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第072話 賢臣と第14皇女

「上様。お話がございます」

「ん?お前さんは?」

「はい。今回の攻撃の指揮(しき)を執(と)っておりましたザハルと申します」


 魂の色は"ブルー"である。悪い人間ではなさそうだ。


「聞こう。なんの話だ」

「はい。上様のお后(きさき)様候補であらせられるフィル様のことです。今回の件の責(せ)めをあの方に負(お)わせないでいただきたいのです」


 獣人族の后候補の誰かのことなんだろうな。まだ会ってないから分からんな。


「実はまだ獣人族の候補者には会ってねぇんだよ。もちろんそのフィルって子にも会ってねぇ。近いうちに会う予定ではあるんだがな。

 それで……お前さんとそのフィルとはどういった関係なんだ?」

「はい。私の妻がシザル皇帝の第14皇女(こうじょ)であらせられるフィル様の乳母(うば)を務(つと)めておりました。

 そういったこともあり、こう申しますと僭越(せんえつ)のそしり受けるやも知れませんが、我が娘のように大切に思っております」


「フィルって子は皇女(こうじょ)なのか?」

「はい。ですから、今回の侵攻(しんこう)の件がフィル様の不利益(ふりえき)になってしまわないかと、それが心配で……

 フィル様は今回の件には全く関与(かんよ)されていません。ですから、あの方にはどうか寛大(かんだい)なるご処置(しょち)をお願い致したく存じます」


 まさかウッドランド皇帝シザルの娘が嫁候補者の中にいるとはなぁ……。

 でも、そんなのは関係ないな。出自(しゅつじ)がどうこうなんてのはどうでもいい。そんな余計(よけい)なモノはすべて取(と)っ払(ぱら)った中身がどうかということだけだ。


「ああ。シザルの娘だからどうだとかいうことは全く考えてねぇよ。

 俺が見るのは本人の人柄(ひとがら)だけだ。その他はすべて瑣末(さまつ)なことだ。どうでもいい。

 当然、そのフィルって子が望んでくれるんだったら后(きさき)にしようと思っているよ。

 后候補に選ばれるくれぇだから、人柄もいいに決まっているからな」

「ああ……ありがとうございます。ありがとうございます……うう……」


 フィルって子はいい子なんだろうな。こんなに心配してくれる賢臣(けんしん)がいるくらいだからなぁ。


「お前さんのように真剣(しんけん)に心配してくれる賢臣(けんしん)を持って、フィルは幸せだなぁ」

「いえいえ、私は愚臣(ぐしん)です。ただ、あの方が不憫(ふびん)で……」


「不憫(ふびん)?」

「はい。ご母堂(ぼどう)様(さま)が庶民(しょみん)の出ゆえ、あの方は小さい頃から他のご兄弟たちから酷(ひど)くいじめられておりまして……それはそれは酷(ひど)い仕打(しう)ちを受けておられたんです」


 エルフ族の王女、ザシャアの境遇(きょうぐう)に似(に)ているのかな?


「あのまま城で生活されていてはいつかは殺されていたことでしょう」


 そんなに酷(ひど)いイジメに遭(あ)っていたのか!?

 気の毒になぁ。是非(ぜひ)とも守ってやりたくなってきたぜ。


「あの方が神子(みこ)として認められて、神殿でお暮らしになることが決まった時は内心ホッとしました。城から出て神殿に住まわれるのですから、もう他のご兄弟たちはちょっかいの出しようがないですから」


「フィルは大変な目に遭(あ)っていたんだな。気の毒になぁ」

「はい。それはもう……うう……。す、すみません。思い出すとかわいそうで涙が込み上げてきます。ひ、酷(ひど)かったです。陰湿(いんしつ)なイジメによくお堪(た)えになったと思います」


「そうか。その分、これからは幸せになってもらわねぇとな」

「はい、仰(おっしゃ)る通(とお)りです。上様のお后様候補に選ばれた時には、それはもうお喜びになり……フィル様のあのように嬉しそうなお顔は拝見(はいけん)したことがございません」


 いつも思うが、あったこともない俺に思いを寄せてくれるとはなぁ……ちょっと不思議な感覚だよなぁ。俺はどこぞの人気アイドルみたいだな。は・は・は……


「フィルはそんなに俺の后になりてぇと思っているのか?」

「はい!もちろんでございます!

