第066話 ボラコヴィア攻防戦
「さあぁオークたちよ! ゴブリンたちよっ!
門の外でニヤついている卑怯なシオン教徒どもを殲滅せよ!」
"ウオォォォォォォーーッ!""グォーーーーッ!"
ズンズンズンズン…ドッドッドッドッドッド…ドドドドドドドドドド……
マイミィの命令に、オークたち、ゴブリンたちは180度向きを変え、門の外のシオン教徒たちを殲滅するために一斉に走り出す。
「シオン教徒の男どもを凌辱せよ! お前たちのそのぶっとい一物を、男どものケツの穴にぶち込んでやれ!
だが! 女性は無傷で捕まえろ! 我らが偉大なる神は女性が凌辱されることを最も嫌う! だから絶対に女性には手を出すんじゃないぞ! いいなっ!」
マイミィに支配されたオークたち、ゴブリンたちは動きをピタリと止めた。
そして、彼等はぎこちない動きで首を回してマイミィの方を見た。
彼等の首はまるで錆びた金属でできているんじゃないかと思えるような、そう、『ギギギギギギッ』と軋むような音が聞こえてきそうな動きでマイミィの方を振り返ったのである。
彼等の顔はしょぼかった……。
眉はカタカナの"ハ"の字ように眉尻を下げ、目はうるうるしている……。
口は少し開き気味の"へ"の字だ。 まるで……
"え~~~っ?男の御釜を掘るなんてぇ~、そんな命令は嫌だぁ~っ。"
というような声が聞こえてきそうである。
オークたちの中、そして、ゴブリンたちの中には、それぞれ数匹だけだが非常に嬉しそうにしているヤツらがいる。
男色のオークに、ゴブリン……。論理的に考えれば存在しても不思議じゃない。
それもひとつの個性というものである。
他者に迷惑をかけるのでなければ、性的指向の多様性はあってもいいだろう。
「な、なんだ!? お前たち!? しょぼい顔をしやがって!?
女のあそこも男のケツの穴も、穴には変わりないだろうがっ!?
突っ込めりゃ気持ちいいんだろう!? 違うのかっ!?
固まっていないでサッサとやっちまえ!」
「ね、ねぇ、ユリコさん。マイミィってあんなキャラだったかしら?なんか性格が変わってしまっていませんか?」
「やっぱりマルルカもそう思った?よくいるのよねぇ……ハンドルを握ると性格が変わちゃう人って。彼女の場合は魔物の支配権を握ると……なんだろうけどね」
「え?なんですか?"はんどる"って?」
「ああ……ごめん。この世界の話じゃないの。忘れて」
「……あ、は…い……???」
勇者ユリコと聖女マルルカは亜空間収納ウエストポーチからテーブル1脚と椅子2脚、そして、ティーセットを取り出して一緒にティータイムを楽しみながら見物している。
シンを除けば、この世界で最強、最高の魔物使いであるマイミィに全幅の信頼を寄せているのだろう。
ほとんどのオークたち、ゴブリンたちは肩を落とし、トボトボと門の外へと出て行こうとする。
もちろん男色系のものたちだけは別だ。彼等は皆、スキップしているかのような軽やかな足取りだ。
「ねぇねぇ、ユリコさん。あそこもお尻の穴も男性にとっては一緒じゃないの?
同じように気持ちいいんじゃないの? 教えて下さい」
「な、なんで私に聞くのよ!? 男の人じゃないからそんなの分からないわよ!」
「ほらぁ~、私もぉ~、マルルカもぉ~男性経験がないからぁ……ユリコさんならわかるかなぁ~って思って。で、どうなんですか?」
「わ、私だってこの身体はまだ、そのう……経験はないし、転生前もシンしか知らないし、彼にもそんなこと聞いたことないからって! 一体何を言わせるのよっ!
やめてよっ!」
勇者ユリコの顔は茹で蛸のように真っ赤だ。
対するマイミィとマルルカはニヤニヤしている。
オークたちはそうこうしている間も肩を落として嫌そうにダラダラ歩いて行く。
「ええーーいっ! もうっ! 分かったわよっ!
