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40 魔物について


 よし、揃ったようなので始めるぞ。

 なんぞ随分と増えておるが、まあ良い。人が多いのは良い事である。

 汝等も知っての通り、現在ダンジョンがこの町に接近中だ。

 言ってて我ながら違和感を覚えるが、事実なので仕方ない。

 ダンジョンは事実この町を目指しておるし、奴の到着次第、資格者には十階層までの探索許可を出す。


 さて、当然ではあるがダンジョンの中には魔物が溢れるほどに居る。

 最近エシルの町では狼種の魔物が当たり前に居るから、感覚にズレもあろう。

 その是正の為にも、今日は魔物とは何かを少し話そうか。




1『魔物とは』



 まず魔物とは何かだが、以前昔話で話した通り、魔物は神々の戦いで世界に満ちた魔力より生まれ出でた者達だ。

 光届かぬ陰の気に満ちた洞窟奥深くに魔力が溜まり、シェイド、影魔が生まれたり、或いは深い森の奥の巨木が魔力に自我を得て動き出したり、そうして魔物は生まれた。


 さて、先の例の様に、魔物の成り立ちには二種類ある。

 一つは魔力その物から生まれた場合。もう一つは元ある何かが魔力の影響で魔物と化した場合だな。

 この二種類の差に関しては後程述べるが、何方も魔物である事には変わりがない。

 魔物が魔力と深い関係にある事はわかって貰えたと思うが、基本的に魔物は魔力を求める本能がある。

 奴等が好んで棲み付く場所は魔力が濃い場所なのだ。


 無論そんな場所の近くは力の強い魔物が集うので、弱い魔物は離れた場所に棲まざる得ない。

 そして土地から魔力を得る以外にも、魔物が魔力を得る手段は存在し、最も手っ取り早いのが他の魔力を持つ存在を殺して喰らって奪う事。

 其れは他の魔物だったり、或いは人間や魔族もその対象となる。

 故に魔物は遭遇したら基本的に襲って来ると考えるべきなのだ。



 さてでは何故ガルをはじめとするこのエシルの町に棲み付いた狼種は我等を襲わぬのか。

 別にこの町の魔力が……、まあ魔族が多く住むので発散する魔力は其れなりに町に溜まっているが、其れだけでは無い。


 例えばだが、ガルは我と繋がりを持った状態にあり、我の発する魔力は彼奴に流れ込む様になっている。

 町の狼種共も其々パートナーと繋がりを持つが故に、他者を襲わずとも魔力を得られているのだ。

 ああ、でもちゃんと肉は食わせるのだぞ。

 狼種は魔力以外にも血肉を必要とする故、喰わせてやらんと飢えるからな。



 今の話で重要な点は、魔物は基本的に我等を餌と見る本能がある事を認識せよだ。

 繋がりを持った魔物が例外なのだと。




2『発生型の違い』



 魔力その物から生まれた魔物と、魔力の影響で変化した魔物の違いに付いてだが、先ず増え方が違う。

 前者は、その条件が整った時に偶然生まれる。

 先程はシェイドを例に出したが、陰の気に満ちた洞窟に奴が生まれるに十分な魔力が溜まれば、後は何らかの切っ掛けがあればシェイドが発生するだろう。

 切っ掛けは何でも良いのだが、そうだな、シェイドならば洞窟の近くの森でネズミが狐に狩られたとかでも良い。


 同じ切っ掛けがあれば確実に発生するといった物でも無い故に偶然との言葉を使うしか無いが、発生割合は決して低くは無いぞ。

 この際、中々切っ掛けを得れずに大きな魔力が溜まって、且つ得れた切っ掛けが大きな物であったなら、変異種が生まれる。

 発生以外の特徴としては、魔力その物から生まれた魔物は、変異種はさて置いて個性が乏しいのが特徴だ。


 長く生きた個体が多少老獪になる程度はあるのだが、基本的にはその種らしい行動の枠を外れる事が無い。

 シェイドならば慎重で奇襲以外では襲って来ず、奇襲が失敗した場合は逃げようとする。

 生まれ出でた場所からは余程の理由が無ければ離れもしないな。同じシチュエーションで奴等が取る行動は大体同じだ。



 さてでは魔力で変化したタイプの魔物だが、此方の増え方はいたって普通で、狼種なら交尾して子を産んで増えるし、植物なら種やら何やらと普通の生き物とあまり変わらん。

 個性も豊かで、勇敢な者や臆病な者が居たり、強さの幅も大きい。

 親と子ですら全く違う。


 勿論種族としての傾向はあるぞ。

 狼種は群れる事を好むとかな。だが狼種の中でも単独で生きる者もおるので、本当に個性は豊かなのだ。


 例えばリリーだが、アレはまあ変異種の中でも相当な変わり種になろうけど、好奇心旺盛で動き回るのが好きだな。

 だが本来植物系の魔物はうろちょろ動く事をあまり好まん。

 栄養とする魔力を求めて大移動する事はあるが、基本的には一カ所でじっとしている種だ。



 魔力に依る魔物への変化だが、此れは今でも稀に起こる。

