バトルは突然に
「こちらはどうでしょうか。私自慢の子ども達なんです。」
そうこうしていると、少女は何点か商品を見繕いテーブルのうえに広げた。
リボンにヘアアクセサリーにカチューシャにヘッドドレス。どれもこれも自慢というだけあってとても可愛い。
商品を子ども達と表現するのは若干メンヘラ…じゃなかった、メルヘンの香りがして、オレのような面白みのない人間にとってはちょっと気になるポイントだが、子どもたちというだけあって商品を一見しただけでも意匠へのこだわりや細部に至るまで丁寧な仕事が伝わってくる力作だ。
「どれもこれもこう可愛いと迷ってしまうな。」
「お褒め頂きありがとうございます、嬉しいです。」
弾けるような笑顔。かなり可愛い。
ただ妹5人へのプレゼントとラグさん達へのお土産を買う必要があるため、迷っている時間はあまりない。アツコは派手な美人ではあるが、むしろそういう顔立ちだからこそ逆にワンポイントで可愛らしさが光るような物を身に着けると良い所が際立つだろう。
そう考えるとこの鮮やかな桜色のカチューシャは、キリっとしたアツコの雰囲気に柔らかさをプラスする意味で最適に思える。我ながらかなりセンスがいいのではないか!?
ただ実際に着けてみるとあまり似合わないという可能性もあるしな…。
「すまない、このカチューシャなんだが、つけて見てくれるか?」
「はい…こうですか?自分の子どもをお客さんの前で身に着けるのは少し恥ずかしいですね。」
可愛い、凄く可愛い。
「ありがとう。では、まずこちらを貰おうか。そういえば価格を聞いていなかったな。」
「銅貨5枚です。材料費がかかるもので、ちょっと高くてすいません。」
日本円で考えると5千円か。
「いや、これだけ素晴らしいものが銅貨5枚ならむしろ安く感じるさ。」
カチューシャを買うことはないので相場はわからないが、ファストファッションであれば服が2枚買える値段だと考えるとそれなりに高いと言えなくもない。
ただハンドメイドでこれだけのこだわりを持って作っている物だと考えると、個人的にはかなり格安だと思える。
よし、残りの4人にもここの物を買っていこう。
「では、他にも4人分…」
オレが続けて商品を見繕ってもらおうとすると、後方でドアを荒々しく開ける音が響いた。
「ほぉ、珍しいな、客か?」
見るからにガラの悪い三人組の男。店主とは知り合いのようではあるが、商品を探しに来たようには見えないな。
「…すいません、いまお客様に子どもたちを紹介しているところなんです。なので、あの…また今度に…。」
少女は消え入りそうな声で拒絶反応を示す。
「今度今度って、いつになったら払うんだ!?ガキだかなんだか知らねぇが、この安っぽい布切れで借金を返せると本気で思ってるとしたらイカレてるぜ。」
一人の男がそう言いながら店の商品を乱雑に手で払いのける。
「やめてください!!」
少女が止めに入ると男たちはその手をグッと掴み、身体を引き寄せた。
「こうしてみるといくらでも稼げそうな良いツラしてるじゃねえか。お前のために割の良い仕事紹介してやるって言ってるんだ。最初は股開いてジッとしてるだけで大金が貰えるこれ以上にない仕事だぜ?そのうち自分から動き動き出すようになるけどな。それともなにか、もう自分で客とりはじめたっていうなら褒めてやるぞ。」
男たちはオレと少女を交互に見る。清々しいまでのクズどもだ。
少女とこの男たちの間にどんな関係があるのかはわからないし、助けるのは余計なお節介かもしれない。
しかし、ここで見て見ぬふりをするようでは男がすたる。
「手荒な真似はやめろ。」
「なんだ、関係ねえやつは引っ込んで…グアァ!!」
オレは男の手をひねり上げた。




