気楽な上司
「マジックギミックス」、第三十五話です。
少し投稿が遅れてしまい、申し訳ありません。
よろしくお願いします。
「そういえば、今何時なんだ?」
透哉は天井を仰ぎながら、思いついたように言った。
「8時ですよ。朝の」
答えたのはベッドのそばにいた銅鈴だった。
「そうか……ってええ!?」
透哉は予想外の言葉に驚き、叫んでしまった。
朝6時……ということは、アメリカに来て少なくとも一日は経っているということ。そしてそれは、17歳、高校生である透哉にとって、ある意味絶望的なことだった。
「学校休んじまったってことか……」
「学校休んだら何か不都合があるんですか? ……あ、高校生だから、欠席日数が増えるーとか、勉強追いつけなくなるーとか……ですか?」
「あ、いや。それはあまり問題ないんだけど、その新聞部の活動が……」
透哉は桜村高校新聞部である。そして、その新聞部が全員で協力している新聞が明日発行なのだ。つまり、締め切りは今日の午前中。
透哉が今日学校を休むことによって、新聞部全体が致命的なダメージを負うことは明確である。
「間に合わねええええぇぇぇ!」
全力で叫ぶ。
「そうですね……12時までに帰るのはほぼ不可能ですね……」
鈴は、ひきつった笑顔を浮かべる。そして直後、あ、そうだ、と言いたげに右手で左手の手のひらをポン、と打つと、携帯電話を懐から取出し、誰かに電話をかけた。
「うん、医務室。ごめんね、ありがとう」
鈴は淡々とした会話をした後に電話を切る。
数秒後、先輩はどこだーーーー! と叫びながら医務室に入ってくるものが現れた。結城美佳だ。
「早!」
呼び出した本人である鈴が驚いている。
「近くにいたからねー。あ、そうだ。先輩、さっそく失礼……」
そう言うと、美佳は、透哉の頭に手を置いた。
「お、おい、何するんだよ」
「静かにしてください。遠いんですからブレます……。……よし。文字だけだったからなんとかうまくいった……かな。多分……」
しばらくして、美佳は透哉の頭から手を放した。
「な、何をしたんだ?」
「私の魔術で、先輩の頭の中にある新聞記事を部長のパソコンに転送しました。これで締め切りに間に合った、ってわけです。感謝してくださいね」
美佳はそう言ってとびきりの笑顔を浮かべた。
そんなこともできるのか、と透哉は感心してから、
「ああ、そうなのか。ありがとう。美佳がいなかったら部長に殺されてたよ。今度なんか奢るよ」
「同じ新聞部なんですし、当然のことをしたまでですよ。先輩は入部したばかりの私も助けてくれましたし。でも、何か奢ってもらえるならお言葉に甘えますね!」
先ほど以上の笑顔で美佳が答えた。
「じゃあ、私はこれでー……」
美佳はそう言って部屋を出て行った。
(驚いたな。……先輩……いや、鷺村透哉には二年前の記憶がかすかにあった……。ハツキ……今度こそ、教えてもらうよ……!)
美佳は複雑な表情で、統括会のロビーに向かった。
「というわけで、セリナ・フェヴァールが誰かに弱みを握られ、その人物の命令によって動いていた可能性は否定できるものではなく、さらに被害者が全員、魔術師過激差別団体の幹部であったことがここで判明した。よって、当人をこの件の解決に尽力してくれたマジックギミックスリーダー、過崎ハツキに委ねることにする。異議のある者はいるか?」
統括会現会長、グラディオ・ルーシュ。聡明そうな外見のその男は、冷たい声音でその場にいる全員に問うた。
だが、その問いに反応するものは誰一人としてこの場には存在しない。
威圧的な何かを感じさせる白髪の老人は、数秒待つと、
「異議を唱える者はいない。したがって、この会議はこれにて終了とする。解散!」
と言って、その場の席を立った。
疲れたー、先に飯食うかー、といった声が色々な方向から飛び交い、それら統括会役員共の声は徐々に遠くなっていき、すぐに会議室の外のものとなった。
「過崎君、すまないね。任せてしまって」
白髪の老人がハツキに話しかける。
老人は、先ほど纏っていた威圧的な空気など嘘だったように接しやすく、まるでジ○ムおじさんのようだった。
(その表現はアウトだろ!)