 お小さい頃から上様の武勇伝(ぶゆうでん)を何度も何度もお読みになり、上様にずっと憧(あこが)れていらっしゃいましたから……。

 おつらい境遇(きょうぐう)から、いつか上様が助けて下さることを夢見ておられたのかも知れません」


 ザハルは伏(ふ)し目(め)がち……その目には涙を溜(た)めている。


「それなのに今回の我が国のバカな行動……このニラモリアへの侵攻(しんこう)で、もしも、あの方がお后様の候補から外されよるようなことにでもなったらと思うと、不憫(ふびん)で不憫(ふびん)で……。うう……」

「大丈夫だ。そんな小さなことは俺は気にしねぇよ。

 今の話を聞いて、むしろ是非とも嫁になって欲しくなってきた。フィルが望んでくれると嬉しいんだがなぁ。ははは」


 ザハルの表情が明るくなる。


「フィル様は絶対にお后様になりたいとお思いに決まっています!

 ですからどうかあの方をお后様にお選び下さいませ!お願いします!」

「ああ。約束しよう。ただし、フィルが望めば……だがな」

「はいっ!」


 コイツはいい奴だな。神殿騎士に欲しいくらいだ。

 このまま国に帰ったら指揮官として、失敗の責任を問われるんじゃないのか?


「ところで、お前さんは大丈夫なのか、このまま帰っても?

 今回の遠征(えんせい)が失敗したことの責任(せきにん)を問(と)われはしねぇか?」


 ザハルは暫(しばら)く俯(うつむ)く……そして……


「わ、私は帰ったら処刑されるでしょう。妻と娘も連座(れんざ)させられ……うう……」


 やはりな。こんな賢臣(けんしん)はシザルにはもったいないな。


「お前さん……ニラモリアへ亡命(ぼうめい)するつもりはねぇか?もちろん家族も一緒だ。

 俺はお前さんが気に入った。神殿騎士をするつもりはねぇか?」

「え?でも妻と娘は首都、フロウンドにいるので助け出すのは難しいかと……」


 空中にフロウンドのマップを投影(とうえい)する。


「お前さんの家はどこだ?この時間だから、妻と娘は家にいるんだろう?」

「はい、多分。……えーっと、ここです!」


 投影しているマップではなく、俺自身のマップ画面で生命体反応を確認する……

 女性2名の反応がある。今のところ無事のようだ。


「よし。お前さんの家族を助けに行くぞ。俺に掴(つか)まれ!」

「え?」

「いいから、掴(つか)まれ!」

「はっ!失礼します!」


 ザハルは俺に抱きつく……をゐをゐ(おいおい)。

 掴(つか)まれといったことがマズかったか。ちょっと触(ふ)れるだけでいいんだがなぁ。


「転移!」



 ◇◇◇◇◇◇◇



 俺たちはウッドランド帝国首都にあるザハルの邸宅(ていたく)へと転移して来た。


 マップでザハルの妻と娘の位置は確認済で、二人ともダイニングで夕食をとっていることが分かっていたので、彼女たちのすぐ側(そば)に転移して来たのだ。


「うわっ!あなたなの……よ・ね?びっくりしたわ!いつの間(ま)に戻(もど)ったの?」

「驚(おどろ)かせて悪いな。事(こと)は急(きゅう)を要(よう)するんでな。

 ダゴダ、驚くなよ?この方は上様だ。我らが偉大なる神様だ!……」

「えっ!?……ははあぁーーっ!」

「いや、奥さん、娘さん、跪(ひざまず)かなくてもいいから……ん!?」


 ザハルが妻と話をしている間にミニヨンを数体起動して屋敷(やしき)の外を見張らせたのだが……屋敷(やしき)はすでに兵士たちに取り囲まれていた。


 間一髪(かんいっぱつ)間(ま)に合(あ)ったな。ふぅ~良かったぜ!


 そう思った瞬間、ミニヨンから送られてくる映像が、兵士たちが屋敷の入り口の扉を蹴破(けやぶ)る様子を捕(と)らえた! 兵士たちがどやどやと屋敷内に入ってくる!


 屋敷内の俺たちの所にもその音が届いている。


「ザハル将軍の妻と娘を捜せ!いいか、絶対に手は出すなよ!無傷で城まで連れて行くんだ!分かったなっ!?」

 "おおーーっ!"


 やはり敗戦の責任をザハル一家に負わせるつもりらしい。


「奥さんに娘さん、とにかくすぐに俺の身体に触れろ! ここから脱出するぞ!」


「え?あのう……あなた、一体どういうことですの?」

「ダゴダ、ジャミン。悪いが説明している時間はないんだ。

 ほらあの音が聞こえるだろう?もうすぐ兵士たちがこの部屋に踏み込んでくる。

 だから、その前に脱出する!とにかく今は上様に抱きついてくれ!」


 いや。抱きつかなくても、ちょっと触れるだけでいいんだよ!


