新たな時代の科導(中編)
人工魔石理論の発表から一週間。
王都では、賛否両論の声が広がっていた。
研究者たちは未来の可能性を語った。
「魔石資源の枯渇問題を解決できる。」
「遠隔地でも安定した科導設備を作れる。」
「これまで魔石が届かなかった地域にも技術を広げられる。」
一方で。
魔石産業に関わる者たちは不安を抱いた。
「人工物が普及すれば、鉱山は必要なくなるのか。」
「何千人もの労働者はどうなる。」
「長年培った採掘技術は無意味になるのか。」
レオンはその声を無視できなかった。
研究室。
レオンは人工魔石の試作品を眺めていた。
机の上にある小さな結晶。
それは三百年前には存在しなかったものだった。
しかし。技術的な成功とは別に。
社会への影響という問題がある。
かつてアルフレッドも同じ壁にぶつかった。
科導具を作れば、人々の暮らしは便利になる。
だが。それによって失われる仕事もある。
便利になることと。幸せになることは。
必ずしも同じではない。
その夜。
レオンは初代アルヴェインの記録を読み返していた。
そこには、かつての議会での発言が記録されていた。
> 「技術とは、人間を置き換えるためだけに存在するのではない。」
> 「人間がより良い選択をできるようにするために存在する。」
レオンは静かに本を閉じた。
「簡単な答えはない。」
それを理解した。
翌日。
レオンは魔石採掘組合へ向かった。
研究者たちは反対運動を恐れていた。
しかし。レオンが選んだのは対話だった。
組合長は険しい顔をしていた。
「アルヴェイン家の人間が、何の用だ。」
レオンは頭を下げる。
「話を聞きに来ました。」
「人工魔石を認めろと言いに来たのではありません。」
組合長は意外そうな顔をする。
「では何だ。」
「この技術が普及した場合。」
「どんな問題が起きるのか知りたいのです。」
組合長はしばらく黙っていた。
そして。古い鉱山の地図を取り出した。
「ここは。」「三百年前から続く鉱山だ。」
「多くの家族が働いてきた。」
「魔石を掘ることは。」
「ただ資源を取る仕事ではない。」
「技術でもあり。文化でもある。」
レオンは頷く。
人工魔石は正しい。
しかし。
だからといって。
今まで積み重ねてきた人々の価値を否定していいわけではない。
数日後。
レオンは研究会で提案した。
「人工魔石を、天然魔石の代替品としてだけ考えるのをやめます。」
研究者たちは驚く。
「では何をする。」
「共存です。」
レオンは説明する。
「人工魔石は大量生産に向いています。」
「しかし。天然魔石には独自の特性があります。」
「高出力が必要な分野。」
「特殊な術式。」
「長年研究された加工技術。」
「すべてを置き換える必要はありません。」
さらに。
レオンは魔石産業との共同研究を提案した。
人工魔石製造技術を。
既存の採掘技術者へ提供する。
採掘だけではなく。
加工。品質評価。人工魔石製造。
新しい仕事を作る。
かつて魔石を掘っていた者たちが。
今度は新しい科導文明を支える技術者になる。
この提案には反発もあった。
「伝統を変えるのか。」
「古い技術を捨てるのか。」
しかし。
若い鉱山技術者たちは興味を示した。
「俺たちの知識が役立つなら。」
「やってみたい。」
変化とは。
過去を消すことではない。
過去を新しい形へつなぐこと。
一年後。
最初の共同研究施設が完成した。
名前は。
「科導資源研究所」
そこでは。
魔石採掘技術者。
科導研究者。
材料工学者。
職人。
様々な人間が働いていた。
その開所式。
レオンは一つの言葉を述べた。
「三百年前。」
「初代アルヴェイン様は、魔力を持つ者と持たない者の差をなくしました。」
「しかし。文明の課題は終わりません。」
「新しい技術が生まれるたび。」
「新しい問題が生まれます。」
集まった人々が聞く。
「だからこそ。私たちは考え続けなければならない。」
「技術とは。勝者が敗者を置き換えるためのものではない。」
「より多くの人が未来へ進むためのものです。」
式典の後。
レオンは研究所の展示室を訪れた。
そこには。三百年前の最初の科導灯が展示されていた。
初代アルフレッドが作ったもの。
小さく。今の技術から見れば未熟な装置。
しかし。そこには始まりの意味があった。
レオンは展示ケースへ手を置く。
「あなたなら。」
「この問題にどう向き合いましたか。」
答えは返らない。
しかし。古い記録の言葉が頭に浮かぶ。
> 「未知の問題を恐れるな。」
> 「答えがないからこそ、考える価値がある。」
その時。
研究所の警報が鳴った。
緊急通信。
「人工魔石試験施設で異常発生!」
「魔素流が制御限界を超えています!」
レオンの表情が変わる。
人工魔石は安定性を重視して設計した。
しかし想定外の現象が起きている。
これは単なる事故ではない。
新しい技術には。
まだ知られていない未知の危険が存在する。
レオンは走り出した。




