↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/98

第066話 ボラコヴィア攻防戦

「さあぁオークたちよ! ゴブリンたちよっ!

 門の外でニヤついている卑怯(ひきょう)なシオン教徒どもを殲滅(せんめつ)せよ!」


 "ウオォォォォォォーーッ!""グォーーーーッ!"

 ズンズンズンズン…ドッドッドッドッドッド…ドドドドドドドドドド……


 マイミィの命令に、オークたち、ゴブリンたちは180度向きを変え、門の外のシオン教徒たちを殲滅(せんめつ)するために一斉(いっせい)に走り出す。


「シオン教徒の男どもを凌辱(りょうじょく)せよ! お前たちのそのぶっとい一物(いちもつ)を、男どものケツの穴にぶち込んでやれ!

 だが! 女性は無傷で捕(つか)まえろ! 我らが偉大なる神は女性が凌辱されることを最も嫌う! だから絶対に女性には手を出すんじゃないぞ! いいなっ!」


 マイミィに支配されたオークたち、ゴブリンたちは動きをピタリと止めた。

 そして、彼等はぎこちない動きで首を回してマイミィの方を見た。


 彼等の首はまるで錆(さ)びた金属でできているんじゃないかと思えるような、そう、『ギギギギギギッ』と軋(きし)むような音が聞こえてきそうな動きでマイミィの方を振り返ったのである。


 彼等の顔はしょぼかった……。


 眉(まゆ)はカタカナの"ハ"の字ように眉尻(まゆじり)を下げ、目はうるうるしている……。

 口は少し開き気味の"へ"の字だ。 まるで……


 "え~~~っ?男の御釜(おかま)を掘(ほ)るなんてぇ~、そんな命令は嫌だぁ~っ。"


 というような声が聞こえてきそうである。


 オークたちの中、そして、ゴブリンたちの中には、それぞれ数匹だけだが非常に嬉しそうにしているヤツらがいる。


 男色(だんしょく)のオークに、ゴブリン……。論理的に考えれば存在しても不思議じゃない。

 それもひとつの個性というものである。


 他者に迷惑(めいわく)をかけるのでなければ、性的指向(せいてきしこう)の多様性(たようせい)はあってもいいだろう。


「な、なんだ!? お前たち!? しょぼい顔をしやがって!?

 女のあそこも男のケツの穴も、穴には変わりないだろうがっ!?

 突っ込めりゃ気持ちいいんだろう!? 違うのかっ!?

 固(かた)まっていないでサッサとやっちまえ!」



「ね、ねぇ、ユリコさん。マイミィってあんなキャラだったかしら?なんか性格が変わってしまっていませんか?」

「やっぱりマルルカもそう思った?よくいるのよねぇ……ハンドルを握(にぎ)ると性格が変わちゃう人って。彼女の場合は魔物の支配権を握ると……なんだろうけどね」

「え?なんですか?"はんどる"って?」

「ああ……ごめん。この世界の話じゃないの。忘れて」

「……あ、は…い……???」


 勇者ユリコと聖女マルルカは亜空間(あくうかん)収納(しゅうのう)ウエストポーチからテーブル1脚(きゃく)と椅子(いす)2脚、そして、ティーセットを取り出して一緒にティータイムを楽しみながら見物している。

 シンを除(のぞ)けば、この世界で最強、最高の魔物使(まものつか)いであるマイミィに全幅(ぜんぷく)の信頼(しんらい)を寄(よ)せているのだろう。



 ほとんどのオークたち、ゴブリンたちは肩を落とし、トボトボと門の外へと出て行こうとする。

 もちろん男色(だんしょく)系のものたちだけは別だ。彼等は皆、スキップしているかのような軽(かろ)やかな足取りだ。


「ねぇねぇ、ユリコさん。あそこもお尻の穴も男性にとっては一緒じゃないの?

 同じように気持ちいいんじゃないの? 教えて下さい」

「な、なんで私に聞くのよ!? 男の人じゃないからそんなの分からないわよ!」

「ほらぁ~、私もぉ~、マルルカもぉ~男性経験がないからぁ……ユリコさんならわかるかなぁ~って思って。で、どうなんですか?」

「わ、私だってこの身体はまだ、そのう……経験はないし、転生前もシンしか知らないし、彼にもそんなこと聞いたことないからって! 一体何を言わせるのよっ!