 ダゴダ、ジャミンが俺に抱(だ)きつこうとした時にダイニングの入り口の扉が大きな音を立てて蹴破(けやぶ)られる!


「……えっ?ザハル!?な、なぜお前がここに!?」

「おお。ジューヌか。まさか親友のお前がここに来るとはなぁ。

 悪いが私たちはお前に捕まるわけにはいかない。私たちはこれからニラモリアに亡命するつもりなんだ」


「それは無理だよ。ここは完全に包囲(ほうい)されている。ここから逃げられはしないぞ。

 悪い事は言わん抵抗(ていこう)せず降伏(こうふく)しろ。私が陛下に命乞(いのちご)いしてやるから……。

 なっ!?そうしてくれよ。ザハル!」

「おい、ジューヌとやら。悪ぃがザハル一家は、神である俺の命令に従っている。

 皇帝のクソ野郎の命令よりも優先される絶対命令だ!」


 威圧(いあつ)する……


「俺に逆(さか)らうんだったらお前さんたちを……皆殺(みなごろ)しにするぜ?」

 "ひぃぃぃぃぃっ!"


 その場にいた兵士たちは震え上がる!


「お前さんたちも城の屋根が一瞬で蒸発(じょうはつ)しちまったのを見ただろう?

 アレは俺が下した天罰(てんばつ)だ! ニラモリアに戦争を仕掛(しか)けた罪(つみ)のな……。

 もしも、お前さんたちが俺に逆らうって言うんだったら……ぶっ殺すぜ?

 一切(いっさい)の容赦(ようしゃ)はしねぇから、よ~く考えろよ?」


 兵士の中には腰(こし)を抜(ぬ)かしてその場にへたれ込(こ)む者もいた。

 だが、バカはどこにでもいる。なぜかバカ野郎には威圧(いあつ)は聞かないようだ。


 一人の兵士が言う……


「へっ!何が神だ!?小僧(こぞう)が!洒落臭(しゃらくさ)い!俺がぶっ殺してやる!ヤァーーッ!」

「四肢(しし)粉砕(ふんさい)!」


 ぎゃあああぁぁぁぁぁぁっ!痛ぇ!痛ぇ!痛ぇ!痛ぇ!痛ぇ!てぇ……


 ぶっ殺してやると言いながら斬(き)りかかってきた兵士は一瞬で四肢(しし)が砕(くだ)けて、暫(しばら)く絶叫(ぜっきょう)した後、ついには気を失ってしまった!


