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第029話 勧善懲悪殺生なし

 シェリー、ラヴ、ラフ、ミューイは、全員が普段使っている武器とは違うロングソードを使用して戦うことになっている。神殿騎士になるための試験だからだ。

 もちろん、神殿騎士側も含めて全員の剣の刃は潰してある、練習用の剣だ。


 模擬戦は、4対4の団体戦である。

 先に仕掛けたのは神殿騎士たちであった。剣を抜き一気に迫る!速いっ!

 ラフ、ラヴ、シェリー、ミューイは動けないのか!?


 ……次の瞬間!彼女たちは全員が一瞬、あたかも倒れてしまうんじゃないかと思えるような低い前傾姿勢をとったかと思うと、あっという間に自分たちの前にいる相手の懐へと飛び込んだ!

 彼女たち全員がほとんど同時に同じ動きをしている。


 騎士たちは慌てて剣を上から振り下ろして彼女たちを叩き切ろうとする!

 だが!時既に遅しっ!

 次の瞬間には騎士たちは、なんと!身体を上下に両断されてしまったのだっ!

 彼女たちは相手の懐へと飛び込むと、剣を振るう方向へと身体を回転させながらすばやく剣を抜き、そのまま、回転の勢いで全く無駄なく斜め上方へと振り上げるように剣を振るったのである!


 神殿騎士隊長のバルバラだけが、身体を半身にひねりながら、シェリーが振るう剣を自身の剣で受け止めた!……と思ったのだが、次の瞬間バルバラの腕があらぬ方向へ曲がり、なんとそのまま身体は数メートル吹き飛ばされてしまった!


 剣の刃が潰れているので、酷いことになっている。刃があった方がきっと痛みが少ないだろう……。斬られた騎士たちはまさに叩き切られてしまったため、胴体の切り口は酷いことになっている。ぐちゃぐちゃだ。うげぇ!


 バルバラを除く騎士たちは皆、"がっ!"というような声を上げるとすぐに意識を手放した……。あたりは血の海だ。

 模擬戦を見学していた者たちの中には、気を失ってしまった者もいるようだ。


 バルバラは、苦痛に顔を歪めうめいている……。両腕がへし折れ、肋骨が何本か折れているというのに……未だ闘志に満ちた目をしている!

 大したものだ。さすがは隊長だ!


「それまでっ!しゅうふ……く?」


 俺は、試合終了を宣言して、即座に神殿騎士たちに修復神術を施そうと思ったのだが、ハニーたちは既に対戦相手の治療を完了していたのだ。お見事!


 バルバラを先頭に、騎士たちが俺のもとへとやって来て、跪く。


「上様……わ、私たちの完敗です。お見苦しいところをご覧に入れてしまい、申し訳ありません。お、お恥ずかしい限りです」

「彼女たち、神殿騎士見習いの4人を正式に神殿騎士に昇格することを、お前さんたちも認めてくれるかい?」

「は、はい」


 他の騎士たちも全員が頷く……。

 シェリー、ラヴ、ラフ、ミューイが飛び上がって喜んでいる!

 みんな、弾けんばかりの笑顔だ!


「上様」

「なんだ?」

「このような無様な姿をお目にかけた以上、責任を取って、私は隊長を辞めたいと思います」

「いや、頼むからそんなことを言わねぇでくれ。彼女たちは俺が加護を授けたから化け物みてぇに強くなっている。オーガ並みだぜ。そのシェリーの剣に斬られず、受け止めたんだ。お前さんの腕は大したもんだぜ。辞める必要はねぇぞ」


 ん?シェリーがムッとしているみたいだな?

 し、しまった!『化け物みてぇに……』ってのがマズかったようだな??


「しかし……」

「しかし、お前さんも大したもんだぜ……。あれだけの大怪我をしておきながら、闘志を燃やし続けるとはな……すげぇよ!射殺さんばかりの視線をシェリーに向け続けるとはなぁ、恐れ入ったぜ!」


 大学時代に友人が、銃火器を使用する現代の戦争においては、男性よりも女性の方が兵士に向いていると言っていたことを思い出した。

 現代戦では銃火器使用がメインとなるため、腕力はそれほど重要ではなくなっている。だから、痛みに強い女性の方が兵士としては優れているというようなことを言っていた。海外で発表された論文を読んだとかなんとか言っていたなぁ……。

 出産の痛みに耐えられるくらい痛みに耐性がある女性だから、男性ならば激痛でショック死してしまうような痛みにも耐えて戦闘を続けられるというようなことを主張していた。この事を、目の前のバルバラを見て思い出した。


「わ、私は自身の未熟さを思い知りました。どうか……隊長を辞めることをお許し下さい。一から修行をやり直します。どうか……」


 彼女の魂の色は"青"だ。加護を授けても大丈夫だろう……。


「いや、それは認められねぇなっ!お前さん以上にふさわしい者はいねぇだろ?