 やめてよっ!」


 勇者ユリコの顔は茹(ゆ)で蛸(だこ)のように真っ赤だ。

 対するマイミィとマルルカはニヤニヤしている。


 オークたちはそうこうしている間も肩を落として嫌そうにダラダラ歩いて行く。


「ええーーいっ! もうっ! 分かったわよっ!

 男どもを凌辱(りょうじょく)したいものたちはそうして!

 それが嫌なものたちはぶっ殺すだけでいいわ! だからとっととやりなさい!

 さあ! 早くっ!

 ああ! だけど、絶対に女性には手を出しちゃだめよっ! いいわねっ!」


 女性には手を出すなと言われてオークたち、ゴブリンたちは『はぁ~』とひとつため息をついて目を閉じながらうなだれる。

 彼等にとっては種族保存という意味で女性を確保することが最重要であるから、『女性には手を出すな』と言われるとやる気が殺(そ)がれるのだろう。


 だが、なんとか気を取り直したようで彼等は雄叫びを上げた。


 "ウォォォォォォーーーッ!"


 それからオークたち、ゴブリンたちは一斉に門の外へと走り出したのである。

 勇者ユリコと聖女マルルカは肩をすくめて苦笑いしている。

 やれやれ漸(ようや)く動き出したか……という表情が、ユリコとマルルカの顔には現れていた。



 すったもんだしている間に身(み)の危険(きけん)を察知(さっち)したシオン教徒たちは、まるで蜘蛛(くも)の子を散(ち)らすかのように逃げ去ってしまっていた。これは痛いミスである。


 結局、シオン教徒の男性信者11名を取り逃がしてしまうこととなったのだ。


 残りの者たちについては……


 オークたち、ゴブリンたちに殺された者が10名で全員が男性信者。

 男色(だんじょく)系オーク、ゴブリンに御釜(おかま)を掘(ほ)られた者が7名。全員が男性信者。

 オークたち、ゴブリンたちに捕まった者が12名。全員が女性信者。


 という結果になった。



『上様、すみません。シオン教徒を11名も取り逃がしてしまいました』


 マイミィは結果を念話でシンに報告した。

 シンはユリコ、マルルカとも念話を繋(つな)いで言う……


『そうか。それじゃぁ、俺がすぐに捕まえてそっちに送ってやるから、東門の前で待っていてくれるか?』

『え? そんなことができるのですね?

 さすがは我が神ですぅ! 尊敬しますぅ!』


『マイミィ、どうした?えらく俺に対する信仰心が厚くなっているじゃねぇか?』

『それは当然です!

 死者を一瞬で生き返らせたり、大火災を一瞬で消したり、何もなかったところに町を創り出したり……あれだけの奇跡を目(ま)の当(あ)たりにしたのです。信仰心が高まらない方がおかしいです。

 我が神、シンイチロウ様! 貴方様(あなたさま)だけが私の神です!

 いえ、この世の唯一絶対(ゆいいつぜったい)の神です! どうして崇拝(すうはい)せずにいられましょうや!』


『は・は・は……そ、そうか。でも、今まで通り、俺のことは"シンさん"と呼んで欲しいな。頼むよ』


『我が神のご命令とあらばそうします。

 それで……し、シンさん、あのう……私、決心しました!』

『へっ? 何を?』

『私は一生貴方様について行きますっ! よろしくお願いしますっ!』


 シンは、マイミィがどういった意味で一生ついてくると言ったのか、その真意(しんい)を測(はか)りかねる……。


『わ、私もです! 数々の奇跡を見て、貴方様に……貴方様に…惚(ほ)れました!

 一生、お側(そば)において下ちゃい!……さい』


 マルルカが噛(か)んだ。マルルカの顔は真っ赤になった。

 するとユリコの顔色が悪くなる……


『ま、マルルカ!?あなたもシンのハーレムメンバーになるって言うの?』

『あ、聖女様ずるいです!

 それなら私も! 是非(ぜひ)ハーレムメンバーにお加(くわ)え下さい!

