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「おい、またあのクロース公爵令嬢がフリバー男爵令嬢と対立してたの知ってるか?」


「フリバー男爵令嬢ってことは元平民で魔力が王族並みの?」


「そうそう、クロース公爵令嬢も馬鹿だよな、元平民でも魔力が強いフリバー男爵令嬢の方が王族も利用価値があるからそっちに乗り換えられるのは明白なのに何時までも王子にすがり付いてさ」


「血統を重んじる第1王子との婚約だったら母親が元王女様だったクロース公爵令嬢が乗り換えられるのはあり得なかったけど婚約してるのは第2王子だしな」


「にしてもなんで、第2王子はクロース公爵令嬢と婚約破棄しないんだ?身分は王子の方が上なんだからいつでも破棄できるのに」


「そうだよな。フリバー男爵令嬢と恋仲なのは学園に通ってるやつなら全員知ってるのにな」




このモブ男子生徒の台詞は乙女ゲームではヒロインのエミリア・フリバーが校舎の影で聞いていて王子にイリアーゼと婚約してる理由を聞きに行くイベントだ。


案の定、エミリアが走って王子の元に行く姿がこちらから見えた。


(まあ、ゲームをした私は理由を知っているけど。今の私にとってはどうでもいいことだわ)



























「どうせ、死ぬもの」


イリアーゼは自分の声で起きた。


目を開いた先には見たことのない天井が見えた。


「…………?」


起き上がるとちょうど朝陽がイリアーゼの顔を掠めて眩しくて思わず目を閉じる。が、直ぐに慣れて周囲を見渡す。


「…ここは、どこ?」


イリアーゼが住んでいた部屋に比べて3分の1くらいで狭く質素な部屋だった。家具は今寝ているベットと机と椅子と小さなクローゼットのみ


(前世で住んでいた私の部屋みたいだわ。)


イリアーゼはベットから降りて立ちあがり近くの窓を覗く


見えるのは教会と思われる建物の裏側にある畑と山


(教会?…ああ、なるほどここ天国なのね。地獄に教会は無いと思うもの。でもまさか天国にこれるとは思わなかったわ。)


窓から離れるとイリアーゼはクローゼットに移動して鏡を見つけたので見てみる。


そこには寝間着姿のイリアーゼがいた。髪を耳にかけると断罪の時につけられた傷がある。


(天国なのに自分の好きな姿にはなってないのね。)


クローゼットの中を見ると平民の娘が着るような服が入っていたのでそれに着替える。サイズはちょうど良いようだ。一緒に入っていたリボンで髪を結び鏡を見て確認するとイリアーゼはその場でクルっと回り身だしなみがキチンとしているとわかると扉を開けて部屋の外に出た。






(誰もいない。)


部屋の外は長い廊下にイリアーゼが出てきた扉と似たような扉がいくつか並んでいた。きっと扉の感覚からして同じような造りの部屋だろう。


部屋に戻る気にもなれなかったのでイリアーゼはそのまま廊下を進んでいく


コツ、コツ、コツとイリアーゼの歩く足音だけ響く



イリアーゼは特に目的もなく歩いていると外に出る扉を見つけた。どうやら鍵は掛かっていないようだ。

イリアーゼは扉を開けて外に出る。朝早い時間帯なのか人の気配はない。


(天国といえど朝は誰もいないのね。…教会にでも行ってみようかしら)



教会に着くと入口は開いていた。誰かいるのだろうか。

中に入ると、人の気配はなくこの国で信仰されている女神の姿絵があった。


(王都の教会の作りと似ているわね…もし、断罪されなければそこで私は第2王子と結婚式をしていたのかしら?)


予定では卒業した次の年に結婚して…


(考えるのは止めましょう。あり得ない未来だと今でも思うわ。乙女ゲームのバッドエンドでも第2王子と悪役令嬢のイリアーゼは結婚してなかったわ。)


ちなみにヒロインがバッドエンドを迎えると悪役令嬢の断罪後は攻略者たちとは知人程度の間柄で、他人の結婚式をしていた教会の前を通ったヒロインが鐘の音を聞いて「私も好きな人と一緒にこの鐘の音を聞きたい」と攻略者の顔を思い浮かべる。

ヒロインがハッピーエンドを迎えると必ず結婚式の場面になり攻略者たちとキスをする。そして幸せな二人を祝福するための鐘が鳴り響くのだ。

これがゲームの名前のキスと鐘の音の由来だろう。


(ヒロインのバッドエンドでもイリアーゼは断罪されていたわね。結局断罪は免れないってことだったのよね。知ってたけど、これからどうしましょう?きっとここは天国という妄想もそろそろ無理があるし。)


やっと現実を認めたイリアーゼは1番前にある椅子に座り考える。


(まさか、生き残るだなんて考えてもみなかったわ。…いや、行方不明になったとだけ書かれていたからそもそも死ぬことは元からなかったのかもしれない。…そういえば、アレックスとゼンとミリヤの姿がないけどあの三人はどこに?確か睡眠薬で眠らせるつもりが逆に眠らされて…)


現実逃避していたぶん、必死に現実を考えていると肩に手を置かれて話しかけられた。


「イリアーゼ様っ」


「…アレックス!?」


イリアーゼが驚いて振り向くと少し息を切らしたアレックスが椅子の斜め後ろに立っていた。


アレックスに状況を聞こうとイリアーゼが立ち上り、向かい合った瞬間













ゴォォーン、ゴォォーン…










教会の朝を告げる鐘の音が響き渡った。


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