 お前さんが嫌じゃなかったら、俺はお前さんに俺のハニーたちと同じ加護を授けようと思うがどうだ?お前さんなら、俺のハニーたちよりもきっと強くなる」

「で、でも……こ、心の準備が……。上様を心からお慕い申し上げておりますが、妻になるための心の準備ができておりませんので……ごにょごにょ……」


 な、なな、なんだぁーーっ!?

 加護イコール俺の嫁にすることだと思われているのかぁ??


「い、いや、俺の妻になれとは言ってねぇぞ?加護する、イコール、俺の妻にするということではねぇからな。誤解するなよ?純粋に加護だけだ!」

「そ、そそ、そうですよね。私のような者は眼中にないですよね?は・は・は。

 ……期待した私がバカでした……。ううう……」


 な、なな、なんだぁーーっ!?期待していたのかぁーーっ!?


「いや、お前さんは魅力的だぜ。生涯の伴侶となるかどうかを判断するのは、よく知り合ってからじゃねぇとな。そうだろう?お前さんが言うように『心の準備』ができてねぇのにするもんじゃねぇ。だから、"加護"と"嫁になる"とは、切り分けて考えてくれ!いいなっ!?」

「は、はい」

「で、俺の加護を受けてくれるかい?」

「は、はいっ!喜んで!!」


 ここで一旦解散することにして、ハニーたちを自室へと返してから、バルバラに加護を授けるべく、神殿内の執務室へと共に移動した。


 ハニーたちと同じ加護を授けるのは、もう眠っていてもできそうだ。

 加護の付与についての準備はすぐに終わる……後はリブートだけだ。


「リブート!」


 一瞬意識が飛び、バルバラは驚いているようだな。大体みんな同じような反応を

するんだなぁ……。


 神殿騎士隊長のバルバラ・クラルグ・エザリントンは、剣の腕前と、これまでの経験がある。この加護で、彼女は最強の神殿騎士になったといってもいいだろう。

 バルバラなら勇者ユリコともいい戦いができるだろう。STRの差が20もあるので、力勝負では分が悪いだろうが……。総合力では、バルバラの方が上のような気がする。


「ところで、神殿騎士に昇格した4人は、スケさん、カクさんの下につけて、近衛騎士にしてぇんだが?許可してくれねぇか?」

「はい。異存はありません。私もそれが一番良いと思います」

「そうか、助かるぜ。彼女たちは、俺のフィアンセだからなぁ。あれだけ強くってもな、心配なんだよ。だから、側に置いておきてぇんだよ。ありがとうな」


「わ、私も妻にしていただけた暁には、上様の……お側にお仕えしてもよろしいでしょうか?」

「あ、ああ、そりゃぁ、妻は側にいて欲しいからな。当然だな。うん、当然だ」

「あ、ありがとうございますっ!」


「あー、それからな、俺のことは上様はじゃなくて"シン"と呼んでくれ」

「はい。シン様」

「いや、"様"は止してくれよ」

「では、シンさん」

「ああ、それならいい。これからは"シンさん"と呼んでくれ」

「はい。シンさん!」


「しかし、なんでお前さんみたいな優秀な隊長がいたというのに、あんなクソ代官なんかをのさばらしていたんだ?」

「統括神官様が信頼しきっておられまして……身分の差もあり、手出しできませんでした。悔しい思いをずっとしていました」


 バルバラはぎゅっと唇を噛む。

 相当悔しい思いをしてきたんだな……。


「だが、騎士、神殿騎士の方はお前さんの管轄だろ?悪い騎士を処断できたんじゃねぇのか?」

「彼等は代官の私兵でした。勝手に、自分たちのことを"神殿騎士"と自称していただけでしたので、私の指揮下になかったのです。ですから……」


 全員が騎士というのは名ばかりの、所謂、"ごろつき"っていう輩だったらしい。

 まぁ、あの魂の色だったからなぁ、そうだろうとは思っていたが……。


 バルバラを女性だと思って、侮り、力尽くでモノにしようと考えたバカ者もいたようだが、そいつらはみんなバルバラの"刀の錆"となったらしい。

 ん?剣の錆か?