男どもを凌辱したいものたちはそうして!
それが嫌なものたちはぶっ殺すだけでいいわ! だからとっととやりなさい!
さあ! 早くっ!
ああ! だけど、絶対に女性には手を出しちゃだめよっ! いいわねっ!」
女性には手を出すなと言われてオークたち、ゴブリンたちは『はぁ~』とひとつため息をついて目を閉じながらうなだれる。
彼等にとっては種族保存という意味で女性を確保することが最重要であるから、『女性には手を出すな』と言われるとやる気が殺がれるのだろう。
だが、なんとか気を取り直したようで彼等は雄叫びを上げた。
"ウォォォォォォーーーッ!"
それからオークたち、ゴブリンたちは一斉に門の外へと走り出したのである。
勇者ユリコと聖女マルルカは肩をすくめて苦笑いしている。
やれやれ漸く動き出したか……という表情が、ユリコとマルルカの顔には現れていた。
すったもんだしている間に身の危険を察知したシオン教徒たちは、まるで蜘蛛の子を散らすかのように逃げ去ってしまっていた。これは痛いミスである。
結局、シオン教徒の男性信者11名を取り逃がしてしまうこととなったのだ。
残りの者たちについては……
オークたち、ゴブリンたちに殺された者が10名で全員が男性信者。
男色系オーク、ゴブリンに御釜を掘られた者が7名。全員が男性信者。
オークたち、ゴブリンたちに捕まった者が12名。全員が女性信者。
という結果になった。
『上様、すみません。シオン教徒を11名も取り逃がしてしまいました』
マイミィは結果を念話でシンに報告した。
シンはユリコ、マルルカとも念話を繋いで言う……
『そうか。それじゃぁ、俺がすぐに捕まえてそっちに送ってやるから、東門の前で待っていてくれるか?』
『え? そんなことができるのですね?
さすがは我が神ですぅ! 尊敬しますぅ!』
『マイミィ、どうした?えらく俺に対する信仰心が厚くなっているじゃねぇか?』
『それは当然です!
死者を一瞬で生き返らせたり、大火災を一瞬で消したり、何もなかったところに町を創り出したり……あれだけの奇跡を目の当たりにしたのです。信仰心が高まらない方がおかしいです。
我が神、シンイチロウ様! 貴方様だけが私の神です!
いえ、この世の唯一絶対の神です! どうして崇拝せずにいられましょうや!』
『は・は・は……そ、そうか。でも、今まで通り、俺のことは"シンさん"と呼んで欲しいな。頼むよ』
『我が神のご命令とあらばそうします。
それで……し、シンさん、あのう……私、決心しました!』
『へっ? 何を?』
『私は一生貴方様について行きますっ! よろしくお願いしますっ!』
シンは、マイミィがどういった意味で一生ついてくると言ったのか、その真意を測りかねる……。
『わ、私もです! 数々の奇跡を見て、貴方様に……貴方様に…惚れました!
一生、お側において下ちゃい!……さい』
マルルカが噛んだ。マルルカの顔は真っ赤になった。
するとユリコの顔色が悪くなる……
『ま、マルルカ!?あなたもシンのハーレムメンバーになるって言うの?』
『あ、聖女様ずるいです!
それなら私も! 是非ハーレムメンバーにお加え下さい!