 お願いしますっ!』

『えーっ!? マイミィもなの!?』


 勇者ユリコは愕然(がくぜん)としている。

 シンは悟(さと)った。どうやら彼女たちは俺の嫁になりたいと願っていることを。


『二人ともありがとうな。嬉しいよ。ダンジョン攻略が終わったらじっくりとその話をしような』

『『はいっ!』』


 勇者ユリコはひとり取り残されてしまったような気持ちでいた。

 自分の気持ちを素直にシンに伝えるチャンスだったのに……ハーレムメンバーという言葉に引っかかりを覚えて言い出せなかった……。




『転送!』


 町の東門の外である。

 ユリコ、マイミィ、マルルカの目の前にシオン教徒11名が転送されてきた。

 彼女たちの側(そば)にはオークたち、ゴブリンたちも控(ひか)えている。


 シンは最初に索敵(さくてき)した際(さい)、既(すで)に東門側の茂(しげ)みに身(み)を潜(ひそ)めていたシオン教徒たちをすべてマーキングしていた。その時点でもう既に彼等にはこの世界に逃げ場はなくなったことになる。所謂(いわゆる)詰(つ)みの状態だ。


 彼等は最初からどこへ逃(のが)れようとも全くの無駄だったのだ。



 転送されてきたシオン教徒たちは皆、男色(だんしょく)系オーク、ゴブリンたちのおもちゃにされた。先に御釜(おかま)を掘(ほ)られた者たち7人と合わせて計18人である。

 彼等は9人ずつ、2つのグループに分けられ、一方はオークの集落へ、そして、もう一方はゴブリンの郷(さと)へと送られることになったのである。


 男色(だんしょく)の気(け)があるのに、いつもいやいや女性を襲(おそ)っていたオーク、ゴブリンたちはカミングアウトできたことと、おもちゃにできる者たちを連れて帰ることができることを非常に喜んでいる。これまでは肩身(かたみ)が狭(せま)い思いをしていたのであろう……。



『マイミィ、ユリコ、マルルカ。ちょっと聞きてぇんだが……シオン教徒は全部で何人いた?』

『えーと……全部で40人よ。どうかした?』


『ユリコ……本当にそれで全部か? 俺が調べたときには50人いたんだが……』

『そうなんですかっ!』

『そうなると数が合いませんね……どこに行ったんでしょうか?』


『ちょっと待ってな、調べてみる。……いたぞ!10人の生命体反応は神殿の方に向かっている! なんか嫌な予感がするな……お前さんたち、疲(つか)れているところを申し訳ねぇが神殿に行ってみてくんねぇかなぁ?』

『はい。承知しました!』『はい。喜んで!』『いいわよ。行ってあげる』


『悪ぃな。頼む。あ、それからヤツらは発見し次第ぶっ殺せよ。なんかやらかそうと思っているに違いねぇから、その前にとっととぶっ殺すのが一番だ。頼むぞ』

『分かりました』『承知(しょうち)しました。殲滅(せんめつ)します』『分かったわ』



 ◇◇◇◇◇◇◇



「ノアハさん、ダメです! ブレスレットが熱(ねつ)をもってきました!

 もうフェイザーが撃(う)てません!」

「ラヴちゃんもなの? あたしのもダメ! どうしよう?

 神術(しんじゅつ)は敵(てき)のシールドに弾(はじ)かれちゃうし……」


 浄水場の前ではラヴとミューイが苦戦していた。

 その結果、ノアハひとりに負担がかかっている。戦況(せんきょう)は思わしくない。


 敵はシールドを展開している。そのため、ノアハ以外の攻撃神術が通用しない。

 敵のシールド周波数(しゅうはすう)に攻撃神術を同期させられないミューイとラヴが使えるのは現状ではフェイザー銃のみであった。


 しかも、そのフェイザー銃も過度(かど)の連射(れんしゃ)のために熱をもってしまい、安全装置が働いて現在は使用できなくなってしまっている。


 オークども、そして、ゴブリンどもはジリジリと距離を詰(つ)めてきている。


 敵もシールドの中にいるため物理(ぶつり)攻撃はできない。オークどもやゴブリンどもの中には魔導士(まどうし)はいないようだ。いてもシールド越(ご)しに魔法攻撃を行える能力を持つ者がいないのかも知れない。


 オークどもを招喚した敵(てき)魔導士(まどうし)は次々とオーク、ゴブリンを招喚している。その数はすでにオークとゴブリンを合わせて1000体以上になってしまっている。

 敵魔導士は攻撃魔法が使えないのか、あるいは、招喚に魔力を使うために攻撃をしてこないのか……魔法による攻撃を放つことはない。


 ノアハたちは、招喚を止めるために敵魔導士を狙(ねら)っているのだが、オークが身(み)を挺(てい)して盾(たて)になって攻撃を防いでいるため、彼女たちの攻撃は魔導士まで届かない。

