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第023話 宋襄の仁

 "スカイブルー"か。神官の方もそうなのか……。



 今、リビングテーブルを真ん中に挟んだ俺たちの向かいには二人の女性が座っている。型通りの挨拶が終わって腰掛けたところだ。


 俺の真向かいには神官見習いのレキシアデーレ・ストリドムが……。

 そして、彼女の隣、向かって左隣には、神官のスリンディレ・クラルケが座っている。 この女性がレキシアデーレが仕えている神官である。


 ふたりとも、魂の色は"スカイブルー"であった。

 レキシアデーレが仕えている神官が善良な人でよかった。


 となると……不思議だ。

 彼女たちが不可解な行動を取っていたことが、重要な意味を持ってきそうだな。


 彼女たちの不可解な行動、それは……


 旅の途中から彼女たちは、まるで思いつきで行動しているかのようにでたらめな行動を取り始めたことだ。


 中央神殿を出て、暫くの間は提出していた行動スケジュール通りに巡回していたのに……ある時から急にめちゃくちゃな、巡回効率を全く無視した、無駄だらけの行動を取り始めているのだ。


 神官見習いのレキシアデーレが、勝手に行動を決められるわけがない。


 だから、普通に考えれば、旅の途中から、でたらめな行動を指示してきたのは、この女性神官ということになるだろう……。


 しかし、この善良な人間が理由もなくそんな行動を取るわけがない。

 つまりは、そうせざるを得ない、何かがあった可能性が高い。


 後で必ず聞こう……。


 ん?レキシアデーレの顔色が悪いぞ。

 ひょっとして、もう既に父親の死を知っているのか?


「レキシアデーレ、気分でも悪いのか?」

「いえ、大丈夫です。ちょっと疲れているだけです。ご心配いただき、ありがとうございます」

「そうか……」


 大丈夫だろうか?ちゃんと受け止められるだろうか?父親の死を……。


「実はこうしてお前さんに直接会いに来たのには理由がある。

 とても重要な話をしに来たのだ」

「はい。それはどういったお話でしょうか?」


「いいかい、気を確かに持って聞いて欲しい……」

「は…い……?」


「お前さんのお父さん、カルメデオ・ストリドムさんが亡くなった」

「!!!!!」


「おい!しっかりしろ!大丈夫か!?」


 レキシアデーレは気を失ってしまった。

 神官のスリンディレの膝の上へと倒れ込み、意識を失っている。


 やはり、ショックが大きすぎたか……。

 神官、スリンディレは驚きを隠せないでいる。


 スケさん、カクさん、ヘルガにさゆり……。

 みんなは憐憫の表情を浮かべている。


 彼女の精神状態を安定させるべく、神術を施した。


 …………暫くして、彼女が意識を取り戻す。


「大丈夫か?ショックだったよな」

「……」


 心中を察するに余りある。

 彼女に父親の死を伝えようと思ってからずっと……伝えた後にどう慰めようかと考え続けてきた。

 肺肝を砕いた……だが、どんな慰めの言葉をかけても、ただ虚しいだけのような気がして……結局、かける慰めの言葉は見つからなかった。


「それで……父は…父は病死だったんでしょうか?」

「いや……お父さんは、お父さんが助けてやった盗賊に殺されてしまったんだ」

「そんな……お、お父さん……ううう…うわあーーーーん!」


 レキシアデーレは号泣する……


 スケさん、カクさん、ヘルガにさゆり、神官のスリンディレも……みんな俯いて涙を流している。

 そして……この俺も……。


 ああ、アダージェットが聴きたくなる……。

 地球にいた頃、気分が落ち込んだ時に聴いていた曲だ。

 マーラーの交響曲第5番、第4楽章……気分が落ち込んだ時にこの曲を聴くと、なぜか心が癒やされたのだ……。


 今まさにこの曲が聴きたいと強く思う……。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 レキシアデーレが落ち着いてから、彼女の父親、カルメデオ・ストリドムの身の上に何が起きたのかを話して聞かせた。

