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第13話 灰域

 灰域へ降りる時、

兵士達は皆、

一度だけ空を見る。


 意味はない。


 ただ。


 次に空を見られる保証がないからだった。


 神代朔真は、

灰色の空を落下していた。


 ムラクモの姿勢制御フィンが展開し、

高熱気流を裂いていく。


 下方。


 東京湾沿岸灰域。


 巨大工場群。


 崩れた高層道路。


 赤熱配管。


 煙突。


 炎。


 世界そのものが腐っているみたいだった。


《降下高度800》


 視界ノイズ。


 通信乱れ。


 センサ精度低下。


 灰域特有の電磁異常。


 遠距離支援は期待できない。


 だからシェル部隊は、

直接降りる。


 目で見て。

 近づいて。

 殺す。


 未来の戦争なのに、

やっていることは原始的だった。


《着地まで五秒》


 朔真は姿勢を調整する。


 周囲には小隊員達。


 第三世代標準シェル。


 重装甲。

 無骨。

 現場仕様。


 ムラクモだけが異質だった。


《三》


《二》


《一》


 着地。


 衝撃。


 アスファルトが砕ける。


 熱風。


 灰が舞う。


 シェル兵達が次々と着地していく。


《各機状態確認》


「一番機、正常」


「二番機、正常」


「四番機、正常」


 朔真も周囲を確認した。


 旧東京湾第三工業地帯。


 視界最悪。


 粉塵濃度高。


 大気温度四十七度。


 赤外線視界は熱源飽和でほぼ死んでいる。


 工場配管から蒸気が噴き、

道路には化学汚泥が溜まっていた。


 そして。


 静かすぎた。


「……嫌な感じだな」


 小隊長が呟く。


 朔真も同感だった。


 灰域は普通、

もっと音がある。


 蒸気。

 金属鳴動。

 崩落音。


 なのに今日は妙に静かだ。


 まるで。


 何かが潜んでいるみたいに。


《前進》


 シェル小隊が工場区画へ侵入する。


 重い足音。


 だが動きは人間に近い。


 曲がり角へ滑り込み、

低姿勢で遮蔽物を取る。


 工場内部は狭い。


「熱源確認」


 三番機が止まる。


 コンテナ裏。


 動き。


「レジスタンスだ」


 瞬間。


《交戦開始》


 レジスタンス側シェルが飛び出す。


 第二世代。


 無骨。


 工業用外骨格の延長みたいなシルエット。


 厚い。

 遅い。


 だが近距離火力は危険だ。


 ショットガン発砲。


 至近距離。


 二番機が肩装甲を吹き飛ばされる。


「接近するな!」


 小隊長が叫ぶ。


 第三世代が横滑りみたいに移動。


 遮蔽物利用。


 発砲。


 12.7mm短機関銃。


 コンテナが蜂の巣になる。


 レジスタンス兵が吹き飛ぶ。


 だが。


 別方向から第二世代機が突っ込んできた。


 重い。


 パイルバンカー装備。


「右!」


 朔真が反応する。


 遅い。


 でも重い。


 第二世代機が二番機へ突進。


 肩からぶつかる。


 金属衝突音。


 二番機が壁へ叩きつけられる。


 その瞬間。


 パイル射出。


 炸裂音。


 鋼鉄杭が胸部装甲へ突き刺さる。


「がァァッ!!」


 二番機の胸部が陥没。


 人工筋肉断裂。


 血が噴く。


朔真は走った。


 ムラクモが軽い。


 床を蹴る。


 第二世代機へ接近。


 敵が振り向く。


 遅い。


 朔真は滑り込むように懐へ入った。


 対装甲ナイフ。


 関節へ突き刺す。


 膝裏。


 人工筋肉束切断。


 第二世代機が崩れる。


 その瞬間。


 朔真は敵腕を掴み、

無理やりパイル方向を逸らした。


 発射。


 轟音。


 杭が天井を貫く。


 もし直撃していたら、

ムラクモでも終わっていた。


 朔真は敵頭部へ肘打ち。


 センサ破壊。


 火花。


 視界を失った敵が暴れる。


 朔真はさらに踏み込む。


 装甲隙間。


 首元。


 ナイフを突き刺す。


 沈黙。


 敵機停止。


「Case-07、撃破確認!」


 小隊が押し始める。


 第三世代は速い。


 近距離で回り込み、

関節を狙う。


 センサを潰す。


 パイルを叩き込む。


 灰域戦闘は、

泥臭い近接殺傷だった。


 戦闘は優勢だった。


 レジスタンス側は数が少ない。


「制圧完了」


「残敵掃討へ移行」


 小隊が奥へ進む。


 工場深部。


 蒸気。


 熱。


 粉塵。


戦闘開始から七分。


 レジスタンス側は既に押され始めていた。


 第三世代シェルは強い。


 人体追従性。

 姿勢制御。

 反応速度。


 第二世代相手なら、

近距離戦でも優位を取れる。


 工場区画内部。


