あらがうもの(4)
あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします!
夜、眠りについたアナスタシアは夢をみる。
そこは時折優しい光がさす場所
全身を水に包まれているような感覚なのに息苦しく感じることもない
手足を伸ばすとある一定の場所からは反発するような感覚があって閉じ込められているかのようだった
でも妙に懐かしさを覚える空間に恐れはなく
ただただアナスタシは身を任せていた
(暖かい・・・これは夢・・・よね?)
夢の中で夢を見ているかのようなまどろみのなか、突如周囲の水が動き出し形を作り始めた。
水が作り出した形は鹿のようなツノ、馬のような顔そして体はヘビに腕がついたような生き物だった。
(どこかで見たような・・・あれは・・・)
『青龍』
思わずもれた言葉に反応したかの様に龍の水で造られた透明の身体は、色を濃くし濃紺の鱗に覆われた実体を持ち始める。
(まるで宝石の様だわ。)
時たま照らされる光に反射する鱗はまるでターコイズの様に煌めいている。
『えっ、きゃっ!』
そして龍はアナスタシアの体を絞めるかのように長い胴体を巻き付かせ、突如指向性を持って移動し始めた。それはとても抗えるような物では無く、しっかりと抱え込まれたままアナスタシアは何が起こったのか理解しないまま青龍と共に流され、明るい光へと溶け込んだ。
「はあっ、はぁっ、はぁ・・・」
アナスタシアは息苦しさに思わず目を覚まし、ベッドから上半身を起き上がらせて肩で息をした。
「お嬢様っっ。早くお医者様を。」
「タ、ターニャ大丈夫よ。ちょっとびっくりしただけよ。それよりもう朝?」
「お嬢様っ、もうっ、お嬢様はまる3日眠ってらっしゃったんです。その様に呑気な事をおっしゃってる場合ではございません。」
そして程なくして医者がセバスチアンに引きづられる様にして現れ、アナスタシアを診察したが体に悪いところは無く、それどころかここ数日悪かった血色が艶やかな肌色へと良くなっていた。
アナスタシアもいつもよりも体が軽いだけでなく気分も清々しく、まるで生まれ変わったかの様に感じていた。そして、いままで感じたことのないくらいの空腹に襲われていた。
「はぁ〜〜〜。」
「お嬢様っ。」
「ごめんなさい。でも、本当に辛いくらいお腹がすいていたのよ。」
トントントントン
アナスタシアは、軽い食事を終えて淑女らしからぬ満足なため息を出したことで、ターニャに窘められていた。そして、部屋へ近づく慌ただしい足音と忙しないノックに、ターニャは扉を開けて応対する。その日頃は無表情な顔に表情が軽くあらわれた。
「先日ぶりでございます。どうぞこちらへ。」
扉から姿を現したのは、アナスタシアにとっては先程会ったばかりのユージンだった。
「アナスタシア、体は大丈夫か?」
「ありがとうございます。大丈夫ですわ。」
「よかった。目を覚さないと連絡があってから気が気ではなくて心配していた。」
そう言ってユージンは、そこにちゃんと存在していることを確かめる様にアナスタシアの手をしっかりと両手で握りこむ。
「痛っ」
アナスタシアは指に痛みを覚えて手をひっこめた。その姿にユージンは慌てて手を離した。
「大丈夫か?悪い、思わず力が入ってしまった。
「いえ、指の模様に痛みが・・・えっ?」
指にあった模様が変化していた。いままでは波の様な形をしていたのに、今は青龍の形を取っていた。しかも腕に指が3本という細かいところまで分かる繊細ぶりである。
「これは・・・」
「青龍かしら。」
「そのようにみえるな、巫女に知らせておこう。だが、今は少しその・・・えっと・・・抱きしめていいだろうか。」
そう言って、顔を赤らめながらアナスタシアを見つめた。アナスタシアも思わず赤くなってしまったが、うなずいて了承した。
ユージンは恐る恐る、アナスタシがここに無事いる事を確かめるかのようにしっかりと抱きしめる。そして深く息を吐いた。アナスタシアは首元に息がかかり、恥ずかしいけど何とも言えない感覚に体を震わせた。
「すまない。深く心労を負わせてしまったかと・・・無事で良かった。」
耳にかかる低い声と振動に、アナスタシアは心地よい恥ずかしさに身悶えして顔をますます赤くした。
「その、あの、青龍と一緒に生まれた気がしますの。」
思わず取り止めのない事を言ってしまったが、ユージンは気になったのか体を離してアナスタシアを見た。
「青龍と会ったのか?」
「ええ、寝ていた間に夢で会いましたの。そこで一緒に明るい光へ飛び込んだところで起きたのですが、まるで赤ちゃんがうまれる時の話のようだったと思い出しまして。」
「そうなのか・・・。なごり惜しいがのんびりしている場合では無いようだ。俺一人で巫女に会ってくる。急げば数日で帰ってこれるはずだ。ゆっくり休んで体を治してくれ。」
ユージンは席を立とうとして逡巡し、不意にアナスタシアに体をかたむけ額に軽くキスを落とす。そして、足早に部屋を出て行った。
「不意すぎますわっ。」
「えぇ、油断もすきもない。」
アナスタシアは、額を抑えてユージンの唇の柔らかさを思い出し、また顔を赤くするのだった。
そんなアナスタシアをみてターニャはユージンが出ていった扉を一瞥した。
龍の指を2本から3本に変更しました。




