あらがうもの
更新がおそくなりました。再び学園生活と戻ります。
「参りましたわ。ここ何処かしら?」
アナスタシアは学園の裏手にある研究棟の自称庭で迷子になっていた。
なぜそんな事になっているのかと言うと、白虎に入ってから始まった選択教科で選んだ授業を受けるために説明された通りに来てみたアナスタシアだが、だどりついた先は庭というかそこは森で道が雑草に浸食されており、とりあえず進んでしまったが為に今の状態になっているのだった。
「はぁ・・・。やっぱりモエについて来て貰えばよかったわ。」
先ほどの事を思い出していた。
「アナスタシアは何を選ばれましたの?」
「自然科学を。」
「また、マイナーな授業を・・・。大変むずかしい先生だから途中で脱落者が多すぎて、変態の巣窟とまで言われてますのよ。今からでも心変わりなさって!精霊歴史学とかありますわよ。」
選択教科を決めたのは学園に留学してすぐだったこともあってモエはアナスタシアが何を選んでいたか知らなかった。まさか悪評が立ちすぎて選ぶ人が少ない授業を選んでいたと思わなかったので、今すぐ別のものに変えようと今なら間に合うと腕をとって職員室へ向かおうとさえした。
アナスタシアはモエの手をそっと押さえて、
「心配してくれるのね、ありがとう。でも、マノフでも似たような勉強をしていたのよ。始めは反強制的だったけど、各地の植生を調べて気候と取れる作物の分布を調べたりとか、大変興味深いのよ。」
「それって、王妃様教育だったとかではなくて?」
その言葉にアナスタシアはとても綺麗な笑顔を口元だけで浮かべた。
「(その笑顔は怖いですわ。)・・・えっと、場所はわかるかしら?一緒に行きますわよ。」
「モエは音楽でしたわね・・・場所もほぼ正反対でしょ悪いわ。説明もうけて見取り図もあるから大丈夫だと思いますの。」
そう言って別れて向かったのだが、まさか見取り図にある目的地が森全体を表すとは思わなかったのである。
ガサッ、ガサッ
「こんなところでお嬢様が何をしている?」
後ろの左手側から草をかき分ける音と非難めいた声が聞こえて、アナスタシアは振り返った。そこには、バンダナを巻いた頭にわら帽子を被った作業服を着た若い男がいた。分厚い眼鏡をかけているので、表情は読めないが声の調子で不機嫌なのはわかった。
「自然科学の教室を探しておりましたの。失礼ですが?」
「まずはお嬢さんの方からだと思うが、そういや今日からだったか・・・君がアナスタシアか。もうわかっただろう引き返して教科を変えてもらえ。」
「いえ全く分かりませんが。自然科学の授業を受けている生徒でいらっしゃるのね。よろしくお願いしますわ。」
「話の通じない。言っておくが俺は生徒ではない、忙しいから失礼する。」
そう言って男は、バケツを両手に持ってアナスタシアを追い越して進む。その背中を追うようにアナスタシアは男を追いかけた。
「その薬草はヨモエラの亜種ですの?」
「ヨモエラの亜種かだと?・・・何も分からず選んだ訳ではないようだな。これはマノフ王国から取り寄せた種を植えた物だ。どのように違うか説明しろ。」
「本当ですか?マノフ王国の種でここまで違うとは思えないのですが、手にとっても?」
「ふんっ信じなくてもいい。もちろん手にも取っていいぞ。」
アナスタシアはヨモエラを手に取って葉を触って裏返ししたりしている。
「葉の形が一緒ですが、枚数がマノフですと4枚で一株ですが、こちらは5枚ですわね。それに、葉の裏の特徴的な赤色がやや明るいような気がします。マノフのはもっとブドウ酒の様に赤黒いですわ。」
「なるほど、赤はやはり朱雀に寄ったか・・・、それにしても枚数が増えたのは効用が上がっていることを目視でわかるためか・・・」
