家庭教師
「「起立、礼。さようならー」」
ホームルームが終わり今日も退屈な学校が終わった。
特に部活もないので俺はさっさと荷物をまとめて帰ろうとした。
「おーい、綾人」
カバンを背負い玄関の前まで来た時よく知った声に呼びとめられた。
声のした方に振り返ってみるとそこには背が高く大体俺より高い175センチくらいで結構がたいがいいメガネをかけた男が立っていた。
「なんだよ匠?」
「一緒に図書室で勉強していかねぇか?俺この前の中間テスト相当やばかったし」
「それは嫌みか?お前がこの前の中間テストの点数悪いって言うのなら俺は相当ヤバいぞ」
「あっはっは!そんな訳ないじゃないか。それにお前は赤点ひとつも取ってなかったじゃないか」
確かに匠の言う通り赤点はギリギリ取ってなかったけど。本当に「ギリギリ」だった。
テストのほとんどが平均点以下だ。しかも、学年順位は下から数えた方が圧倒的に早いという始末…。
「で、一緒に勉強やってくか?」
「遠慮しとくよ。お前と勉強なんかやったら余計に頭がおかしくなりそうだ。俺は一人でやるよ」
「そうか。んじゃ俺はそろそろ行くぜ。それじゃあまた明日な」
そう言うと匠は図書館の方へとむかっていった。本当に勉強熱心な奴だ。見ててこっちが疲れる…。
まぁ文武両道のあいつが羨ましいと思った事は何回もあるけど
「俺も帰るか」
俺は自転車に乗って学校から15分の家へとさっさと帰宅するのだった。
「ただいまー」
「あら、おかえりなさい」
家へ帰ると丁度母さんもスーパーから帰って来たところなのかスーパーの袋を持ってリビングへと入ろうとしていた。
「丁度よかった。綾人に話したい事があったのよ」
「ん、何?」
「アンタ明日から家庭教師やりなさい」
「は?」
母さんの言っている意味がわからなかった。
「あなたは何を言っているんですか?」
「だから明日から家庭教師をやりなさいと言ってるの?」
「それって教えられる側?」
「当然、教える側に決まってるじゃない」
何故この人は当たり前のような感じで喋っているのだろうか…。
「なに言ってるんだよ!なんで俺が急に家庭教師やらなくちゃいけないんだよ!?」
「近所の人と話しててアンタが「椿原高校」通ってるって事話したらどうしても家庭教師やってほしいって話しになっちゃってね」
「なっちゃってじゃないよ!わかってると思うけど俺成績そこまでいいほうじゃないし、むしろ悪い方だし!」
「椿原高校」は俺が住んでいる地方ではそこそこできる進学校だ。なぜ現在成績の悪い俺が椿原学校に通えているかと言うと俺が中学2年の時から家に来てくれていた家庭教師のおかげだからである。
その家庭教師は頭が良くて凄く頼りになる先生だった。…少し変なところもあったけど。
まぁなんにせよ家庭教師のおかげでなんとか椿原高校に合格できて入学することができたのだが今では椿原高校の落ちこぼれといっても過言ではない有様である。
「アンタの成績の悪いことは知ってるに決まってるじゃない。でも大丈夫。教える子は中学1年生の子だから」
「中学生の子って言ってもそこまで歳が離れてるわけないじゃないか…」
「大丈夫でしょ?アンタだってつい最近まで家庭教師に見てもらってたわけだし慣れてるでしょ?」
中学1年のレベルならまだなんとかなるかもしれない。家庭教師に来てもらってた時は俺の少ない脳に勉強を詰め込まれたし。
「それにアンタ原付の免許ほしいとか言ってたでしょ?7月には16歳だし。免許取って原付買うにはお金かかるでしょ?お金貯めるには絶好の機会だと思うけどな」
「うぅ…」
確かに母さんにこの前言ったばかりの事だ。ここを突かれるともう何も言い返す事ができない…。
「わかったよ。やればいいんだろ」
「わぉ!さすが私の息子!聞きわけいいじゃない!」
ただ単にこの人に丸め込まれたわけなんだが。
「じゃあ明日の夕方の5時から頼むわね」
そう言うと母さんはスーパーの袋を持ってリビングへと入って行った。
なんだか明日から疲れそうだ。
教えるには勉強もしないといけないし…。
それよりも教える子はどんな子なんだろう?