お願いしますっ!』
『えーっ!? マイミィもなの!?』
勇者ユリコは愕然としている。
シンは悟った。どうやら彼女たちは俺の嫁になりたいと願っていることを。
『二人ともありがとうな。嬉しいよ。ダンジョン攻略が終わったらじっくりとその話をしような』
『『はいっ!』』
勇者ユリコはひとり取り残されてしまったような気持ちでいた。
自分の気持ちを素直にシンに伝えるチャンスだったのに……ハーレムメンバーという言葉に引っかかりを覚えて言い出せなかった……。
『転送!』
町の東門の外である。
ユリコ、マイミィ、マルルカの目の前にシオン教徒11名が転送されてきた。
彼女たちの側にはオークたち、ゴブリンたちも控えている。
シンは最初に索敵した際、既に東門側の茂みに身を潜めていたシオン教徒たちをすべてマーキングしていた。その時点でもう既に彼等にはこの世界に逃げ場はなくなったことになる。所謂詰みの状態だ。
彼等は最初からどこへ逃れようとも全くの無駄だったのだ。
転送されてきたシオン教徒たちは皆、男色系オーク、ゴブリンたちのおもちゃにされた。先に御釜を掘られた者たち7人と合わせて計18人である。
彼等は9人ずつ、2つのグループに分けられ、一方はオークの集落へ、そして、もう一方はゴブリンの郷へと送られることになったのである。
男色の気があるのに、いつもいやいや女性を襲っていたオーク、ゴブリンたちはカミングアウトできたことと、おもちゃにできる者たちを連れて帰ることができることを非常に喜んでいる。これまでは肩身が狭い思いをしていたのであろう……。
『マイミィ、ユリコ、マルルカ。ちょっと聞きてぇんだが……シオン教徒は全部で何人いた?』
『えーと……全部で40人よ。どうかした?』
『ユリコ……本当にそれで全部か? 俺が調べたときには50人いたんだが……』
『そうなんですかっ!』
『そうなると数が合いませんね……どこに行ったんでしょうか?』
『ちょっと待ってな、調べてみる。……いたぞ!10人の生命体反応は神殿の方に向かっている! なんか嫌な予感がするな……お前さんたち、疲れているところを申し訳ねぇが神殿に行ってみてくんねぇかなぁ?』
『はい。承知しました!』『はい。喜んで!』『いいわよ。行ってあげる』
『悪ぃな。頼む。あ、それからヤツらは発見し次第ぶっ殺せよ。なんかやらかそうと思っているに違いねぇから、その前にとっととぶっ殺すのが一番だ。頼むぞ』
『分かりました』『承知しました。殲滅します』『分かったわ』
◇◇◇◇◇◇◇
「ノアハさん、ダメです! ブレスレットが熱をもってきました!
もうフェイザーが撃てません!」
「ラヴちゃんもなの? あたしのもダメ! どうしよう?
神術は敵のシールドに弾かれちゃうし……」
浄水場の前ではラヴとミューイが苦戦していた。
その結果、ノアハひとりに負担がかかっている。戦況は思わしくない。
敵はシールドを展開している。そのため、ノアハ以外の攻撃神術が通用しない。
敵のシールド周波数に攻撃神術を同期させられないミューイとラヴが使えるのは現状ではフェイザー銃のみであった。
しかも、そのフェイザー銃も過度の連射のために熱をもってしまい、安全装置が働いて現在は使用できなくなってしまっている。
オークども、そして、ゴブリンどもはジリジリと距離を詰めてきている。
敵もシールドの中にいるため物理攻撃はできない。オークどもやゴブリンどもの中には魔導士はいないようだ。いてもシールド越しに魔法攻撃を行える能力を持つ者がいないのかも知れない。
オークどもを招喚した敵魔導士は次々とオーク、ゴブリンを招喚している。その数はすでにオークとゴブリンを合わせて1000体以上になってしまっている。
敵魔導士は攻撃魔法が使えないのか、あるいは、招喚に魔力を使うために攻撃をしてこないのか……魔法による攻撃を放つことはない。
