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 「ラフトさん、入りますよぅ」

「ああ」

 昼食を終えた俺はまた例の工房に籠って作業していたが、サラがすぐに訪ねてきた。手に持ったお盆には二人分のカップと焼き菓子が乗っている。狭い工房の中に甘い香りが漂う。

 工房に初めて入ったあの日から、房内の壊れた魔道具を片っ端から修理をするのが俺の新しい日課になった。古びたランプやへこんだ鍋、錆びた燭台など、一見するとただの道具だが、触って確かめるとどれもしっかりと魔法が込められている事が分かり、直しがいがあった。

 そんなこんなで、俺とサラの共同生活が始まってから一か月が過ぎようとしていた。

「ふふ、順調ですか?」

「あの時計に比べたら単純な造りのものが多いけど、どれもいい品だからやっぱり緊張するな、やっぱり」

「ふふ、楽しそうですね」

「そ、そうかな」

 やる事がなかった今までと違い、手を動かしていると時間も過ぎ、いい暇つぶしになった。一つ品物を直す度、サラが祖母との思い出を語ってくれたりもした。

 いい変化は、もう一つある。

「サラ、すっかり普通に顔見せてくれるようになったな」

「えへへ、慣れちゃいましたぁ。それに、ラフトさんは恩人ですから」

 彼女の懐中時計を直してからというもの、サラはゴーレムではなく本人が俺と接してくれるようになった。家事一切は相変わらずゴーレム任せだが、食事を共にとり、応接間でお茶をしながら談笑し、俺が工房に籠っている時以外は一緒に過ごす時間が増えた。

「自分がこんなに細かい作業が得意だとは思わなかったなあ」

「今までは武器しか作ってなかったんですか?」

 作業机の端にお茶とおいしそうな焼き菓子を置きながら、サラが尋ねた。向かいの椅子にちょこんと座り、二つ分のカップがあるところを見ると、ここでお茶をするつもりらしい。

「そうだなあ……武器職人になる事しか考えてなかったから、いやでも」

 王都に住んでいた頃の自分の生活を思い出す。

「武器が売れないから、雨どい直したり家具の修繕請け負ったり、そういう仕事で何とか稼いでたな、そう言えば。こういう、魔道具みたいなのは滅多に扱わなかったけど」

「修理屋さんなら評判になったかもですね!」

「うーん、そうかなあ」

 だとしたら、自分には武器職人の才能は無いことになる。

 それはそれで、複雑な気持ちだ。

「今でもまだ、武器、作りたいですか?」

「え?」

 サラが振り返って、工房奥の竈を見ながら問う。つられて竈や金床の方に視線をやると、言い様のない気持ちがムラムラと湧き上がって来るのを感じた。

「まあ、ずっとそればっかりやってきたからなあ。簡単には諦めきれないっていうか」

「そうですよねぇ」

「でも、前みたいに『何としても武器職人にならなきゃ!』みたいな気持ちはなくなったよ。これもサラと、サラのおばあさんのおかげかな」

 振り返ったサラは小首を傾げる。

「?」

 その姿が何とも愛らしく、俺は思わずにやついてしまう。

 そう、俺がこんな気持ちになったのはサラの懐中時計を直したことがきっかけだからだ。

 正確に言えば、直った時のサラの嬉しそうな顔を見て、誰かに喜ばれる職人になりたいという、自分の原点を思い出すことが出来たから。

「何でもないよ」

「もう、何ですか?」

 今度は頬を膨らせて拗ねる様な顔になる。思えば、ここ数日間で随分と彼女の色々な表情を見たものだ。

 最初の頃は泣き顔を見せた気まずさからか、俯きがちに話しかけてきていた。

『あ、あのぅ……お茶、入りました』

 しかし、修理の現場を見たいという好奇心が勝ってしまったのだろう、工房に籠って作業する俺を何かと理由をつけて見に来るようになった。

『わ、わ、わ。すごい、そういうふうにするんですねぇ』

『これ、これも直せますか?』

『その道具ってそういう風に使うんですねぇ!』

 そのうちすっかり俺に心を許したのか、サラは俺の前に姿を現すのにためらう事がなくなっていった。訪ねる口実のお茶はそのままだったので、日に三度も四度もお茶の時間があるのは少し困ったが、羨望の眼差しで見られるのは悪い気分ではなかった。