 女性神官や、神官見習い等の女性神殿関係者にもちょっかいを出す輩もいたようだが、そいつらも、バルバラ配下の"正規"神殿騎士が"正当防衛"として斬り捨ててきたという。


「お前さんたち、本当の神殿騎士はよくがんばってくれたんだな!礼を言う!

 ありがとうな!あんなクソ代官が支配しているのに……よくやった!」

「はっ!お褒めいただき幸甚に存じます。部下もこの事を聞いたら皆、喜ぶと思います」


 暫く、彼女たちの武勇伝を聞く。苦労しながらもみんなをよく守っていてくれたことがよく分かった。


「よし、それじゃぁ、みんなに褒美を取らそう!」


 彼女の直属の部下のうち、神殿で警護をしているものは14名ということだ。

 彼等、部下たちにはミスリル製の騎士用防具一式とミスリル製の剣を、そして、バルバラには、オリハルコン製の騎士用防具一式にオリハルコン製の剣を生成して与えることにする。

 また、バルバラにも極薄シールド発生装置内蔵の指輪をプレゼントしておいた。


「ありがとうございますっ!婚約指輪までいただけるとは……」

「い、いや、それは婚約指輪じゃないぞ。さっきも言ったように、まだ知り合ったばかりだからな。それは飾りの部分をサッと撫でると極薄いシールドが発生して、お前さんの身体を攻撃から守ってくれる。身体にぴったりとフィットするからな、シールドは動きの邪魔にはならねぇ。良かったら使ってくれ」

「あ、ありがたき幸せっ!

 ……ううう……婚約指輪かと思ったのになぁ……ごにょごにょ……」


 ん?最後の方は聞こえなかったけど……。あらら、この子も左手の薬指に指輪を嵌めたぞ?やっぱり新しいマンションを建てないといけないのか?



 ◇◇◇◇◇◇◇



 午後からエルフ族の国、ヴェレビアに行くことになった。エルフ族の中央神殿が選んだ后候補と会うためだ。

 ひょっとして、暫く帰って来られないかも知れない。だから、キャルとシャル、シェルリィたちと一緒に神都へと出かけてきた。家族サービスってやつかな?

 一緒にいるのは、キャルとシャル、シェルリィ、そして、シオリとさゆりだ。

 みんな神都の住人のような格好に変装している。



「だ~りんっとぉっ!お・で・か・けなのぉっ!わ~い、わ~い!」

(ふん!ふん!ふん!)


 キャルがなんか妙な歌みたいなのを歌いながら嬉しそうに歩いている。

 シャルもキャルの歌に合わせて首を左右に傾げるように揺らしている。二人とも弾けるような笑顔だ。シェルリィもこぼれるような笑顔だ!

 相変わらず三姉妹はかわいい!いつも思うが、本当の姉妹のようだな!



 馬車二台がやっとすり替われるかという道の右側を並んで歩いている……すると前方より豪華な装飾が施された馬車が一台やって来て俺たちの横を通り過ぎる。


 馬車はそのまま進んで行くものと思っていたら、すぐに止まった?


 中から身なりのいい少年が二人降りて来る……。

 顔がそっくりだ……。双子かも知れない。軽装の鎧を身につけた騎士風の男たち5人がどこからか現れて、二人を守るように立っている。


「おい!そこの平民!ほら!……」


 と、少年のひとりが言うと金貨を1枚、俺に放り投げてきた。

 俺は無視した……金貨はそのまま地面へと落ちる。


「これで、そこの獣人二匹を買ってやる!ありがたく思え!」


 あぁ、勘弁してくれよぉ。変な小僧どもに絡まれるとは……。

 ステータス情報等で確認すると、やはり、二人は双子だ。12歳。魂の色は……どす黒く濁った血のような色をしている。やはりクソガキ決定だ。


「クソガキ!寝言は寝てから言いな!てめぇたち、ぶっ殺されてぇのか?」

「へ、平民の分際で無礼であろうがっ!

 ぼ、ぼくたちのパパはセイタイシュ・サイモン伯爵だぞ!偉いんだぞ!どうだ!

