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第030話 拉致

「あれ?なんだよ!話が違うじゃねぇか!?まだ死んでねぇのか!キャロライン、てめぇ、しぶてぇなぁ、まだ生きているのか?……まぁ構うことたぁねぇか!

 おい!死に損ないっ!ローラは俺がもらってくからなっ!奴隷商人とはもう話がついてんだ。さぁ、ローラ!こっちへ来いっ!」

「なぁ~に勝手なことをほざいてんだ!ふざけたことをぬかすとぶっ殺すぞ!クソ野郎!」

「なんだ、小僧! てめぇの方こそぶっ殺されたくなかったら、そこをどけっ!」


 ざわざわざわ……

「か、神様になんという暴言を……」

「終わったな、あいつ……」

「バカなヤツだ。相手を見てものを言えってんだ」

「あいつがいなくなれば、キャロラインたちもせいせいするだろう。ははは」


「て、てめぇら!なにをこそこそ話してるんだ!?てめぇらもぶっ殺すぞ!?」


 俺が蘇生させた母親のキャロラインと、娘のローラを捨てた元夫、チャルゲルが家の中に足を踏み入れようとした瞬間!

 ……チャルゲルが爆風で飛ばされたのかと思うような勢いと格好で、家の外へと後ろ向きに飛ばされ、地面に後頭部から落下した!いや、叩きつけられた?

 そう、叩き付けられたのである。……それをしたのは……シオリであった!


 ぐわっしゃごきっぶちゃぁっ!ぐっちゃ!ぐっちゃ!ぐっちゃ!……


 その場面を目撃した者の証言によると……

 シオリはどうも俺への暴言が我慢できなかったようだ。

 男のシャツの襟を右手で掴むと、トルネード投法のように右足を軸に身体を回転させながら、オーバースローで、男を後頭部から地面へと叩きつけたのだそうだ。


「いやぁ~、すごかったですよ!シオリ様は、絶対に怒らしちゃならねぇと思いましたよ、ホント、すごかったです!見ていてチビリそうになるくらいでした!」

「あれは一瞬で首の骨が折れましたね……すごい音がしましたもん!」

「シオリ様の怒りはすごかったっすよ!もうヤツは首の骨が折れて死んでるのに、ヒールで何度も何度も踏みつけるんっすから!ひえぇぇぇーっ!って感じっす!」


 以上は目撃者の証言である。し、シオリちゃん……!

 幸いなことに俺や近所の人たちが邪魔で、娘のローラには事の次第が見えていなかった。良かった!……いくらクソな親父でも……こんな小っちゃな子には自分の父親が殺されるところは見せたくない……。