そんな心配を抱きながらも俺は自分の部屋へと戻るのだった。
そして次の日
「ここか」
俺は今日から家庭教師として教える子の家へとやって来ていた。家の前の表札には「柳瀬」と書かれている。
母さんが言っていたように近所で徒歩でたった2分ほどで来れる距離だった。
初めての家庭教師ということもありかなり緊張していたが一旦大きく深呼吸をしてからインターホンを鳴らした。
インターホンを鳴らすと家の中からドタドタと歩いてくる音が聞こえてきてドアが開いた。
ドアから出てきたのは大体俺の母さんと同じくらいの年齢の女性だ。
「あの、初めまして。今日から家庭教師としてお世話になる鳴海綾人です」
俺はまずぎこちないながらも自分の名前を言う事ができた。
「あ!鳴海さんの息子さんね!初めまして、あなたのお母さんとはお友達なのよ。それと今日から家の子をよろしくね」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
近所さんとは聞いていたが母さんと友達だったとは。結構喋る柳瀬さんとそこそこ喋ってやっと家の中へと入った。
階段を上り柳瀬さんがひとつの部屋の前で止まった。
「里枝ー。先生来てくれたわよ」
「はーい」
部屋に向けて柳瀬さんが声をかけると中から女の子の声がかえってきた。
母さんに教え子の性別は聞くのを忘れてたけどまさか女の子だとは…。てっきり男の子とばかり思っていた。
返事を聞くと柳瀬さんが部屋のドアを開けて中へ入って行った。俺もそれについて部屋の中に入るとそこには小柄な体に肩にかかる程度の髪をしまだ幼さが残る顔をした少女が椅子に座っていた。
「先生、この子が家のバカ娘です。ほら自己紹介しなさい」
「も~バカ娘ってなによ…。初めまして、柳瀬里枝です。よろしくお願いします」
少女は母親にむくれながらも自己紹介をしてくれた。
「これはどうも、鳴海綾人です。こちらこそよろしくね」
俺もこの家に来て2回目の挨拶をした。相変わらずぎこちない挨拶だけど。
「挨拶も済んだ事だし。先生この子の事よろしくね。ビシバシとやってくれた方がこの子のためだし。本当に馬鹿な子だから」
「もー!お母さん!」
「はいはい。それじゃあ先生よろしくお願いしますね。終わり次第また来ますので」
柳瀬さんはそそくさと部屋から出て行った。
「全く~お母さんは…。先生、気軽にわかる程度で適当に教えてくれるだけでいいですから」
「あはは…」
気軽にわかる程度で適当にか…。結構な注文だな。
「まぁとにかくマイペースで行こうよ。俺もそこまで簡単に教える知識あるわけじゃないし」
「そうですね~。そういえば先生って椿原高校行ってるんですよね?頭いいんですね」
「あはは、全然だよ。高校ではほとんどが平均点以下だし、落ちこぼれてるよ」
「だったら私と一緒ですね。私もテストのほとんど平均点以下なんですよ!」
そう言うと彼女はひきだしから紙切れを数枚取り出してきた。
彼女は俺にその紙切れを渡してくれた。どうやら5月の中間テストみたいだ。
49点、53点、51点…。なんだか中学の家庭教師に教わる前の自分を見ているみたいだった。
「アハハ、この点数笑っちゃいますよね」
「まぁ最初はこんなもんだよ。それに中学入って初めてのテストでしょ?これからやっていけば巻き返せるはずだよ」
「本当ですか?それじゃあ私先生を信じさせてもらいますね♪」
ちょっと強めに出てしまったかな?無駄に信じられたら教える側としてプレッシャーを感じてしまう。
「まぁ高校では落ちこぼれな俺だけど中1くらいの勉強なら教えられるはずだから一緒にがんばろう!」
「はい。よろしくお願いしますね」
こうして一通り会話をした後に早速勉強を開始することにした。
彼女は俺と同じく数学がかなり苦手なようでまず始めに数学をすることした。
「ここはこの公式を利用してだね…」
「ふむふむ」
中学1年の問題で簡単と思っていたけど久しぶりと言う事もあり意外と苦戦したがなんとかひとつずつ教えていった。
彼女の方も飽きずに静かに俺の教えていることを聞いてくれ問題を解いていってくれた。
こんな感じで1時間ほど数学をやっていった。
そしてさすがにずっと続けて数学をやるのも疲れるのでいったん休憩を取ることにした。
「先生教え方上手ですね!見直しましたよ!」
「あはは、ありがとう」
どこを見直されたのかわからないんだけど…。
「え~っと、そういえば里枝ちゃん?」
「はい、なんですか?」
彼女の名前を呼ぶ時なんて呼ぼうか迷ったが普通に里枝ちゃんと言って特に何も言ってこなかったのでこれでよかったのだろう。
「里枝ちゃんは数学の他に苦手な教科はあるのかな?」
「そうですね~。英語も苦手ですし理科も苦手です」
