短編 アリシャの画力について02
互いの話を終えた後、ひとここちついた影響か再び話題が私の作品へと移った。
あまり蒸し返されたくない話題なのだが、アリオにとっては気になる事があるようだった。
「そういえば、昔。お嬢が描いた絵を一枚だけコンクールに贈った事があったよね」
「そんな事もあったわね、落選してしまったけれど……」
アリオの懐かしむ様な声を聴いて、記憶の蓋が開いた。
脳裏に思い浮かぶのは家族を描いた絵だ。
お母様とお父様、お兄様を私を書いた絵なのだが、例によって理解できない模様が散りばめられてしまった為、そのテーマを一目で正しく認識できる人はいなかった。
そんな風に、己の作品の事を思い返しているのだが、続いたアリオの言葉を受けて思考に空白が生じた。
「その絵って、返ってきたっけ?」
「え?」
口を閉じた私の代わりに応えたのはトールだ。
「そう言えば、返却されてはいませんね」
彼も、アリオといっしょになって首を傾げている。
確かに手元に戻ってきたという記憶はない。
「さっき見た時に何か足りないなって思ったら、やっぱり」
それならば、捨ててしまったのではないだろうかとウルベス様が言うのだが。
私に過保護な両親がそんな事をするはずはないと両者一致の発言だ。
「この間整理した倉庫でも見かけませんでしたし……」
なら、一体どこへと考えていると、ウルベス様だけはピンと来たようだ。
彼は、私の方を見ながら何とも言えない表情をしてみせた。
「もしや、アリオ殿が言いたいのは、金色の悪魔の肖像画の事ではないだろうか」
「あ、うん。よく分かったね。実はそうなんだ」
ウルベス様とアリオの会話の意味が分からない。
つまり彼らは何が言いたいのだろう。
すると、ウルベス様が気まずそうな声音で話しかけて来た。
「気を悪くしてもらっては申し訳ないのだが、先ほどこの部屋で見た作品と似たようなものが、小さな美術館で飾られているのを見た事がある」
「えぇ?」
「今町の中ですっごく話題になってるんだ。製作者不明の絵があって、金色の悪魔がリアルに描かれてるって、その絵がなんか……ええと、ごめんね。お嬢の画風にそっくりなんだ」
「えぇぇぇ!?」
矢継ぎ早に知らされる衝撃の事実に私は開いた口が塞がらない。
誰も見向きもしないと思っていた私の絵が、望んでいたのとは別の方向で注目されていることもおどろきだったが、知らない間に家族の絵を悪魔の絵として有名になってしまっている事が驚きだ。
いや、というかショックだった。
「私の絵って……そんなに?」
人から見たら、おかしい作品なのだろうか。
思わぬ事実にちょっと泣きそうになった。
命を狙われている状況のときでさえ、それなりに冷静だった私の心は大波に飲まれそう。
そんな私を慰めるように、トールが優しく肩に手をそえ……。
「お嬢様、元気を出してください」
「トール」
「私はそんなに嫌いじゃないですよ。この間描かれていた子犬だって、よく見ると結構……」
暇な時にノートの隅に落書きしていた絵を見られていたらしい。
貴族令嬢の勉強の一環として、家庭教師に教えられたマナーの内容についてまとめていたのだが、途中で飽きてつい意識がそれてしまったのだ。
「猫よ」
「え?」
「あれは猫」
私は部屋の扉まで移動して、トールに向かって舌を出した。
アリオはあーあ、という顔でウルベス様は肩をすくめている。
「ちょっと、お散歩に行ってきます。お客様のおもてなしお願いね」
「え、すみません、お嬢さ……」
後ろでで扉を閉めて、早足で廊下を移動。
私の画力は、長い付き合いのあるトールでもテーマが判別不能になる領域だったらしい。