 俺はクソ野郎、チャルゲルの魂を"奈落システム"へと放り込み、死体は凍らせた"血の海"と共にサメのいる海へと転送した。


 ちょうど転送が終わった頃に、僧衣のような焦げ茶色のローブを着た男性?と、露出の多いベリーダンサーのような服装をし、派手な化粧をした女性がこちらへとやって来た。


「チャルゲル!?どこ?あんまり遅いから奴隷商人を連れてきたよーっ!?」


 二人とも魂の色は赤黒い……。

 チャルゲルの愛人と、ローラを買い取るために来た奴隷商人のようだ。


「チャルゲルは死んだぜ!今頃はサメの餌だ」

「あはははっ!冗談はよしとくれ!あのしぶといチャルゲルがそう簡単にくたばるわけがないじゃないかっ!ははは。それでどこだい?」

「だ・か・らぁ--っ!死んだんだってっ!」

「そうだよ。チャルゲルのヤツは無謀にも神様に絡んだからね。シオリ様の怒りを買って……天罰が下ったんだよ。本当にもう死んじまったよ」

「……」

「てめぇたちもチャルゲルの共犯か?ローラを奴隷商人に売り払おうとしているのなら……ぶち殺すぜ?」


「わ、私は関係ないよ。でもチャルゲルはローラの父親なんだろう?だったら娘を奴隷商人に売っても問題ないじゃないか!?」

「お、俺もただチャルゲルに娘を買ってくれと頼まれただけだ」


 コイツらの魂の履歴を確認したところ……チャルゲルと連んで悪事の限りを尽くしている事が分かった……。


「てめぇら……相当悪いことをしているよな?俺には丸っとお見通しだ。このまま生かしておいちゃぁ世のためにならねぇなぁ……。ぶっ殺すか?」

「「ひぃぃーーっ!」」

「だが……もう二度と悪いことはしねぇと、真っ当に生きると誓えるんだったら、ラストチャンスをやってもいいがどうする?」

「「ち、誓います!誓いますっ!」」


 二人をターゲット指定して、ナノプローブを注入。

 何か行動を起こした時に必ず呼び出されるイベントに、イベントハンドラを割り当てる……そのイベントハンドラには、人の物を盗もうと考えたり、自分の欲望のために人に危害を加えようと考えたりした瞬間、激痛を伴いながら灰になって消滅するようにプログラミングしてある。

 コイツらは、よからぬ事を考えただけで死ぬことになるのだ。しかも、尋常ではない強烈な痛みを味わいながら死ぬのだ。


「リブート!」

「……はっ!?な、何が起こったんだ?」

「てめぇらが、もし今度悪さをしようとしたら、激痛を伴いながら灰になって死んじまうようにしてやったんだ。

 嘘じゃねぇから、ちゃんと俺との約束を守るんだぜ、いいな?」

「「は、はいっ!」」


 まぁ、何日持つことやら……。

 俺たちと別れた瞬間、灰になっちまいそうだなぁ。


「いいか?真っ当に生きろよ」

「「はいっ!」」


 二人は慌てて逃げるようにしてこの場を去って行く……。

 二人のことは"輪廻転生システム"のブラックリストに登録済みだ。天寿を全うできた時はブラックリストから外すように……と注釈を入れてある。

 奴隷商人の寿命は62歳、ケバい女の方は71歳が初期設定された値だ。

 天寿を全うできるまでには何十年もある。その間真っ当に生きられたら、地獄の苦しみを味わわなくて済むようにしてやったのだ。まぁ3日も持つまいが……。



「さぁ、それじゃぁ、昼飯を食いに行こうか?」

「「はいっ!」」


 キャロラインが普通に歩けるようになったのを見て、みんなが驚いている。

 家の前にいた人々の中のひとりが跪いて俺に手を合わせた。

 すると、他のみんなも次々と同じようにし出す! なんか気恥ずかしいな……。


「それじゃぁなっ!」


 みんなは深々と頭を下げる。

 俺とシオリ、キャロラインとローラは、さゆりたちと合流すべく、その場を立ち去った。



 ◇◇◇◇◇◇◇



『ダーリン!大変!シェルリィがっ!シェルリィがいなくなっちゃったの!』


 突然、さゆりから念話が届いた。

 さゆりのことだから、既にマップ上でも確認済で、それでもシェルリィの行方が分からないから俺に連絡してきたんだろうとは思ったのだが……。


『マップでは確認したのか?』

『うん、確認したんだけど、見つからないの。どうしよう』

『分かった。取り敢えず、すぐにそっちへ転移するわ』


「みんな、これから転移しようと思うから、俺の身体に触れてくれ」


 シオリが俺の腰に手を回しながら、正面から抱きつく……。

 キャロラインは俺の左腕に右手を絡ませる。娘のローラの方は俺の左手を右手で握った。


「転移!」


 キャルとシャル、さゆりが待っているところへと俺たちは転移して来た。

 キャルもシャルも、そして、さゆりも真っ青な顔をしている。


「それで、どうしていなくなったんだ?」

「分からないの。私のすぐ右隣を歩いていたんだけど……ちょっと目を離した隙にいなくなっちゃったの、どうしよう……」


 さゆりは泣きそうな顔をし出した。

 またしても俺は後手に回ってしまった。シェルリィを加護していなかったことを心から悔やんだ。自分の間抜けさに腹が立つ!