「……でもラフトさん、武器造りもあきらめたわけじゃないんですよね?」

「うーん、正直に言えば、そうかな」

 武器を作ったり、使ったりする人間が周囲にいなくなった影響だろうか。聞かれれば作りたいが、聞かれるまではあまりそういう願望を持つ事は正直、なかったのである。

「ま、向き不向きがあるってわかっただけでも、よかったよ、ハハハ」

「そう……ですか」

 サラは若干腑に落ちないというような顔をしていたが、俺は気にしないふりをして作業に戻った。


 「んー……」

 背伸びをして体をほぐす。夕食後も作業に没頭し、すっかり遅い時間になってしまった様だ。

 もともと薄暗い工房内は外の明暗が分かりづらいが、天井近くの窓からほんの少し星空が見えた。

(そろそろ寝るかな……)

 首を左右にコキコキと鳴らしながら立ち上がると、扉の外から足音が近づいてくる。ズンズン重い足音、これはサラ本人ではなくゴーレムのものだ。

「ん?」

「ラフトさん……」

 少しだけ扉が開き、ゴーレムがちらりと中を覗き込む。

「珍しいね、ゴーレムで。どうしたの?」

「あ、あのぅ……」

 ゆっくりと入って来るゴーレムの手には、艶々と光る黒い塊が抱えられている。赤ん坊程の大きさのそれが視界に入った瞬間、俺の心臓はバチンと跳ねる。

「あ!」

「えへへ、凄いでしょう!」

 ゴーレムの脇からサラがひょっこりと顔を出す。悪戯っぽくはにかむその表情とゴーレムの手の中の物を見比べ、俺は目を丸くしてしまう。

「サラ、これ……魔黒曜じゃ?」

「そうです!ちょっと遠くの山まで山菜取りに出かけて、そこにあった横穴にあったんです!」

 にっこりと笑うサラ。

「す、すげえ、こんな塊で初めて見た……」

 俺はその黒々とした鉱石に見入ってしまう。

 それも当然だ。魔黒曜は強い魔力を持った鉱石で、武具や装飾品、魔道具の主材料となる貴重な品だ。

「うおお、すげえすげえすげえ!でも、こんな大きな魔黒曜、どうするんだ?」

「えへへ、ラフトさん」

 サラは小走りで工房の奥へと向かう。ゴーレムもそれに追従し、竈の前に魔黒曜をズシンと置いた。

「え……?」

「武器、作ってください!この子のために!」

 サラはゴーレムを指してラフトに笑いかける。

「ぶ……武器?でもそんな俺、そんなすごい材料で作った事ねえよ」

「大丈夫です!」

 俺の顔にずいっと迫り寄り、満面の笑みでそう叫ぶ。

「人間には危ない武器だって、この子なら大丈夫!ラフトさんはなーんにも気にしないで、思う通りの武器を作ってればいいんですよぅ!」

「あ……」

 言われて俺はサラの肩越しにゴーレムの姿を改めて見る。俺の優に三倍はありそうな腕、艶の無い土で塗り固められた太い胴回り、無機質な顔。

(そうか、ゴーレム用の武器なら、もしかして……)

