表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/57

9.パイモン


 ……その頃、生徒会室を後にした一哉とウルスラは。


「……」

 生徒会室を出て。俺は雛山と一緒に、廊下を歩いていた。別に一緒でなくてもいいのだが、出口が同じ場所にあるのだから、自然とこうなるのだ。

「ねえ」

「……ん?」

 すると、雛山が俺に話しかけてきた。こいつに話しかけられたのは初めてなんじゃないかと思いながら、続きを待つ。

「織部君……昨日のあれ、教えて?」

「あれって何だよ?」

 そして、雛山が発した唐突な問い。その内容は一発で分かったが、俺は気づかない振りをした。……ここで話してしまえば、俺が脅しに屈した意味がない。

「物干し竿一つで、バアルを倒したの」

「……んなことあったか?」

「惚けないで」

 案の定、雛山の話はそのことで。俺は咄嗟に誤魔化したのだが、それで逃げさせてくれるほど甘くはなかった。寧ろ、それで誤魔化せたらこいつの頭を疑うが。

「織部君、クラスどころか学年で最弱なのに、どうして―――バアルに勝てるの?」

「事実とはいえ、失礼じゃないか? 学年最弱とか」

「……」

 どうにか話を逸らそうとするが、雛山は揺るがない。……さて、どうしたものか? 望月辺りに判断を仰ぐか?

「あら、二人ともどうしたの?」

「……ちょうどいいところに来たな」

 噂をすれば何とやら。俺たちのところに、望月が偶然通りがかったのだ。

「よし、雛山。その理由はこいつが知ってる。知りたかったらこいつに聞け。以上だ」

「あっ……」

「え? ちょ、どういうこと……?」

 俺は全てを望月に丸投げし、この場からの逃走を図った。……この件については、望月が何とかしてくれるだろう。こいつなら、どこまで話していいのか把握しているはずだし、俺から話すよりは問題が少ないはずだ。



「……で、どういうことなの?」

 織部君が逃げて、廊下には私と望月先生だけが残された。……織部君の秘密を、昨日の戦闘について問い質そうとしたのだけれど、彼は望月先生を盾にして逃げてしまった。会長さんは、ばれると困る秘密だって言ってたけど、先生が知っているのだろうか?

「……先生」

 仕方がないので、私は駄目元で、先生に事情を話した。……会長さんから聞いた話や、昨日のこと。そして、織部君の秘密を知りたいということを。

「うーん……雛山さんは昨日の件にも関わってるし、仕方ないかな?」

 私の思いが通じたのか、望月先生はそう言ってくれた。

「とりあえず、私の部屋に来ない? ここだとあれだし」

「はい」

 けれど先生は、私をそうやって誘った。確かに廊下でする話でもないと思い、私は望月先生についていく。

「さ、入って」

 案内されたのは、望月先生の教官室。応接セットと机があるだけの簡素で狭い部屋だけど、話をするには問題ない。部屋は片付いていて、余計なものも何一つない。仕事で使うであろう書類も見当たらないので、もしかしたら見た目通り几帳面なのかもしれない。内面はとてもそうは思えないけど。

「ごめんね。お茶もお菓子も常備してないの」

「いえ」

 応接セットに向かい合って座ると、先生はそんなことを言ってきた。けど、別にお茶会をしに来たわけではないし、そんなことは気にしないのに。そんなところだけ几帳面なのか。

「それで、織部一哉君のことだよね?」

「はい」

「彼のことは学校でも機密扱いになってるの。だから、本来なら生徒には何も話せないし、話したら彼の人生にも関わる―――雛山さんに話すのは、あなたが昨日の件で当事者だったから。あくまで例外的な措置で、他言はしないでね。もししたら、あなたの命も保障できないかも」

 先生が出した条件に、私は無言で頷いた。……それにしても、命に関わるほどの秘密だなんて。よっぽどのことなのだろうか?

「それと、全部を話すことも出来ない。差し障りのない部分だけを教えることになるけど、それで満足してね? 納得できなくても、本人から聞き出したりしないで。約束できる?」

 続く条件にも頷く。……出来ることなら全部聞きたいけれど、それが不可能なのは容易に想像できる。先生は特別に譲歩してくれたのだから、まずはちゃんと聞こう。

「じゃあ、話すよ。……織部君は、能力保持者なの」

 先生が話してくれたのは、とあるワード。能力保持者……世間では、エクソシストの何人か、或いはその全てが何らかの特殊能力を持っていると噂されている。勿論、全員がというのはさすがにデマだろうけど。それでも、一部のエクソシストが特殊能力を持っているというのは有名な話だった。

「彼の能力は、特殊なタイプの方術。ただの物に、神話の武器と同じ特性を与えられる、それだけの能力」

 それだけ、と先生は言っているけど、それはそんな軽いものじゃないと思った。神話の武器ってことは、とても強力な力なのではないか? その力があれば、織部君は神話の武器を自由に使えるのではないか?

「実質的にどんな武器でも、神話クラスの方術を掛けられるわけだから、バアル相手には滅法強い。だから彼は、バアル相手ならまず負けないの」

「……じゃあ、どうして織部君は、実技訓練で能力を使わないんですか?」

 どんな武器でも神話級のものにしてしまうのなら、それを使えば、実技訓練でも上位になれたはずなのに……。どうしてそれを使わないで、学年最弱の地位に甘んじているのだろうか。

「雛山さん。方術はね、信仰なの。つまり、物質としての特性より、意味や記号のほうが重要なの。あの能力は、物に神話の武器としての記号を与える……つまり、物理特性には何一つ影響を与えないの。もっと簡単に言うと、能力を使っても、武器としての性能はそのままなの」

 けれど、私の質問に、先生はそう答えた。……つまり、能力を使わないのは、使っても効果がないから?

「これはどの方術でも同じなんだけど、武器に力を与える際には、その用途が設定されるの。例えば、バアルを倒すために方術を使ったら、それはもうバアル専用なの。人間には影響がゼロ。そういうものなの。そして織部君は、バアルに効果がある方術しか使えないの。逆に言えば、それだけは完璧だから、方術の実技は免除されてるの」

 ……そうなると、織部君が弱いのは、彼自身の実力なの? 折角の能力も人間相手には意味がないし、素で弱いから、あの成績なの?

「とりあえず、今話せるのはこのくらいかな。あ、さっき言った方術の話、テストに出るから覚えておいてね」

 先生はそう締め括って、ついでに教師らしいことを言った。……もう終わりなのか。一応、聞きたいことは大体聞けたけど。

「それで、納得できたかな?」

「……はい」

「そう、良かった。これ以上聞かれても、答えられないからね」

 正直、この話だけでは釈然としない部分もある。けれど、これ以上聞き出すのは不可能みたいだし、大人しく退くしかない。

「失礼しました」

「また遊びに来ていいからね」

 私は教官室を出て、そのまま帰宅することにした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