「全知師、シェルリィがマップ上で探知できないんだが……どのような事が考えられる?」


 >>お待ち下さい。各種可能性について早急に検討します。


 ふと、ノルムの町の神殿がレッサードラゴンに襲われた時のことを思い出す。

 そういえば、あの時、シオリたちが襲われているのに、敵のレッサードラゴンの姿をマップ上では確認できなかったなぁ……。


「全知師、可能性についての検討を中止せよ!神都を中心とした半径100kmを範囲として、シールド反応を至急調べよ」


 >>シールド反応を探知しました。我々のシールドよりも数世代前の古いタイプのシールドを展開した飛翔体が、約400km/hで、神都から北東方向へと移動中です。


「シールド周波数変調パターンは解析可能か?」


 >>古いタイプのシールドであるため、周波数は変調しません、固定です。

  ……周波数を特定しました。これよりシールド内部も探知可能となりました。

  シールド内部にシェルリィの生命反応を確認しました。


「よし!でかしたぞ!……全知師!フェイザー砲を用意しろ!

 俺がシェルリィをこちらへと転送し次第、フェイザー砲を発射せよ。

 なお、討ち果たした後、敵の【魂の履歴】はコピーしておけ。

 そして、魂本体は"奈落システム"へと送ってしまえ」


 >>承知しました。

  フェイザー砲準備開始……完了。

  魂の履歴コピー用のストリームと保存用ストレージ領域を確保。

  "奈落システム"への送致準備完了。

  フェイザー砲発射を待機します。


『シェルリィ、聞こえるか?俺だ。もう大丈夫だよ。今助けるからね』

『上様、怖いよぉーーっ!助けて-ーっ!』

『大丈夫だよ。今助けるからね。……転送!』


 シェルリィが腹を下向きにして、身体をくの字に曲げた状態で空中に出現した。

 縄で縛られており、猿ぐつわを嵌められている。腹を下にして、ドラゴンの首に掛けるように乗せられていたようだ。

 俺はシェルリィの下へと高速移動し、抱きとめる……。


「全知師!攻撃開始!」


 >>はい。フェイザー砲発射!……対象は消滅しました。

  ……対象者の魂の履歴をコピーしました。

  ……対象者の魂を"奈落システム"へと"送致" しました。


「さぁ、もう大丈夫だよ。……拘束解除!浄化!修復!」

「うわぁーーーん!こ、怖かったよぉーーーーっ!わーーーんっ!」


 自分が情けない……ちゃんと加護をしておいてやれば良かった……。

 シェルリィは極薄シールドをちゃんと展開している。


「よくがんばったね。偉いぞ。ちゃんと指輪のシールドも展開したんだね」


 シェルリィの話では……

 キャルとシャル、さゆりと話をしながら歩いていると路地から突然黒いローブを着た魔導士風の男が現れて、シェルリィの右腕を掴んで、路地へと引きずり込んだらしい。

 叫び声を上げようとするシェルリィの口を、男は右手で押さえて、シェルリィを左脇に抱えてその場を離れ、路地裏へと移動する。

 そして、シェルリィに猿ぐつわを嵌めると、ロープでグルグル巻きにして麻袋に押し込み、肩に担いでどこかへと移動したらしい。


 暫く肩に担がれたままでいたが、突然、袋から出されると、目の前にはレッサードラゴンがいて、その首の部分に覆い被せるように乗せられたという。

 その時、自分が神都の外に連れ出されたということを理解したらしい。どこかの草原のような場所にある大きな岩の陰にドラゴンは隠されていたといことだ。

 そこから飛び立ち、北東方向へと飛行しているところを俺に助けられたという事だった。


 魂の履歴〔コピー〕を調べると映像が記録されている……。

 ん?教皇シミュニオンか?


「はははっ!この世の神だとほらを吹く小僧よ!これは警告である!そしてお前に命ずる!助手シオンの管理者権限をすぐに元に戻せ!

 この命にしたがうまで毎日ひとりずつお前の仲間を殺してやる!この命令は絶対である!よいな!シオンの管理者権限を早急に復旧させよ!」


 やはりシオン神聖国の仕業か……。

 自分たちが信じる女神が、本当に本物の神だというのなら、管理者権限をくれと頼めばいいのに、俺に要求している時点でインチキ宗教だと自ら認めているようなものなのになぁ……。

 しかし……シェルリィの拉致に失敗することは想定済だったわけだな……。この映像を見せるためだけにシェルリィを攫った可能性さえあるのか?許せんな!