 言うことを聞かないとパパに言いつけて酷い目に遭わせてやるぞっ!」


 このクソガキどもと供の者を"見えざる神の手"でキャルたちのところへ行けないようにする……。


「シオリ、さゆり、子供たちを頼む。先に行っててくれ!」

「わかったわ、ダーリン」

「承知しました。ダーリン、この子たちのことはお任せ下さい」


 シオリとさゆりは子供たちを連れてこの場を去って行く。


「ま、まてっ!その犬っころどもはぼくたちのものだ!

 こっちへよこせっ! ま、待てーっ!」


 "見えざる神の手"に阻まれて、クソガキどもは追いかけられない……。

 暫くするとシオリたちの姿が見えなくなったので……威圧しながら……


「おい、クソガキ!俺の大事な子供たちを犬っころ呼ばわりしやがったな?覚悟はできているんだろうな!?」

「うるさいっ!よくもぼくたちの犬っころを逃がしたな!パパに言いつけて死刑にしてもらってやる!あの犬っころどもも絶対に見つけてぼくたちのおもちゃにしてやるからな!」


 ここでは俺がルールだ。ここは日本じゃない。少年法なんてものは存在しない!

 たとえあったとしても、たった今からそれは無効だ!


「四肢粉砕!」


 "ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁあ!!"


 おお、さすがは双子だ。見事に絶叫もシンクロナイズしている!


「き、貴様ぁーーっ!」


 ぺち!ぺち!ぺち!ぺち!ぺち!

 ぐはっ!ぶふぁっ!んぐっ!ぎゃっ!ずがっ!……ズダン!ズダン!……


 クソガキ二人を護衛をしていた男たちが襲ってきたので、"かるーく"デコピンをお見舞いしてやったのだ!

 いつもの光景が再現される……男たちは強制的にバック転させられながら地面をバウンドして行ったのである。


「取り敢えず……修復!」


 ん?クソガキ二人は白目を剥いて気を失っている。口から泡を吹いているな。


 クソガキ二人の魂の履歴を確認する……。

 コイツらはもう既に何人もの獣人族の子供を嬲り殺しにしていた。


「「ぐっすん、ぐっすん……ぱ、パパに、うう……パパに言いつけてやるぅ~。

 うわぁーん!」」


 クソガキでも一応は子供だからな……楽に殺してやるとするか。斬首だ!

 まぁ、"奈落システム"送りだけは勘弁してやるか。


「ウインドカッター」


「「ぎゃっ!」」……ドサッ!ブシューーーッ!

「ぼ、ぼっちゃまっ!…き、貴様ぁーっ!まだ子供だろうがっ!なんて酷いことをするんだっ!お、お前は悪魔かっ!」


 時間なんてものは単なる物差しだ。人の成長がみんな同じであるわけがない。

 事案を個別に判断するってのが真っ当な考え方じゃないのだろうか?

 一律に刑事責任年齢じゃないから刑罰は受けないなんてなぁ……どうも違和感がある。


 コイツらはもう何人も嬲り殺しにしている。このまま生かしておいても犠牲者が増えるだけだ。魂の色と魂の履歴がそれを物語っている。改心する可能性は1%も無いだろう。その更生の可能性にかけて、何人もの犠牲者が出たらどうするんだ?いったい誰が責任を取る?


「てめぇ、コイツらに何人の子供が殺されてるか見ていて知っているんだろ?

 それでも、このクソガキに罪がねぇと言えるのか?」

「ま、まだ分別がつかない子供だろうがっ!?も、もう少し大きくなればまともな判断ができるようにきっとなる。それなのに……」


「まだ、まともな判断ができねぇだけだぁ?もし、てめぇがコイツらに嬲り殺しにされた被害者の身内でも同じ事が言えるのか?

 てめぇら、獣人族に差別意識があるだろう?違うか?

 人間がコイツらに嬲り殺しになったとしても同じ事が言えるか?

 もう一度聞くぞ?……てめぇの身内が、コイツらクソガキどもの餌食になったとしても、同じ事が言えるのかっ!?どうだ!?」

「そ、それは……」


 己の欲望のために他者の命を奪ったら、年齢を問わず、原則として、奪った者の命で償わせる……それがこの世界で俺が決めたルールだ!