ハツキはそんなことを心で思いながら、老人に言葉を返した。
「いえ、セリナは僕の友達ですし、助けるのは当然です」
「ハツキ……ありがとう」
ハツキの横に座っていた少女が頭を下げてくる。
「いや、お礼はいいって」
「そうはいかないよ。ハツキ、私の弁護するために、徹夜で私が無実だっていう証拠を集めてくれたんでしょ? ほんとにありがとう」
セリナは微笑んで言った。
「まあ、どういたしまして、って感じかな。美佳にも手伝ってもらったから、後でお礼を言っておくといいよ」
「うん。後で言っておくよ。で、私を陥れた犯人は……」
ハツキとセリナ、そしてグラディオは、一斉に視線を真横にやった。
机を挟んだ向かい側……ハツキたちの視線の先にいたのは、あははは、と笑いながらも、少し申し訳なさそうにしているツァギール・フェルドマンだった。
「まったく……過崎君たちにこの作戦を伝えておけばこんなことにならずに済んだものを……」
グラディオは呆れた表情で机の向こう側にいる男を叱責した。
「その点に関しては、完全に私のミスです……。申し訳ありませんでした……」
ツァギールは頭を下げて謝る。
先ほどの会議でも重要となった話……事の発端は統括会内で極秘で行われていたスパイ作戦である。
ツァギールは、二重スパイとして魔術師過激差別団体……名の通り、魔術師を過度に非難する組織に潜入し、幹部の情報を入手、セリナにそれを報告し、その幹部を一人ずつ捕獲していく、というものだった。それのおかげで、魔術過激差別団体の幹部はほとんど警察に捕まった。
が、ある時、ツァギールではなく、セリナに魔術過激差別団体から直接依頼状……というより、脅迫状が届いた。内容は、「お前のやっていることは知っている。1週間以内に鷺村透哉を殺さないと、魔術協会……聖剣戦争の時の魔術師の生き残りが形成した組織を爆破し、壊滅させる」というものだった。
「私たちの作戦は、セグリゲーターの幹部の一人を餌にして鷺村透哉を誘い込み、殺す……とセグリゲーターに伝え、鷺村の方に奴らが気を取られている間にセグリゲーター本部をたたく、というものだったんだ。それが予想以上に手間取ってしまってな……それでセリナにあそこまでやってもらうしかなかったってわけだ」
ツァギールはそう言いながら、机のふちをなぞるようにしてこちら側に来た。
「そうなんですか……。そういえば、祈も龍弥の状態を見て、死なないようにナイフが刺さってる……と言っていました」
「まあ、それらは別にいいとして……ツァギールさん……なんで今回の会議で検事のような真似を……!」
セリナの表情が少し硬くなり、周りの空気が重くなる。
「え……あ、ああー……す、すまなかった! ハツキなら私と論争を繰り広げられるだろうと思ってだな……」
対してツァギールの周りの空気は軽く、陽気な感じだった。
「かんっぜんに私のこと潰すつもりだったじゃないですか! 自分の命令のせいで部下が捕まって、その後にその部下を追いつめるってどういうつもりなんですか!」
「だ、だからすまなかったって! ちょっと楽しいかな……って思っちまったんだよ……」
ツァギールは、ははは……と笑っているが、セリナは本気で怒っている。
「まったく……まあ、いつものことですし、最終的に私をハツキに委ねるっていう提案はツァギールさんがしてくれたから、今回は許します」
「相変わらず厳しい部下だぜ……」
やれやれ、と言いたげにツァギールがため息をつく。
その様子を見たセリナは再び爆発しそうなのを必死でこらえていた。
「そういえば、過崎君。昼ごろまではアメリカにいるつもりなんだろう? なら魔術協会を訪れてはどうだい?」
白髪の老人が唐突に口を開く。
「そうですね。最近顔を出していませんし……そうします。そうと決まったらさっそく出発しますので、僕はこれで。失礼します」
「では、私もハツキについていくことにします。それでは、失礼します」
「ああ、協会の方々によろしく」
ハツキとセリナはグラディオのその言葉を聴いた後、一礼して部屋を後にした。
読んでくださり、ありがとうございました。
今回の話には、伏線のほかに、キャラクターの意図や新しい組織など、いろいろと出てきた回だと思います。そのため、少しわかりにくい内容となってしまっているかもしれませんが、そこらへんは後々細かく説明していくと思います。
そして、長かった(文字数的には決して長いことはない)三章もそろそろ終わり、四章へと入っていこうと思っており、伏線、伏線の連続だったお話もそろそろそれらの回収に向かおうと思っております。
ただ、伏線はもう出尽くした、というわけではなく、まだ今まで出てきた伏線の2,3倍は残っておりますので、この小説、あと何話続くことやらわかりません笑
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