「全知師!人工衛星はシオン神聖国上空にも配置してあるのか?」


 >>はい。


「よしっ!それを首都、シオン教の大聖堂上空へと移動させ、フェイザー砲の発射準備をさせろ!目標は大聖堂の屋根だ!屋根だけを吹き飛ばす!人的被害が出ないように留意せよ!」


 >>承知しました。

  ……衛星を移動……完了。

  ……フェイザー砲の発射準備……完了!

  ……フェイザー砲の出力調整……完了!

  ……大聖堂上空の大気が不安定。大気による散乱に対する補正が必要……補正完了!

  マスター、フェイザー砲の発射準備が完了しました。いつでも発射可能です。


 直後に教皇シミュニオンへと念話をつなぐ……。


『おうっ!クソ教皇!よくも俺の大事な仲間にちょっかいを出したな?』

『誰だ!?』

『分からねぇのかぁ?俺だよ、俺!神だ!』

『オレオレ詐欺か?神は女神シオン様だけです!愚か者めっ!』


 なにっ?"オレオレ詐欺"って言葉を知っているのか?こいつも日本からの転生者なのか?……まぁ、取り敢えず今はどうでもいいか……。


「フェイザー砲、発射っ!」


『うわっ!?な、ななな、なんですかっ!?や、屋根が……』


 俺には衛星からの映像が見えている……。

 大聖堂の屋根がフェイザー砲により蒸発させられたのだ。


『これは、最後通牒だっ!いいか、よく聞けよ!

 今度また俺の仲間にちょっかいを出しやがったら……てめぇをぶっ殺すっ!

 必ずてめぇをぶっ殺してやるっ!いや、この惑星からシオン神聖国、そのものを消してやるからそのつもりで覚悟しろっ!じゃぁな!』

『う、う、うるさいっ!黙れ、悪魔ぁーーっ!私は絶対に屈しないぞっ!お前の方こそ、すぐにシオンの管理者権限を元に戻せ!じゃないとお前の……』


 念話回線を切断した。

 ああ、ぶっ殺してやりたいなぁ……シオンの魂さえ救出できればなぁ……。


 ハニーたち全員に念話回線をつなげる……。


『みんな聞いてくれ!シェルリィがシオン教徒に攫われかけた。もちろん、彼女は無事だ。俺が救出した。

 だが、シオン教はお前さんたちの命を狙うと言ってきた。だから、早急に仕事にキリをつけてマンションの1階ホールに集まってくれ。いいな』


 念話回線を切る。

 ……何か対策を練らねば……安心して外国を訪問できない。


「というわけで、みんな悪ぃがレストランで昼食を食べるのは中止だ。今日も1階ホールでバイキングにする。

 キャロライン、ローラ、お前さんたちも一緒に来てくれ。レストランでは食事ができねぇが、昼飯はちゃんと食わせてやるから安心しろ」

「あ、あのう……大変そうですので、私たちは遠慮した方が……」

「いや、大丈夫。それよりキャロラインに聞きてぇんだがな……今住んでいる家は借家だよな?よかったら俺たちと一緒に住まねぇか?もちろん、家賃は無料だ」

「そ、そそ、そんな……恐れ多いです」

「遠慮は無用だ。約束しただろ?俺が面倒を見てやるって?

 よかったらだが、神殿での仕事も紹介しようかと思っているんだ。どうだ?」

「あ、ありがとうございます……ううう……」

「ようし、決まりだ!ローラちゃん、よろしくな!」

「はい。よろしくおねがいします」


 この子もかわいいな。

 ん?キャルとシャルが俺に引っ付いてきた。シェルリィもか!?


