葵君と幼なじみ
四時間目の授業の終わりを告げるチャイムが教室に鳴り響く。
黒板の前に立っていた教師はそのチャイムを聞くと教科書を閉じ、授業を終わらせた。
チャイムが鳴り終わったあと、生徒たちは次々に立ち上がり昼食の準備を始めた。
俺もそれを見て立ち上がり、ロッカーの中にある鞄の中から弁当を取り出した。
そして、手を洗いに教室を出ようとした。
しかし、
「田口君、」
ふいに自分の名前を呼ぶ声が聞こえて足を止めた。
葵の事件のせいで、このクラスで俺に話しかけてくれる奴はほとんどいない。クラスの連中は俺のことをホモだと思っているらしい。失礼な、俺は男に興味は無い。
つまり、そんな俺に話しかけてくる奴がいるとは。一体どんな奴だ、と思い声がした方に振り返った。
振り返った先にいたのは同じクラスだと思われる女子生徒だった。
なぜ「思われる」とあいまいなのかと言うと、ここ何週間ろくにクラスメイトと接することができなかったから、名前を全然覚えていないから目の前にいる女子生徒が誰なのかわからなかったからだ。
女子生徒はそんな俺を見て不機嫌そうに目を細めた。
「これ、」
そして俺の目の前まで近づくと、手に持っていた数枚の紙が重なった束を俺に渡してきた。
「えっ、ええとこれは・・・?」
予想外のものを渡されて戸惑う。
そんな俺の様子に女子生徒は呆れたような顔をした。
「この学園の体育祭の資料。田口君は転入生だからこの学園の体育祭のことを知らないだろう、って先生が」
どうやら体育祭の資料を渡しに来てくれたらしい。
「おお、あっありがとう」
思わずお礼を言ってしまった。
そんな俺に女子生徒はまた呆れた顔をして「そう言うのは先生に言って」と自分の席に戻ってしまった。
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「―でね、このときミナちゃんとゆかちゃんがねー」
そして、俺は放課後たまたま葵と帰れることになって、談笑しながらかえっていた。
ちなみに、ミナちゃんとゆかちゃんというのは部活の友達らしい。
あの事件のあと葵も部活の人間から迫害を受けたようで、とくに「ミナちゃん」と言う人物とは一週間ぐらいくちを聞いてもらえなく、ゴミを見るような目で見られたらしい。葵も葵で苦労していた。
「あーー!!」
突然、葵が大きな声を出した。
どうしたのかと葵を見ると、葵はある所を指さしていた。その先には女子生徒と思われる人物の後ろ姿。
「みっミナちゃーーん!」
葵はその人物のもとに駆け出した。
慌てて俺も後を追う。
その人物は本を読みながら歩いていた。
「ミナちゃん、今帰り?」
「・・・・・・」
駆け寄ってきた葵の存在にも気づかず真剣に本を読んでいる。
「ミナちゃーん」
「・・・・」
「おおい、ミナちゃーん」
「・・・・」
「ミナちゃんミナちゃんミナちゃんミナちゃんミナちゃんミナちゃんミナちゃんミナちゃんミナちゃんミナちゃんミナちゃんミナちゃん」
「五月蠅い」
「ぐはっ!」
葵のわき腹に強烈な一撃が来た。
―――――――
女子生徒は不機嫌そうに葵を睨む。
「・・で、何か御用ですか?水川さん(・・・・)。」
「やっやだなミナちゃん、いつも通り『葵』って呼んでよ。親友だろ?」
葵はそんな女子生徒の前で、なぜか正座をして会話をしていた。
「・・私の友人にホモはいません。」
「だっだから、それはただの噂だってばっ!」
そんな葵をまるで道端の小石を見てる様な感情の無い目で見つめる女子生徒。
「ええと、誰?」
そんな二人の様子におれは全くついていけなかった。
「紹介するね。僕の同じ部活の部員兼幼なじみで親友の『海森 港』。ミナちゃんだよ。」
「・・・・」
ミナちゃん、コメント無し。
どうやら部活の話で出て来たのはこの女子生徒だったようだ。
「ええと、はじめまして」
とりあえず、あいさつをする。
すると女子生徒がこちらを見た。
見覚えのある顔に一瞬固まる。
「知ってる、同じクラスの田口君だよね。」
その女子生徒は昼に俺に体育祭の資料を渡してきた人物だった。