「今のは警告だ。次はねぇぞ?なんならお前さんたちを一瞬で消してやろうか?」


 兵士たちは、気絶(きぜつ)しているただひとりを除(のぞ)いて、全員がブルブルとすごい勢(いきお)いで首を左右に振る。


「おい!ジューヌよ。この気絶(きぜつ)しているクソ野郎をちゃんと教育し直(なお)しておけよ。

 今回"だけ"は見逃(みのが)してやるからな。……修復!」


 ジューヌは高速で大きく何度も頷(うなず)く……

 四肢(しし)の粉砕(ふんさい)骨折(こっせつ)が修復された男はまだ目を覚(さ)まさない。


「それじゃぁ、ザハル一家(いっか)は俺が預(あず)かるからな? 追(お)っ手(て)を差(さ)し向(む)けても無駄(むだ)だ。

 ザハル一家にもし万が一にも危害(きがい)を加(くわ)えようとしたら、その時は……

 この国をこの国に住んでいるサル族諸共(もろとも)、この世界から消し去ってやるからな。

 クソ皇帝にもそう言って釘(くぎ)を刺(さ)しておけ!いいな?」


 ジューヌはものすごく速く何度も何度も大きく頷(うなず)いている。


「あばよ!……転移!」



 ◇◇◇◇◇◇◆



「神様。助けてくれてありがとう!」

「ああ。いいってことよ。ははは。でもよかったなぁ、お父ちゃんが無事で」

「うん。神様のおかげだよ。本当にありがとう」


 俺はザハル一家を連れて一旦(いったん)フォスジャルボに戻ってきた。

 シノが待つ神殿へと戻る前に、俺が救った少女、テナーたちに別れを告(つ)げようと思ったのだ。


「上様。此度(こたび)は我々(われわれ)をお救い下さり誠(まこと)にありがとうございました」


 ここの守備隊の隊長だという男が礼を言う。

 どの世界でも現場で直接動く者たちは大変である。無性(むしょう)に労(ねぎら)いたくなる……


「ああ。お前さんたちの方こそ、いつもこの地を守ってくれてありがとうな。

 大変だが、これからもよろしく頼むぜ」

「はっ!もったいなきお言葉……痛(いた)み入(い)ります」


「あ、それから念(ねん)のためにあの空を飛んでいるミニヨンたちと、そこに並んでいるゴーレムたちをここの守備要員としておいていくからな。

 今度は空から攻撃を受けようが大丈夫だからな。安心しろ」

「はっ!何から何までありがとうございますっ!」


「いいってことよ。おっと!それから、ゴーレムたちは放っておけば勝手にここを防衛するように指示してあるから……

 だから、敵が攻めてきたらコイツらにここの守備は任せて、自分たちの身を守ることだけをお前さんたちは考えてくれ」

「え?身を守ることをですか……しょ、承知(しょうち)し…ました」


 俺が発した言葉が意外(いがい)で、隊長は得心(とくしん)がいかないのか生返事(なまへんじ)をした。


「いいか。決して命は粗末(そまつ)にするなよ。

 万が一にも敵に攻め込まれるようなことがあったら逃げろ!

 ただ生き残ることだけを考えろ!いいな?

 この場所よりもお前さんたちの命の方が大事だからな!

 ここを落とされても俺が後からなんとでもしてやるから……大丈夫だからな」

「はいっ!分かりました!ありがとうございます!」


 まあ……たとえ死んだとしても時間がある程度(ていど)経(た)つまでは蘇生(そせい)できるんだけど、死の間際(まぎわ)の苦痛(くつう)は、できることなら味(あじ)わって欲(ほ)しくないからな。


「それじゃぁな!」

「はっ!」


「神様。ありがとう!ばいばーい!」

 テナーは破顔(はがん)一笑(いっしょう)し、大きく手を振る……


「ばいばい、テナー!じゃあな!……転移!」



 ◇◇◇◇◇◆◇



「あ、ダーリン。お帰りなさい。……えっ?誰ですかその人たちは?」

「おう。ただいま。ああ、この男がサル族たちの指揮(しき)を執(と)っていた将軍(しょうぐん)だ。

 人柄(ひとがら)が気に入ったんでスカウトしてきた。神殿騎士にしてやろうと思ってな」


「す、スカウトですかっ!?それはまた……」

「ははは。驚(おどろ)くのも無理(むり)もねぇな。俺もこの展開(てんかい)には驚いている。

 ハニー、フィルって子を知っているだろ?サル族皇帝シザルの第14皇女(こうじょ)の」


「はい。いい子ですよ。ダーリンには是非(ぜひ)后(きさき)にして欲しい子のひとりです」

「そうか……実はそこにいるザハル将軍の妻のダゴダはフィルの乳母(うば)だったんだ。

 フィルって子がお前さんが言うようないい子に育ったのはこの奥さんのお陰(かげ)なんだろうな、きっと。

 ザハルたち夫婦はフィルって子を実の娘のようにかわいいらしいぜ」


「そうでしたか。魂の色も綺麗(きれい)ですし、ステータスも十分ですね。

 分かりました。神殿騎士になってもらいますね。

 ザハルさん、異存(いぞん)はありますか?」

「いえ。異存(いぞん)なんて滅相(めっそう)もない!なんとお礼(れい)を申し上げたら良いか……」



 どの世界でも、そして、いつの時代でも転職というのは難しいものだ。


 俺も日本人だった頃に転職は経験したんで、その大変さはよく分かっている。

 コネでもありゃ別なんだがな……。ブラック企業に捕まらず転職するのは意外に難しいものだ。


 ザハル一家全員の命を守るという目的もあったのだが、彼をスカウトした以上は俺にも責任がある。ザハルがすんなり神殿騎士になれそうでホント良かった。



 シノが『パンパン』と二つ手を叩(たた)くと、ひとりの神殿騎士が部屋に入ってきた。

 キリッとした目つきをした美人だ。


「シノ様。お呼びでしょうか?」

「ダーリン、この子は神殿騎士隊長のテアン・ホルストです。

 テアン、上様ですよ」

「ははぁぁぁーっ!」


「あっ、跪(ひざまず)くな。そのまま、そのまま。テアン、よろしくな」

「はっ!」


「テアン。上様がそこにいるザハルさんを神殿騎士にスカウトされました。

 後ろに控(ひか)えているのが彼の妻子(さいし)です。

 彼をあなたの直属(ちょくぞく)の部下にします。だから、あなたは彼等の住む場所等の面倒(めんどう)を見てやって下さい」

「はっ!」


 テアンとザハルは互(たが)いに軽く目礼(もくれい)し合(あ)う。


「私は神殿騎士隊長のテアン・ホルストだ。よろしく!」

「はっ。ザハルと申します。よろしくお願いします」

「それでは取(と)り敢(あ)えず今夜泊まってもらう所へ案内する。私と一緒に来てくれ」

「はい。……それじゃぁ、ダゴダ、ジャミン参(まい)ろうか」

「「はい」」


「あっ、テアン。悪ぃがザハルたちをフィルに会わせてやってくれ。

 ダゴダはフィルの乳母(うば)だったんだ。久々(ひさびさ)の再会(さいかい)だろうから、彼女もきっと喜ぶと思うからな。頼む」

「はっ!承知(しょうち)しました!……では、失礼します!