ノアハたちは、招喚を止めるために敵魔導士を狙っているのだが、オークが身を挺して盾になって攻撃を防いでいるため、彼女たちの攻撃は魔導士まで届かない。
シンが派遣したミニヨンたちも苦戦している。敵の数が多すぎる上に、敵の数がどんどん増えているからだ。倒しても倒してもキリがない。
「ノアハさん、どうしましょう?」
彼女たち3人の中でノアハが一番年下だ。ただし、肉体年齢は……である。
生存年齢は36歳。しかも、エルフの国の辺境で国境警備隊の隊長を務めていたほどの優秀な人物であり、経験の方も大変豊富だ。
その上、天才的な神術の使い手であるため、他の二人からは頼りにされている。
「このままではいずれ彼等に取り囲まれてしまいますね。ちょっと試したい神術があるのですが、試してみてもよろしいですか? 実戦では初めてなんですが……」
「ノアハさんにお任せします。あたしたちは今何もできないので……」
「はい。今はフェイザーが撃てないのでお手上げです。何かこの状況を打破できる手があるのでしたら是非試して下さい。お願いします」
「分かりました。やってみます!」
ノアハは眉を吊り上げ"キリリ"と敵を睨む。
「烈火の壁!」
シンが敵の大群を相手にするときに使うことが多い『烈火の壁』をノアハは出現させようとしたのである。
そして、神術の発動は見事に成功した。ノアハたちの目の前に巨大な燃えさかる炎の壁が出現する。
「「えっ!?」」
「ダーリンが使っている神術よね? す、すごい……さすがはノアハさん!」
「烈火だって発動するのに苦労するのになぁ。すごいわよね? ねぇ?ミューイ」
「うん。すごいよね。
あたしなんか、ここに来る前の最後のミノタウロス戦の中で、漸く烈火が使えるようになったばかりだっていうのに……。彼女の才能には脱帽よね?」
神や管理助手でもない者が烈火の壁を出現させただけでもすごいことなのだが、ノアハはその壁を迫り来る敵に向かって移動させている。自由に操れるのだ。
やはり、ノアハ・ロバート・ヴェリエは神術について、類い稀な才能の持ち主である。天才と言っても過言ではない。
"ぎゃっ……"
「や、やめろっ! く、来るな!……ぎゃっ……」
ノアハが出した烈火の壁は、敵のシールドを物ともせず突き進んでいく。
烈火の壁が通った後には灰すらも残らなかった。ほんのちょっと前まで、そこに大量の魔物がいたなどとは想像すらできないほど綺麗に何も残っていない。
オークどもやゴブリンどもの招喚に精を出していた敵魔導士は悲鳴を上げようとした瞬間に消滅してしまったのだ。
なんとも呆気ない展開である。
「ふぅ~っ。うまくいって良かった! 烈火は使えていましたので烈火の壁の方もなんとなくできそうだと思っていましたが……できて良かった!」
「ノアハさんはやっぱりすごいわね。ダーリンがその才能に惚れ込むはずだわ」
「ホントね。ミューイの言う通りよ。あ~あ。私も使えるようになりたいな。
今度コツとかを教えてね」
「ええ。一緒に練習しましょうね」
「ラヴちゃんずるい! あたしも仲間に入れて!」
「もちろんです。ミューイさんも一緒に練習しましょう」
そこへ漸くシンが転移して来た。
91人の手下と共にボラコヴィアを襲おうとしていた盗賊のボス……
ふんどし一丁でふん縛って転がしておいた男をそのまま放置することはできず、その対応に少々時間を費やしたためにちょっと遅くなってしまったのだ。
因みにシンはボスに隷従の首輪をつけて解放し、盗品をすべて新ボラコヴィアの神殿に持ってきて寄付するように命令してある。
現在、盗賊のアジトには攫われて来た者は誰もおらず、盗品しかないということだったからシンはそうした。
なおアジトには手下が数名見張りとして残されていたらしいが、そいつらはこのボスの手で始末させることになっていて……
そのボスも盗品を神殿に届け次第自害するように命令されている。
当然ボスの魂は"輪廻転生システム"のブラックリストに登録済みだ。