 彼女は俯き、目には溜め涙……唇を真一文字に引き結んでじっと聞いていた。



「……それでな、彼の一人娘が、中央神殿で神官見習いをしていると知って、その娘さんを俺は絶対に加護しようと決めたんだ。勝手な話なんだがな……」

「……」


「恐らく、お父さんの心残りはお前さんのことだ。

 大切に育ててきた娘の行く末が心配に決まっている……と思ってな。


 だから、お前さんを幸せにしてやらなきゃ…と思ったわけだ。

 お父さんがしてきた善行に報いるためにもな。


 その第一歩がお前さんを加護することだと思っている。

 どうだ?俺の加護を受けてくれるかい?」


「……ありがとうございます」


「そうかっ!よかった!

 お前さんはこうして旅をしているからな、ずっと心配してたんだよ。

 妙なヤツに絡まれていねぇかとかな……。


 俺の加護さえあれば、たとえS級冒険者でも、お前さんをどうこうできなくなるからな、早く加護をしてやりたくてな……」


 ん?レキシアデーレと神官が互いに顔を見合わせて驚いたような顔をしている。


「ん?どうしたんだ?何か俺はマズいことでも言ったか?」

「「いえいえ!」」


 神官が意を決したように……


「実は……後でご相談しようと思っていたんですが……」


「なんだ?遠慮するな」

「はい。実は……レキシアデーレが、妙な男に付き纏われて困っているのです」


「何?ストーカーか?」

「すとーかー?」

「いや、いい、気にするな。続けてくれ」



 話によると……


 彼女たちが巡回視察のために、神都の北西約2000kmにある、ラウロボルムという町の神殿を訪れた時のことである。


 彼女たち神殿視察団を歓迎するパーティーが、領主によって町の有力者を集めて開かれたのだが、その出席者の中にストーカー男がいた。


 男はレキシアデーレに一目惚れしたらしく、パーティーの間中執拗に口説き続けたらしい。


 ラウロボルムに彼女たちが滞在している間、男は毎日のように神殿や彼女たちの宿舎に顔を出しては、レキシアデーレに求婚し続けたという。


 レキシアデーレには全くその気はなく、その度に断ったが、男は諦めなかった。


 神官のスリンディレを交えてハッキリと男に拒絶の意思を示したのだが……。


 男は、神官が無理矢理レキシアデーレに、男との結婚を諦めるように言っているのだと主張し、全く諦めることはしなかった。

 神官を殺してでも、レキシアデーレを神官の魔の手から助け出し、自分のモノにすると言い放ったらしい。


 そして、行動はどんどんエスカレートしていく……。


 レキシアデーレが神殿から宿舎へと戻るのを、手下とともに待ち伏せし、護衛の神殿騎士を手下に足止めさせて、彼女を強引に連れ去り、人気のない路地裏で押し倒して自分のモノにしようとしたこともあったという。


 幸い危機一髪で神殿騎士に救い出されて事なきを得たのであるが、以降、彼女は一人で外に出られなくなってしまった。

 ストーカー男は町の有力者の息子なので、被害を訴えても、まともに取り合ってもらえなかったと言うことだ。


 クソ野郎だな……成敗しなきゃならんな!


 外に出なくなった彼女の元には、毎日のように男からプレゼントが贈られてくるようになった。

 男からのプレゼントは、応対に出る神殿騎士がすべて突き返すため、男は匿名でプレゼントするようになる。


 ある時、中央神殿関係者の名前で送られてきた小包を彼女が開けると、中には、

白濁した液体が入った瓶と手紙が入っていて、手紙には……


『高貴な身分である私の貴重なエキスを特別に愛する君に進ぜよう……』


 というような内容が書かれていた。瓶に入っていたのは悍(おぞ)ましい液体だった。

 手紙を読んだ彼女はあまりのショックにその場で卒倒してしまったという。



 これはマズいな……このケースは、殺人事件にまで発展することがある。


 地球では、こういったケースで、公的機関も含めて、誰にも助けてもらえずに、

ついにはストーカーをされていた女性が殺されてしまった……ということが何度かあったのを覚えている。


 だがっ!この世界には俺がいるっ!

