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41 避け得ぬ戦い



 たかが三千。されど三千。

 三千人の軍隊は、我が思うよりも威圧感のある存在だった。

 バラバラならば単なる人の群れでも、確りと兵装を整えて隊伍を組めば軍となる。


 前回の魔族領での戦いは、バラバラの敵を小勢を率いて突き破って進んだが故にあまり意識しなかったが、軍と言うのは中々に見応えのある物だ。

 従騎兵の巨大な姿も三つあった。

「中々に良い光景だな」

 我は砦の城壁の上に立ち、遠方から進軍して来る人間の、ロルック王国軍を視覚強化を使って眺めながら、傍らのサーガに声を掛ける。




 雪に道が閉ざされる四カ月、冬の季節が終わると同時に、ロルック王国は我が領の砦に向けて軍を派遣した。

 魔物領から溢れた下位の魔物の暴走、スタンピードで被害を受けて国力の低下したロルック王国は、魔族と戦うと宣言する事で他の人間の国から攻め入る口実を奪わんとしたらしい。

 他国が魔族と戦うロルック王国に攻め入れば、魔族に利する行為を行ったとして非難を浴びる様に仕向けたのだ。


 無論魔族と戦うと宣言した以上、実際に軍を派遣しない訳には行かない。

 国力の低下したロルック王国に軍の派遣は厳しい行為だろうが、生き残るには其れしか道が無かったそうである。

 勝って魔族の砦を破壊すれば国の威信が上がり、ロルック王国は立て直しの時間が稼げるのだ。

 まあそんな人間同士の内輪揉めの策で攻められるのは少しばかり迷惑だが、元より魔族と人間は戦う運命だった。是非も無い。




 冬に入る前から、ロルック王国が戦の準備を行っている動きは掴んでいたので、当然準備は万全に済ませてあった。 

 魔族と、協力者である狼種の魔物達の軍としての編成も完了しているし、戦闘訓練も充分だ。

 ダンジョンがエシルの町の傍に到着したので、低階層を使用して兵士達の戦闘力の向上も行ってある。

 我自身も運動不足の解消に、一周踏破した。持ち帰った竜肉を振る舞う事で、兵等の士気も高まった様に思う。


 本当にダンジョンの存在は有り難い。戦いの前に町に来てくれて助かった。 

 故に今攻めて来ている人間共は知らぬだろうが、我が方と敵の戦力差はかなり大きい。

 魔族領は人間にとっての危険地帯であるが故に、まともに情報の収集が出来なかったのは、ロルック王国にとっての不幸であろう。




「ガルは狼種を率いて森に伏せておる。我は敵の従騎兵や強者を潰して回る故、砦の魔族の指揮はサーガよ、汝が取るのだ」

 我は腕にしがみ付いていたリリーを引っぺがしてサーガに押し付ける。

 サーガは人間に憎しみを抱くと同時に、未だ怖れていた。

 無理は無い話だ。人間共に村を襲われてから一年もたっていない。

 もう彼女は随分と強くなったし、頭では例え同じ事が起きても撃退出来る事は理解している筈。


 けれどそれでも感情は付いて来ないのだろう。

 こんな時に掛けれる言葉なんてありはしない。

 一度でも人間に自分の力で打ち勝てば、自然と納得も出来ると思う。

 引っぺがされたリリーは不満そうだったが、受け取ったサーガはリリーを抱きしめ、コクリと一つ頷いた。





 そうしている間にも、随分と人間達は砦に近づいて来ている。

 もう間も無く、強化無しでもはっきり姿が見えて来る頃だ。

 ではそろそろ始めるとしよう。

 思い切り息を吸い込み、


「止まれ人間共よ!」 

 言葉に魔力を乗せて発する。

 竜種やガルが使う咆哮と似た様な物だが、奴等とは違い我の大声は威嚇にはなっても、敵を拘束する様な力は無い。

 だがそれでも充分に効果はあったらしく、軍馬が嘶き暴れ、人間達の軍勢はその足を止めた。


「其処より先は我等魔族の住まう地だ。踏み入らんとするなら命を捨てる覚悟をせよ!」

 無論我もこの言葉だけで奴等が止まるとは欠片も思ってはいない。

 そもそも戦いを決めたのは眼前の者達では無く、命を下した上層部等だ。

 軍の指揮官にしても、戦いもせずに引き上げる権限は当然持っていないだろう。

