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失われた理論(中編)

第四魔導体系研究。

その名は、王立科導学院の一部で大きな議論を呼んだ。

三百年間。誰も完成させられなかった理論。

それは期待と同時に、不安も生んだ。


「本当に研究する価値があるのか。」

「初代アルヴェインですら封印した研究だ。」

「危険すぎるのではないか。」


研究者たちは慎重だった。

しかし。レオンは理解していた。


これは単なる新しい魔法を作る研究ではない。

魔導という現象を、人間がどう理解するかという問題なのだ。


研究室。


巨大な黒板には、複雑な数式と術式構造が書かれていた。

中央には一つの図。


魔素。術式。現象。

それらの関係を示したものだった。


助手が質問する。


「先生。もし第四体系が完成した場合。」

「現在の科導は否定されるのでしょうか。」


レオンは首を振った。


「いいえ。新しい理論が生まれても。」

「古い理論が間違いになるとは限りません。」


科学の歴史でも同じだった。

新しい発見は。過去を完全に否定するものではない。

より広い範囲で説明できるようになるだけだ。


古い知識は。新しい知識の土台になる。

それは科導の思想そのものだった。


研究の第一段階。

魔素情報構造の解析。

研究員たちは、魔導現象を細かく観察した。


火炎魔導。水流魔導。風圧魔導。結界魔導。

それぞれは別の技術に見える。

しかし。共通する部分が存在していた。


魔素が特定の情報パターンを受け取り。

周囲の環境へ変化を起こしている。


レオンは一つの仮説を立てた。


「魔素は命令を聞いているのではない。」

「条件に反応している。」


研究員が考える。


「つまり、術式は命令ではなく。」

「現象が起きる条件を作っている?」


「そうです。」


これは大きな違いだった。

従来魔導では。魔法使いが力を発動する。

そう考えられていた。

しかし。実際には。魔法使いは魔素が変化する環境を整えているだけなのかもしれない。


レオンは実験を行う。

小さな魔石。単純な術式。発生する光。

これまでは。魔力を持つ者が操作していた。

しかし。科導制御装置を使い。魔素情報を書き換える。

すると。魔力を使わずに。同じ現象が発生した。


◇研究室が静まり返る。


「成功……。」


誰かが呟く。

しかし。レオンは慎重だった。


「まだ第一段階です。」

「現象を再現しただけです。」

「理解したとは言えません。」


その慎重さは。

アルフレッドから受け継いだものだった。

成功した時ほど。危険は近くにある。


数か月後。研究はさらに進んだ。

魔素情報構造。

それは単純な文字や記号ではなかった。


流れ。密度。周囲の環境。時間変化。

多くの要素が組み合わさった複雑な情報だった。


研究員の一人が言う。


「これほど複雑なら。」

「完全制御は不可能なのでは?」


レオンは答える。


「だから。完全制御を目指してはいけません。」


研究員たちは驚く。


「では何を目指すのですか。」


レオンは言った。


「理解です。」

「自然現象を力で押さえ込むのではなく。」

「法則を理解し。共存できる方法を探す。」


それは。

かつてエゼキエルが科学者として持っていた考え方だった。

自然を支配する。という発想ではなく。

自然を理解する。という発想。


しかし。研究が進むにつれて。

一つの問題が浮かび上がった。

第四魔導体系を利用すれば。

現在の科導具を大きく進化させられる。

可能性がある。

人間は。魔経絡すら必要としなくなるかもしれない。


もし。魔素情報そのものを制御できるなら。


魔石も。魔経絡も。魔導具も。

全て過去のものになる。


それは。アルフレッドが夢見た世界のさらに先だった。

しかし。同時に。危険な可能性でもあった。


ある日。


研究室へ一通の手紙が届いた。

差出人。不明。内容は短かった。


> 「第四体系の研究を続けるな。」

> 「それは世界の均衡を壊す。」


助手が不安そうに尋ねる。


「警告でしょうか。」


レオンは手紙を見る。


「分かりません。」

「しかし。」


裏側を見る。


そこには。古代文字で一文が書かれていた。


> 「世界は、理解されることを望んでいない。」


レオンは眉をひそめる。

これは単なる反対意見ではない。

第四体系の存在を知る者がいる。

しかも。三百年前から続く秘密を。


その夜。


レオンは一人で研究資料を整理していた。

机の上には。

初代アルフレッドの記録。エゼキエルの日誌。

そして。自分たちの研究。

三つの時代の知識が並んでいる。


レオンは静かに呟いた。


「あなたたちは。」

「この先へ進むことを恐れたのではない。」

「きっと。この力を扱う人間を信じきれなかったのですね。」


その時。研究室の魔素探知装置が反応した。

誰もいないはずの場所。微弱な魔素変化。

そして。一瞬だけ。

空中に文字が浮かび上がった。


> 「アルフレッドの後継者へ。」

> 「第四体系の本当の意味を知りたければ。」

> 「最初の研究所へ来い。」


最初の研究所。

それは。三百年前。

アルフレッドとエゼキエルが。

科導を生み出した場所。


現在は。廃墟となり地図から消えている場所だった。


レオンは決意する。

行かなければならない。

そこには。失われた研究だけではなく。

三百年前に二人が残した。

最後の答えがあるかもしれない。


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