「ね?人間用の武器だとこの子に合わないし、この辺も最近物騒だから、お屋敷の守りに武器持たせてあげたいんです!」

 サラはニコニコと身振り手振りを交えて説明する。

「これで、武器を……俺が?」

 竈の前に置かれた魔黒曜は蝋燭の灯りに照らされてゆらゆらと光る。

 それはまるで自分を何者かにしてくれと、物言わぬ鉱石が懇願している様に、俺には感じられた。

「サラ……」

「私、武器とか作れないですし。ていうか、ゴーレム以外作れないので」

 サラの言葉を受け、俺は一歩、一歩とそれに近づく。ごくりと唾を飲む。鼓動の高まりを感じる。魔黒曜は俺に笑いかける様にきらりと一度だけ大きく光った。

「い、いいのか?」

「ぜひ!」

 肩をぽんと叩かれる。

 俺の中で小さく消えようとしていた感情が、底の方からふつふつと湧き上がってくる。それを夢と呼ぶのか、功名心と呼ぶのか、俺にはその名前が分からなかった。

「ラフトさん。きっと平気です。信じてください」

 その言葉は、奥から湧き上がるその感情にくべられた薪の様だった。

「サラ……」

「私のゴーレムと、自分の腕を」

 少し間を置いて、俺はこくりと頷いた。

「サラ、ありがとう」

 俺は傍らの金槌を手に取り、ぎゅっと握り絞める。前までは肌身離さず持っていたそれを、いつの間にか工房の中に置きっぱなしにしていた。

 実に久しぶりに握ったその感触は、俺の中の感情に一気に火を入れた。

「やってみる。サラのゴーレムが気に入ってくれるようなものが出来るかわからないけど……とりあえず……やってみるよ」

 振り返り、サラにそう告げると、彼女は嬉しそうに笑い返す。

「はい!期待してます!」

 信じてみよう。

 サラのゴーレムなら、俺の作る危ない兵器も、きっと。

 そう信じて、俺は魔黒曜で武器を作ることを決めた。


 「よし」

 作業は次の日、明け方のうちに始めた。必要な分の魔黒曜を削り出し、それ以外の細々とした材料を選定する。

 ルビーの溶け合った紅鉄。ユニコーンのたてがみで織った銀糸。魔獣の牙の欠片。

 それらを容器に移し、一度竈に入れて溶かし合わせる。

「これでよし、と」

 灼けて溶け合うまでの間、俺は羽ペンに墨をつけ、大きな紙に図面を引く事にする。

 いつもはカタログや実際の武器を見てその形に合わせる様に頭の中で想像するだけだが、久しぶりに基本に立ち返ってやってみたくなったのだ。

「槍……か」

 サラからのオーダーは、門番用のゴーレムに持たせる槍。

『門番と言えば、槍だと思うんです!ね!』

 そんな単純な発想だったが、俺もそれに同意した。

 穂先と持ち主の距離が他の武器と比べて比較的遠い槍ならば、仮に暴発してしまっても被害が軽く済むかもしれない。そんな消極的な考えもあり。

 何より、彼女のゴーレムが槍を持って屋敷を守る姿が、やけにはっきりと想像できてしまったのである。俺はこの今までにない感覚に、もしかしたら成功するのではないかという期待を抱いた。

(柄の部分は多少太くてもいいな……重量を気にしなくていいのはありがたい)

 俺は作業机に前のめりになって羽ペンを走らせ、完成予想図を書き込んでいく。

(穂先は切れ味よりも、こう、相手を追い払うような、押し返すような……)

 ゴーレムとはいえ、術者の彼女が斬った張ったの血生臭い武器を好むとはどうしても思えない。ぽわんとした雰囲気の彼女に、そういうものは似合わないと俺自身も思う。

(相手を追い返す……吹き飛ばす……風、かな)

 そこで俺は立ち上がり、工房の隅の木箱に手を突っ込む。

「あったあった」

 嵐航鳥の尾羽根。嵐の向かい風の中をすいすいと飛ぶその魔鳥の羽根は、武器に使うと非常に強力な風の魔力を得るのだ。

 再び席に着き、設計図に描き加えていく。

 席を立っては座り、竈の様子を見ては戻り、工具類を確認しては考え込み。

「あ……」

 いつの間にか作業机の隅に、お茶とサンドイッチ、フルーツパイが置かれていた。壁掛け時計を見ると、昼をとうに過ぎていることに気付いた。

(サラ、来てたのか……)

 没頭しすぎて彼女の来訪にも気づかなかった様だ。来たら設計図を確認してほしかったが、

『どんな槍になるかはお任せします!ラフトさんの思う様に!』

と最初に言われているので、そのまま進めることにした。

「……よし!」

 竈の中の材料が真っ赤に輝き、見事に溶け合っているのを確認すると、俺は腕まくりをした。

 注意しながらそれを金床に移し、柄の長いハンマーを構える。

(サラ……)