 ならば何故わざわざ言葉を飛ばしたのか。

 其れは見極める為である。攻め寄せた人間達が、敵として戦う相手に相応しいか、或いは単なる下等種として駆除するべきケダモノかを。


 そして彼等の返事は、言葉では無く矢の雨。

 弓兵の長弓から放たれた矢が、弧を描いて雨の様に我に向かって降り注ぐ。

 それと同時に、鬨の声と共に歩兵共が一斉に砦に向かって突撃を開始した。


「成る程、矢張り下等なケダモノだったか」

 我は眼前で魔力の障壁に弾かれる矢を見ながら溜息を吐く。

 透明故に魔力を知覚出来ぬ者にはわからぬだろうが、今我が展開している魔力障壁は、この砦の防壁よりも分厚い物だ。

 たかが矢の斉射程度で破れる筈が無い。

 せめて話し合いに応じるフリをして、此方を観察する程度の知恵は持っていても良かろうに。

 配下の差し出して来た槍を握り、投擲の構えを取る。


「では皆の者、害獣駆除だ。徹底的にやるぞ!」

 言葉と共に投げた槍、我が投擲する為に専用で作らせた頑丈で重い槍は、狙い違わず従騎兵の胸を貫き、その巨体を転倒させた。




 従騎兵は神が勇者に与えた神騎兵を模して造られた兵器だ。

 当然神騎兵に比べればすべてが劣る。

 サイズも一回り以上小さく、装甲や出力・速度等は比べ物にならず、神騎兵の様に完全に内部に乗り込めもしない。


 だが一つだけ、神騎兵と共通する点があった。

 従騎兵は、神騎兵と動力源を同じにするのだ。

 此ればかりは本当に人間は凄いと思う。


 技術も凄いが、何よりその恐れを知ら無さ過ぎる点が何より凄い。

 何故ならその動力源は、騎兵の神の力そのものだから。

 神騎兵に比べれば微々たる物だが、従騎兵は騎兵の神から力を吸い出してその巨体を動かす。


 神からしたらたまった物では無いだろうが、力を吸い出される道を潰せば、与えた加護である神騎兵もその動作を止めるだろう。

 故に騎兵の神は従騎兵の使用に手を打てないでいるらしい。

 ちなみに人間は、そんな従騎兵を人間同士の戦いで主に役立てているのだ。

 だから我は、魔族と人間の戦いが終われば、人間の神々は用済みになった人間を間違いなく排除するだろうと確信している。




 話がそれたが、まあ従騎兵は神騎兵と違って完全に乗り込むタイプでは無く、上部や背部にその操縦席が剥き出しで存在した。

 その理由は二つ在り、一つは神の力を吸い出すコア、操縦者が手を当てる事で機体を動かす事にも使用する其れが、剥き出しの状態で無ければ神の力を吸い出せなかったからだ。


 そしてもう一つの理由は視界。

 神騎兵は厚い装甲に包まれた内部に操縦者が居ても外の風景が見えるらしいが、そんな高度な機能を従騎兵で再現する事は不可能である。

 今回やって来た従騎兵等は、射撃で操縦者が殺される事を警戒した、背部に操縦席が存在するタイプだった。

 つまり先の様な強力な衝撃で仰向けに倒れると、操縦者は機体に圧し掛かられて潰れ死ぬ。


 他の二機が、仲間の凄惨な死に方を見て慌てて巨大な大盾を構える。

 悪くは無い判断だ。盾を持たれれば、先程の様に投槍で転倒させる事は難しい。

 試しに一投してみるが、思った通り角度の付いた盾に弾かれ、槍は周辺の雑兵を潰して地に落ちた。


 我は内心溜息を吐く。

 周囲を見れば、砦の魔族等はサーガの指示に従い、二人一組で防衛戦を行っている。

 一人が魔力障壁で敵からの矢を防ぎ、もう一人が弓を打ち返す。

 敵に比べれば此方は小勢だが、一人一人の性能は桁が違う。

 訓練通りの堅実な動きで、敵を着実に減らしていた。


「よし、では我は出る。後は頼むぞ」

 従騎兵は、我にとっては兎も角、他の魔族等にとっては充分以上に脅威だ。

 あの巨体が砦に辿り着いたなら、防壁は容易く破壊されるだろう。

 指で輪を作り、舌裏に当てて思い切り吹く。

 指笛の高い音が響き、其れに応じる様に砦周囲の森から狼達の遠吠えが返って来た。

 彼方も準備は良い様だ。では、突撃である。



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