 3人以上殺さないと死刑にならないだと?被害者の命の方がクソ野郎の命よりも軽いってのか?そんなバカな話があるかっ!

 加害者の人権?そんなのはクソ食らえだ!

 精神鑑定?人を殺すようなヤツがまともであるわけがないだろう?


 勧善懲悪(かんぜんちょうあく)殺生(せっしょう)なしだ!

 ん?殺生戒って仏教用語だよなぁ……。

 仏教用語が絡む"ことわざ"って結構多いもんなんだなぁ……。


「改心の見込みがねぇヤツぁ~、たとえガキでも俺は成敗するっ!己の欲望で命を奪ったんだ。命で償うのがあたりめぇだ!ここでは俺がルールだ!問答無用だ!」

「……」


 クソガキの魂の履歴を調べて見てわかったことだが、まだ半殺しにされながらも生きている獣人族の子供たちが、コイツらの屋敷の地下にいるようだ。


「おい、コイツらの屋敷へ案内しろや!ボロボロになりながらも、まだ生きている獣人の子供がいるだろう?」

「こ、断る!だ、誰がお前なんかに教えるか!」


 めんどうくさい、こんなことをしているよりも自分で調べた方が早いな。


「セイタイシュ・サイモン伯爵……っと、ここか!……転移!」


 マップ上で検索して、伯爵がいる館に転移した。

 やはり、地下室に獣人族の子供たちの生命反応がある。3人か、急ごう!


 極薄いシールドを身体にフィットするように展開し、屋敷を警護する衛兵たちの攻撃を無視して、地下室へと向かう。

 魂の色を見ながら相手をするのが煩わしいので、コイツらの攻撃はすべて受けることにしたのだ。


「お、お前は何者だ!?」


 セイタイシュ・サイモン伯爵だ。魂の色は……オレンジ色か、微妙だな……。


「てめぇんとこのクソガキ二人はぶっ殺してやった。大人しく獣人族の子供たちを返せばよし、返さねぇんなら、てめぇらもあの世へ送ってやるぜ?」

「ははは。獣人族の子供たちだとぉ?何を寝ぼけたことを言っている?そんな子供たちはここにはいないぞ?

 それに……うちのぼくちゃんたちには、腕利きの護衛をつけてあるんだ。小僧!お前なんかにやられるわけがないわっ!」

「ほらよっ!」


 俺はセイタイシュ・サイモンの目の前に、クソガキ二人の死体を転送した。


「ぼ、ぼくちゃんたち!ぐわがぎゃーっ!お、おのれぇーーっ!皆の者、こいつを殺せ!ぼくちゃんたちの仇を討て!!」


 なんか一斉に斬りかかってきたけど……手下に極悪人がいないようだから、無視して先に進もう……。


 地下室の中は……凄惨な光景だった。

 血がべっとりとついた大きな万力がある。何をしたのかは想像に難くない。

 他にも拷問に使ったであろう、血のついた道具がたくさんある。


 子供たちはみんな酷い怪我をしている!子供たちのもとへと高速移動する。


「助けに来たよ。もう大丈夫だ。すぐに治してあげるからね」


 獣人の子供が3人だけだった。他に誰もおらず、遺体も無い。

 3人をターゲット指定して……


「修復!」


 俺の後を追いかけてきた者たちが、この部屋に入るなり、固まった。

 クソガキの父親も、クソガキたちが、ここで繰り広げてきた凄惨を極める行いを知って絶句している。どうやら本当に知らなかったようだ。


 キャルたちと同じ年頃の子供たちだな……かわいそうに……泣けてくるな。


「ん……んん。あ、神ちゃま!うわぁーん!痛かったよぉ-っ!」

「もう大丈夫だからね。悪いヤツらはやっつけたからもう安心だよ」


 俺のことをひと目で神だと見抜いたぞ、やはり人族よりも獣人族の方が信仰心が厚いのかも知れないな……。


 男の子が二人に女の子がひとりだった。他の犠牲者はいなかった。

 殺された子供たちがたくさんいたのに、遺体はすでにそこには無く……どうしてやることもできなかった。悔しい……。


 セイタイシュ・サイモン伯爵は呆然と立ちつくしている。


「てめぇがしっかりとクソガキどもを躾けねぇから、こうなったんだぞっ!