 さあ、行きましょう」

「はい。上様。此度(こたび)のことは本当にありがとうございました。

 それでは、失礼致します」

「おう!じゃぁ、またな!」


 テアンとザハル夫妻、そして、その娘が深々と頭を下げてから退室(たいしつ)した。



 ◇◇◇◇◇◆◆



「急な話で悪かったな。早急(さっきゅう)に対応(たいおう)してくれて助かったぜ」

「いえいえ。優秀な神殿騎士を得(え)られて私も嬉しいです。

 ありがとうございます、ダーリン。

 ところで、フォスジャルボの方はいかがでしたか?」


「ああ。あっちは片付(かたづ)いたぜ。敵は撃退(げきたい)したし、死者もゼロだ。

 まあ、相手の方は2500人くれぇ死んだが……」

「えっ!?そ、そんなに……」


 俺の言葉を聞いてシノの表情が曇(くも)る。

 サル族の死者数の多さを悲しんでいるようだ。


「おっと。話は最後まで聞きなよ、ハニー。

 お前さんがそんな風に悲しむだろうと思い、魂が綺麗(きれい)な者たちだけは蘇生(そせい)させておいたぜ。さっきのザハルもその中のひとりだ」


 シノの表情がパッと明るくなった。この子は本当に心根(こころね)の優(やさ)しい子だ。


「ハニー、お前さんは優しいいい子だな。改(あらた)めて惚(ほ)れ直(なお)したぜ。

 獣人族の子たちに魂の色が綺麗(きれい)な者たちが多いのも分かるような気がするぜ。

 すべてはお前さんのその優しさとがんばりのお陰(かげ)なんだろうなぁ。

 シノ。お前さん……いい仕事をしてるな。偉(えら)いぞ!」

「いえいえ、そんな……」


 そんな時である。念話(ねんわ)が入った。


『ダーリン!すぐダンジョンにお戻(もど)りいただけませんか?』


 ダンジョンにいるシェリーからだ。


『どうしたんだ?何か問題発生か?』

『はい。冒険者たちが下の階層(かいそう)へ続く階段の方からやって来たんですが、その中の男どもが私たちにちょっかいをかけようとして、オークドゥと揉(も)めているんです。 彼等はどうやら下の階層でやられて逃げてきたようなんですが……。

 オークドゥは酷(ひど)く怒(おこ)っていて……このままでは彼等は殺され兼(か)ねません』


 俺のハニーにちょっかいを出すヤツなんざぶっ殺されても別に構(かま)わないんだが。

 下の階層から逃げてきたらしいのかぁ?そうだとしたら、ジェニファが所属(しょぞく)していた『神の代行者(だいこうしゃ)』って冒険者たちなのかな?


『俺の大事なお前さんたちにちょっかいを出すようなヤツらなんぞぶっ殺されても別に構わねぇんだけどなぁ……。分かった。すぐに戻るよ』


「シノ。悪ぃ。ダンジョンにいるハニーたちが男どもに絡(から)まれているらしいから、そろそろ戻(もど)るわ。

 あ、それから、嫁選びの件はそのダンジョンを攻略(こうりゃく)してからになると思う。

 だから、すまねぇがもう少しだけ待っててくれ」

「分かりました。でも……我々の種族の嫁選びが終わった後には、まだ他種族の嫁選びが控えておりますので、どうかなるべく早くお越(こ)しいただければと……。

 それでは、どうぞお気を付けて」

「ああ。なるべく早く攻略するよ。それじゃぁ、またな!……転移!」


 今のところ国境に集結(しゅうけつ)しつつあるシオン神聖国の軍に目立った動きはない。

 今回のワッドランド軍の侵攻(しんこう)に併(あわ)せてシオンの軍も行動を起こすかと思っていたのだがなぁ……。ワッドランド軍の敗北(はいぼく)がもう伝わっているのかな?



