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 「はっ!はっ!はっ!」

 薄汚れた工房に、俺の掛け声だけが響く。ドロドロに溶けて真っ赤になった金属に、金槌を思い切り叩きつけていく。塊だったそれは段々と平たくなり、伸び、やがてぼんやりと完成品の輪郭に近づいて行く。

 ドラゴン討伐軍への武器お披露目。

 その催しがある事を知ってからの俺は、大いに張り切った。

 魔族の秘宝と見紛う様な凶悪な武器しか作れない俺に、ようやく巡って来た大チャンスだ。ここを逃す手はない。

(まず、持ち主に帰って来る機能は絶対に外さないと……それから、重すぎたり持ち手の部分で怪我する様なのもダメだな)

 魔導技士である俺が作る武器には、必ず何らかの魔力が宿り、様々な付加効果を持つ。

 しかしそれは必ずしも持ち主にとって有益になる効果とは限らないのだ。特に俺の作る武器は。

(威力はこのまま……いや、むしろ多少落ちてもいい、使い勝手のいいものを……)

 魔導錬成による武器作りの良し悪しは、ほぼ職人のイメージによって決まると言っても過言ではない。

 素晴らしい武器を思い描く想像力。そして頭に浮かんだものを正確に作り出す創造力。最後に武器を形作る魔力。この三つの力が折り合って初めて、良い武器という者は完成するのである。

(頼む……!もう芋と豆とパンの生活は嫌なんだ……!)

 祈る様に金槌を振り下ろし、作っては試し、失敗しては再び作り、鳴り続ける腹を押さえて武器を錬成し続けた。

「うおおおおお!」

 お披露目会当日までの二週間全て工房に籠って作業し、当日の明け方。

 ついに納得のいく三本の武器が完成した。

「で、出来た……頑張った!頑張ったよ俺!」

 長剣、槍、そして弓矢。どれも今までの作品とは違い、まともな見た目をしている。重すぎるという事もなく、毒や呪いの類もなさそうだ。

 ぎりぎりでの完成だったため、全力の試しが出来ていないのが不安要素だが、きっと大丈夫と自分に言い聞かせる。寝不足で軽い興奮状態にあるのか、やけに前向きな思考になっていたが、この時の俺はそんな自分に気付いていなかった。

 失敗作の山を尻目に、完成した三本を丁寧に包み、目一杯身なりを整えてお披露目の会場である王都へと向かう。

(ああ…景色がオレンジ色だ……)

 徹夜明けの身に朝の光は厳しすぎる。

 道中、色んな職人が荷車や馬車で自分の武器を運んでいる事に気付く。その顔は誰も誇らしげで、己の武器こそが最強という自信が顔に現れている。

(大丈夫……大丈夫……)

 彼らの表情で若干冷静さを取り戻すとともに不安がよぎったが、何とか心の中で自分を励まし続けた。

 王都正門で受付を済ませ、城の中に入る。案内に従い歩いていくと、開けた場所に出た。

 足元は砂地になっており、四方に囲まれた高い壁には様々な紋章が刻まれている。高い天井にも同じように紋章が見える。屋内にも関わらず明るいのは、燭台に特別な魔法がかけられているのだろう。

 どうやらここは、兵士たちの修練場の様だった。

「ふう……」

 他の参加者から少し離れたところに腰を下ろし、壁にもたれて一息つく。体が休まるとどっと体が重くなる。マメだらけの手はもはや痛みも感じない。首も肩も痛い。

 遠目に他の職人たちを見ると、自分の武器を磨く者、素振りしている者、様々だ。

(俺も確認、しない……と……)

 思考が遠く重くなる。まぶたが意思に反してゆっくりと下がる。だんだんと周囲の音が遠ざかっていき、そこで俺の意識は途切れた。


 「み……おい、君!」

「んあ?」

 誰かに肩を揺すられ、俺はぼんやりと目を開けた。目の前には鎧を着た兵士。だんだんと意識がハッキリしてくる。ざわざわと人の声が聞こえ、兵士の肩越しに職人たちが横並びになっているのが見えた。