 シンが派遣したミニヨンたちも苦戦している。敵の数が多すぎる上に、敵の数がどんどん増えているからだ。倒しても倒してもキリがない。



「ノアハさん、どうしましょう?」


 彼女たち3人の中でノアハが一番年下(としした)だ。ただし、肉体年齢は……である。

 生存(せいぞん)年齢(ねんれい)は36歳。しかも、エルフの国の辺境(へんきょう)で国境警備隊の隊長を務(つと)めていたほどの優秀な人物であり、経験の方も大変豊富(ほうふ)だ。

 その上、天才的な神術の使い手であるため、他の二人からは頼りにされている。


「このままではいずれ彼等に取り囲まれてしまいますね。ちょっと試したい神術があるのですが、試してみてもよろしいですか? 実戦では初めてなんですが……」

「ノアハさんにお任(まか)せします。あたしたちは今何もできないので……」

「はい。今はフェイザーが撃てないのでお手上げです。何かこの状況を打破(だは)できる手があるのでしたら是非(ぜひ)試して下さい。お願いします」

「分かりました。やってみます!」


 ノアハは眉(まゆ)を吊(つ)り上(あ)げ"キリリ"と敵を睨(にら)む。


「烈火(れっか)の壁(かべ)!」


 シンが敵の大群を相手にするときに使うことが多い『烈火の壁』をノアハは出現させようとしたのである。

 そして、神術の発動は見事に成功した。ノアハたちの目の前に巨大な燃えさかる炎の壁が出現する。


「「えっ!?」」

「ダーリンが使っている神術よね? す、すごい……さすがはノアハさん!」

「烈火だって発動するのに苦労するのになぁ。すごいわよね? ねぇ?ミューイ」

「うん。すごいよね。

 あたしなんか、ここに来る前の最後のミノタウロス戦の中で、漸(ようや)く烈火が使えるようになったばかりだっていうのに……。彼女の才能には脱帽(だつぼう)よね?」


 神や管理助手でもない者が烈火の壁を出現させただけでもすごいことなのだが、ノアハはその壁を迫(せま)り来(く)る敵(てき)に向かって移動させている。自由に操(あやつ)れるのだ。


 やはり、ノアハ・ロバート・ヴェリエは神術について、類(たぐ)い稀(まれ)な才能の持ち主である。天才と言っても過言(かごん)ではない。


 "ぎゃっ……"