見事に俺と苦手な教科がかぶってる。これは教えるのも一苦労しそうだな…。
「じゃあ逆に得意な教科は何かな?」
「国語ですかね?後は家庭科とか!」
国語か。家庭科のテストはなかったからわからないけど確かに国語のテストは他のテストに比べるとよくできているな。
「他の」教科と比べるとだけど。
「そうか。今さっき問題やってもらっている間に国語のテスト見させてもらったけど教科書からの問題や文法の問題は結構できてるけど漢字があまりできてないね」
テスト用紙には結構漢字の問題が出ているのに里枝ちゃんはたった数個ほどしか漢字ができてなかった。ここのところは俺とは間逆で俺は国語の場合はいつも漢字や四字熟語で点数を稼いでいて文法とかは苦手でいた。
「漢字って苦手なんですよね~。なかなか覚えられなくって」
「そっか。でもやっぱり漢字はやっといた方がいいかもしれないね。里枝ちゃんの担任の先生がこのテスト作ってるんだろ?このテスト見たらわかるけどその先生はたぶんテスト作るとき漢字の問題結構出してくるから」
基本テストを作る先生によってテストへの問題の出し方が変わる。里枝ちゃんの先生の場合は漢字を主に出してくるだろう。
「なるほど。そんなこと考えていませんでした…。よぉし!先生残りの時間は漢字をやりましょう!」
「そうだな、時間も残り少ないし漢字をやるか」
残り30分程度。最初に挨拶やら雑談をしたから結構時間も押していた。
まぁ漢字ならなんとか楽に教えられるからこっちとしては助かる。
この後里枝ちゃんと漢字を少しだけ進めていった。里枝ちゃんはかなりよみの方を間違えていたけど。
「お疲れ様。綾人君」
漢字をなんとか終わらせて時間が来たので里枝ちゃんのお母さんに部屋に来てもらった。
里枝ちゃんのお母さんは里枝ちゃんの晩御飯、それに俺の分まで持ってきてくれた。
「すいません。晩御飯頂いちゃって」
「ううん!全然いいのよ。この子の勉強見てもらってるんだから。あ、いいこと思いついちゃったわ!」
里枝ちゃんのお母さんは何か思いついたようでいきいきした表情をしていた。
「綾人君これから月、水、金の家庭教師の日はここで晩御飯を食べていっちゃいなさい!」
「は!?」
「さすがお母さん。なんという無理やりな考え…」
「いや、でもそれは…」
さすがにバイト代までもらっているのに晩御飯まで頂くのは悪い。
「よし、決定ね!じゃんじゃん食べたいものあったら言ってね綾人君!」
「あ、あのぅ俺の意見は?」
「先生諦めた方がいいですよ。こうなったらお母さん聞かないから」
確かに里枝ちゃんが言ってるように里枝ちゃんのお母さんは一人で舞い上がっている。
「いやぁ、私も息子ほしかったのよねぇ。でも、お父さんったら恥ずかしがっちゃって…」
なんだか凄いテンションが上がっている。
隣に居る里枝ちゃんはやれやれといった感じだ。
「なんにしても次もよろしくお願いしますね、先生♪」
「ああ、こちらこそ」
こうして家庭教師初日は終わった。
家に帰ると母さんに色々と聞かれたが疲れているので明日話すと言って風呂に入ることにした。
「疲れた…」
まさかあそこまで中1の数学に苦戦するとは。というか俺が中1の頃の数学ってあそこまで難しかったっけ?
確か里枝ちゃんが通っている中学校って「桐谷女子中学校」だったかな?名前の通り女子中学校だ。
結構レベル高いところなのかな?少なくとも俺が通っていた「鈴白中学」よりはレベル高いだろうな。
これは、家庭教師を引き受けた以上必ずやり遂げないといけないな。
わざわざ晩御飯まで作ってくれる里枝ちゃんのお母さんにも悪いし…。
よし、風呂から出たら少し中学の問題集出してやってみるか。
俺は嫌いな勉強に対して珍しく気合いを入れるのだった。
一方その頃柳瀬家では。
「ねぇ、綾人君どうだった?」
「ん~、ちゃんと教えてくれたよ」
「そうじゃなくって、見た目に決まってるじゃない」
「お母さん、いくら息子みたいな人が来てくれるようになったからってちょっとテンション上がりすぎてない?」
「そんなことないわよ!それで、どうなの?」
「そうだな~…」
初めて来てくれた高校生家庭教師の鳴海綾人さん。
見た目は全然悪くなく、むしろいい方だ。
「ん~かっこいいっていうか可愛い系だったよね?」
「あ、お母さんもそう思ったわ!」
最初家庭教師来る前は教師って言うから厳しい人だと想像していたけど全然優しそうな人だったし、正直安心した。
ちゃんと勉強の方もわかりやすく教えてくれるし性格もよさそうだし…
「少しだけこれから楽しみかな♪」
「そうねー。でも、ちゃんと勉強の方しなさいよ!バカ娘のままだと綾人君にも恥ずかしいからね」
「だからお母さんバカ娘っていいすぎだよー」
こうして家庭教師1日目は幕をとじていった。