「シオリ、マンションに帰ったら、マンションの住民をすべて加護しようと思うがどう思う?」

「はい。教皇シミュニオンからの脅しの件が気になりますので、そのようにされた方がよろしいかと存じます」

「お前さんもそう思ってくれるか?ありがとう。じゃぁ、そうすることにするな。お前さんからGOサインが出ねぇとなぁ、不安でなぁ……ははは」


 シオリはいつも冷静に状況を判断してくれている。だから、シオリに俺の考えをぶつけて、反応を知りたかったのだ。

 しかし、シオリは相変わらずの話し方だな。仕事とプライベートは、"キッチリ"と分けるタイプなんだな……。さすがだ。

 あれ?さゆりの表情が暗い……ああ、そうか、シェルリィが攫われた事に責任を感じているのか……。


「ダーリン、ごめんなさい。わ、私がしっかりしていれば……。ぐすん」

「そんなに気にするな。シェルリィも無事に救出できたことなんだしな……。

 それに悪いのはシオン教徒だ!お前さんじゃねぇよ」


 シェルリィも大きく頷いた。

 あえて不注意を反省しろとは言わない。本人が一番分かっているだろうからな。


「うわぁーーーん!ごめんなさーーい……ううう……」

「おいおい……小さな子たちがあきれて見ているぞ。ははは。よしよし」


 さゆりの頭を撫でてやる……。

 さっきから俺に引っ付いているキャルたちも、な~んか撫でて欲しそうに見えたので順番に頭を撫でてやる……んん?シオリもローラも羨ましそうな顔をして見ているな……。俺の勘違いか?ええい!面倒だ!みんな撫でてやる!

 キャロラインも含めて全員の頭を"よしよし"といった感じで撫でてやった。


「キャロライン、お前さんはローラを抱えて、ひとりでよくがんばってきたなぁ。偉いぞ。これからはお前さんひとりじゃないぞ。俺たちがついている。安心おし。遠慮は無用だ。困ったことがあったら俺たちを頼れよ」


 キャロラインも撫でたのは、今までの苦労を労ってやりたかったからだ。

 キャロラインはさめざめと泣いた。


「さぁ、それじゃぁ、マンションへ戻るか!……転送!」



 ◇◇◇◇◇◇◆



 マンションに戻るとすぐに、加護を授けていない仲間たち全員を加護することにした。シェルリィだけでなく、神殿騎士試験受験生3人とキャロラインとローラも加護することにする。

 そして、キャロラインとローラにも極薄シールド発生装置内蔵指輪をプレゼントしておいた。もちろん、ハニーたちにプレゼントした物よりはグレードを落としてある。当然だ。



「リブート!」


 マンションの1階ホールにはベッドが生成してある。

 その上に寝転んでいる今回加護を授けた者たちが、一瞬意識を失ったことに驚いている。


「さぁ、これでみんなに授けた加護が有効になったぞ。さっき説明したように、力加減が難しくて、最初は戸惑うかも知れねぇが……すぐになれると思う。でも気をつけてくれな」


 みんなが頷いている。

 力加減はホント、難しいよなぁ。


 ホールに生成したベッドを片付けると、昼食の準備はシオリとさゆりに任せて、キャロラインとローラを部屋に案内する。4階、メイグズの部屋の西隣だ。


「ここが、今日からお前さんたちの部屋だ。自由に使ってくれていいからな」

「うわぁーーっ!すっごいっ!」


 ローラが驚きの声を上げる。キャロラインもびっくりしているようだ。

 部屋の中を設備の使い方を説明しながら一通り案内して……。


「この中に食料品や飲み物が入っているから、自由に使ってくれていいからな」

「何から何まで……本当にありがとうございます」

「ああ、気にするなって。俺が好きでやっていることだしな。

 そうそう、東隣に住んでいるのがメイグズといってな、お前さんに紹介しようと思っている仕事をしている者だ。後でメイグズを紹介するつもりだ。お前さんが、仕事を気に入ってくれるといいんだけどなぁ……。