「や、やめろっ! く、来るな!……ぎゃっ……」


 ノアハが出した烈火の壁は、敵のシールドを物ともせず突き進んでいく。


 烈火の壁が通った後には灰すらも残らなかった。ほんのちょっと前まで、そこに大量の魔物がいたなどとは想像すらできないほど綺麗(きれい)に何も残っていない。

 オークどもやゴブリンどもの招喚に精(せい)を出していた敵魔導士は悲鳴を上げようとした瞬間に消滅してしまったのだ。


 なんとも呆気(あっけ)ない展開である。


「ふぅ~っ。うまくいって良かった! 烈火は使えていましたので烈火の壁の方もなんとなくできそうだと思っていましたが……できて良かった!」

「ノアハさんはやっぱりすごいわね。ダーリンがその才能に惚(ほ)れ込(こ)むはずだわ」

「ホントね。ミューイの言う通りよ。あ~あ。私も使えるようになりたいな。

 今度コツとかを教えてね」

「ええ。一緒に練習しましょうね」

「ラヴちゃんずるい! あたしも仲間に入れて!」

「もちろんです。ミューイさんも一緒に練習しましょう」


 そこへ漸(ようや)くシンが転移して来た。


 91人の手下と共にボラコヴィアを襲おうとしていた盗賊のボス……

 ふんどし一丁でふん縛(じば)って転がしておいた男をそのまま放置することはできず、その対応に少々時間を費(つい)やしたためにちょっと遅くなってしまったのだ。


 因(ちな)みにシンはボスに隷従の首輪をつけて解放し、盗品をすべて新ボラコヴィアの神殿に持ってきて寄付するように命令してある。

 現在、盗賊のアジトには攫(さら)われて来た者は誰もおらず、盗品しかないということだったからシンはそうした。


 なおアジトには手下が数名見張りとして残されていたらしいが、そいつらはこのボスの手で始末させることになっていて……

 そのボスも盗品を神殿に届け次第自害するように命令されている。


 当然ボスの魂は"輪廻転生(りんねてんしょう)システム"のブラックリストに登録済みだ。



「お待たせー、って…敵は? もう殲滅(せんめつ)しちまったのか?」

「はい。ノアハさんが『烈火の壁』で……」

「ほぉう? ノアハ、すげぇなぁ! 烈火の壁まで使えるようになったのか?」

「は、はい。今日初めて使ってみたのですが、うまく行きました!」

「いやぁ~、お前さんはやはり天才だなっ! さすがだぜ!」


 シンはノアハの才能が嬉しくてしょうがなくて彼女の頭を『いい子、いい子』といった感じで撫(な)でている。

 ノアハは頬(ほほ)を染(そ)めて照(て)れる……。一方、ラヴとミューイはジト目をしていた。


「お前さんたちもよくがんばってくれたな! みんな、ありがとうな!」


 シンが二人のジト目に気付いたのかどうかは分からないが、ノアハに続いて他の二人の頭も順に撫(な)でたのだった。



 ◇◇◇◇◇◇◆



『ダーリン、た、助けてぇ~。ご、ゴブリンに囲(かこ)まれたっす!』

『フェイザー銃がオーバーヒート。攻撃神術は敵シールド突破(とっぱ)不能(ふのう)。お手上げ』

『敵の数が多すぎてミニヨンたちの攻撃も焼け石に水ですぅ。どうしましょう?』


『よし。分かった。ここは一旦(いったん)退却(たいきゃく)だな。俺は今ノアハたちと一緒に浄水場にいるから、一度俺のところへ転移しておいで。それからみんなでリベンジだ』

『『『はいっ!……転移!』』』


 ウェルリ、ジー、ソニアルフェが俺の側(そば)へと転移して来た。


「ダーリン! 怖かったっす! 怖かったっすよぉ~」

「敵の攻撃はシールドで完全に無効化していた。でも、肝(きも)が冷(ひ)えた」

「ふぇぇぇぇ~ん、怖かったですぅ~」


 俺はソニアルフェ、ウェルリ、ジーの頭を順に撫(な)でる……

 『よし よし、いい子 いい子』といった感じである。


 彼女たちがこちらへ転移して来たのと入れ替えに、彼女たちがいた場所の地下にシールド発生装置を転送する……

 シオン教徒たちとゴブリンどもをまるっと覆(おお)って、彼等をどこへも逃げられないようにするためだ!


 さぁ~てと、これでどうやってぶっ殺すかじっくりと考える時間ができた……

 ちょっとヤツらにひと言……


『シオン教徒どもよ! よぉ~っく聞けぇいっ! 俺はこの世の神だ!

 てめぇら、よくも俺の大切な大切なハニーたちを怖がらせてくれたなぁ?

 この借りはキッチリと返してやるっ! みんなそこで首を洗って待つがいいっ!覚悟しておけっ! ふっふっふっ……あーっはははははははっ!』


 ハニーたちにも念話でこれを聞かせた。

 みんな肩をすくめてゆっくりと首を左右に振りながら苦笑いしている。


 ん? 今ジーが鼻でフンと笑わなかったか!?



「さあ、質問だ! ヤツらをどう料理する? 何かいいアイディアはねぇか?」

「はい、は~いっ!」

「はい、ミューイ」

「ダーリンの重力神術でプチッと潰(つぶ)しちゃったらどうでしょうか?」


 は・は・は……ノミかなんかを潰(つぶ)すみたいに軽く言うなぁ……。

 でも、一気に殲滅(せんめつ)するにはいい手だな、確かに……。


「その手があったか。なるほどミューイ、妙案(みょうあん)だ!……他には…何かないか?」

「は…はい」


 ソニアルフェが恐る恐る手を挙げる……


「はい、ソニアルフェ」

「は、はい。あのう……まるごとサンドワームの巣へ転送するというのでは?」


 ああ、そういえばこのところサンドワームくんたちに餌(えさ)をやってないなぁ……。

 別に彼等と約束しているわけじゃないんだが……。


「なるほど、それもいいな。サンドワームの餌(えさ)にするのも悪くねぇ」


「はい。いいでしょうか?」

「おう、ラヴ。いいぜ」

「後学(こうがく)のために……ノアハさんの烈火(れっか)の壁(かべ)をもう一度見てみたいので、烈火の壁で殲滅(せんめつ)してもらってはいかかでしょうか?ノアハさんに放ってもらって……」


 そうだな、ノアハが放つ烈火の壁がどれほどの威力か確かめておくのもいいかも知れないな。


「そうだなぁ……俺もノアハが放つ『烈火の壁』がどれほどの威力(いりょく)か知りてぇな。

 よし!それじゃぁ、まず俺が強(きょう)重力場(じゅうりょくば)を生成してヤツらをプチッと潰(つぶ)して……

 その後、ノアハに『烈火の壁』を放ってもらって死体を綺麗(きれい)さっぱり跡形(あとかた)もなく燃やし尽(つ)くしてもらおうかな?

