会敵
「しかし、本当にトロールに見つかりそうだな。大丈夫なのか?」
枯れ木を集めて火まで焚いているし、かなり目立つけど問題ないのだろうか。
「バカ兄、それ本気で言ってる?位置を教えてやってるのよ、トロールに。」
トロールにわざわざ自分たちの位置を教える?なぜ?
「兄様はこんな見えすいた罠に引っかかるのかやつがいるのかと仰っているのよ。トロールの知的水準は低いと思われがちだけれど、魔法を使える者もいれば人間と同程度の知能を持つものもいるわ。自分たちの縄張りでこんな堂々と火を焚いていれば、罠だと警戒して襲う事を躊躇う者もいるでしょうね。ただおびき出すためではあるとは言っても、暗がりのなか火を焚いている私達が格好の的であることも事実だし、普通の冒険者であればかなりリスクの高い作戦ね。」
そう、それ。アツコの言う通り。
最初からそこまで全部考えた上での発言だからね、そこのところよろしく。
「あんた達は普通じゃないだろ?まあ失敗して元々だ、ダメだったら優雅な野宿を楽しむとしよう。」
ルーフェはそう言ってゴロンと横になった。
しばらく火を焚いていたが周囲に動きはないため、オレ達は体を休めつつ事の進展を待つ。
「引っ掛かった。」
数時間が経ち焚火の火も心許なくなってきた頃、なにかの気配を察知してミカヅキが小声で囁いた。
「トロールか?」
「恐らく。10体はいる。」
「団体さんか、大歓迎だねぇ。」
ルーフェの声。暗く表情までは読み取れないが、その声には焦りや動揺は感じられない。
これがミスリル級冒険者の余裕というやつなのだろうか。
「皆、さっき話したことを忘れないでくれよ。」
オレは戦いの前に改めて念押しをする。
今回の一件でどうしても気になることがあったため、事前にその疑問を共有し、ひとつの方針を打ち立てたのだ。
「了解だ。ただ戦いに絶対はないぜ、なんせ向こうさんも殺されないよう本気だからな。いくぞ!!」
トロールたちが視界にはいる寸前、ルーフェは跳ねるように起き上がり剣を抜いた。
それを合図にトロールたちが一斉に咆哮をあげ、オレ達を目がけ襲いかかる。
「フォローは頼んだぞ!」
ルーフェはそう叫ぶと、先手必勝と言わんばかりに先頭のトロールに斬りかかる。
懐に飛び込むルーフェにトロールが錆びた戦斧を振り被る。
「危ない!!」
戦斧が振り下ろされ、辺りに真っ赤な鮮血が飛び散る。
しかし、その血はルーフェの物ではない。
トロールは悲鳴をあげ後ずさり、地面には戦斧とともにトロールの腕がグシャリと音を立て落ちる。
速い!!
しかも、丸太ほどはあろうかというトロールの腕を一撃で寸断する威力。
ミスリル級冒険者の実力は伊達ではないということか。
「やるじゃない。私も行くわ。『ウインドカッター』」
ミカヅキが唱えるやいなや、周囲の空気が圧縮され風の刃となりトロールに襲いかかる。
グオォ!!という獣の雄たけびにも似た音が森に響き渡り、明らかにトロールたちの勢いがにぶる。
「ひくな、臆病者!戦の神にその身を捧げよ!!我に続け!!」
怯むトロール達に叱咤の声が飛ぶ。
姿を現したトロールは周りの者と比べても一回り以上大きく、優に7メートルを超えているだろう。
「ほう、あんたが親玉ってわけか。トロールの癖に一丁前な口聞くねぇ。こりゃ魔法を使うトロールがいるってのもあながち嘘じゃないかもな。」
ルーフェが軽口を叩くが、先ほどとは様子が違い声色がうわずっている。
強者は強者を知るという。
このトロールの頭目はそれだけの強さを持っているという事なのだろう。




