復讐の刻
「豚どもは見つけ次第一匹残らず殺せ。一匹毎に報奨金も弾むぞ。豚一匹金貨一枚だ。」
私の言葉にゴロツキ共から品のない歓声があがる。
目はギラつき、口角は肉食獣のような弧を描いている。傭兵とはそういうものだとは頭では理解しているが、理性と誇りがこのような下賎の輩と沓を並べることを忌避する。
これも全てあの冒険者共、そしてルーフェのせいだ。
あの一件以降、家督を継いでからわざわざ高給を出して他方から引き抜き、一介の兵士には夢のような高待遇で飼ってやっていた騎兵隊共の腰が砕け、すっかり森に近づきたがらなくなってしまった。
無論、家族の首元に剣先を突きつけ促せば参陣には応じるだろうが、今後の領内統治を考えるとこれ以上インゼル家固有の武力を擦り減らすべきではない。
今回のコイツらの役割は捨て駒、どれだけ死んでも一向に構わない肉の盾なのだ。むしろ報酬のことを考えれば全員死んでくれた方が有難い。
あの女…俺の耳を切り落としたあの女を屈服させ俺の物にするために、人から金をかすめ取る事しか考えていない強欲な教皇庁に下げたくもない頭を下げ、薄ら笑いが張りついたいけすかない大神官とやらから化け物を借り受けたのだ。
私は懐に秘匿する銅板を軽くたたき存在を確認する。
この中に都市すら滅ぼすことができる化け物が封印されていると思うと空恐ろしくもあるが、あの女を屈服させるためには少々のリスクは仕方ない。
このクズ共を使い豚の村落を焼き払い、あの女を誘き出すための狼煙にする。そして、あの女や仲間が傭兵共の相手をしている間に化け物を呼び出し、あの女を残し食い殺させる。
頼りの仲間が一人ずつ傷つき、生き絶え、食われていく様をみてあの女はどのような悲鳴をあげるだろうか?
発狂するのか、涙を流し許してくれと懇願するのか、それとも生き残るために自ら股を開くのか。
無様に顔を歪ませたあの女を一回使ってやったら、後はこのクズ共に下げ渡してやる!!そう考えると残りの女達も適当に手足をもぎ、あの女の前で使ってやるのも面白い。
しかし、借り受けた化け物は二体。アイツらは6人。
どちらにせよ間違っても俺が被害を被らないよう、このクズ共の下衆な欲を適度に煽り、奴らの刃を鈍らせる役割を果たさせるのが高貴な者の思考というものだろう。
「侯爵様よ、着いたぜ。」
顎の大きな不細工な傭兵が、ヒヨコ程度の容量もない脳味噌から見たままの事を告げる。豚どもの村からは食われるためだけに生まれた下等な存在の臭いが立ち込め、思わず吐きそうになる。
「こんな穢れた場所は一刻も早く焼却処分したいところだが、この村のオークにあの女の知り合いがいるかもしれん。何匹か適当に吊るして尋問するんだ。」
傭兵共のおつむでどこまで話の内容を理解できているのかは怪しいが、すぐに目の前に服を着たブタ共が数匹並べられた。
雄のオークであれば一般的な兵士程度の膂力を持ち合わせていると聞くが、所詮は下劣な豚に過ぎない。完全武装した私達をみて怯え切っているのか、特に抵抗する様子はない。
「よくやった。おい、お前らのなかに人語を理解するものはいるか。」
並べられた豚相手に問いかける。愚鈍そうな顔を見合わせ困惑する家畜ども。やはり口から出せるのは家畜同様の鳴き声が限界か。
「私はこの村の長を務める者です。このような辺鄙な村に何か御用でしょうか。我々は見ての通り温厚な部族で、人々の土地を荒らしたり、悪さをするようなものはおりません。」
少し間をおいて村長を自称する小汚い豚がおずおずと話し出す。なるほど、抵抗しなかったのはそうすればやり過ごせると考えたからか。
家畜に相応しい低能さだ。我々はこの村の豚を一匹残らず丸焼きにしにきたのだと告げたら、いったいどんな顔をするだろうか…その醜態には興味はあるが、己の好奇心を満たすよりも先に目的を達成するのが賢い者のやることだ。
「そうか、人間の犯罪者と徒党を組んで我が領内を踏み荒らすオークがいると聞き、遠路はるばるここまでやってきたのだが、無駄足だったかな?それとも貴様が虚偽を述べているか…もし心当たりがあるのであれば今のうちに白状することだな。大人しく差し出すのであれば他の者の命は保証しよう。」
「…犯罪者の仲間かまではわかりませんが、人間と親しくしている者であれば心当たりがあります。」
豚が豚になにかブツブツと指示する。
しばらくすると、一際デカい豚が半ば追い立てられるように目の前に引き出される。豚を売る豚か。世にも滑稽な見世物だ。
デカい豚の後ろには、なぜかウェアウルフのガキがついてきている。そうだ、そういえばあの女の仲間には獣の耳を持った女がいたな。そいつの仲間をかくまっているといった所か。
これは使えそうだ。