 ◇◇◇◇◆◇◇



 突然ハニーたちに絡(から)んでいる冒険者たちの前に転移するよりも、野営用テントの中に転移して、テントの中から姿(すがた)を現(あらわ)した方が良いと判断した。

 だから、俺は野営用のテントの中へと転移してきたのだ。そして……


「どうしたんだ。騒(さわ)がしい……」


 いかにも今まで寝(ね)ていて、外(そと)の喧噪(けんそう)に目(め)が覚(さ)めた体(てい)を装(よそお)う。


 テントの外に出ると冒険者らしき男たち2人が地面に仰向(あおむ)けに倒(たお)れていた。

 2人とも意識を失っている。どうやらオークドゥは手加減(てかげん)したようだな。


 見回(みまわ)したところ、気を失っている男どもの他には女性がひとりいるだけだ。


「あっ!ダーリン!お帰りっす!あれ?今回は女性を連れていないっすね?」

「珍(めずら)しく女を連れていない。天変(てんぺん)地異(ちい)が心配」


「あ、あのなぁ……お前さんたちはもう……ふぅ、疲(つか)れるなぁ……」


 ハニーたちが口々(くちぐち)に俺の帰還(きかん)を喜んでいる。

 取(と)り敢(あ)えず彼女たちにはテントの中で休憩(きゅうけい)してもらうことにした。男どもが目を覚(さ)ました際(さい)にまた絡(から)まれて嫌(いや)な思いをさせないためだ。


 ヤツらには俺とオークドゥで対応するつもりだ。



 魔導士のような格好(かっこう)している紅一点(こういってん)。この女性こそが、ジェニファが助けようとした魔導士なのかも知れない。


 彼女は倒(たお)れている男どもの横に立つオークドゥに向かって身構(みがま)えている。

 彼女の装備(そうび)はボロボロで足下(あしもと)もふらついているようだ。


 どうやら下の階層でこっぴどくやられたようだなぁ。


 ふと倒(たお)れている男どもの方を見る……


 地面に転(ころ)がっている一本の剣が目にとまった!例の剣だ!

 あれはジェニファの父親の形見(かたみ)の剣だ。間違(まちが)いない!

 となると、やはりコイツらは冒険者パーティー『神の代行者』ってことか?

 取(と)り敢(あ)えずジェニファの剣は回収(かいしゅう)しよう。


 男どもが倒れている側(そば)まで進み、剣を拾(ひろ)い上げる。


「ど、泥棒(どろぼう)!ダダルの剣を離せ!」

「違うだろ?これはジェニファのもんだ。彼女の父親の形見(かたみ)だろうが?」


「な、なぜそれを知っている!?お前はジェニファの身内(みうち)の者か!?」

「身内じゃねぇよ。だがまあ身内みたいなもんだな。彼女から剣を取り戻(もど)すように頼まれたんでな。これは俺がもらっておくぜ」


「う、嘘(うそ)を言うな!ジェニファはこのボス部屋で死んだんだ!そこに墓もある!」

「ジェニファは生きているぜ。嘘だと思うんだったら、お前さんが今言った彼女の墓とやらを掘(ほ)り起(お)こしてみろよ。死体なんか埋(う)まってねぇぜ?」


「なに?そんなバカな!ジェニファはロイヤル・ミノタウロスにバラバラにされて果(は)てたんだ!私たちがこの目でちゃんと見ているんだ!」

「ああ。確かにそうだよ。俺が最初に見たジェニファもバラバラだったぜ。それを俺が修復(しゅうふく)して蘇生(そせい)させたんだ」


「はっ?バカな!神じゃあるまいし!死者を生き返らせるなんてできるわけがないだろうがっ!?それよりもその剣をそこへ置け!さもないと……」


 ふぅ。俺は神なんだけどなぁ……


「ほおぅ?さもないとなんだ?」


「死ねっ!ファイヤーボール!」


 ブォォォォォーーッ!


 ファイヤーボールが迫(せま)り来(く)る!?

「おっと。お嬢(じょう)ちゃん、火遊(ひあそ)びは禁止だぜ」


 バシッ!ブォォォォォーーッ!……ぎゃあああぁぁぁぁぁぁっ!


 咄嗟(とっさ)に左手を開いて突き出し、迫(せま)り来(く)るファイヤーボールを、そのまま彼女へと弾(はじ)き返した。俺に弾(はじ)かれたファイヤーボールはそのまま放(はな)った彼女のもとへと戻(もど)り彼女を直撃する!……彼女は火達磨(ひだるま)になってしまった!のたうち回(まわ)っている!


