尋問
「…助かったのか?」
ルーフェがへなへなと崩れるように膝をつき、そのまま横たわる。
「気を失ったみたい。緊張の糸が切れたのかな。多分骨とか折れてると思うし、軽く回復魔法かけて寝かしとくね。」
ワカナはルーフェに『ヒール』をかけると、野営用の毛布のうえに寝かせる。
「とりあえずは作戦成功。ただ色々と気になることが多すぎて素直に喜べない。特に…」
ミカヅキはグレンツァに鋭い視線を送る。
「さっきの召喚獣のことか。なんでアツコに追いかけられていたかも含め、問いただす必要がありそうだな。まともに会話が出来ればの話だが…。おい、大丈夫だったか?ここで何があったんだ、さっきの竜はお前を追いかけていたのか?」
オレはミカヅキとサヤを伴い、半ば壊れかけているグレンツァに声をかける。
改めて近くで見ると、表情に力がなく口の端からはよだれがとめどなく零れ落ちている。アバドンを召喚した際の銅板らしきものの姿は見えない。恐らく召喚獣と連動しているタイプのアイテムだったのだろう。ミッドガルドでも召喚アイテム『盟約の血判』は封じ込められたモンスターが死んだ時点でロストする仕組みだったしな。
「私は生きているのか………いや、奴に喰われる!奴はどこまでも追いかけ私を喰い殺すつもりだ!!どこだ、あの女は、あの竜はどこだぁ!!!」
グレンツァはそう絶叫しながら虚空めがけ剣をふるう。
「まずは落ち着かせないと埒が明かない。『カームダウン』」
ミカヅキが沈静化の魔法を唱えると、興奮した獣のように荒れた呼吸が徐々に収まり、焦点のあっていなかった瞳に生気が戻る。
「貴様らはあの女の仲間か!!この私に何をする気だ!!わかったぞ、私を脅し、我がインゼル家の財をかすめ取ろうという魂胆か。卑しい者の考えそうな事だ、それならばいっそ私を殺すがいい!!そして貴様らはお尋ね者となり、最後には兄弟そろって絞首刑になる。その姿を神王の御許から眺めていてやろう。」
落ち着くや否や罵倒タイムが始まる。
これ狂騒状態でも落ち着いててもあんまり状況変わらなくないか!?
「まともな話し合いは無理そうね…。こういうのはあんまり使いたくないけど仕方ない。『チャーム』!!………どう落ち着いた?」
「ああ、なんとか。」
ミカヅキの『チャーム』が一発でかかったようだ。
ミッドガルドでは相当なレベル差がなければ抵抗される役に立たないことでお馴染みだった魅了魔法だが、倫理的な問題を抜きにすればこの世界ではかなり有用な魔法みたいだな…無理やり操っているみたいで使うのはかなり気が引けるが。
「今日あったことについて詳しく聞かせて。」
「わかった。私は傭兵を連れてオークの村に向かったんだ。表向きの目的は亜人の駆逐だが、お前たちと親しい豚共を人質にして、あの女をおびき寄せようというのが真の目的だ。」
「オークの村………ラグさん達のことか!?」
傭兵を連れて駆逐!?
そうか、こいつらに襲われていたオークの村をアツコが救ってくれたんだな。流石アツコだ!!
しかし、ラグさん達は大丈夫なのだろうか………。
「バカ兄黙って、精神支配が解ける。それで、亜人の討伐はうまくいったの?」
「もちろんだ。ただお前たちの仲間を何匹か殺そうとした時にあの女が現れたんだ。俺は召喚獣を使ってあの女を八つ裂きにしてやろうと思ったんだが、上手くいかずに逃げることになった。口惜しいがな。どうやら傭兵共もあの女に追い立てられたんだろうな。」
「それでここまで逃げてきたのね。さっきの竜は何物なの?」
「恐らくあの女が魔法で化けているんだろう。あの女がいなくなってすぐにあの竜が現れたんだ、タイミングが良すぎる。それにあの殺しを楽しむような気配………間違いなくあの女だ。」
バレてる、アツコ思いっきりバレてるよ!!
「そのことは傭兵たちも気がついてる?」
「いや、知らないだろう。そもそもあいつ等はあの女から逃げたというより、私が召喚したオルトロスを見て逃げた愚かで惰弱な臆病者達だからな。化け物から逃げていたら、違う化け物が出てきた程度にしか考えていないだろう。」
アツコの正体に気づいているのはこのバカ貴族だけなのか………最悪この男の記憶を魔法で消せばなんとかなりそうだな。
記憶操作とか魅了よりもっと犯罪臭が強いのが気になるが、この男相手なら罪の意識もあまりわかない。