 ソニアルフェにはすまねぇが、ヤツらには魔道士がいるから……サンドワームが魔法で攻撃されるといけねぇ。だから、それはまた今度にしようと思う。

 折角(せっかく)アイディアを出してくれたのに……ごめんな、ソニアルフェ」


「いえいえ。お、お気になさらないで下さい」


 そう言いながら、ソニアルフェが肩を落として俯(うつむ)く……。

 俺は思わず彼女をギュッと抱きしめてしまった。なんかかわいそうで見ていられなかったのだ。


「いいアイディアだったぜ。それは本当だ。ただな、今回はちょっと使えねぇってだけだからな。これに懲(こ)りずにこれからもどんどん意見を……思ったことを言ってくれよ。頼むな」


 んっ?ジーが『さあ今度は私を抱(だ)きしめて……』とでも言いたげに両手を広げ、アゴをちょっと上げて目を閉じて待っている?


 分かったよ……いつものパターンだな。

 平等に!ってことだよな。そうだよな、当然だ。承知した!


 この場にいるハニーたち全員、各(おのおの)に労(ねぎら)いの言葉を添(そ)えながら順にギュッと抱(だ)きしめていった。



 ◇◇◇◇◇◆◇



 ソニアルフェ、ウェルリ、ジーが取り囲まれていた場所が臨(のぞ)める空中に転移して来ると、シールドの中に囚(とら)われているシオン教徒たちを見下ろしながら言う……

 ハニーたちも俺と一緒にこちらへ転移して来ている。彼女たちは空中ではなく、俺の真下よりもやや後方となる地面に転送した。


「クソ野郎ども! 待たせたなぁ~」


 "見えざる神の手"を出してその上に乗っているので敵からは俺があたかも空中に静止しているかのように見えていることだろう。


「邪神(じゃしん)めっ! 誰がお前なんかを待つかっ! 早く俺たちをここから出せ!」

「囚(とら)われの身のくせに偉(えら)そうに……。まあ、そんなことをほざけるのも今の内だけなんだがな。はははははっ!」

「我々に危害を加えると、め、女神様の天罰が下るぞ!」

「あはははっ! みんなぁ笑っちゃうよなぁ。まだ女神シオンが実在すると思っているヤツがいるぜ? バッカだよなぁ?」


 俺は天に向かって叫ぶ!


「おーいっ! シオンっ! お前の大事な信者が殺されそうだぞぉっ!

 助けてやらねぇのかぁっ!? 助けねぇのならぶっ殺すぜぇ~っ!

 どうするぅっ!? なんか言ってみろっ!?」


 シオン教徒たちをニヤリと笑いながら見下(みお)ろす。


「ほら、シオンに祈ってみろよ? さあさあ!

 まあ……シオンなんて実在しねぇから祈りは届かねぇけどな! ははははっ!」

「う、うるさいっ! ……ああ、我らが偉大なる女神様! シオン様っ!

 どうか我々を邪神の魔の手よりお救い下さい。 お助け下さいっ!……」


 ヤツらの祈りに一区切(ひとくぎ)りつくまで取(と)り敢(あ)えず待ってやる……。


「どうした? 助けに来ねぇなぁ? 来られるわけねぇよな、いねぇんだからよ!

 はははっ! もし仮(かり)に……女神シオンってのが実在したとしてもいざという時に助けてくれねぇんだったらいねぇと同じだろう? 違うかぁ?

 てめぇら、今改心(かいしん)してシオン教から足を洗うって言うんだったら命だけは助けてやるがどうするぅ?」

「だ、誰が……誰が邪神の言うことなんか聞くかっ!」


 俺は威圧(いあつ)しながら言う……


「そうか。バカなヤツらだぜ。俺の大切なハニーたちにちょっかいを出したんだ、当然、殺されても文句は言わねぇよなぁ?」


 ん?死んでしまったら文句の言いようがないよなぁ?


「だ、だだだ、黙れっ! じゃ、じゃ、邪神めっ!」


 ヤツら10人のリーダーらしき魔導士が、ガタガタ震えながら言った。


「じゃぁ、死ね!

 局所的(きょくしょてき)強(きょう)重力場(じゅうりょくば)のコンストラクタをコール!

 パラメータGに対(たい)惑星(わくせい)重力(じゅうりょく)100倍、100G(ジー)をセット!

 重力場生成場所を、指定シールド内に限定!

