃぃっ!ジェニファがアンデッドになっちまった!」
「う、嘘っ!?ジェニファが……生きている!?」
「ダダル!アンデッドとは失礼ね!あたしは人間よ!
ここで死んでいたのを上様に蘇生していただいたのよ」
「ほら。てめぇら分かったか?ジェニファはちゃんと生きているだろうが?
だから、この剣はジェニファに返すからな。文句は言わせねぇぞ!?」
「いや。返してやってもいいんだが……ただじゃぁダメだなぁ。へっへっへっ!
ジェニファ。俺と寝ろ!いや、俺の女になってもらおうか!へっへっへっ。
そうしたら返してやらんこともねぇ。どうだ?ひっひっひっ!はっはっはっ!」
ああ……ジェニファの言っていた通りだ。クソ野郎だ。魂の色も黒っぽい赤だ。
こんなクズ野郎は斬り捨ててやろうと思って剣を抜こうとしたんだが……
俺よりも早く行動を起こした者がいた。そうだ。オークドゥだ!
シュンッ!……ザサッ!ゴロン……ブシューーーッ!
ゴロン……ゴロン……ドサッ!……ドクッ!ドクッ!ドクッ!……
瞬殺であった! オークドゥは剣を抜きざまにダダルの首へと走らせてダダルの首を切り落としたのだ!ものすごく速く正確な踏み込みと剣さばきだった。
ダダルの首から剣が振り抜けたと思った刹那。頭が首から離れて地面へと落ちて行き……地面をゴロンゴロンと音を立てて転がりだす!
そして、その一瞬の後に首からは血が勢いよく噴き出したのだった!
数秒間立ったままだった身体はやがてドサッと地面に倒れる。地面に横たわった頭部のない死体の首からは脈打つかのように血が噴き出していたが、血液が尽きたのかすぐに止まる……あたりは血の海になってしまった。
「「ひぃぃぃぃぃっ!」」
その光景を見たジェニファも魔導士の女も共に腰を抜かしてしまい、ガタガタと震えている。
「ああ……ジェニファ。ほら。お前さんの剣だ。約束は果たしたぜ」
「は、はは、はいっ!ありがとうございました!」
「わざわざ来てもらったのに悪ぃな。酷ぇ場面を見せちまったな。すまねぇ」
「いえ。ありがとうございました!父の形見の剣が戻り、本当に嬉しいです!」
彼女を転送で神都へ戻す時も、彼女は何度も何度も礼を言っていた。
父親の形見の剣は彼女にとってとても大切なものだったことが窺い知れる。
魔導士の女は腰を抜かしたまま動けないでいる。
俺たちの一挙手一投足に反応してビクビクしている。
ランクS冒険者パーティー『神の代行者』のメンバーは当初7人いたらしいが、現在はこの女魔導士と、目の前の地面で気を失っているリーダーらしき男との二人だけになってしまった。元メンバーのジェニファも入れれば生存者は3人である。
実に4人もの人間が……ひとりはオークドゥによって処刑されたので別として、3人もの人間がこのダンジョンで命を落としたことになる。
予想通りである。
たとえランクSの冒険者であってもこのダンジョンは攻略が難しいのだ。
「……う…うう……ん……」
冒険者パーティー『神の代行者』のリーダーらしき男が目を覚ます……