 あ、自分に合わねぇと思ったら絶対に言ってくれよ。自分に合った、別の仕事を探せばいいだけだからな。無理は禁物だぜ。いいな」

「はい。ありがとうございます。このご恩は忘れません」

「ホント、気にするな。俺の趣味みたいなものだからな、ははは」


 さてと残るは……あと2部屋か……。


10階。東から、シン(シェルリィ、キャル、シャル)、シオリ。

 9階。東から、スケリフィ、カークルージュ、キャル、シャル。

 8階。東から、ソリテア、インガ、ヘルガ、タチアナ・ロマノヴァ。

 7階。東から、ディンク、カーラ、ゼヴリン・マーロウ、さゆり。

 6階。シェリー、ラヴ、ラフ、ミューイ。

 5階。神殿騎士試験受験生の3人が住む。最も西の部屋にシェルリィ。

 4階。東から、メイグズ、キャロラインとローラ。空き部屋が2部屋。

 3階。東から、ニング、ロッサナ、スリンディレ・クラルケ、

        レキシアデーレ・ストリドム。

 2階。東から、ベックス、ティーザ、レイチェ、タニーシャ。

 1階。食堂兼多目的ホール。厨房他。


 そろそろ、もう一棟マンションを建てるか……。

 キャロラインとローラと共に、マンションの1階ホールへと戻ると昼食の準備が既に整っていた。さすがは、シオリとさゆりだ。

 キャロラインとローラは、豪華な料理に驚いている。


 昼食には神殿騎士隊長のバルバラ・クラルグ・エザリントンも呼んである。

 教皇シミュニオンからの脅しの件がある。だから、彼女とは、今後の警備体制についての話し合いがしたかったからだ。彼女も料理の豊富さに驚きを隠しきれないようだ。


「……ということで、今日からこの子たちも俺たちの仲間になったので仲良くしてやってくれ。……それでは!かんぱーいっ!」

 楽しい団欒が始まる……。



 ◇◇◇◇◇◆◇



「……ということで、仲間の命を奪うって言いやがったもんだからな、シオン教の大聖堂の屋根を蒸発させてやったんだよ。それでもまだ俺の仲間を殺すってほざきやがったから、一応こっちも備えておこうと思ってな、それでお前さんに相談したわけだ。

 バルバラ、かなりの数のシオン教徒が神都に潜伏しているようなんだが、見つけ出して排除するいい手はねぇかなぁ?」

「そうですね……シオン教徒だとひと目で分かる何かが無い以上、難しいですね。人の心の内までは分かりませんから……」

「心の内かぁ……難しいな。心の中まで覗いちまうのは気が進まねぇしなぁ……。 取り敢えず……神都全体は無理だとしても、神殿敷地内への出入りのチェックは厳しくする必要があるな。入り口をひとつだけにして、入ってくるヤツに対して、踏み絵をさせるかぁ……」


「ふみえ?……なんでしょうか、それは?」


「ああ、神殿敷地内への入り口の地面にな、教皇シミュニオンの顔写真をプリントしておいてな、入ってくるヤツにそれを踏ませるわけだ」

「ぷりんと?ってなんでしょうか?」

「あ、地面に教皇シミュニオンそっくりの絵みたいなモノを描くと思ってくれ」

「なるほど。シオン教徒だと教皇の顔を踏むのを躊躇するというわけですね」


「ああ、それでな、『シオンという"インチキクソ女神"なんて存在しないっ!教皇シミュニオンは大嘘つきのクソビッチだっ!』って、ちゃんと言い切った者だけを敷地内に入れるようにするんだよ。どうだ?」

「な、なるほど……シオン教徒なら絶対に激怒して何らかのアクションを起こすでしょうね。でも、神殿の敷地は広すぎます。出入り口をひとつに絞るのは難しいのでは無いでしょうか?」


「ああ、それなら簡単だ。街とこの神殿の敷地との境界線上に、壁型にシールドを展開できる発生装置を1000個ほど配置して、この神殿の敷地をシールドによる防壁で囲うつもりだ。

 この神殿前までつながっている中央の道があるだろ?その道が街へと入っていくところ、街との境目にな、検問所を設置しようと思っているんだ」

「なるほど、でも……シールド発生装置を1000個も配置するんですかっ!?

 設置が大変そうです。神殿騎士と職員を総動員する必要がありそうですね?手配しますか?」


 空中に、この神殿を上から見た映像を映し出す……。


「いや、俺ひとりで大丈夫だ。まず、シールド発生装置を神殿前広場に1000個生成して……っと」

「あっ!何か筒状の剣の柄みたいなものがたくさん出てきました!これがシールド発生装置なんですね?」

「ああ、そうだ。で、地図上のここから……ここまで、神殿敷地を取り囲むようにぐるりと半円状の外周を指定してっと……」


「あれっ?映像には、太い赤線が神殿の敷地の外周に表示されましたね。この線に沿って配置するのですね?」

「そうだよ。そして……転送処理用マクロエディタを起動し、転送処理を記述するよっと……」


 そう、攻撃神術から転送処理に至るまでのあらゆる処理について、その実行とか効果を細かく制御するためのマクロが記述できるようになっているのだ。

 実は今回、1000個ものシールド発生装置を、一体全体どうやって配置しようかと考えていたら、全知師がマクロを組めばいいと教えてくれたのだ。


 壁型シールドが展開可能な最大幅よりも1mだけ狭くした余裕を持たせた間隔でシールド発生装置を赤線に沿って神殿敷地をぐるりと取り囲むように等間隔で配置するようにマクロを組む。