 これを見てもなんとも思わねぇのか?なんか言うことがあるか?」


 俺の言葉に我に返ったのか、真っ青で苦しそうな顔をしながらひと言呟いた……

「す、すまん……」


「謝って済む話じゃねぇな。保護者としてちゃんと責任を取ってもらうぜ。ここで犠牲になった子供たちを調べて、ちゃんとその子たちの親御さんに賠償しろよ。

 神の名において命じる!いいな!?」


 俺は眉間にある"印"を光らせる……。ようやく伯爵とその部下たちが、俺が何者なのかを理解したようだ。


「わ、分かりました。上様、誠心誠意行います。被害者を特定し、家族に必ず賠償します」


 俺は、クソガキ二人の遺体を地下室に転送し、まず身体を修復する……。


 しまった。獣人族の子供たちの心情を察するべきだった。

 子供たちはギュッと俺にしがみついてきた。そして、ぶるぶると震えている。


 そうだよな……酷い目に遭わせたヤツが目の前に現れたら怖いよなぁ……。


『シオリ、聞こえるか?』

『はい。聞こえます』

『あのさぁ、さっきのクソガキどもの被害者を助けたんで、そっちへ転送しようと思うんだが、いいかな?キャルたちと同じくらいの年の子が3人だけど……』

『はい。大丈夫です。こちらでお預かりします。悪者を成敗されるのですね?』

『いや、成敗したんだがな、取り敢えず生き返らせようと思ってな、でも被害者の子供たちがクソガキどもを怖がってなぁ……当然だよな。それでそっちへ送ろうかと思ったんだが……』

『そうですか。分かりました。いつでもどうぞ。お待ちしております』

『ああ、頼む。それじゃすぐに送るから……』


「君たち、今から俺の仲間のところへ行ってもらうね。突然、周りの様子が変わるけど、びっくりしないでね」


 3人が俺にしがみつきながら頷いている。


「転送!」


 子供たちが突然いなくなって、みんな驚愕している。


 さてと、これで心置きなくこいつらに対応できるな……。


 クソガキ二人の遺体にナノプローブを注入してやる。

 そして、なにか行動を起こした時に呼び出されるイベントのイベントハンドラを記述する……己の都合や欲望で人に危害を加えようとした瞬間、身体が激痛を伴い腐り落ちて、やがては死に至るようにプログラミングしてやったのだ。


「蘇生!」


 しばらくするとクソガキどもが目を覚ます……。

 クソガキの父親と手下どもは奇跡を目の当たりにして俺の前にひれ伏す。


「いいか、クソガキども。てめぇらに最後のチャンスをやろう。

 もし今後、てめぇの欲望や勝手な都合で人を傷つけたら……四肢粉砕!」


「「ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁあ!!」」


「修復!……こんな痛みじゃすまねぇ、強烈な激痛を味わいながら、身体が腐って死ぬようにしてやったからな。これからは真面目に生きろよ、いいな?」

「「わ、分かりました」」

「それから、てめぇらが殺してきた子供たちのことを洗いざらいてめぇらの親父に話すんだぞ?ちゃんと犠牲者の家族に対する損害賠償に協力しろよ?いいな!?」

「「は、はいっ!」」


「もう一度言っておく。地獄の苦しみを味わいながら死にたくなかったら、今俺と約束したことをちゃんと守れよ。いいな?これは脅しじゃねぇぞ?約束を破れば、今度こそ本当に死ぬぜ!」

「「はいっ!」」


 多分、コイツらは約束を守れないだろうな……。俺がいなくなった途端、なんかやらかしそうだなぁ。まぁ、"次"の犯罪は起こりえねぇんだけどな。絶対に未遂に終わる……被害者が出る前にコイツらが腐りながら、激痛を味わいながら死ぬんだからなぁ。

 しかし、俺も甘ぇなぁ……こんなクソガキどもにチャンスをやるなんて……。


「おい!親父!てめぇもちゃんとコイツらクソガキどもを教育しろよ?いいな?」

「はい。我が命に代えても!」

「ほおぅ?その言葉に偽りはねぇな?

 それじゃぁ、コイツらが何かやらかして死ぬようなことになった時は、てめぇも同じように死ぬようにしてやろうじゃねぇか」


 父親のセイタイシュ・サイモン伯爵の方にもナノプローブを注入し、息子たちが悪行を犯した時に、息子たちに連動して、身体が激痛を伴いながら腐り落ちて行くようにしてやった。


「リブート!」


「はっ?な、何が起こったんだ??」

「これでてめぇら親子は俺との約束を違えられねぇ。違えたら親子ともども地獄の苦しみを味わいながら死ぬぜ?いいか?絶対に約束を守れよ。じゃあなっ!」


 俺はみんなのところへと転移した。


「だ~りん、おそいよぉ~。つかれちゃったのぉ~」

(ん?)