 局所的強重力場……クリエイトっ!」


 神術を発動するのに仰仰(ぎょうぎょう)しくこんなことを言う必要はない。ただ、念じるだけで発動は可能だ。

 ハニーたちの前だからちょっとだけ格好を付けたかったのと、ひょっとしたら、神術の天才であるノアハにとって、重力系の神術をマスターするための参考になるかも知れないとの考えから、呪文らしき言葉を発したのである。


 まぁ、格好を付けたかったっていうのが一番の理由なんだけどね……。


 ブブブブブブブ………ブブブブブシャッ!


 シオン教徒ども、そして、彼等が招喚したゴブリンどもは皆、自らの重(おも)みに堪(た)えかねて一瞬で潰(つぶ)されて果(は)てた。

 シールド発生装置によって展開されているシールド内は血の海だ……直視(ちょくし)に堪(た)えない光景だ。ハニーたちも皆、目を背(そむ)けている。


「えーと……ノアハ、頼む!」

「は、はい。……烈火の壁!」


 目の前に見事な炎の壁が出現する。俺が作り出す烈火の壁と遜色(そんしょく)がない。


 その壁はゆっくりとシールドへと向かっていく……。そして、まるでシールドが無いかのように、シールド内も焼き払いながら、シールドが展開されている場所を越えて向こう側へと抜ける。その後、そのまま暫(しばら)く移動して消えたのである。


 炎の壁が通過した後にはシールド以外何も残らなかった。灰すら残っていない。

 さすがはノアハだ。火力も俺が作り出す烈火の壁とほぼ同じだ。


 シオン教徒たちの魂は当然、その色(いろ)に関係なく、"奈落(ならく)システム"へと放り込んでやった。俺の大切なハニーたちにちょっかいを出そうとしたのにあっさりと殺してやったんだ。せめて魂ぐらいは地獄(じごく)をたっぷりと味わわせてやるのだ。



 シールドを消し、シールド発生装置を回収しながらノアハを褒(ほ)める……


「ノアハ。さすがだぜ! お見事!」

「ありがとうございます! 何かお気付きの点はございませんでしたか?」

「いや。完璧(かんぺき)と言っていいできだぜ!」

「はいっ!ありがとうございますっ!」


「次は重力系神術の習得(しゅうとく)かな?」

「え? 私の心をお読みになったんですか?」

「いや、できるけど、さすがに勝手に心を読んだりはしねぇよ。

 でも、やっぱりそうだったか。見てやるからちょっとやってみろよ」


「よろしいんですかっ! 嬉しいっ! では……

 局所的強重力場のコンストラクタをコール!

 パラメータGに対惑星重力100倍、100Gをセット!

 重力場生成場所を指定シールド内に限定!

 局所的強重力場……クリエイトっ!」


 すごいな。もうちゃんと覚えている。さすがだ。やっぱりこの子は天才だな。


 神術は発動しなかった……ノアハの表情が暗くなる。


「うまく行きません……」

「強重力場を作り出したい場所の地下から、すべての物をすごい力で引っ張ろうとしているとイメージするか、その場所にある物の重さが100倍になってしまったかのようにイメージしてごらん」

「はい!……局所的強重力場のコンストラクタを……」


 再びノアハが呪文を唱える……すると、なんと!あっさりと強重力場を生成してしまったのだ! 恐るべき才能だ!


「で、できましたっ! ダーリン! できましたっ!」

「お、おうっ! ハニー、お前さんはすげぇな! すげぇ才能だぜっ!

 俺が見込んだ通りだ!」


 その場にいた他のハニーたちも全員がやりたがったので、指導してみたんだが、やはりノアハ以外は誰も重力系神術を使えない……いや、ソニアルフェは使えた。 ただし、彼女が強重力場を作り出そうとすると、なぜか反重力場になってしまうのだ。ある意味、彼女も天才だ。


 本人は『私はなんてダメな女なの……』と落ち込んでいるが、実はこれはすごいことである。この神術をうまく制御できれば空だって飛べるようになる。


「ソニアルフェ。落ち込まなくてもいいぞ! いや、むしろ自信を持て!