「お待たせー、って…敵は? もう殲滅しちまったのか?」
「はい。ノアハさんが『烈火の壁』で……」
「ほぉう? ノアハ、すげぇなぁ! 烈火の壁まで使えるようになったのか?」
「は、はい。今日初めて使ってみたのですが、うまく行きました!」
「いやぁ~、お前さんはやはり天才だなっ! さすがだぜ!」
シンはノアハの才能が嬉しくてしょうがなくて彼女の頭を『いい子、いい子』といった感じで撫でている。
ノアハは頬を染めて照れる……。一方、ラヴとミューイはジト目をしていた。
「お前さんたちもよくがんばってくれたな! みんな、ありがとうな!」
シンが二人のジト目に気付いたのかどうかは分からないが、ノアハに続いて他の二人の頭も順に撫でたのだった。
◇◇◇◇◇◇◆
『ダーリン、た、助けてぇ~。ご、ゴブリンに囲まれたっす!』
『フェイザー銃がオーバーヒート。攻撃神術は敵シールド突破不能。お手上げ』
『敵の数が多すぎてミニヨンたちの攻撃も焼け石に水ですぅ。どうしましょう?』
『よし。分かった。ここは一旦退却だな。俺は今ノアハたちと一緒に浄水場にいるから、一度俺のところへ転移しておいで。それからみんなでリベンジだ』
『『『はいっ!……転移!』』』
ウェルリ、ジー、ソニアルフェが俺の側へと転移して来た。
「ダーリン! 怖かったっす! 怖かったっすよぉ~」
「敵の攻撃はシールドで完全に無効化していた。でも、肝が冷えた」
「ふぇぇぇぇ~ん、怖かったですぅ~」
俺はソニアルフェ、ウェルリ、ジーの頭を順に撫でる……
『よし よし、いい子 いい子』といった感じである。
彼女たちがこちらへ転移して来たのと入れ替えに、彼女たちがいた場所の地下にシールド発生装置を転送する……
シオン教徒たちとゴブリンどもをまるっと覆って、彼等をどこへも逃げられないようにするためだ!
さぁ~てと、これでどうやってぶっ殺すかじっくりと考える時間ができた……
ちょっとヤツらにひと言……
『シオン教徒どもよ! よぉ~っく聞けぇいっ! 俺はこの世の神だ!
てめぇら、よくも俺の大切な大切なハニーたちを怖がらせてくれたなぁ?
この借りはキッチリと返してやるっ! みんなそこで首を洗って待つがいいっ!覚悟しておけっ! ふっふっふっ……あーっはははははははっ!』
ハニーたちにも念話でこれを聞かせた。
みんな肩をすくめてゆっくりと首を左右に振りながら苦笑いしている。
ん? 今ジーが鼻でフンと笑わなかったか!?
「さあ、質問だ! ヤツらをどう料理する? 何かいいアイディアはねぇか?」
「はい、は~いっ!」
「はい、ミューイ」
「ダーリンの重力神術でプチッと潰しちゃったらどうでしょうか?」
は・は・は……ノミかなんかを潰すみたいに軽く言うなぁ……。
でも、一気に殲滅するにはいい手だな、確かに……。
「その手があったか。なるほどミューイ、妙案だ!……他には…何かないか?」
「は…はい」
ソニアルフェが恐る恐る手を挙げる……
「はい、ソニアルフェ」
「は、はい。あのう……まるごとサンドワームの巣へ転送するというのでは?」
ああ、そういえばこのところサンドワームくんたちに餌をやってないなぁ……。
別に彼等と約束しているわけじゃないんだが……。
「なるほど、それもいいな。サンドワームの餌にするのも悪くねぇ」
「はい。いいでしょうか?」
「おう、ラヴ。いいぜ」
「後学のために……ノアハさんの烈火の壁をもう一度見てみたいので、烈火の壁で殲滅してもらってはいかかでしょうか?ノアハさんに放ってもらって……」
そうだな、ノアハが放つ烈火の壁がどれほどの威力か確かめておくのもいいかも知れないな。
「そうだなぁ……俺もノアハが放つ『烈火の壁』がどれほどの威力か知りてぇな。
よし!それじゃぁ、まず俺が強重力場を生成してヤツらをプチッと潰して……
その後、ノアハに『烈火の壁』を放ってもらって死体を綺麗さっぱり跡形もなく燃やし尽くしてもらおうかな?
