聖霊の巫女(1)
日にちが空きました、お待たせしました。ブックマークが少しずつですが増えてきて嬉しく思っています。この話からサブタイトルを大まかな章タイトルでいこうと思います。
新学期も始まり白虎の季節に入っていたが、アナスタシアの小指の傷は消えないままだった。それどころか、よりはっきりと波打った様な模様へと変化していた。
いつものようにモエと共にランチを56
「不思議ですわね。まるで指輪のようですわ。」
「そうでしょ。でも、青く変色し始めてるの・・・それに・・・ターニャも日に日に顔色が悪くなって今にも責任とって側付きを辞めると言い出しそうなのよ。」
「ターニャなら言いそうね。それにしても流石におかしいと思うのよ。」
「何がおかしいのかな?」
「・・・っひゃっ!」
顔のすぐ側から聞こえたユージンの声とかすかに耳にふれた息にアナスタシアは思わず驚きの声が出てしまい慌てて自らの口を手で覆って、恥ずかしさのあまり涙目になりながら振り返った。
「すまない、驚かせたようだ。また泣かせてしまったかな・・・ん?これはどうした?」
そう言ってアナスタシアの手をとり指で傷のついた小指を撫であげた。
「・・・っふ。」
くすぐったくて身震いと吐息が漏れる。
「・・・っ泣いてなんか居ませんわ。殿下お久しぶりでございます。」
「ユージンだ。」
そう言って指に口付けた。
コンコン コンコン
机の叩く音すらも耳に入らない二人にモエは呆れながら、
「ここには私だけでなく、他にも人が居る事をわかってらっしゃるのかしら?」
そう言って周りを指すように片手を横に広げた。
アナスタシアは一気に顔が赤くなり、あまりの恥ずかしさに顔を覆おうとしたが、悪びれもしないユージンは手を離してくれないのだった。
周りも2人の姿に女子生徒は扇で隠しながらチラ見したり、男子生徒などアナスタシアの姿に机につっぷしていたりする。
「ユージンで・ん・かどうぞお座りになって。」
モエのやや怒気のこもった声に苦笑しながらユージンはアナスタシアの左隣に腰を下ろした。
そうして幾ばくかたった頃やっとアナスタシアも恥ずかしさから落ち着きを取り戻して違和感を感じていた。それは、いつも会えばすぐに膝に飛び込んでくるアケボシが居ないからだ。
「アケボシはどちらかしら?」
「あぁ、先ほどからこの机の周りを不機嫌に回っている。」
アケボシのいつにない様子に、先ほど2人に当てられていた生徒たちも、良くない事を想像し話し始めていた。
「もしやアナスタシア様は婚約者候補から落ちられた?」
「精霊様のあの様子はただ事ではないわ。」
そんな言葉が聞こえてきた方向にモエが厳しい目を向けると、その場に居たものは気まずげに席を立って食堂から出て行った。
そうして何巡かアケボシは回った後、いつものようにアナスタシアの膝に登ってしきりに体を擦り付け始めた。
「アケボシどうしたの?なんだか今日はおかしいですわ。精霊にも病気とかあるのかしら。」
「俺に取られたと思って妬いているのかもな。」
「ありえるわね。アナスタシアのこと大好きだもの。」
「大好きって、そんな。」
「アケボシのことよ・・・何のことかしら?(まったくいったい何で急展開してるのか後で問い詰めないと)」
「アケボシだけじゃないがな。でもまだ付き合ってないぞ、考えてくれと言った。」
その言葉にまたしてもアナスタシアは赤くなったが、アケボシを撫でているので今度は顔を隠すのはやめたらしい。
「はぁ・・・そうですの。」
いよいよモエも2人に当てられて、どうにでもしてくれと思い始めてしまいそうになったが、なんとか最初の問題に戻ることにした。アナスタシアにお茶を勧めて落ち着かせてからサンリでの事を話すよう促した。
サンリで川から出てしまった金色の魚を助けたこと、そしてその魚に噛まれた痣が消えずにさらに青く濃く模様のようになっていることを話したのだった。
ユージンは顎に手を当てて深く考え、少し逡巡した後話し始めた。
「俺の叔母、父上の妹にあたる方なんだが、霊宮で巫女をしている。その方はあらゆる事に通じているそうなんだが、アケボシの様子もおかしい事を考えると一度会ってみないか?」
「叔母様にお会い出来ますの?ここ数年お加減が悪いと父(宰相)より聞いているわ。」
「俺のカンだが、叔母上に会った方がいいと思うから会えるはずだ。」
「・・・国王の許可がおりれば私に異論はございませんわ。私は他国の者ですので、お会いして良い方なのか判断しかねます。」
「俺にとっては、もう身内だと思ってもらいたいがな。」
「話が進まないから間で口説くの自重して欲しいですわ。」
モエの再びの非難の目に、検討すると全然自重する気のない返事を返すのだった。
そして午後の授業の開始の10分前を知らせる鐘が鳴り、すべての手配が済み次第ユージンより連絡することに決め、その場は解散してクラスへと戻った。
クラスへ戻るとすでに食堂での話が噂として回っているのか、不審な目をしてあざけるものが数人ばかり居たのだ。その中には、以前アナスタシアに難癖をつけてきた令嬢達もいた。
「アナスタシア様、化けの皮が剥がれましたのね。精霊様はやはりよくご存知なのですわ。」
「精霊様に嫌われているようでしたもの、お国に帰られてはいかがでしょうか。」
「アケボシがですの?そんな風には感じませんでしたが。」
「まぁ、なんて事を。なんて鈍いのでしょう。寒いところは皮膚が厚くなるとか、アナスタシア様もお顔が厚くていらっしゃるのね。」
「そうかしら。」
アナスタシアは頬に手をあてて触ってみる。
(この人たちは途中で居なくなった人達ね。それにしてもアナスタシア、わざとやっているのかしら・・・まさか本気かしら。でもアナスタシアってこういう極端ににぶいときもあるのよね。)
モエはアナスタシアと令嬢を見ながらどうしたものかと機会をはかっていた。
「よくお分かりになってないようですわね。精霊様に嫌われると言うことは婚約者候補としては失格ですのよ。」
「はぁ、よくわかって無いのは貴方達の方ですわよ。あの場に最後まで居たものに話を聞くがいいわ。さぁ先生ももうじきいらっしゃるわ、席に参りましょ。」
そういってアナスタシアの手を引き、その場を離れて席についた。
「ねぇ、アケボシは私のこと嫌ってたかしら。やっぱり様子変でしたもの。」
「そんなこと無いと思うわよ。昔ユージンに危害を与えようとした人が居たのよ、その時は燃えない炎だったけど痛みだけが走る炎で焼かれてたわよ。」
「そ、そんな事がありましたのね。ユージン様に危害を加える予定はないけれど嫌われてはいないのかしら。」
「マーキングするみたいに体を擦りつけていましたもの、アケボシも独占欲の塊ですわ。本当に主人と似てるわね。」
「そ、そうかしら。」
モエの言葉にまた顔を赤くするアナスタシアに私も恥ずかしくなってきたわ、あぁもう暑い暑いとモエは扇で仰ぐのだった。
ありがとうございました。巫女の名前を消して叔母にしました。