 反重力場を生成できるんだぜ!? すげぇよ! お前さんもすげぇ才能だ!」

「え? そ、そうなんですか?」


「ああ。うまく制御できるようになりゃぁ、空だって飛べるようになるぜ。

 これはすごい神術だ。それで……どういったイメージで発動しているんだい?」

「えーっとぉ、地面にあるものを引っ張るようなイメージでしょうか?」


「なるほど。それじゃぁ、逆に押すイメージでやってみな」

「はい。……強重力場生成!」


 すると今度はちゃんと強重力場が生成されたのだ!引いたり押したりする方向を間違えてイメージしていただけなのかも知れない……。これから研究されるのかも知れないが……この世界にはまだ学問としての物理学はない。

 この世界の住人である彼女たちには、自然科学についての知識が不足している。

 だから、重力といってもピンと来ないのだろう。


 反重力場を生成できたんだから、彼女なら強重力場も絶対に生成できると思っていたが……やはり単にどのようにイメージするかだけの問題だったんだなぁ……。

 この子も絶対に才能がある!


「おっ!? できたじゃねぇか? いいぞ! そのイメージだ」

「はいっ!」


 ソニアルフェの顔に自信がみなぎる。

 俺とソニアルフェとの会話をじっと聞いていたノアハが『Aha!(なるほど!)』というような表情をするとすぐに呪文を唱えだした。そして……


「……反重力場生成!」


 ノアハはやはり天才だ。反重力場生成も一発で成功させたのだ!

 重力場の変化を確かめるために、オーク型ゴーレムを数体立たせていたのだが、それらが空中に浮いている。まるで宇宙遊泳(うちゅうゆうえい)でもしているかのように……だ。


「ノアハ! やるなぁ! さすがだ! 反重力場生成もマスターしちまったか!」

「はい。ダーリンとソニアルフェとの会話がとても参考になりました。ありがとうございます。ソニアルフェ、ありがとう」

「そうか」「いえ、どういたしまして」


 他のハニーたちは、ソニアルフェとノアハから重力場生成、反重力場生成の発動方法について丁寧(ていねい)な説明を受けたのだが、残念ながら重力系神術は使えなかった。

 単に、発動後の状態をイメージできるかどうかの問題だけだと思う……だから、まあその内にみんなできるようになるとは思う。


 気が付くと夜(よ)も大分更(ふ)けてきた。

 そろそろみんなで新ボラコヴィアの町へ戻ろうかと話をしていると……


『シン! 大変よ! 追っていたシオン教徒たちが神官たちを盾(たて)にして神殿に立てこもってしまったの。ミョリム、ラヴィッス、ヴォリルも一緒にいるわよ』


 マップで確認するとユリコたちは神殿前広場にいる。


 ミョリムたちも『一緒にいるわよ?』ってのは、彼女たちはどっちにいるんだ?

 ユリコたちと一緒ってことか?それとも捕まっているってことなのかな?

 と、そうだ。マップで確認すればいいな……ああ、やっぱり捕まっているのか。


『ユリコ! ミョリムたちまでもが捕まってしまったっていうんだな?』

『ええ。神官や神子(みこ)たちを人質(ひとじち)に取られてしまったため、仕方(しかた)なくしたがっているようです』


『あのう、シンさん。ガギガガ師の一番弟子を見つけました。あの男は、この町の統括(とうかつ)神官(しんかん)に成(な)り済(す)ましていました。私の顔を見るとハッとしたような表情を見せて顔を隠しましたので絶対に間違いありません』


 その男に実際にあったことがあるマイミィが言うんだから間違いないだろう。

 しかし、神殿組織に食い込んでいるシオン教徒がどれだけいるんだろう……。

 スリンディレ・クラルケのチーム、神殿視察団をもっと強化する必要がありそうだなぁ……。


『あっ! 女性たちの悲鳴が聞こえてきました! シン、早く来てっ!』

『分かった。その前に神殿の中にいる女性たちをすべてお前さんたちがいる広場に転送するぞ! その中には敵も含まれるかも知れねぇから注意してくれ!』

『分かりました』


 <<全知師!

  ボラコヴィアの神殿にいる全女性をターゲット指定して、神殿前広場に早急(さっきゅう)に転送せよ!

 >>承知!

  ボラコヴィアの神殿内の全女性をターゲット指定…………指定完了!

  転送!


『あっ。シン、女性たちが転送されてきたわ! ミョリムたちも一緒よ!』

『よし! 彼女たちのことを頼む! 俺は今から神殿に乗り込む!』

『『『はいっ!』』』


 さあクソ野郎ども! 首を洗って待っているがいいっ!




いつもお読み下さり、ありがとうございます。

ブックマークして下さっている方々に深謝します!

m(_"_)m

※拙作では敢えて『招喚』という字を使っています。

挿絵(By みてみん)

----------

2019.12.10:放ったらかしになっていた盗賊のボスについての記述を追加。他。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。