技術の責任(中編)
違法改造された科導端末。
その存在は、王国中へ大きな衝撃を与えた。
新聞には連日のように記事が掲載される。
> 「科導は危険なのか」
> 「誰でも使える力を認めてよいのか」
> 「魔導時代へ戻るべきではないか」
世論は揺れていた。
十年前。
魔力を持たない人々が初めて科導灯を灯した時、人々は希望を見た。
しかし。便利な技術には、必ず影の部分が存在する。
アルフレッドは研究院の窓から街を眺めていた。
そこには多くの科導灯が輝いている。
その光景を見れば。
「成功した」
と言えるのかもしれない。
しかし。彼自身はそう思えなかった。
研究室。
机の上には、回収された違法改造科導端末が置かれていた。
外見は普通の科導端末。
しかし内部は大きく改造されていた。
安全制御術式が削除されている。
魔素制限機構も外されている。
出力だけを無理に高めていた。
助手が説明する。
「製作者は不明です。」
「市場で購入した物を改造したようです。」
アルフレッドは内部構造を見る。
「……危険ですね。」
「はい。」
「ですが。」
助手が不思議そうに見る。
「何でしょうか。」
アルフレッドは答える。
「この技術自体は。」
「間違っていません。」
助手は驚いた。
「しかし。これで事故が起きています。」
アルフレッドは頷く。
「そうです。問題は技術ではなく。」
「安全を無視して使ったことです。」
彼は改造部分を指す。
「例えば。橋が壊れた時。」
「原因が設計ミスなのか。」
「規定以上の重量を載せたのか。」
「それを分けて考えなければいけません。」
技術者に必要なのは。
感情的に恐れることではない。
原因を分析することだった。
しかし。
政治の世界では、そう簡単にはいかなかった。
王国議会では、科導規制案が提出された。
一部の貴族は主張する。
「危険な技術ならば、使用者を限定すべきだ。」
「魔力を持つ者が管理するべきだ。」
アルフレッドは議会へ呼ばれた。
かつてなら。
貴族として発言するだけだった。
しかし今。
彼は研究者であり。技術者であり。事業家だった。
様々な立場の責任を背負っていた。
議会。
ある貴族が問いかける。
「アルフレッド卿。」
「あなたは自分の発明によって危険が生まれたことを認めますか。」
アルフレッドは答える。
「はい。」
会場がざわめく。
「科導具によって危険が発生する可能性はあります。」
「しかし。だからこそ管理方法を作る必要があります。」
貴族は眉をひそめる。
「つまり。規制は不要だと?」
アルフレッドは首を振る。
「違います。必要な規制は必要です。」
「ですが。技術そのものを閉じることには反対します。」
アルフレッドは資料を示す。
「過去。」
「魔導は一部の者だけが扱うものでした。」
「その結果。」
「魔力を持たない人々は、多くの恩恵から取り残されました。」
「科導は、その差をなくすために生まれました。」
会場が静まる。
「危険だから閉じる。」
「それは簡単です。」
「しかし。」
「便利だから広げる。」
「それだけでも不十分です。」
「必要なのは。」
「安全に利用できる社会を作ることです。」
議会後。
エゼキエルはアルフレッドへ言った。
「よく答えたな。」
アルフレッドは疲れた表情で笑う。
「正直に言うと。」
「怖かったです。」
「何がだ。」
「もし私が間違っていたら。」
老人は頷く。
「その恐怖を持てることが重要だ。」
かつてのアルフレッドなら。
自分の理論が正しいと信じていた。
間違いを指摘されれば。理論で反論した。
しかし。
今は違う。
技術には利用者がいる。社会がある。影響を受ける人間がいる。
正しい理論だけでは足りない。
その後。
王国では新しい制度が整備された。
科導端末登録制度。製造者認証制度。
修理技術者資格。
安全教育。学校教育への科導基礎科目導入。
ただ禁止するのではなく。
正しく扱える人間を増やす方向へ進んだ。
数年後。
王都の学校。
一人の教師が生徒たちへ説明していた。
「昔。」
「魔導は才能ある者だけの技術でした。」
「しかし。」
「ある研究者と技術者によって変わりました。」
黒板には二つの名前。
エゼキエル・グランフォード。
アルフレッド・フォン・アルヴェイン。
教師は続ける。
「大切なのは。」
「力を持つことではありません。」
「力をどう使うかを考えることです。」
その授業を。
年老いたアルフレッドは遠くから見ていた。
隣にはエゼキエルがいる。
「いつの間にか。」
老人が呟く。
「お前は教師になったな。」
アルフレッドは笑う。
「先生ほどではありません。」
「私は発想をもらっただけです。」
エゼキエルは首を振る。
「違う。」
「私は可能性を示しただけだ。」
「それを形にしたのはお前だ。」
しかし。
二人の時代は、永遠には続かない。
人は世代交代する。
技術も変化する。
そして。
科導は次の時代へ進むことになる。
アルフレッドが最後に残すことになるもの。
それは発明品ではなかった。
理論でもなかった。
知識を受け継ぎ、改良し、次へ渡すという文化。
それこそが、彼が本当に築いたものだった。