 クソ野郎の魔の手から、俺が絶対に彼女を守ってやるっ!

 覚悟しておけや、クソ野郎!……俺は固く心に誓った。



 このままではレキシアデーレの身が危険だと判断した神官は、視察を早々に切り上げて、こっそりと次の目的地へと旅立つことにしたらしい。


 ところが、なぜか次の視察先にも男は現れてレキシアデーレを執拗につけ回したのだった。神官のスリンディレは、どこかから情報が漏れたようだと言っている。


 次の視察先へ行っても同じだった。


 中央神殿に提出していた行動スケジュールが、どういうわけか男に漏れていると判断した神官は、スケジュールを無視し、効率などは一切考えないようにして思いつきで移動するようにしたらしい。



 なるほど。得心がいった。

 これで彼女たちの不可解な行動が理解できた。



「……その後、この町に来るまでは、大丈夫でした。男は現れていませんが、このままでは心配で、それで、今回はよい機会だと思い、上様にご相談しようと考えていたのです」


「なるほどな。分かった。俺に任せろ!

 それじゃぁ、やっぱり、まずは俺の加護を彼女に授けておいた方がいいな。

 さっきも言ったが、S級冒険者でも太刀打ちできなくなるからな」

「……あのう~」

「なんだ?レキシアデーレ」

「あのう~、加護していただくと筋骨隆隆になって……もしかしてオーガのような体型になっちゃうようなことはありませんでしょうか?」


 な、なるほど……そう思うわなぁ。お年頃だし……気になるわなぁ。


「大丈夫だ!ここにいるお姉さんたちは、ひとりを除いて、みんな俺の加護を受けているが、どうだ?オーガには見えねぇだろ?みんなすっげぇ美人だろ?」

「はい!よかったぁ~安心しました!お願いします!」


 父親の死を知って、まだ間もないのだけれど……努めて明るく振る舞おうとしている彼女がとてもいじらしい……。全力でサポートしてやるからな。


「おう!分かった!

 それじゃぁ、スリンディレ、彼女に横になってもらう必要があるから、ちょっとそこを開けてくんねぇか?悪ぃな」

「いえ」


 スリンディレが立ち上がった。

 今、俺たちの向かいのソファーにはレキシアデーレだけが横になっている。


 もう今回で5回目か……。

 俺のフィアンセたちと一緒の加護なら、もう目をつぶっていてもできそうだな。


「さぁ、準備はできた!……さっき話したように、一瞬、意識が飛ぶからな。

 でも安心しろ、痛くはねぇからな。それじゃぁ目をつぶってくれ!」

「はい」

「リブート!」


「……えっ?もう終わったんですか?加護していただいたのでしょうか?」

「おう!さっき説明したように、お前さんはめちゃめちゃ強くなってるからな。

 力加減には十分注意しろよ!いいな!」

「は、はいっ!」


 ホント、俺も注意しなきゃなぁ~。



 ◇◇◇◇◇◇◆



「どうする?スリンディレ。

 俺たちの用事が済んだら、俺たちと一緒に一旦中央神殿に帰るか?

 一緒に連れてってやってもいいぞ?もちろん、随伴者全部まとめてOKだ」

「そうですね……その方がいいかも知れませんね」


「ああ。中央神殿の方も、お前さんたちの動きが読めねぇから困っていたしな」

「はい。では、そうします。お手数をおかけして申し訳ありません」

「なぁ~に、気にするな。大した手間じゃねぇからな」


 神都にいてもらった方が、俺も守りやすいからな。


「そうそう、スリンディレ。ありがとうな。

 機転を利かせてレキシアデーレを守ってくれて……ありがとう」

「いえ。私の随伴者ですから。あたりまえです」


 よし!神都に帰ったら、もう一回バーベキューパーティーをやろう!