「もう始まるぞ、起きて並びなさい」

「あ、は、はい」

 目をこすりながら立ち上がり、武器を持ってふらふらと最後尾に並ぶ。広い修練場の真ん中に兵士達と職人が向かい合って並ぶ。重厚な装備の兵士達がぴんと背筋を伸ばして並んでいる様はさすがに壮観だった。

 その先頭にいる、隊長らしき人が一歩前に出、咳払いをした。

「魔導技士諸君!今日はお集まりいただき感謝する。君らは我が王国が誇る最高の職人たちである。我らはドラゴン共を討伐するために強い武具を求めている!その装備でドラゴンを倒したならば、その作者である君らもまた、ドラゴン殺しの英雄である!自慢の一品を我らに見せてくれ!以上!」

 その宣言に、職人たちはにわかに色めき立つ。だが俺は全く別の思考で討伐軍の兵士たちを見ていた。

(みんな強そうだ……あの人達なら俺の武器も使いこなしてくれる……はず)

 そんな俺の期待と不安をよそに、お披露目は粛々と進んでいく。

 いくつかの組に分かれ、順番に武器や防具の性能を兵士が確認している。俺の入った組にはあの強そうな隊長もいた。

(よし、あの人に試してもらえれば……)

「次!そこの少年!」

「は、はい!」

 ついに俺の順番が回って来た。緊張で声が裏返ってしまう。たどたどしく前に出ると、同じ金槌通りの職人たちがひそひそと何やら話しはじめた。

「名前と、武器の種類と数を言いたまえ」

「はい!か、金槌通りのラフトです、武器は剣、槍、弓矢の三つです!」

「ラフト……?」

「金槌通りの……」

 俺の名前を聞いて、兵士たちもざわつき始める。俺の武器の評判は、俺が思っていたよりも広まっているらしい。もちろん悪い意味で。

「強烈な武器を作る少年がいると聞いたが、君がそうか」

「はい、えー……多分」

 引きつった笑顔で返事をする。『強烈』とはまた好意的な表現をしてくれるものだ。『凶悪』という方が正確なのではないか。我が事ながらそんな風に思ってしまう。

「任せておけ、我々に使いこなせない武器などない」

 隊長は鼻をふんと鳴らして自信満々に言い放つ。その言葉にいくらか不安が和らぎ、布を解いて武器を取り出す。

「まずは剣だな。どういう魔法を込めた?」

(しまった……)

 剣を渡した瞬間に思い出した。最終確認の試し斬りをしていない。

「あー、えっと」

 炎が出る様に設定したはずだが、正確には把握していない。

「えっと、一応、火が……」

「炎の魔剣か。ならばお前だな、試してみろ」

 隊長はそう言って脇に立つ屈強な兵士に俺の剣を手渡した。がっしりとした体形で、いかにも歴戦の勇士という風体だ。

「はい。それでは」

 兵士は輪の中から外れ、少し離れたところに立った。

「この槍は?」

「か、風が巻き起こる……」

(はず)

「ならばこれはお前だな。いけ」

「はい」

 今度は長身の兵士に槍を手渡した。同じように輪から外れ、剣の兵士と距離を取って槍を構える。

「最後は弓矢か。これは?」

「ええっと、魔力で矢が増えるように作りました」

「なるほど、面白い。これは私が試してみようか」

 隊長も少し離れ、壁に向かって矢をつがえる。屈強な男は剣を大上段に振り上げ、長身の男は体勢を低くして槍を水平に構えた。

(……あんな力一杯、大丈夫かな)

 心臓の大きさが倍になったのではないかと思う程の鼓動の強さに、吐き気がしてくる。

 これが上手くいかなければ、武器職人として生計を立てていくのは絶望的になる。この国で最強かもしれない者達が自分の武器を扱えなければ、国中のほとんどの人間が使えないという事になるからだ。