アナスタシアの説明をうけて男は考えこみながら再び歩き始める。
「えっちょっと・・・」
呼びかけたが思考の海に入り込んでしまったのか男は気にもせず進んでいく。アナスタシアは慌てて男を追いかけた。
数分歩くと森がひらけて目の前にガラス張りの温室が現れて、男はそちらへと入っていく。
「先生、先生、ストップ!それ持ってこちらの部屋に入らないで下さいよ。ったくもう。で、貴女は誰ですか?」
「自己紹介の前に、こちらは自然科学の教室であっていますかしら?」
「そうだけど。・・・ぁあ!そういや今日から新入生が入ってくるのか。俺が来て初めてだから忘れてた。俺は3年のシズ=サナダ。この授業をとっているのは君と俺だけだから、いや〜華があって嬉しいなぁ。出来るだけ長く居てくれると嬉しいよ。じゃ俺は先生を放っておけないから、適当にその辺に座って待ってて。」
そう言ってシズは、先生を追いかけて別の扉へと向かった。
(あの方が、自然科学の担当のハシュ=アサイなのね。もっと年配の方と思っていたのに若いわ。それに・・・既視感があるのよね。)
アナスタシアは色々と考えながら、室内を見渡す。外から入る扉と同じくらい大きな扉の先は広い温室へと繋がっているようで、その他の部屋は木で作られているのか温室と違って外からは見えない様になっている。いま居る場所は、生徒が何人かいたら授業をする部屋だったのだろう、黒板と机があるが、いまは本や色々な道具が雑然と並べられているだけである。
(あれは・・・)
部屋の隅にあるガラスで出来た器具の中には、以前見たサクラの花が入っている。そこから出ている管がだどりついた先にはガラス瓶がついていて汁が少しずつ溜まっている。
「気になる?それはこのクラスの収入源だから触らないでね。これになるんだ。」
「これは、私も持ってますわ。」
その瓶の意匠は見たことがあった。それはユージンから貰ったサクラの香りがする香水の瓶と同じ物だった。
「ご愛用ありがとう。これからは作る方もよろしく!これで稼がないと先生は未境なく種とか土とか買ったり遠征に出るから、ほんと俺が居なかったたらどうするんだか。」
「先生がお好きなのね。」
「男が好きな訳じゃ無いからな!あの先生浮世離れしてるんだよ。頼むよ!でも・・・君も先生と同じ匂いがするんだよなぁ・・・」
「ふふ、私は何をすればよろしいですか?」
「じゃぁ、一通り教えるからできる所から手伝って。座学より植物の世話やフィールドワークのほうがメインなんだ。あっ次からは動きやすい服で来て欲しいけどあるかな?」
「分かりましたわ、そう致します。」
シズの案内で施設を見て回り、授業外でも可能であれば毎日して欲しいことなどを聞いていく。
(確かにモエの言った通りに忙しいわ。でもここの植物、ヨモエラの様に亜種が多いみたいね・・・)
「・・・おーい・・・はぁ。やっぱり先生と同類かよ・・・。」
「何かおっしゃいましたか?」
「いや、もう鐘が鳴ったから戻ったほうがいい。選択教科がいくら最後の時間とはいえ、帰ってこないと友人が心配するだろ。俺も初日に引っかかっておまけに泊まりがけなんかしたから、もう少しで捜索届け出されるところだったんだ。」
「たしかに遭難しそうな森ですものね。」
「まぁ、それもあるんだけど。あそこも大事な実験場なんだ。」
「そうでしたのね。」
「じゃ、また次の選択授業で。最初は無理せずにな。」
「ありがとうございます。大変興味深かったですわ。」
結局、ハシュは部屋から出てこないままだったが、アナスタシアは温室を後にした。服に葉っぱや小さな枝をつけて帰ってきた姿をみてモエはびっくりしてはいたが。