 スリンディレも、レキシアデーレも、他の随伴者もこの間はいなかったからな、この子たちにも楽しませてやらなきゃな!



 ◇◇◇◇◇◆◇



 さぁ、今度はいよいよヘルガの実家だ。ヘルガの実家へは徒歩で移動する。

 レキシアデーレも俺たちに同行することになった。


 父親の死を知ったばかりのレキシアデーレに、家族団欒を見せつけることになるだろうから、同行させない方がいいと思っていたんだが……。


 頭のいい彼女は、俺がそう考えていることまでも見抜いた上で、大丈夫だからと強く同行を希望したので、俺は気圧されて、しぶしぶ同行を許可したのだ。



 レキシアデーレの護衛をずっと務めていた神殿騎士が、心配だから同行したいと申し出たが、俺はそれを断った。


 当然である。こちらにはスケさんとカクさんがいるからな。


 護衛の神殿騎士たちは、俺が加護する前の、かつてのスケさんとカクさんの実力しか知らない。

 それで、彼女たちの今の実力を確かめたいと彼等は手合わせを願い出た。


 スケさんとカクさんそれぞれに、ひとり対彼等4人で模擬戦をしてもらったが、ひとりひとりでは話にならず、彼等4人で一斉に斬りかかったのだが、彼女等に、指一本で簡単にねじ伏せられてしまった。

 だから、彼等は納得せざるを得なかった。彼女等以外の護衛は不要だということを……。

 自分たちは護衛するどころか、下手をすると足手まといになってしまうかも知れないということを悟ったのだ。


 それに、レキシアデーレ自身もあらゆる攻撃属性に対する耐性も得たし、今や、オーガ並みのSTRにもなっている。能力だけなら、もはや護衛の神殿騎士たちをも超えている。彼等よりも劣っているのは、戦闘経験だけである。

 まぁ、それが結構重要なことなのかも知れないのだがな……。 いずれにせよ、彼女が戦うことはまずないし、問題はないだろう。



 ◇◇◇◇◇◆◆



「父さん、母さん、ただいま帰りました」

「おお、ヘルガ!お帰り!どうしたんだい急に?……はっ!神様!」


 ヘルガの母親が俺に気が付いて跪いた。


「ああ、どうも。お義母さん、初めまして。

 私はこの世の神をしております、シンと申します。

 事後承諾で大変申し訳ありませんが、この度、ヘルガさんと結婚することになりましたので、そのご報告とご挨拶、そして、それとは別にあるお願いをするために参上致しました」


 家の中から続々と人が出てくる……。

 ヘルガの母親が、皆に俺の正体を話すと、皆は即座に跪く。


「ああ、みなさん、そんなことをなさらないで下さい。

 立って下さい。私たちは忍びの旅をしております。どうか普通にして下さい」


「おお、ヘルガ!夢が叶ったんだな!よかったなぁ!

 でも……まさか本当に神様のお后様になるなんてなぁ……悪いけど未だに信じられないな」

「まぁお兄さんったら、失礼しちゃいますわね。ふふふ」


「みんな、悪ぃけど、普段の口調に戻すぞ。

 丁寧な言葉で話してると、肩こってしょうがねぇからなぁ」

 "…………"


 みんなが俺の言葉遣いの変化に呆然としている。

 すまないなぁ、こういうキャラだから勘弁して下さいな。


「あ、みんな!紹介しますわね!