ソニアルフェにはすまねぇが、ヤツらには魔道士がいるから……サンドワームが魔法で攻撃されるといけねぇ。だから、それはまた今度にしようと思う。
折角アイディアを出してくれたのに……ごめんな、ソニアルフェ」
「いえいえ。お、お気になさらないで下さい」
そう言いながら、ソニアルフェが肩を落として俯く……。
俺は思わず彼女をギュッと抱きしめてしまった。なんかかわいそうで見ていられなかったのだ。
「いいアイディアだったぜ。それは本当だ。ただな、今回はちょっと使えねぇってだけだからな。これに懲りずにこれからもどんどん意見を……思ったことを言ってくれよ。頼むな」
んっ?ジーが『さあ今度は私を抱きしめて……』とでも言いたげに両手を広げ、アゴをちょっと上げて目を閉じて待っている?
分かったよ……いつものパターンだな。
平等に!ってことだよな。そうだよな、当然だ。承知した!
この場にいるハニーたち全員、各に労いの言葉を添えながら順にギュッと抱きしめていった。
◇◇◇◇◇◆◇
ソニアルフェ、ウェルリ、ジーが取り囲まれていた場所が臨める空中に転移して来ると、シールドの中に囚われているシオン教徒たちを見下ろしながら言う……
ハニーたちも俺と一緒にこちらへ転移して来ている。彼女たちは空中ではなく、俺の真下よりもやや後方となる地面に転送した。
「クソ野郎ども! 待たせたなぁ~」
"見えざる神の手"を出してその上に乗っているので敵からは俺があたかも空中に静止しているかのように見えていることだろう。
「邪神めっ! 誰がお前なんかを待つかっ! 早く俺たちをここから出せ!」
「囚われの身のくせに偉そうに……。まあ、そんなことをほざけるのも今の内だけなんだがな。はははははっ!」
「我々に危害を加えると、め、女神様の天罰が下るぞ!」
「あはははっ! みんなぁ笑っちゃうよなぁ。まだ女神シオンが実在すると思っているヤツがいるぜ? バッカだよなぁ?」
俺は天に向かって叫ぶ!
「おーいっ! シオンっ! お前の大事な信者が殺されそうだぞぉっ!
助けてやらねぇのかぁっ!? 助けねぇのならぶっ殺すぜぇ~っ!
どうするぅっ!? なんか言ってみろっ!?」
シオン教徒たちをニヤリと笑いながら見下ろす。
「ほら、シオンに祈ってみろよ? さあさあ!
まあ……シオンなんて実在しねぇから祈りは届かねぇけどな! ははははっ!」
「う、うるさいっ! ……ああ、我らが偉大なる女神様! シオン様っ!
どうか我々を邪神の魔の手よりお救い下さい。 お助け下さいっ!……」
ヤツらの祈りに一区切りつくまで取り敢えず待ってやる……。
「どうした? 助けに来ねぇなぁ? 来られるわけねぇよな、いねぇんだからよ!
はははっ! もし仮に……女神シオンってのが実在したとしてもいざという時に助けてくれねぇんだったらいねぇと同じだろう? 違うかぁ?
てめぇら、今改心してシオン教から足を洗うって言うんだったら命だけは助けてやるがどうするぅ?」
「だ、誰が……誰が邪神の言うことなんか聞くかっ!」
俺は威圧しながら言う……
「そうか。バカなヤツらだぜ。俺の大切なハニーたちにちょっかいを出したんだ、当然、殺されても文句は言わねぇよなぁ?」
ん?死んでしまったら文句の言いようがないよなぁ?
「だ、だだだ、黙れっ! じゃ、じゃ、邪神めっ!」
ヤツら10人のリーダーらしき魔導士が、ガタガタ震えながら言った。
「じゃぁ、死ね!
局所的強重力場のコンストラクタをコール!
パラメータGに対惑星重力100倍、100Gをセット!
重力場生成場所を、指定シールド内に限定!