「ごめん、ごめん遅くなって……」


 助け出した獣人族の子供たち3人には、キャルたちと友達になってくれることを期待していたのだが……恥ずかしいのかキャルたちから離れてシオリの影に隠れて様子を見ていた。

 俺と視線が合うと、俺のもとへと走り寄ってきて、胸へと飛び込んできた。

 子供たちの目の高さに合わせようかと、かがんだところだったので、子供たちの勢いに尻餅をついてしまった。その状態、尻餅をついた状態のまま子供たちを受け止める……。


「さぁ、それじゃ、君たちのお家へ送ってあげるね。案内できるかな?」

「は~い。できまぁ~す。こっちこっち……」


 子供たちが俺の手を引っ張る。

 ん?なんだ?キャルとシャルが真剣な顔をして、俺の背中にしがみついてきた。

 どうやら、この子たちに俺を取られるような気がしたようだな。

 シェルリィは苦笑いをしながら、さゆりの側にいる。


「キャル、シャル、俺とシオリはこの子たちを家まで送ってくる。

 シェルリィとさゆりと昼飯を食べるレストランを探しておいてくれねぇかな?」


 初めは俺と一緒に送って行くと、だだをこねていた。だが一瞬ハッとしたような表情を浮かべると、同行するのを諦めてくれた。

 俺の意図するところを察したようだ。

 親子の対面シーンをこの子たちに見せたくないということを……。


 バーベキューパーティーをすることで、親子が共に楽しんでいる場面を、あえて見せてきた。少しでも自分たちの置かれた状況を受け入れさせようと……。

 だが、さすがに……自分たちと同じような酷い目に遭った子供たちが両親と再会するシーンは……と考えて、別行動を取らせようとしていたのだが、頭のいい彼女たちはそのことを察したようなのだ。

 彼女たちのように、小っちゃな子供がそのことに思い至るなんて……。

 俺は目頭が熱くなった。気を使わせたくはなかったなぁ……。



 子供たちの案内で、全員、子供たちの家へ無事に送り届けることができた。

 3人の子供たちは近所に住む友達同士で、公園で遊んでいるところを一緒に連れ去られてしまったということだった。

 親たちも、近所の人たちも一緒に必死に捜したが見つからず、途方に暮れていたところに子供たちを連れて行ったので、犯罪者じゃないかと疑われてしまった。


 まぁ、状況からすれば、しかたないわなぁ……と苦笑いしていると……


 俺のことを犯罪者呼ばわりされたことにカチンときたのか、シオリが俺の正体を高高と告げ、親や近所の者たちを叱りつけた。

 子供たちはキョトンとしているが、大人たちはみんな俺の前にひれ伏している。


「も、もういいから、面を上げてくれや。怒っちゃいねぇから……」


 事の次第をみんなに告げる。みんなは、青ざめている……。

 親たちは酷い目に遭った子供たちをギュッと抱きしめて涙を流している。帰って来られたことを心から喜び合っていた。


 子供たちが連れ去られた地域は獣人族タウンで、今までにも何人もの子供たちが行方不明になっているということであった。恐らくはその子たちはみんなクソガキどもの餌食になったのだろうと思うと泣けてきた。

 せめて、遺体が残されていれば蘇生させられたものを……。


 今回、子供たちが無事に……といっても実際には酷い責め苦にあったので、無事とは言い難いのだが……帰って来られたことから、その他の行方不明となっている子供の親たちは、子供が無事に帰ってくることに一瞬、淡い期待を抱いたのだが、俺から告げられた真実に……絶望した。意識を失ってしまった母親もいる……。


 とにかく、セイタイシュ・サイモン伯爵のところへ行って他の子供たちのことを調べるように言って、俺とシオリは……暗い気持ちでその場を後にした。



 その日の夜……獣人族の一団、数百人が、セイタイシュ・サイモン伯爵邸に押し入った。その集団に、セイタイシュ・サイモン伯爵とその二人の子供が嬲り殺しにされた。彼等の首は槍の先に串刺しにされて、伯爵邸前に晒されたという。

 犯人は特定されていない……。



 ◇◇◇◇◇◇◆



 時間を元に戻そう……。

 さゆり、キャル、シャル、シェルリィと合流するために、俺とシオリは、街中を急いでいる……。

 すると、前方の民家の前に人だかりができている。

 中からは泣き叫ぶ声が聞こえる。それは小さな女の子のものと思われる。

 民家の前の人たちも溜め涙……。嗚咽も漏れる……。


「おかあさん、おかあさん、死なないで!ひとりはいやだよぉ……おかあさん!