 こちらの方は"さゆり"さんといって、シンさんの助手をされている方。

 ……この方たちは私と同じく、シンさんのフィアンセのスケリフィさんとカークルージュさん。二人は神殿騎士をされていますわ。

 そして、この子は今日から私たちの仲間になった、レキシアデーレさん。

 神官見習いをされていますの」


 この場にいるみんながそれぞれ互いに挨拶を交わす。




「……というわけで、植物プラント兼住宅があるんだが、家族みんなで、俺たちのところへ越してこねぇか?どうだろう?」

「……大変ありがたいお話なのですが、お断りします。申し訳ありません」


「どうしてなんだ?やはりこの土地を離れたくはねぇのか?」

「はい。ここは適度な海風が吹く、絶好のロケーションなのです。私たちが育てている果物にはこの潮風がなくてはならないのです。

 それに……ここに住む人たちと離れて暮らしたくはないのです」


「人間関係かぁ、そればっかりはなぁ……。空気の方は分析すりゃぁなんとかできそうな気もするんだが、さすがに人間関係となるとなぁ……」


「申し訳ありません。折角のお心遣いを……」

「分かったよ。それなら仕方ねぇわなぁ……。諦めるよ。

 でも俺たちはいつでも大歓迎だ。

 また気が変わったら、遠慮なしに言ってくれよ」

「はい。ありがとうございます」


 残念だが、仕方あるまい。

 ん?ヘルガがなんとも言えない複雑な表情をしているな。


「あのう……上様……」

「ん?プラティマ、どうした?」

「はい。私と妹はお姉ちゃんと一緒に住んではダメでしょうか?」


「プラティマ!お前何を言っているの!?」

「お母さんは黙ってて!」


 プラティマの話では……


 今、父親と母親は母屋に暮らし、ヘルガの兄と、ヘルガの妹たち、プラティマとジャアイ姉妹は、離れで一緒に暮らしているらしい。

 近々、兄のヴィンセンツォが嫁を迎えるらしく、そうなると、姉妹は離れを出ることになるのだが、どうせならこれを機会に親元を離れて、神都で生活してみたいと思ったらしい。


 14歳と15歳か……。

 この世界では、男女ともに15歳から成人扱いされるようだが、日本人としての感覚が抜けない俺としては、まだまだ子供にしか思えない……。


 ヘルガの判断に任せるか……。


「両親を説得でき、ヘルガがいいと言えば……俺は構わねぇぜ。どうだヘルガ?」

「そうですわね。父と母がOKすれば、私は大歓迎ですわ」

「「お姉ちゃん、ありがとう!」」

「まだ礼を言うには早いわよ。お父さんとお母さんをちゃんと説得なさいね」

「「はい」」


 今日、この後この件で家族会議を行うらしい。


「ヘルガ、どうする?今日はお前さんもここに残るか?」

「いえ、私は家族の決定を受け入れるだけですし、それにここに残っても、泊まる場所もありませんから帰りますわ」


「両親と一緒に住めるなんて……羨ましいなぁ……」


 レキシアデーレがぽつりと呟いた。



 ◇◇◇◇◆◇◇



 ヘルガの家の前にいつものテントを設置して、ヘルガの家族とみんなで、ティータイムを楽しんでいる。

 ヘルガの両親が、果樹園で採れたというマンゴーを出してくれたんだが、これは美味かった!これほど美味いとは想像もしていなかった。

 これだけのものが収穫できるんだ。余所へ行きたがらないのも分かる気がした。


 だが、小作人ということだけが俺の心には引っかかっている。

 ニセ領主が成敗された今、当然、領主が代わる。それが心配なのだ。


 領主人事に関与せざるを得ないな……ヘルガのために。



 ◇◇◇◇◆◇◆



 非常に名残惜しいが、そろそろ暇せねばならない。

 ヘルガの家族とも親しくなれたし、楽しいティータイムだった。


 ……ん?何やら外が騒がしいぞ?


 俺たちは急いでテントの外へ出る!


「火事だーーっ!神殿が燃えているぞーーっ!消防団は消火に向かえーーっ!」


 空にはモクモクと黒煙が上がっている。神殿が火事らしい!?

