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弓を持った男はイリアーゼを庇うアレックスを見て話しかけてきた。


「お前は、先ほどこちらに案内をしてきた兵士か、奴らが入ってきたのかと思ったではないか。」


「ゼルド様、イリアーゼ様をお連れしました。イリアーゼ様、立てますか?」


アレックスの手を取り立ち上がりながらゼルドと言われた男を見る。確か第一王子の側近の一人だ。腕がたつとは聞いていたが


(こんな狭い場所で確認もせずに矢を放つあたり腕だけがたつのね。…庇ってくれたアレックスが無事でよかった。)


「ええ、ありがとうアレックス」


「イリアーゼ様?ああ、お待ちしてましたが…その格好でフェルデス様にお会いに?」


ゼルドはイリアーゼの村娘のような服装と怪我がある状態に汚いものでも見るような目で話しかけてきた。


(緊急事態なのは知ってるのよね?それに謝罪もないとかもう…ダメだわ。頭が痛くなってきた。)


「先程、こちらに案内してきた男…隣国の男爵が何やら悪巧みをしていてよ?私よりも外をご覧になったら?」


そう言うとイリアーゼは窓を一瞥してゼルドとやらを見る。

何をバカなと言いながらゼルドは窓を見ると馬に乗りこちらに向かってくる男達を見て驚きながらも武器を構えアレックスに話しかける。


「下には誰かいるのか?」


「私が知っている限りでは、イリアーゼ様の護衛と怪我をした侍女が」


「役立たずどもではないか!フェルデス様に害が及ばないように俺が向かう!」


そういうとゼルドはこちらを振り替えることなく走っていなくなってしまった。


「…あまり、知らないのだけれど腕は立つのよね?」


「ゼルド様は国の全兵士の参加する試合で、でしたら優勝候補に名が必ず上がります。」


(アレックスの言い方になんかトゲがあるような…まあ、いいか)


「そう、なら任せていいわね。」


「はい、それとイリアーゼ様、こちらがフェルデス様のいらっしゃる部屋です。」


奥の部屋を手で示すアレックスに頷く


「わかったわ。…はあ……よし、行きましょうか」


1つ深呼吸して先程の出来事を頭から消し去るとイリアーゼはアレックスを連れて王子のいる部屋に向かう。

部屋の前まで来るとアレックスがドアをノックし、部屋に声をかける。


「失礼します。イリアーゼ様をお連れいたしました。」


「入れ」


一言短い返事が来るとアレックスはイリアーゼが入る前に耳に囁いた。


「この部屋は防御魔法がかかっています。安心して下さい。」


「ええ。…また後で」


「はい、お待ちしています。」


アレックスにイリアーゼは部屋に入るまで見送られる。真っ直ぐ前を見据えて進むと部屋の奥には第一王子フェルデスとその従者とアレックスと同じ制服を身に付けた男性がいた。


(たぶんアレックスと同じ制服の人はアレックスの上司ね。)


イリアーゼはドアが閉まる音が後ろから聞こえると第一王子に向かい礼をする。


「遅くなり申し訳ありません。イリ」


「堅苦しい挨拶はいい。ここは安全と言えど緊急事態だからな。…君には聞きたいことがある。バルト」


「はい、イリアーゼ様2つ質問を失礼致します。」


第一王子はイリアーゼの挨拶を遮り、バルトと呼ばれたアレックスの上司らしき男に合図をだすとその男は資料を出してきた。


「ええ、どうぞ」


「では、最初にこのような状況に何か心当たりは?」


「ありませんわ。」


「では、次に…なぜ、こちらに向かう際に馬車を降りました?」


「…」


(アレックスどこまで報告したのかしら?でも、そうね。私が馬車を降りた理由で彼らが想像するのは…)


「嫌だったからよ。」


そう言ったイリアーゼをフェルデスは先程よりも興味深そうに見てきた。


「嫌、とは?」


「私、生まれてからずっと王都で暮らしていたでしょう?それがこんな何もない所で、これから暮らせ。仕事をしろ。しばらくは監視付きだなんて……それに数日準備する期間があるのかと思えば卒業パーティの次の日にすぐよ?極悪な犯罪者だってこんなに早く裁かれないというのに」


悪役令嬢そのものの理由と態度を学園にいた頃より大袈裟に振る舞い続ける。第一王子に言う話でないのはわかっているが少しの愚痴も込めてイリアーゼは続けた。


「……」


「あの娘にグラスを投げた際に第二王子に当たりそうになったのは悪いと思っているからここまで来たけれど、馬車で行かなければならないと決まりも無いようだから途中で歩いたのよ。後は、私と行動を共にしていた兵士からの報告通りよ。きっと」


そう言ってイリアーゼはバルドを見ると相手は少しホッとしたような顔をしたことに驚く


(ん?今のはなに?)


しかしすぐ顔を元に戻していたので見間違いだったように感じた。


「報告書通りのようです。」


「そのようだな。」


「それでは私はこれで失礼します。」


「ご苦労、お前も下がっていい。」


「かしこまりました。」


バルドは王子の返事を聞いてから部屋を出ていった。同時に王子の従者も下がらせるとこの部屋にはフェルデスとイリアーゼの二人だけになった。


イリアーゼは改めてフェルデスを見る。彼はイリアーゼの母方の従兄弟だ。おまけに彼は髪型こそ違えどイリアーゼの兄のロベルトに顔立ちがとてもよく似ている。


(幼い頃は双子でもないのに見分けがつかなくて当てっこして遊んだなあ、歳が上がるにつれて必要以上に話さなくなってしまったけど)


顔がそっくりでも元婚約者の兄ではなく自分の兄が来てくれたら良かったのにと考えてしまうのは我が儘だろうか?

家族に会えずにここまで来たのだ思うぐらい許してほしい。


「弟の件は、すまなかった。」


「…え?」


急に言われてフェルデスを見る。


「君との婚約破棄をさせなかったことだ。」


「…謝って頂く必要はありません。」


「その返答だと君は事情を知っているね?」


フェルデスの言葉にイリアーゼは頷く。


そう、私はなぜ婚約破棄をされなかったのか知っている。その理由は第二王子の色恋沙汰を隠したい訳でなくもっと政治的で王家に関わる理由だ。私が知っている限りではだが、その理由の1つには


「私に魔力が無いこともその理由ですよね」


「…そうだ。君は王の妹である叔母の娘でありながら魔力が無い。それは周りに知られる訳には行かない。」


「他国ならなおさらですものね。」


「そうだ。父には娘が産まれなかった。しかし政治には婚姻が必要になることもある。君の姉アイリーンが嫁いだように」


「アイリーン姉様…」


イリアーゼの姉アイリーンはイリアーゼが学園に入る前に隣国の王子に嫁いでいった。政略結婚だったがそれでも今では5人の子供たちに囲まれて夫婦仲良く暮らしている。


「本当はこんな君を傷つける方法で婚約解消にする気はなかった。弟も理由を知っていたはずなのに、まさかこんなことになるなんて」


「………フェルデス様の責任ではありません。それにグラスを投げてこんな状況になったのは自分のせいですわ。」


(どうせ、グラスを投げなくともここに来ていたでしょうし)


「それでも君を不安にさせただろう?君は…行方不明になることを恐れていたのだし」


「まあ、それは運命です、し……?…え?」


イリアーゼは思わずフェルデスを見る。

フェルデスもイリアーゼを見ている。


目が合うとイリアーゼは頭から消し去っていたものが急に走馬灯のように駆け巡りその場に立っていることが出来ずに頭を押さえながら地面にふせたのだった。


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