妹の責務
「フヘヘ、兄様のために頑張らないと。」
私は兄様から貰ったカチューシャを外し眺める。繊細な刺繍とレースに愛らしいフリル。柔らかな桜色が最高にキュートだ。兄様が私の為だけに選んでくれたカチューシャ。少し可愛すぎる気もするけれど、兄様的にはこのカチューシャをつけている私を見たいのだろう。
それにしてもミカヅキには悪いことをした。
兄様からのサプライズプレゼントが嬉しくて、ついつい見せびらかしてしまったけれど、少しやりすぎたのか途中からミカヅキの口数が少なくなってしまっていた。
素直に褒めると自分は貰えなかったという事実が辛くなるのか、妙に婉曲な褒め方をしていたし…ワカナ辺りに見せると『自分は貰えてない、贔屓だ贔屓だ』と怒って兄様を困らせそうだから今日のところは外していたが、兄様には私ばかり贔屓せず、妹達にもなにか買ってもらえるよう相談してみよう。
「フンフンフーン♪」
思わず鼻歌を口ずさむ。
新しい世界、兄様との冒険!!
自然と胸が高鳴り、細胞のひとつひとつが喜びに湧きたつのがわかる。
悪臭漂う豚の村にいるのは耐えがたいけれど、泥にまみれた生活も今回の作業で終わり。
竜のねぐらとかいう大層な名前がついたヘビが寝ていただけの場所に私が本来の姿で乗り込み、兄様たちと激闘を演じたのち森の奥に退く。
お遊びであっても兄様や妹達と戦うのは気が引けるけれど、これも長姉の責務だ。兄様に私たち妹が頼りになるところを見せなければいけない。
それに、これでようやくあの豚共の住処ともおさらばできる。
あとはルーフェとか言う軽薄な冒険者が、あることないこと交えつつ大森林の邪竜の存在を喧伝してくれるだろう。私の見立てでは30レベル程度の実力はあるだろうが、本来の姿に戻った私が軽く尻尾で薙ぎ払っただけでも即死するのは間違いない。
雑魚に攻撃を当てないよう戦闘を進めるのは面倒ではあるが、兄様の名に傷をつけるわけにはいかないし、慎重に事を進めなければならない。
ふと森の切れ目から、遠くにいくつもの黒煙がたなびく光景が目に入る。
あの方角は………なるほど、ようやく来たのね。
それならばあいつ等を巻き込むのも面白そうだわ。
ショーの観客は多い方が良い。それに殿方サプライズが大好きなのだ。
兄様にはいつだって最高のサプライズを用意したい。それが妹としての務めなのだから。
私は兄様の輝く笑顔を脳裏に想い浮かべ、煙の出所に向かった。