局所的強重力場……クリエイトっ!」
神術を発動するのに仰仰しくこんなことを言う必要はない。ただ、念じるだけで発動は可能だ。
ハニーたちの前だからちょっとだけ格好を付けたかったのと、ひょっとしたら、神術の天才であるノアハにとって、重力系の神術をマスターするための参考になるかも知れないとの考えから、呪文らしき言葉を発したのである。
まぁ、格好を付けたかったっていうのが一番の理由なんだけどね……。
ブブブブブブブ………ブブブブブシャッ!
シオン教徒ども、そして、彼等が招喚したゴブリンどもは皆、自らの重みに堪えかねて一瞬で潰されて果てた。
シールド発生装置によって展開されているシールド内は血の海だ……直視に堪えない光景だ。ハニーたちも皆、目を背けている。
「えーと……ノアハ、頼む!」
「は、はい。……烈火の壁!」
目の前に見事な炎の壁が出現する。俺が作り出す烈火の壁と遜色がない。
その壁はゆっくりとシールドへと向かっていく……。そして、まるでシールドが無いかのように、シールド内も焼き払いながら、シールドが展開されている場所を越えて向こう側へと抜ける。その後、そのまま暫く移動して消えたのである。
炎の壁が通過した後にはシールド以外何も残らなかった。灰すら残っていない。
さすがはノアハだ。火力も俺が作り出す烈火の壁とほぼ同じだ。
シオン教徒たちの魂は当然、その色に関係なく、"奈落システム"へと放り込んでやった。俺の大切なハニーたちにちょっかいを出そうとしたのにあっさりと殺してやったんだ。せめて魂ぐらいは地獄をたっぷりと味わわせてやるのだ。
シールドを消し、シールド発生装置を回収しながらノアハを褒める……
「ノアハ。さすがだぜ! お見事!」
「ありがとうございます! 何かお気付きの点はございませんでしたか?」
「いや。完璧と言っていいできだぜ!」
「はいっ!ありがとうございますっ!」
「次は重力系神術の習得かな?」
「え? 私の心をお読みになったんですか?」
「いや、できるけど、さすがに勝手に心を読んだりはしねぇよ。
でも、やっぱりそうだったか。見てやるからちょっとやってみろよ」
「よろしいんですかっ! 嬉しいっ! では……
局所的強重力場のコンストラクタをコール!
パラメータGに対惑星重力100倍、100Gをセット!
重力場生成場所を指定シールド内に限定!
局所的強重力場……クリエイトっ!」
すごいな。もうちゃんと覚えている。さすがだ。やっぱりこの子は天才だな。
神術は発動しなかった……ノアハの表情が暗くなる。
「うまく行きません……」
「強重力場を作り出したい場所の地下から、すべての物をすごい力で引っ張ろうとしているとイメージするか、その場所にある物の重さが100倍になってしまったかのようにイメージしてごらん」
「はい!……局所的強重力場のコンストラクタを……」
再びノアハが呪文を唱える……すると、なんと!あっさりと強重力場を生成してしまったのだ! 恐るべき才能だ!
「で、できましたっ! ダーリン! できましたっ!」
「お、おうっ! ハニー、お前さんはすげぇな! すげぇ才能だぜっ!
俺が見込んだ通りだ!」
その場にいた他のハニーたちも全員がやりたがったので、指導してみたんだが、やはりノアハ以外は誰も重力系神術を使えない……いや、ソニアルフェは使えた。 ただし、彼女が強重力場を作り出そうとすると、なぜか反重力場になってしまうのだ。ある意味、彼女も天才だ。
本人は『私はなんてダメな女なの……』と落ち込んでいるが、実はこれはすごいことである。この神術をうまく制御できれば空だって飛べるようになる。
「ソニアルフェ。落ち込まなくてもいいぞ! いや、むしろ自信を持て!