「転送処理マクロ実行!」

「うわっ!広場にあったシールド発生装置が次々に消えていきます!

 あっ!映像上、赤線の上に、何やら丸い印が等間隔でしょうか?で描かれていきます」

「ああ、シールド発生装置が配置されたところを示す印だ」


 シールド発生装置の転送はすぐに終わった。空中に表示されている、神殿敷地を取り囲む太い赤線上に、等間隔で印が、柵用の杭が打たれたかのように、ぐるりと一周取り囲むようにつけられている。


 バルバラは、神殿敷地を上から見ている映像から視線を窓の外へと向ける……。


「あっ!なにか棒のようなものが地面から伸びてきましたよ!すべて同じくらいの高さですね?50m位の高さでしょうか……」

「そうだ。大体それくらいの高さだな。……シールド展開!」


 直後、スカイブルーの透明な膜のようなものが、地面から突き出て垂直に上へと伸びた"棒"と"棒"の間に張られる。


「よしっ!これで、この神殿敷地はシールドの防壁で守られたぞ」

「あのう、検問所はどうするのでしょうか?入り口が無いように思えるのですが、どこから出入りすればよいのでしょうか?」

「転移!」


 バルバラの左手を右手で掴み、神殿中央から街へと伸びている道が、シールドとぶつかるところへと一緒に転移して来た。


「このシールド発生装置にあるスイッチを押してみろ」


 ちょうど道を挟んで立っていて、まるで門のようにも見えるシールド発生装置、向かって右側を指さす……。そこには押しボタン型スイッチがひとつ、バルバラの目の高さにある。

 バルバラが指示に従ってボタンを押すと、道を塞いでいた部分のシールドだけが消えた。


「これで、シールド展開を制御するわけですね。便利ですね」


 さてと……教皇シミュニオンの顔写真をこの石畳の道路上にプリントするか!


「うわっ!教皇シミュニオンの顔が道路に!……ここを踏ませるのですね?」

「ああ、そうだ。これが踏み絵ってやつだ」

「シオン教徒なら踏めないでしょうね。もしも、これがシンさんのお顔で、それを踏めと言われても私にはとても踏めませんもの」

「取り敢えずこれで神殿の警備強化はできると思うんだがなぁ、どうだろう?」

「はい。神殿敷地へのシオン教徒の侵入は防げそうです。早速検問所とここを守る門衛のための簡易宿泊施設を作らせます」

「あ、それなら俺が建ててやろう」


 ちゃちゃっと検問所と、それに隣接する宿舎と留置施設を建設してやった。


「それじゃ、ホールへ戻るか。転移!」


 再び、バルバラの手を掴むと、マンションの1階ホールへと転移で戻ってきた。

 偶然、恋人つなぎになってしまった。 バルバラは頬を染めている。



 ◇◇◇◇◇◆◆



 今日の昼食もとても楽しかった。

 キャロラインとローラも楽しんでくれていたようだ。

 甑中(そうちゅう)塵(ちり)を生(しょう)ず……彼女たちは極めて貧しい生活を送っていた。

 これまで、ローラのために食べるのを我慢してきたのであろう、キャロラインはガリガリに痩せてしまっている。彼女にはしっかりと食事をとって欲しいものだ。


 このところ、後片付けはいつもマンションの住人すべてが手伝ってくれる。

 後片付け効率は別としても……みんなの気持ちがとても嬉しい。


 昼食の後片付けを終えると、ふと、シオリにお願いしなければならない事を思い出した。


「シオリ、シオン教のこともあるしな、俺がエルフ族の国へ行っている間、ここに残ってみんなを守ってくれねぇか?……ホントは、お前さんも一緒に行ってくれると心強いんだがなぁ。今回は、俺とシェリーだけで行こうと思う」