 あちゃぁ~。彼女に当てる気なんて更更(さらさら)なかったんだがなぁ……。参ったな。


「あ、悪ぃ(わりぃ)。ウォーターボール!」


 彼女へウォーターボールをあてて消火し……


「修復!」

「はぁはぁはぁはぁ……」


「大丈夫か?お前さんがいきなりファイヤーボールを撃(う)ってくるもんだから思わずそのまま弾(はじ)き返(かえ)しちまったよ。いやぁ熱かっただろう。悪ぃ悪ぃ。ははは」

「な、なんてヤツだ!?わ、私の最大威力(いりょく)のファイヤーボールを……はぁはぁ……弾(はじ)き返(かえ)すとは……はぁはぁ……お前は悪魔か!?」


 いや。神なんだけどなぁ……


 と、そんなことを考えていると、ロイヤル・ミノタウロスたちが復活してきた!

 俺は右手を肩の高さで前に突き出し、左から右に移動させながら順にロイヤル・ミノタウロスたちに手(て)の平(ひら)を向けながらターゲット指定する。


 まあ、格好付けだ。こんなことをしなくても当然、ターゲット指定は可能だ。


 そして……


「爆殺(ばくさつ)!」


 ズババババババババババンッ!


 ロイヤル・ミノタウロスたちを一気に爆殺(ばくさつ)!

 ヤツらはそれぞれ一瞬で黒い煙のような状態になり、霧散(むさん)して消えた……


「な、なにっ!瞬殺(しゅんさつ)っ!?

 ランクSの冒険者パーティーの私たちでもそいつらを倒すのに十数時間かかったというのに!や、やはりお前は悪魔だな!?」

「へっ?この程度の敵に十数時間もかかったって言うのか?嘘(うそ)だろう?ホントか?

 お前さんたち……ものすごく弱ぇ(よえぇ)んだな?本当にランクSなのか?

 あそこにいる俺の妻たちでも瞬殺(しゅんさつ)するぜ?みんなランクDの初心者だけどな」


 魔導士の女はアゴが外れるんじゃないかと思えるくらいに大きな口を開けながら驚いている。間抜(まぬ)けな顔だ。



 ここは日本じゃないから自力(じりき)救済(きゅうさい)は禁じられていないけど、確かにこのまま剣を持っていくのはなんとなく後ろめたいなような気がするなぁ。


 自力救済というのは……

 権利(けんり)を侵害(しんがい)された私人(しじん)が法律に定める正規(せいき)の手続(てつづき)を踏(ふ)まずして、実力行使(じつりょくこうし)により侵害(しんがい)された権利(けんり)の回復(かいふく)を行(おこな)うことである。


 日本では一部の例外的事例を除き禁止されているが、この世界では今のところは禁止されていないようだ。……多分。少なくとも俺が見てきた国では禁止されてはいなかった。


 だから、この世界では、奪(うば)われた剣を取り返すのに、司法的(しほうてき)な手続を踏む必要はないのであるが……一応(いちおう)ダダルには一言(ひとこと)言っておいた方がいいように思えたのだ。



 紙縒(こよ)りを1本生成し、ジェニファの剣を奪(うば)った剣士ダダルというヤツの鼻の穴をこちょこちょしてやる……


「ふぁっ、ふぁっ……ハクションっ!ってんだクソ野郎!この野郎めっ!」


 なんていう品(ひん)のないくしゃみだ!


 これまでに何度か気を失っている人を起こそうと、平手(ひらて)で頬(ほほ)を叩(たた)いてみたことがあるのだが……

 俺としては、極極(ごくごく)かる~くペチペチと頬を叩いたつもりだったのだが、力加減(ちからかげん)がどうもうまくいかずに、頭をぐちゃくちゃにしてしまって、千切(ちぎ)り飛(と)ばしてしまうことがあったので、今回は紙縒(こよ)りでこちょこちょして起こそうとしたのだ。


