複合魔術(アペンドマジック)
お待たせしました。
19話です。
よろしくお願いします。
涼には絶対の自信があった。ユーリに勝つ自信が。
「ははは、先ほど格闘術のみで俺に負けたお前がどうやって俺に勝つつもりだ? 勝算があるのか?」
「ああ。当たり前だろ。だからあんたの前にこうやって立ってんだ」
涼はユーリを煽るように言った。
「面白い。ならその勝算がどれだけ無意味なものか思い知らせてやろう」
「そんな少年漫画の悪役みたいなセリフ、一生言えなくなるぜ」
ユーリが腰を落とし、地面を強く蹴る。この行動を涼はこれまで数回ほど目にしている。そして、この次に来る攻撃は……
(右手の攻撃だ!)
涼の予測通り、ユーリが繰り出したのは、渾身の右ストレートだった。
(こいつの右手の攻撃は少し軌道が右寄りになっている。これは受け手側から見て外側、左寄りに攻撃されているということ。つまり、受け手側は自分から見て右方向に回避するよう促される)
これもまた涼の予測通り、ユーリの右手から放たれた一撃は涼を右に回避するように左寄りに繰り出されていた。
それを確認して涼は持ちまえの反射神経でそれを左方向に回避した。
(そして、こいつが受け手側に右に回避するように促す理由は……)
ユーリは右手を突き出した際に引いた左手を握りしめた。
(次に繰り出す左手の攻撃を当てる時間を短縮するため!)
ユーリは右手を瞬時に引き、左手で涼の顔面を殴ろうとした。
(やっぱり、さっきより左手と俺の顔面との距離が遠い……回避できる!)
涼はユーリが繰り出した攻撃を紙一重でかわし、次のユーリの攻撃を再び予測する。
(こいつの行動はゲームで言うコンボのようになっている。右手、左手、左足……次の攻撃への転換のしやすさを重視したものなのだろう。だが、コンボはハメ技じゃない限り攻略できる。次は、左足だ)
ユーリは左手を引き、左足で涼の顔を一蹴しようとした。これも涼の予測通りだ。
(来た。あとはこいつの能力の特性だ。こればっかりは正直賭けになるけど……)
涼は親指の腹を歯で噛み切った。勢い良く血が飛び出す。
(間に合え!)
涼が心の中でそう叫び、右手を顔の右に持っていく。
そして、涼の右手がユーリの左足をつかんだ。
涼はそのまま自身の固有魔術を発動させる。
自分の血を媒介にし、涼の脳がユーリの左足を体の一部として認識する。そして、涼は自身の右手とユーリの左足の原子構成を一時的に鉄に変化させる。
(あとは、電流を流すだけだ!)
涼がマジックギミックスの一員であり、基本魔術の天才であるラックから昔聞いた話。
通常時、人間の体内に電流を1アンペア流すには1万ボルトの電圧が必要であり、そんな電圧をラックは基本魔術でギリギリ生み出せるという。
そして基本魔術で相手の体内に直接電流を流すことができれば、シナプス(神経と神経、もしくは筋肉をつなぐもの)を麻痺させて相手の行動を止めることができるという。
ラックから聞いたのはそんな話であった。
後で涼にわかるように要約してもらうと、めっちゃ強い電圧流したら相手がびりびりってなって動けなくなる、とのことであった。
だが、涼の基本魔術ではそんな大きさの電圧を流せない。
そこで涼がとっさに考えついたのは、体を鉄に変えたら電気がめっちゃ流れるのではないか、ということであった。
涼は基本魔術を発動し、自身の腕から電気を発生させた。
電圧は小さなものであったが、鉄に変えられたユーリの左足にシナプスを麻痺させるほどの電流を流すには十分だった。
「!」
ユーリは驚いた様子であった。理由は明確だ。自身の左足が急に動かなくなったからだ。
ユーリのその様子を見た涼が口を開く。
「ははは、やっぱりな。お前の固有魔術、あんまり強くないみたいだな。足や手を動かすっていう行動を完全に、自然に終わらせないと発動できないってやつだろ?」
「く……電流を流して行動を止める……これが純粋にできた魔術師のみが使える複合魔術……俺が人工魔術師であり、基本魔術を使えない、つまり、電流を逆方向から流してお前の電流をかき消すことができないという弱点をついたもの……」
「え……ま、まあな!」
正直そこまで考えていなかった涼は少し焦ったような表情をしてから見栄を張った。
「だが、俺はここであきらめるわけにはいかない! この地の絶対王となって母さんの敵であるエジプトの民を殺めるまで!」
ユーリはそう言うと懐からマーサカーを取り出し、涼に向けた。
(! くそ! まだ銃があることを忘れていた!)
ユーリが引き金を引きかける。
だがその瞬間、涼の視界の外から、カメルダが駆け寄り、手刀を振り上げ、それをマーサカーめがけて振り下ろした。
「ぐあッ!」
ユーリが叫びをあげ、マーサカーが地面に落ちた。
「ナイス! 長官のおっさん!」
涼はそう言って自身の右手の拳を引き、ユーリの顔面に渾身の一撃を見舞った。
ゴキッと骨が砕けるような音が響き、ぐああッ! という声が同時に発生した。
ユーリは3mほど吹っ飛び、そのまま気を失った。
約2時間後 ロシア軍拠点
「ううー……透哉……死んじまったのか、透哉あ……」
涼のそんな声が透哉の横で発せられていた。
透哉はその声に起こされるようにして目を覚まし、涼の方を見て一言。
「死んでないっつの!」
「うわ! 英霊として再びこの世界に現界したのか!?」
「聖杯戦争に参加もしないし、あと死んでもいない!」
いきなりパロディネタを出してくる涼に1発ツッコミをかまし、あたりを見回す。
「ここは?」
「おいおい、文章読めよ。ロシア軍拠点って書いてあるだろ」
「メタいよ……」
とにかくここがロシア軍拠点とわかったので、自分がどういう状況にあるか透哉は大体理解した。
「あいつから……ツァギールから逃げられたのか……」
透哉はそうつぶやいた。
「ツァギール? 誰だそれ。とにかく、生きてるんだったら行くぞ。ロシアにあんまり長くいても、って感じだし、早く帰って打ち上げパーティーもしたいしな」
「あ、ああ。わかった。あ、そういえば、革命軍の鎮圧は? セクメト……ユーリ・ディアラルは?」
「ああ、そのことなら心配すんな。早く帰りたいって言ったらあの長官のおっさんが軍用車くれるって言ったから、それに付いてる無線機で話してくれるってよ。まあ次の話で言ってくれるんじゃねーか?」
「ったく、メタいっての」
透哉はもう1度ツッコミをかまし、自分が横たわっていたベッドから這い出るようにして地に足をつけた。
読んでくださり、ありがとうございました。
今回の終わり方は次の話の内容を少し示したような感じにしました。
また前と同じ事後談になると思いますが、温かい目で見ていただけると幸いです。
(うひゃーだいぶシリアスになっちゃったよー笑)
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