 嫌な予感がする。とにかく神殿へ急がねば……。


 俺たちは早々にヘルガの家族に暇を告げた。



「それじゃぁ、みんな!神殿に転移する!側に寄れ!……よし!転送!」



 ◇◇◇◇◆◆◇



 神殿前広場に転移すると、まず俺は、マップで神殿内部に取り残されている者がいないかを確認した。4人いる!


「転送!……浄化!修復!」


 ただちに、4人をこちらへ転送し、浄化と修復神術を施す。

 神官のスリンディレ・クラルケたちがいない!?


 彼女たちのことは取り敢えず後回しだ!まずは消火だ!完全消火神術を施す!


「完全消火!」


 消火活動をしている者たちや野次馬たちが驚愕した!

 目の前で一瞬にして、火災がおさまったからだ。



 ひとりの男がふらふらと近づいてきた……ん?レキシアデーレの護衛をしていた神殿騎士のひとりだ!彼は剣で切られたような傷を負っている。重傷だ!


 俺の側まで来ると、気を失ってしまった。


「浄化!修復!」


「ん……んんん……」


 神殿騎士の男の傷は癒え、装備も修復されて、しかも新品のようになっている。

 男は意識を取り戻した。


「おい、何があった?」

「ソルヴェン・ケヴァインが、ソルヴェン・ケヴァインが大勢の手下を連れて乗り込んできて……神官様を…スリンディレ様を攫って、神殿に火を放ち、村の外へと

向かって去っていきました。北西にある砦跡地へと向かったようです」


 レキシアデーレの護衛をしていた残りの3人は、神官を攫った"ストーカー男"のソルヴェン・ケヴァインを追っているとのことだ。


 索敵範囲を拡大してマップを表示させると、確かに神官を追うようにして、神殿騎士3人が移動しているのが確認できた。北西に向かっている。



 ソルヴェン・ケヴァインは去り際に、神官を返して欲しくば、ここから5km程北西にある砦跡地にレキシアデーレを連れてくるように大声で叫んでいたらしい。


 この件を教えてくれた神殿騎士の男は、去り際のソルヴェン・ケヴァインを止めようとして、ヤツの手下に斬られ、一旦意識を失ったとのことだった。

 再び意識を取り戻した彼は俺の姿を見つけて、重傷であるにもかかわらず事態を報告しようと近づいてきた……ということであったのだ。


「転送!」


 直後、俺たちの前に神官、スリンディレ・クラルケが転送されてきた。

 彼女はロープで縛られており、怪我もしていたので即座に修復してやる。


「拘束解除!……浄化!そして、修復!」


 取(と)り敢(あ)えず浄化もしてやった。

 子種なんかを送りつけてくるような"変態野郎"に攫(さら)われていたんだから、さぞや気持ち悪かろうと思っての浄化だ。


 まぁ、気休めみたいなものだ。


 彼女を救出しようと追っていた神殿騎士3人については、馬上にいるので、転送するのをやめた。以前、魔物溢れから逃げている冒険者を転送した時に、転送後に走ろうとして転んでしまったのを思い出したからだ。

 馬ごと転送すると、落馬したり、馬が転倒して馬や彼等が傷ついたりする可能性がある。それでやめた。


「それじゃぁ、俺はヤツらが砦に到着する前に、ソルヴェン・ケヴァインとやらを始末してくる!みんなはここで待機していてくれ!

 スケさん、カクさん、さゆり、後を頼んだぞ!……転移!」


 俺は砦跡からちょっとだけ離れた岩陰に転移して、身を潜めた。

 ヤツらが砦跡に逃げ込み、体勢を整える前に殲滅してやる!


 "宋襄(そうじょう)の仁(じん)"なんてのは俺の辞書にはない!

 敵が体勢を整えるのを待ってやるわけがない!

 クソ野郎どもを生かして帰すわけがない!


 土煙が見えてきた!

 さぁてと……クソ野郎どもをぶっ殺すとするかっ!






お読み下さり、ありがとうございます。

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