反重力場を生成できるんだぜ!? すげぇよ! お前さんもすげぇ才能だ!」
「え? そ、そうなんですか?」
「ああ。うまく制御できるようになりゃぁ、空だって飛べるようになるぜ。
これはすごい神術だ。それで……どういったイメージで発動しているんだい?」
「えーっとぉ、地面にあるものを引っ張るようなイメージでしょうか?」
「なるほど。それじゃぁ、逆に押すイメージでやってみな」
「はい。……強重力場生成!」
すると今度はちゃんと強重力場が生成されたのだ!引いたり押したりする方向を間違えてイメージしていただけなのかも知れない……。これから研究されるのかも知れないが……この世界にはまだ学問としての物理学はない。
この世界の住人である彼女たちには、自然科学についての知識が不足している。
だから、重力といってもピンと来ないのだろう。
反重力場を生成できたんだから、彼女なら強重力場も絶対に生成できると思っていたが……やはり単にどのようにイメージするかだけの問題だったんだなぁ……。
この子も絶対に才能がある!
「おっ!? できたじゃねぇか? いいぞ! そのイメージだ」
「はいっ!」
ソニアルフェの顔に自信がみなぎる。
俺とソニアルフェとの会話をじっと聞いていたノアハが『Aha!』というような表情をするとすぐに呪文を唱えだした。そして……
「……反重力場生成!」
ノアハはやはり天才だ。反重力場生成も一発で成功させたのだ!
重力場の変化を確かめるために、オーク型ゴーレムを数体立たせていたのだが、それらが空中に浮いている。まるで宇宙遊泳でもしているかのように……だ。
「ノアハ! やるなぁ! さすがだ! 反重力場生成もマスターしちまったか!」
「はい。ダーリンとソニアルフェとの会話がとても参考になりました。ありがとうございます。ソニアルフェ、ありがとう」
「そうか」「いえ、どういたしまして」
他のハニーたちは、ソニアルフェとノアハから重力場生成、反重力場生成の発動方法について丁寧な説明を受けたのだが、残念ながら重力系神術は使えなかった。
単に、発動後の状態をイメージできるかどうかの問題だけだと思う……だから、まあその内にみんなできるようになるとは思う。
気が付くと夜も大分更けてきた。
そろそろみんなで新ボラコヴィアの町へ戻ろうかと話をしていると……
『シン! 大変よ! 追っていたシオン教徒たちが神官たちを盾にして神殿に立てこもってしまったの。ミョリム、ラヴィッス、ヴォリルも一緒にいるわよ』
マップで確認するとユリコたちは神殿前広場にいる。
ミョリムたちも『一緒にいるわよ?』ってのは、彼女たちはどっちにいるんだ?
ユリコたちと一緒ってことか?それとも捕まっているってことなのかな?
と、そうだ。マップで確認すればいいな……ああ、やっぱり捕まっているのか。
『ユリコ! ミョリムたちまでもが捕まってしまったっていうんだな?』
『ええ。神官や神子たちを人質に取られてしまったため、仕方なくしたがっているようです』
『あのう、シンさん。ガギガガ師の一番弟子を見つけました。あの男は、この町の統括神官に成り済ましていました。私の顔を見るとハッとしたような表情を見せて顔を隠しましたので絶対に間違いありません』
その男に実際にあったことがあるマイミィが言うんだから間違いないだろう。
しかし、神殿組織に食い込んでいるシオン教徒がどれだけいるんだろう……。
スリンディレ・クラルケのチーム、神殿視察団をもっと強化する必要がありそうだなぁ……。
『あっ! 女性たちの悲鳴が聞こえてきました! シン、早く来てっ!』
『分かった。その前に神殿の中にいる女性たちをすべてお前さんたちがいる広場に転送するぞ! その中には敵も含まれるかも知れねぇから注意してくれ!』
『分かりました』
<<全知師!
ボラコヴィアの神殿にいる全女性をターゲット指定して、神殿前広場に早急に転送せよ!
>>承知!
ボラコヴィアの神殿内の全女性をターゲット指定…………指定完了!
転送!
『あっ。シン、女性たちが転送されてきたわ! ミョリムたちも一緒よ!』
『よし! 彼女たちのことを頼む! 俺は今から神殿に乗り込む!』
『『『はいっ!』』』
さあクソ野郎ども! 首を洗って待っているがいいっ!