 俺の武器の事を良く知る職人たちは、被害に遭わない様に出来るだけ距離を取ろうと後退った。そのことを責めるつもりはない。本当なら俺自身もそのぐらい距離を取りたい。

「よし、やれ!」

 隊長のその掛け声を合図に、一人は剣を振り降ろし、一人は槍を突き抜いた。同時に隊長の手からも矢が放たれた。

「あちゃあっ!」

「うわあっ!」

「なんと!」

 結果から言えば、三つとも大失敗だった。

 剣は凄まじい火柱を上げたが、なぜか兵士の足元から巻き上がり、彼の両手首をこんがりと焼いた。

 槍は突風を発生させたが、なぜか持ち主の兵士までその風にあおられて宙を舞った。

 弓から放たれた矢は確かに何本にも分裂した。勢い余って隊長が手を放した後も弦がビンビンと揺れ、その度に無数の矢があっちこっちに放たれていく。

「助けてー!」

「ぎゃああ!」

 一番悪かったのが、三つを同時に使った事だ。

 炎の柱が突風に横殴りされて火の粉が四方八方に飛び散り、その火にぶつかって矢じりに火がついた。おまけに巻き起こる風に乗り、無数の火矢は不規則な軌道を描いてその場にいる者に襲い掛かる。

「おろしてくれー!」

 中には風に体をさらわれて一緒に飛び回っている者もいる。兵士たちは鎧や盾で必死に矢を打ち払い、職人たちは必死の形相で逃げ回っている。

(終わった……)

 飛んでくる矢を空中でつかみ取りながら、俺は輝く未来への扉が音を立てて閉じていくのを感じた。

 即日、俺は国外追放となり、国境の荒野に投げ捨てられた。奇跡的に死者が出ず、重篤な怪我人もいないという事で、極刑だけはまぬがれたらしい。

「処刑されんだけ有難いと思え!」

 唾と共に吐き捨てられた兵士のセリフが、荒野にたった一人立ち尽くす俺の頭に半鐘の様に鳴り響いていた。


 (腹減った……)

 気が付くと、自分の腹の音で目が覚めた。

(ああ……いい匂いだ)

 美味そうな匂いが鼻腔をくすぐり、少しずつ意識が戻り始める。俺は今、どうやら仰向けになって寝ているらしい。何か柔らかいものに包まれている感覚だ。

(……天国?)

 瞼が重い。というより、体中が重い。力が入らず、目を開けるのも指一本動かすのも億劫だ。

「フンフン、フン」

 可愛らしい鼻歌が聞こえる。これが死者だけが聞けるという、天使の歌声だろうか。

「う……」

 空腹と寝不足、おまけに疲れでへとへとの体を何とか動かし、起き上がろうとする。

(生きてはいる、なあ……)

「あ、起きましたか?良かった、もうすぐご飯が出来ますからね」

 さっきの鼻歌の主だろうか、可憐な声で俺に語りかけてくる。

「何にもない荒野で倒れていたので心配したんですよう」

 朗らかな調子が耳に心地良い。声の主の姿を拝もうと上体を起こすと、ぱさりと布団がめくれた。

「干したばかりのお布団だったから、気持ちよかったでしょう?」

「あ、ありがとう。君が俺の事を助けてくれ……」

 声のする方に向き直り、命の恩人に礼をしようとした俺は、そこで固まってしまった。

「た……」

「えへへ、お礼なんかいいんですよう」

 振り返ってはにかむその姿に、俺は言葉を失った。

 フリル付きのひらひらした真っ白なエプロン。

 おたまを片手に小首を傾げて、いかにも女の子らしい仕草。

「あ、起きれます?ご飯、今並べますから」

 俺の倍はあろうかという太い腕。

 酒樽よりも幅のある胴。

 一歩歩くごとにズシン、と大地が揺れる。

「あ……ご……」

 全身焦げ茶色の皮膚は土で出来ており、顔は目も鼻もないのっぺらぼう。

「おいしいシチューが出来ましたからねー」

 小鳥の様な美しい声の主は、異形の怪物だった。

「ゴーレムだあー!」

 僅かな体力を振り絞って叫び、俺の意識は再び途切れた。 

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