 長く飼った猫の尾が気付けば増えていたとかは時折聞く話だな。

 一部の魔術で用いられる使い魔等も、飼い主の魔力で低位の魔物へと変化をさせて繋がりを作ってる場合が多いらしいぞ。



 今二種類の違いを語ったが、実は此れには幾つかの例外がある。

 魔力で変化したタイプの魔物は親から子へ増えると言ったが、実は魔力その物から発生する場合もある。


 昔々、ある森の狼種の魔物が根絶された。完全に一匹残らず。

 けれども十年後にはその森で、狼種の魔物が確認され、数十年後には以前と同じ規模にまで奴等の勢力は回復した。

 他所から移り住んで来た訳では無く、森に満ちた魔力から狼種が発生したのだ。


 森の記憶に魔力が作用して生まれ出でたとの話もあるが、詳細は不明である。

 何だかんだと言っても、魔物に関しては不明な点が多い。



 もう一つ例外を語ろう。

 今回の話をする切っ掛けにもなったダンジョンがその例外である。

 ダンジョンは特殊な場所だ。あの中では魔物も、罠も、宝箱も、全てダンジョンが魔力を使って生み出す。

 理屈は知らん。鍛冶師や錬金術師といった生産職の連中からしてみれば、さぞかし業腹な存在だろうと思う。


 まあそれはさて置き、ダンジョンが魔力で生み出した魔物は、魔力その物から生まれた魔物であるにも拘らず個性がある。

 此れは親であるダンジョンの経験を一部引き継いで生まれて来るからだそうだ。

 個体に依って受け継ぐ経験に変化がある為、性格等に違いが出るのだとか。


 そもそもダンジョンでは本来ならば絶対に協力し合わない筈の種類の魔物が協力して襲って来たりするからな。

 ダンジョン探索を志すならあらゆるケースを想定すると良い。

 ちなみにダンジョンも魔物の一種だ。




3『魔物の進化』



 此処までの話で、魔物は一定の法則はあっても例外の多いあやふやな存在だというのは理解して貰えたと思う。

 そんな魔物の存在のあやふやさを象徴するとも言えるのが、変異と進化だ。

 変異も進化も、どちらもその存在を大きく成長変化させる物で、町の狼達もフォレストウルフからシャドウウルフとかになっただろう。

 あれが進化である。


 進化とはその種が成長限界に達し、何らかの切っ掛けを得た時に、種の限界を上位種に変化する事で突破する方法だ。

 その魔物の個性に依って進化先は複数あるが、……よし、わかり易いのでゴブリンを例にしよう。

 通常のゴブリンが進化すると、その個体の特技に依ってゴブリンウォーリアー、ゴブリンレンジャー、ゴブリンアサシン、ゴブリンシャーマン等に進化する。

 此のうちゴブリンウォーリアーが進化するとゴブリンリーダーやゴブリンナイトだ。他の連中はゴブリンチーフ、ゴブリンハサン、ゴブリンソーサラー等だな。

 まあ複数の進化先はあるが、ある程度方向性が決まってると理解せよ。


 稀な条件を満たす事でのみ起きるレアな進化も存在するらしいが、言い出したらキリは無いな。

 更に此の上にゴブリンウォーロードやらゴブリンマジックロードが居て、更にゴブリンジェネラル、最終的にはゴブリンキングに至る。


 他の魔物も同じで、進化して行けば将を経て王の名を冠する魔物に至るのだ。

 例えばあれだ。我が以前に訪れた魔物領の支配種は、王鱗のグランワーム。

 この様に王の名を冠した魔物は進化の極致……、かどうかはもしかすればまだ上があるかも知れんので不明だが、かなり頂点に近い位置に居ると考えれば良い。



 一方変異は進化と違い、成長限界に達せずとも起こるし、進化と一緒にも起こる。

 普通の進化以外の変化を全部変異と呼んでおるから、不明な事だらけなのだよ。

 ガルが我の名付けを受けて、フォレストウルフから黒狼人に進化したのは、レアな進化とも言えるし、進化と変異が一度に起きたとも言える。


 黒狼人は非常に珍しいが他に居ない訳では無いからな。

 だがリリーの方は、もう訳がわからん。多分他に同種はいないだろう。

 リリーの様な特殊な変異種はユニーク個体とも呼ばれるが、魔物は元より例外だらけだ。



 纏めようか。

 魔物は基本的には他者を襲う存在だが、他の手段で魔力を得れるならその限りでは無い。

 進化や変異によって強力な個体となる。バリエーションに富み、例外も多い。

 

 まあ魔物と言う存在は可能性の塊だ。我等魔族と同じくな。

 決して油断してはいけないが、巡り合わせが良ければ共に歩める事もある。

 既に魔物をパートナーとしている者は、縁に恵まれたと考えて大事にするのだぞ。



 さてダンジョン探索の許可だが、強化魔術の習得は必修だ。

 未だに上手く操れぬ者はこの後指導をするので残る様に。ん、一定レベル以上で操れる奴は自主練をせよ。

 では解散。



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