亜人の誇り
「武器も持ち物も、私達は貴方達から何も奪うことはしないわ。多くの家を焼き、そして多くの命を奪った貴方達から、私達は何も奪わない。オークは…亜人は人間の敵ではないから。この意味がわかるなら二度とこの森には足を踏み入れないで。」
ラグさんの瞳には涙が滲んでいる。
その悔しさは痛いほどわかる。もし許されるならオーク達の代わりにオレが報いを受けさせたいくらいだ。しかし、それは偽善だろう。ラグさん達はどれだけ辛くとも、許すことを選んだ。
絶望と怨嗟の果てに、ラグさん達が導き出した答えが許しであるのならば、オレに出来ることはその答えを尊重する事だけだ。
「それがこの村の総意であるならば、オレ達は何もいうことがありません。」
妹達も頷く。
「亜人風情が人間を許すだって!?何様のつもりだ!!」
傭兵達の一人が声をあげる。悪意に満ちた罵倒。
「いま言ったのは誰かしら?」
アツコの言葉に誰もが顔を背ける。
「お仲間同士涙ぐましい友情ね。でも順番に腕を落とされてくなかでも、同じことが出来るのかしら。」
そういうと、一番近くにいる傭兵の腕を掴み捻り上げる。バキリと骨が折れる音が響き、グァッというくぐもった悲鳴だけが広場に残る。
「アツコ、もういい。辞めるんだ。ラグさん達はこんなクズ共相手にも傷つけないことを選んだんだ。その決断をオレ達が無にしたくない。」
オレがアツコの肩に手を置くと、アツコは安心したように傭兵から手を放す。本当はこんなことをしたくなかったのだろう、また嫌な役回りを押しつけてしまった。
「兄様がそう仰るなら。…よかったわね、まだ腕はついてるわ。ちょっと形は変わったけど大事にしなさい。」
アツコの言葉に腕を折られた傭兵は情けない悲鳴をあげる。
「ラグさん、すいませんでした。」
「いいのよ。ところで仕事をひとつ頼まれてくれないかしら。」
「仕事ですか?なんでも言ってください。オレ達に出来る事ならなんだってします。」
ラグさんの願いは今のオレにとって福音に聞こえた。
「ありがとう。甘えてばっかりで申し訳ないんだけど、こいつ等を森の外まで送り返して欲しいのよ。自由にすると、また何か悪さをするかもしれないでしょう?とにかくこの村から早く出ていって欲しいの。それに、もしよければ今日は私の家に泊っていって。みんな不安なの。貴方達がいてくれたら子供達も安心するわ。…こんな事になっちゃってロクなおもてなしも出来ないけど。」
「お安い御用です。アツコ、行ってくれるか?」
「もちろんです。」
「アツコお姉ちゃん一人だと大変だし、私もついていくね。」
「サヤもありがとう。ミカヅキとワカナはオレと一緒に村に残って、ラグさん達の手助けをしてくれるか。」
ミカヅキとワカナはこくりと頷いた。