 俺にもう一度、武器を作る機会を与えてくれた魔女。

 俺にもう一度、職人としての喜びを思い出させてくれた少女。

「ふうっ」

 彼女のために、彼女が喜ぶようなものを作ってやりたい。

 その一念で、俺はハンマーを頭上高く振り上げた。


 「ラフト、さん?って、わあ!」

「ああ、サラ……」

 工房の壁に上体を預けて倒れ込む俺に、扉を開けたサラが慌てて駆け寄って来る。

「えっと、もう飯?」

「もう深夜ですよぅ!叩く音がずっとしてるから入りづらくて……大丈夫ですか?」

「ああ、平気平気。そっか、そんなに経ったか……」

 時計はすでに夜半を過ぎ、竈の火は消え入りそうにちりちりと火花を弱々しく散らしている。

 体中の体力と魔力が全て外に出てしまったかと思う程の脱力感。指一本動かすのも億劫で、だらりと床に垂らした手の甲が冷たく心地良い。

(ああ、やりきったのか)

 金床の上には黒く長い槍が誇らしげに輝いている。その姿を見て、俺は体中の脱力感にも勝る達成感がこみ上げてきた。途端に体に力が戻って来る。

「サラ、ほら、あれ」

 体を起こし、その槍を指さす。

「え?」

 振り返った先にあるそれを見て、サラの目が輝く。

「わぁ……!」

 サラはおずおずと近づき、柄の部分にそっと指を這わせる。

「はぁ……」

 言葉を失くして魅入っているその顔に、俺は心の底から嬉しさがこみ上げる。

「ラフトさん!」

「うおっ」

 がばっと振り返るサラ。目を爛々と輝かせて俺に迫って来る。

「早速試してみましょう!さあさあ、外へ!」

 サラはぐいぐいと俺の背を押しながら入口へと向かう。入れ替わりにゴーレムが入ってきて槍を掴む。かなりの重量になったはずだが、軽々と持ち上げるその姿に、俺は安堵した。

(よし、まずは大丈夫)

 外に出るとあたりはすっかり暗く、綺麗な星が無数に夜空を彩っていた。弓を張った様な細い三日月はまるで、それらの星を掬おうとしている様に見える。

「さ、試しますよぅ」

 俺達の後ろをついて、大槍を持ったゴーレムが屋敷の入り口から出てくる。

 改めてそれをじっくりと見る。

 黒い柄に穂先、全てが魔黒曜の黒い輝きに満ち、ヘラの様に平たく広がった刃先は鋭いというより重々しい印象だ。突いたり斬ったりするより、叩き潰す方が向いている形状だ。

 人間が持つには太すぎる柄、大きすぎる穂先。しかしゴーレムの巨体にはちょうど良いい大きさに見える。

「さあ、行ってみましょう!」

 ノリノリで命令を下すサラと、命令通り槍を振り上げるゴーレム。

「わあ!待った待った!」

 俺はそれを慌てて静止する。

「何ですか?」

 不用意に振ればとんでもない事が起こるかもしれない。

 一般的な素材でさえ厄介なことになった事が多い俺の武器だ。魔黒曜なんていう強力な素材で作った武器が何を引き起こすか、想像がつかない。

「何があるかわからないから!なるべく屋敷から離れて、何もない方向に!」

 手をばたつかせてサラとゴーレムを屋敷から離し、広々とした荒野の、なるべく何もない方向を指さす。

「わかりました。じゃああっちの方角に……」

 改めてゴーレムに指示し、ゴーレムは思い切り槍を振り上げる。

 鼓動が早くなる。

 冷や汗が背を伝って肩が震える。

(大丈夫か……?)

「よーし……」

 そんな俺の緊張を意にも介さずといった様子で、サラは拳を振り上げる。

「いっけー!」

 合図とともに、ゴーレムが槍を振り下ろす。

「!」

 ゴォッ!