 シェリーとは、魔物溢れ事件の時に救った冒険者4人のリーダーで、今朝、神殿騎士に昇格したばかりのエルフ族の女性だ。俺のハニーでもある。


「しかたないですね。人族担当のさゆりさんを連れて行くと、人族を贔屓しているとも取られかねませんし……。今回は二人で行かれるしかないですね」


 ちょうどシェリーと視線が合った。

 手招きしてシェリーを呼び寄せる……。


「シェリー、昼食後に俺は、エルフ族の国、ヴェレビアの中央神殿に行かなければならないことは既に知っていると思うが……急で申し訳ねぇんだがな、お前さんに同行してもらいてぇんだけど、可能か?」

「スケリフィさん、カークルージュさん、お二人の許可があれば可能です」


 スケさんとカクさんもこちらを見ているので、手招きする……。


「スケさん、カクさん、急で悪ぃんだが……今日から赴くエルフ族の国へは、このシェリ-に同行してもらおうと思うんだがな、どうだろう?許可してくれるか?」

「「はい。ダーリン、もちろんです」」

「ダーリンの同行者として、エルフ族の彼女は打って付けだと思います」


「ふたりだけの旅行……まるで新婚旅行のようですわね?うふふふ。羨ましい限りですわ」

「へ、ヘルガ……。本当はお前さんたちハニーを全員連れて行きてぇんだがなぁ、そうすると人族ばっかり贔屓していると思われちまうんでな、悔しいが、泣く泣く諦めたんだぜ。

 まあ、シェリーのことをよく知るためのいい機会だと思って楽しんでくるぜ。

そうだ、シェリーのご両親にも挨拶してこねぇとな」

「いつか、私も、ふたりだけの新婚旅行に連れてって下さいね。うふふ」


 いつの間にかハニーたちが集まってきていて、みんなが"うん!うん!"と頷いている。ん?キャル、シャルまでが頷いているぞ?


 ハニーたちから妙な圧力を感じているのか、シェリーは汗をたらたら流しながら俺にしがみついてきた。


「きょ、許可が下りましたので、喜んでお供します。よろしくお願いします」


「ああ、助かるぜ。よろしくな。だが……ホントすまねぇ。里帰りするのに土産を買いに行かせるだけの時間的余裕もねぇんだよ。申し訳ねぇ。必要なものがあったら俺が生成してやるから遠慮無く言ってくれ。どうだ」

「向こうに着いた都合で、お願いすることになるかも知れませんが、その時はよろしくお願いします。それに。父と母にとって、私が神様の妻になれることが一番の土産になると思います。お気遣いありがとうございます」


 土産ぐらいは買いに行かせてやりたいのだが、シオン教が"ちょっかい"を出してくるかも知れない。彼女を神都へ買い物に行かせるのはちょっと躊躇われたということもある。いや、時間的な問題よりもそっちの方が気になっていたのだ。


 そんな時である……。


『ダーリン、そろそろこちらへお越しいただけますでしょうか?』

『ああ、すぐにそっちへ向かうな。よろしく頼むぜ』

『はい。お待ち致しております。では』


 エルフ族担当助手のシホからの念話である。

 なんかバタバタだ……慌ただしいなぁ……


「たった今、エルフ族担当助手のシホからお呼びがかかったぜ。急にこんなことになっちまって悪ぃんだが、シェリー、このままエルフの国へ転移しちまってもいいだろうか?それとも旅の準備ができるまで待った方がいいか?」

「いえ、このまま旅立っても大丈夫です。先日いただいたポシェットの中に必要なものを入れて持ち歩いていますので……」

「そうか!さすがは元冒険者だなぁ!……それじゃ、このまま旅立つか!」


 シェリーの左手を右手で掴むと……自然と恋人つなぎになってしまった。周りの視線が痛い。


「よ、よしっ!それじゃ行ってくる!シオリ、さゆり、ハニーたち!後は頼んだ!

 ……転移!」






いつもお読み下さり、ありがとうございます。

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挿絵(By みてみん)


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