 蒸気と粉塵で視界は悪い。


 だが小隊は慣れていた。


「右クリア!」


「二階通路制圧!」


 短機関銃の発砲音。


 火花。


 第二世代機の膝関節へ12.7mm弾が叩き込まれる。


 人工筋肉断裂。


 敵機が崩れる。


 そこへ二番機が突進。


 肩からぶつかる。


 金属衝突音。


 そのまま胸部へパイルを押し付けた。


 炸裂。


 鋼鉄杭が装甲を貫通。


 内部血飛沫がセンサへ飛び散る。


「撃破!」


 小隊長が周囲確認。


「残敵掃討へ移――」


 その瞬間だった。


 ノイズ。


 視界が一瞬乱れる。


《WARNING》


 四番機の熱源表示が消えた。


「……は?」


 直後。


 四番機が崩れた。


 頭部センサが半分消えている。


 火花。


 油圧漏れ。


「何だ!?」


 誰も見ていない。


 どこからやられた?


「熱源確認できません!」


 オペレータが叫ぶ。


「センサ反応なし!」


 四番機が起き上がろうとする。


 その瞬間。


 また火花。


 今度は膝裏。


 人工筋肉束が切断される。


「ッぐぁ!?」


 シェルが転倒。


 誰かいる。


 でも見えない。


「散開!!」


 小隊長が怒鳴る。


 全員が遮蔽物へ散る。


 朔真は周囲を見回した。


 蒸気。


 熱。


 粉塵。


 視界が悪い。


 赤外線も死んでいる。


 熱源飽和。


 配管全部が熱い。


 その中で。


 何かだけが異様に静かだった。


 次の瞬間。


 二番機の肩部センサが爆ぜた。


「左上!」


 発砲。


 だが遅い。


 影が消える。


 違う。


 “落ちた”。


 配管から。


 低姿勢。


 四足獣みたいに。


 床を滑る。


「速――」


 最後まで言えなかった。


 影が二番機の脚へ潜り込む。


 赤い刃。


 関節切断。


 人工筋肉が千切れる。


 二番機転倒。


 そこへ。


 首元。


 センサ隙間。


 脇差が突き刺さる。


 火花。


 システムダウン。


 全部、

一秒もかかっていない。


「何なんだよアレ!!」


 三番機が叫びながら発砲。


 ショットガン。


 散弾が蒸気を裂く。


 当たらない。


 影が低すぎる。


 小さい。


 シェルより遥かに細い。


 だから死角へ潜る。


 関節へ来る。


 確実に弱点だけを狙ってくる。


 そして。


 熱源に映らない。


「生身……!?」


 誰かが呟く。


 あり得ない。


 この環境で。


 この速度で。


 生身?


 その瞬間。


 三番機の背後。


 配管上。


 影。


 朔真だけが見えた。


「後ろ!!」


 三番機が振り向く。


 遅い。


 影が落ちる。


 赤い刃。


 頭部センサ斬断。


 火花。


 視界喪失。


 三番機が乱射。


 弾丸が工場内部を滅茶苦茶に砕く。


 蒸気管破裂。


 白煙噴出。


 視界ゼロ。


「クソッ!!」


 小隊が完全に混乱する。


 見えない。


 位置が掴めない。


 シェル戦じゃない。


 狩られている。


 朔真は呼吸を止めた。


 ムラクモの神経接続が加速する。


 音。


 振動。


 熱流。


 空気。


 全部を読む。


 どこだ。


 どこにいる。


 その瞬間。


 左。


 ほんの僅かな空気の揺れ。


 朔真は反射的に振り向いた。


 いた。


 蒸気の中。


 白い顔。


 長い黒髪。


 赤い刃。


 低い姿勢。


 人間じゃない動き。


 だが。


 目だけが妙に静かだった。


 その瞬間。


 胸が痛む。


 理由が分からない。


 なのに。


 息が苦しい。


 影が動く。


 速い。


 視界から消える。


 朔真は咄嗟に腕を上げた。


 火花。


 激痛。


 ムラクモの前腕装甲へ赤い刃が突き刺さる。


 深い。


 あと数センチで関節切断だった。


「ッ……!」


 影が近い。


 目の前。


 白い肌。


 死んだみたいな目。


 なのに。


 一瞬だけ。


 その目が揺れた。


 朔真を見て。


 何かを迷ったみたいに。


 次の瞬間。


 蒸気爆発。


 視界が白に染まる。


「熱源消失!!」


 オペレータが叫ぶ。


「見失いました!!」


 静寂。


 蒸気だけが流れる。


 倒れたシェル。


 火花。


 破壊されたセンサ。


 切断された関節。


 小隊はたった数秒で壊滅しかけていた。


 そして通信ノイズの中、

後方司令部が震える声で言った。


『未確認敵性存在確認』


『仮称――《彼岸花》』

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