 うわぁーーーん!」


 家の前にいるひとりの女性をつかまえて話を聞く……。


「おい、何があったんだ?」

「ああ、この家は母親と5歳くらいの女の子との二人暮らしなんだけどね。母親が病気でねぇ…ううう……た、たった今…な、亡くなったんだよぉ……うう。

 か、かわいそうで見てらんないよう……ううう……」


「そうか……」


 最初に俺が尋ねた女性の横にいた女性が……

「ここの旦那がね、人でなしでね……女を作って、貯金と生活費を全部持って出て行ったんだよ。妻と娘を捨ててね。……ったくあのろくでなしめっ!」


「なるほどな、ありがとう。……おい、ちょっと通してくんねぇか。悪ぃな」

「ちょ、ちょっとあんた!どうしようってんだい?」


 俺は人だかりをかき分け、家の中へと入っていく……。

 シオリはそんな俺を優しい笑顔で見守っている。


「お嬢ちゃん、大丈夫だ。お母さんは俺が生き返らせてやるからな!安心おし!

 ちょっとお母さんを見せてくれな。いいかな?」

「ううう……。うん」


 ああ、死因は風邪をこじらせたことか……しかし、栄養失調じゃねぇか?

 ガリガリに痩せちまっている……。子供の方は大丈夫だな。

 そうか……自分が食べる分まで子供に与えていたんだなぁ……。

 涙が込み上げる……。


「修復!……そして、蘇生!」


 母親は生き返り、目を開ける……。

「おかあさんっ!おかあさーーんっ!うわぁーーーん!よかったーーっ!」


「おおーーーっ!!」

「なんだ、なんだ?なにがあったんだ?」

「母親が生き返ったんだ!き、奇跡だ!」


 ざわざわざわ……

 そして、人だかりの中のひとりが俺の正体に気付く……。


「ああ、神様……神様がお助け下さったんだ!」


 家の前にいた人々が一斉に跪く……。シオリはというと……にこにこしている。


「お前さん、もう大丈夫だ。子供を残して死んでなんかいられねぇだろ?

 だから生き返らせてやったが迷惑だったか?」

「い、いえ、あ、ありがとうございます……」

「ほら、まずこれを飲みな。お嬢ちゃんはどのジュースがいいかな?」


 まず、母親に栄養ドリンクを飲ませる……。ジュースを各種生成して、女の子に選ばせた。母親も女の子も美味しそうに飲み干した。


「かみさま、ありがとう」

「いいってことよ。ははは」

「ありがとうございます。この子をひとり残して死ななくてよかったです。

 でも……これからどうすれば……す、すみません。忘れて下さい」


「俺たちはこれから昼飯を食いに行くんだが、どうだい?一緒に?

 もちろん、俺のおごりだ。遠慮しなくてもいいから行こうぜ?

 飯でも一緒に食いながら、お前さんたちの今後のことを話し合おうか。俺がなんとかしてやるからな。思い詰めるなよ」

「……」


「遠慮するなって。俺はこれでも神だ。どんと頼ってくれ!

 口は悪ぃが、正直者、弱い者の見方だぜ!俺に面倒を見させろ!?」

「は……はい」


「お嬢ちゃん、お母さんと一緒に、美味しいものを食べに行こうぜ」

「うん!」


 そんな時である……外が急に騒がしくなった。


「あんたっ!今頃ぬけぬけと……何しに来たんだいっ!とっとと帰りな!」

「うるせぇぞ、ババァ!俺はガキに用があってきたんだ!どけっ!」


 魂の色は赤黒い……クソ野郎の登場だ。

 また厄介ごとが起こりそうだなぁ……ったくよぉ~。





いつもお読み下さり、ありがとうございます。

m(_"_)m

挿絵(By みてみん)

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