「よぉ?お目覚(めざ)めか、ダダル?」

「だ、誰だてめぇは!?」

「俺か?俺はジェニファの代理(だいり)の者だ。てめぇが持っていったこの剣は俺が責任を持ってジェニファに返すから、もらっていくぜ。いいな?」


「な、なんだと!?ダメだダメだ!それを返せ!それは俺のモノだっ!」

「はあぁんっ!?これはジェニファのもんだろうが?父親の形見(かたみ)の大切な剣だ」

「あの女はロイヤル・ミノタウロスに殺されて死んだんだ!だからもうそれは俺のモノだ!返せ!」


「彼女は生きているぜ。だから、これは彼女のものだ」

「嘘(うそ)を言うなっ!俺たちがこの目で死ぬところを見たんだ!」


 これじゃぁ埒(らち)が明(あ)かない……


『おい。ジェニファ。聞こえるか?』

『はい。上様』

『今お前さんの剣を取(と)り戻(もど)したんだが、お前さんが生きているって誰も信じねぇんだよなぁ……

 だから、今からお前さんをこっちに転送しようと思うんだが、いいかなぁ?』

『父の形見(かたみ)の剣がそこにあるんですかっ!すぐ参(まい)ります!でも、どうすればいいのでしょうか?どうやってそちらへ行けばよろしいですか?』

『いや。なにもするこたぁねぇよ。そのままじっとしててくれ!……転送!』


 ジェニファが俺の横に現れる。


「ひぃぃぃぃぃっ!ジェニファがアンデッドになっちまった!」

「う、嘘っ!?ジェニファが……生きている!?」


「ダダル!アンデッドとは失礼ね!あたしは人間よ!

 ここで死んでいたのを上様に蘇生(そせい)していただいたのよ」

「ほら。てめぇら分かったか?ジェニファはちゃんと生きているだろうが?

 だから、この剣はジェニファに返すからな。文句(もんく)は言わせねぇぞ!?」


「いや。返してやってもいいんだが……ただじゃぁダメだなぁ。へっへっへっ!

 ジェニファ。俺と寝ろ!いや、俺の女になってもらおうか!へっへっへっ。

 そうしたら返してやらんこともねぇ。どうだ?ひっひっひっ!はっはっはっ!」


 ああ……ジェニファの言っていた通りだ。クソ野郎だ。魂の色も黒っぽい赤だ。


 こんなクズ野郎は斬(き)り捨(す)ててやろうと思って剣を抜(ぬ)こうとしたんだが……

 俺よりも早く行動を起こした者がいた。そうだ。オークドゥだ!


 シュンッ!……ザサッ!ゴロン……ブシューーーッ!

 ゴロン……ゴロン……ドサッ!……ドクッ!ドクッ!ドクッ!……


 瞬殺(しゅんさつ)であった! オークドゥは剣を抜(ぬ)きざまにダダルの首へと走(はし)らせてダダルの首を切り落としたのだ!ものすごく速く正確な踏(ふ)み込(こ)みと剣さばきだった。


 ダダルの首から剣が振り抜けたと思った刹那(せつな)。頭が首から離れて地面へと落ちて行き……地面をゴロンゴロンと音を立てて転がりだす!

 そして、その一瞬の後に首からは血が勢いよく噴(ふ)き出したのだった!


 数秒間立ったままだった身体はやがてドサッと地面に倒(たお)れる。地面に横たわった頭部のない死体の首からは脈打(みゃくう)つかのように血が噴(ふ)き出していたが、血液が尽(つ)きたのかすぐに止まる……あたりは血の海になってしまった。


「「ひぃぃぃぃぃっ!」」


 その光景を見たジェニファも魔導士の女も共に腰(こし)を抜(ぬ)かしてしまい、ガタガタと震えている。


「ああ……ジェニファ。ほら。お前さんの剣だ。約束は果(は)たしたぜ」

「は、はは、はいっ!ありがとうございました!」


「わざわざ来てもらったのに悪ぃな。酷(ひで)ぇ場面を見せちまったな。すまねぇ」

「いえ。ありがとうございました!父の形見(かたみ)の剣が戻り、本当に嬉しいです!」


 彼女を転送で神都へ戻す時も、彼女は何度も何度も礼を言っていた。

 父親の形見(かたみ)の剣は彼女にとってとても大切なものだったことが窺(うかが)い知(し)れる。



 魔導士の女は腰を抜かしたまま動けないでいる。

 俺たちの一挙手(いっきょしゅ)一投足(いっとうそく)に反応(はんのう)してビクビクしている。


 ランクS冒険者パーティー『神の代行者』のメンバーは当初7人いたらしいが、現在はこの女魔導士と、目の前の地面で気を失っているリーダーらしき男との二人だけになってしまった。元メンバーのジェニファも入れれば生存者は3人である。

 実に4人もの人間が……ひとりはオークドゥによって処刑されたので別として、3人もの人間がこのダンジョンで命を落としたことになる。


 予想通りである。

 たとえランクSの冒険者であってもこのダンジョンは攻略が難しいのだ。


「……う…うう……ん……」


 冒険者パーティー『神の代行者』のリーダーらしき男が目を覚ます……




いつもお読み下さり、ありがとうございます。

ブックマークして下さっている方々に深謝します!

m(_"_)m

※拙作では敢えて『招喚』という字を使っています。

挿絵(By みてみん)


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