 その瞬間、槍を中心に大きな竜巻が横向きに発生した。草を薙ぎ払い、石を跳ね飛ばし、凄まじい速度で吹き荒れ始める。

「きゃあ!」

 直線状の全てを巻き込んで空に巻き上がるそれは周辺に余波を生み、それに煽られてサラは吹き飛んた。

「ぐっ!」

 真っ直ぐに飛んで来たサラを何とか受け止めるも、そのまま俺の足も浮いて二人まとめて後方に体を持って行かれる。

「きゃああ!」

「ぐえっ!」

 サラを抱えたまま弾け飛んだ俺は、屋敷の壁にしたたか背中を打ち付けた。

「いてて……うお」

 恐る恐る目を開けると、竜巻は竜の様にうねって空を駆け上がり、轟音は少しずつ遠ざかって、やがて消えた。

「す、すげえ……」

 これまでに作った武器の中でも桁違いのその威力に、俺は呆けた顔で空を見ていた。

「……ふ、ふふ」

「!サラ、大丈夫か?」

 ハッと気づいて腕の中のサラの様子を伺う。

(よかった、特に怪我はなさそうだ)

「サラ……」

「ふふ、ふふふ……」

 サラは笑っている。後頭部しか見えないのでどんな表情かわからないが、確かに笑い声を漏らしている。

「さ、サラ?」

 頭でも打ったのかと心配して横から顔を覗き込むと、サラは満面の笑みを浮かべていた。

「ラフトさん!見て、見てください!」

「え?」

 サラが指さした先には、彼女のゴーレムが立っていた。槍を振り下ろした体制のまま、振り下ろしたその場から少し後ろにずれているだけで、壊れたり欠けたりしている様子はない。

「凄い魔力!凄かったですねえ!」

 くるりとこちらを向き、子供の様にはしゃぐサラ。その距離の近さに俺は動揺してしまい、返事の声が裏返ってしまった。

「あ、ああ……そうだな」

「凄いラフトさん!凄い、私のゴーレム!あんな風のなかで無事ですよぅ!」

 足をばたつかせてはしゃぐサラは本当に嬉しそうで、俺もつい嬉しくなってしまう。

「ああ、成功だな!凄いよ、サラのゴーレムは!」

「ラフトさんの武器も凄いですよぅ!」

「あ……」

「あ……」

 サラの鼻先が俺の鼻に当たり、お互いに我に帰る。

「ご、ごめんなさい!怪我なかったですか!」

「あ、ああ!大丈夫!」

 素早く立ち上がって距離を取るサラ。それに続いて、俺も立ち上がる。瞬間、背中がじくっと痛んだが、心の中はそれどころではなかった。

「え、えへへ」

「は、はは」

 ゴーレムが誇らしげに槍を天高く掲げている。改めてその姿を愛おし気に眺めるサラの隣に並び、二人でその雄姿を見守る。

「やりましたね!大成功!」

「門番にしちゃあ物騒な気もするけどな」

「あれなら魔王がやって来ても平気ですよぅ!」

「魔王が来るのはおっかねえなあ」

 冗談を交わして、二人で笑う。ゴーレムは槍を構え直してズシンズシンと屋敷の門に戻り、ぴたりと定位置に直立した。

 その姿を見て、俺達はまた笑った。

「……ははっ」

「えへへ」

「本当に凄いな、サラのゴーレムは」

「ラフトさんの武器が凄いんです」

「はは、はじめて言われた」

 ずっと求めていたはずの言葉。

 欲しかったはずの言葉。

 それを聞いて、心の底から喜びがこみ上げてくる。

「何度でも言いますよぅ。ラフトさんの作る武器は凄いです!」

 しかし、一つだけ、今までと違う事がある。

「本当に、凄いんです!」

 俺のこの喜びは、その言葉よりも、その顔によって生まれたものだという確信がある。

「また、作っていいかな」

 サラの手をそっと握る。その手を通して、サラがびくりと体を跳ね上げるのを感じた。

「……はい、よろしくお願いします」

 小さなその手が、俺の手をぎゅっと握り返した。

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