その頃オークの村では
「凄いじゃない、白寿草がこんなにたくさん!!これまでに私達が採ったもの全部かき集めても、この十分の一にもならないわ。大手柄じゃないウグ!!」
ラグに褒められ、ウグが顔を真っ赤にして照れる。
「ワカナお姉ちゃんのおかげだよ。」
「ワカナちゃん、ウグを助けてくれてありがとう。それに白寿草まで。…さっきからどうしたの、元気がないけど。」
ウグを含め家にいる誰もが笑顔のなか、ワカナはひとり部屋の隅で膝を抱え丸まっている。
「ごめんなさい、私あんまり人間に詳しくないんだけど、皆たまにああなるのかしら。」
ダグが心配そうにナナセに聞く。
「気にしないでください。ワカナちゃんキレイな鱗のヘビを見つけたらしいんですけど、魔法で倒しちゃったせいで鱗が持ち帰れなくて落ち込んでるんです。そのうち元気になると思うので…。」
「一枚は持って帰れたし。」
ワカナはナナセの言葉に反応し、不満げな声をあげる。
「それは残念だったわね。でも一枚だけでも持って帰れたなら良かったじゃない。不幸中の幸いってやつよ。今日はワカナちゃんのおかげで大収穫だし、そういう事はパーっと忘れてパーティーでもしましょ。狼肉もちょうどダグが良い具合に漬けてくれたわよ。」
ラグが優しく声をかけると、ワカナは膝を抱えたまま少しずつ部屋の中央ににじり寄る。
「まだちょっと漬ける時間が足りないから臭みは残ってるけど、十分いけると思うわ。ほら焼くわよ。」
肉が焼けるいい匂いが部屋に充満する。
「なんか大丈夫そうな香りがする!!」
「まあ美味しいかはともかく、かなりマシになったのは間違いないわね。食べてみる?」
ラグがワカナとナナセ、そして子ども達に狼肉をすすめる。表面がこんがりと焼けた狼肉は見た目だけなら百点だ。
「私も食べる~。」
ワカナは瞬時に機嫌を直し、一番にテーブルに着く。
「僕も食べてみたい。」
ウグがワカナの横に腰かける。ワカナが肉を切り分け口に運ぶ…。
「うん、表面がカリカリしてて塩味もバッチリ!!よく分からんないけどいい匂いもするし…あっ、なんか凄い口のなか臭くなってきた…けど全然いけるよ!!凄く美味しいわけじゃないけど食べられる!!」
「正直な感想ありがと。でも、もう少しだけ褒めてもいいのよ。」
ラグがそう言うと、子ども達が一斉に笑った。
ワカナが肉を一切れ飲み込むと、ウグも意を決したのか狼肉を口に運ぶ。
「…あれ?僕は美味しいよ。凄く美味しい!!」
「ほんと?…あら確かにイケるわね。」
ラグが驚きの声をあげる。
二人の予想外の反応に、他の子どもたちも僕も私もと狼肉を手にとる。
「ほんとだ、美味しいよこれ。」
「全然臭くない。」
子どもたちの顔に自然と笑みが溢れ、その声を聞いたダグが仕込みの手をとめ部屋に戻ってきた。
「ダグ、狼肉まさかの好評よ。料理方法とか材料を変えたの?」
「今日は森の奥まで入れたから香草がたくさん手に入ったでしょ。だからいつもより多めに入れただけ。お気に召して貰えたみたいで嬉しいわ。」
「…香草をたくさん入れれば狼肉も美味しく食べられるのね。ねえダグ、私達で香草を育てられないかしら?」
「香草を?森で自生してるものだから可能性はあると思うけど、どうして?」
「ほら、罠でも狩りでも狼って結構とれるでしょ?でも肉は不味いからって皆捨てるじゃない。それを食べれるようになれば食糧問題もかなり解決するんじゃないかって。香草は乾燥もさせて日持ちもするから、畑でたくさん作ることができれば、人との交易にももっとたくさん使えると思うの。やっぱり森の土じゃ普通の作物は上手く育たないみたいだし、人間と同じものを作っても売れないでしょ?お互いが違う物を作って物々交換すればきっと上手くいくわよ。決めた!!私も香草を増やせないか試してみるわ。ワカナちゃん、ヒントをくれてありがとね。」
ラグは一息にまくし立てる。そんな姿をみてダグは嬉しそうだ。
「まっかせなさい!!でも私がちょっと臭く感じて、皆が大丈夫だったのはなんでなんだろ?オークとウェアウルフはお肉が好きだから?狼のお肉は………あっ!!」
ワカナの顔が真っ青になる。
「どうしたの、いきなり。」
「狼肉…ウグちゃんに共食いさせちゃった!!」
ワカナが言うとラグは大笑いする。
「もう、何を言い出すかと思えば。たしかにウェアウルフは神様が人と狼の粘土を混ぜて作った種族だってされてるけど、オークが豚や猪を食べるのと一緒で、ウェアウルフと狼の間に特別な関係はないわよ。」
「オークって豚食べるの!?」
ワカナの失礼な質問にもラグは笑顔を崩さない。
「食べるわよ、美味しいから大好き。ワカナちゃんが生まれた国では違う教えがあるのかもしれないけど、この辺りで信仰されている神様の教えだと、動物はそれぞれの種族がこの世界で生きていけるよう神様が遣わして下さった天の恵みなのよ。だから私たちは神様と動物達への感謝を忘れず、頂いた命を余さずしっかりと活用して弔うの。だから狼肉だって本当はちゃんと残さず食べたかったのよ。でも、ワカナちゃんが食べたいっていうまでは、不味いって思い込んでて工夫しようとする心を忘れてたわ。私はね、自分と違う価値観とか知識を持ってる人と話すのが好きなの。そうすると今日みたいに色んな事に気付けるでしょ。もっともっと色んな種族と話をして、もっともっと色んな事を知りたいわ。」
「私もこの世界のこともっと知りたい。」
ラグさんの言葉にワカナが頷く。
「じゃあ、ちょうどいいわ、明日からこの大森林の亜人の村を一緒に回りましょう。人の軍隊が攻めてくるかもしれないことを伝えられるし、色んな種族と話すことも出来るわ。たくさん手に入った白寿草をお土産に持っていけば、きっと話を聞いてくれるはずよ。」
ラグの言葉は自信と希望に満ちている。
ワカナはそんなラグの姿を尊敬の眼差しで見つめていた。




